彼には最近楽しみができた。
『そちらに新たに魔法士を送る。
初戦での戦死などという無様をさらしてこちらの顔に泥を塗るようなことがないようにしろ』
先週にあった、ファクトリー…彼の出身からのたったこれだけのメッセージ。
それは彼の気持ちを今までにないほどに高揚させた。
その子のカテゴリーは何だろうか
性格は?
前衛向き?後衛向き?
そんなことばかり考えている。
今日も自分の仕事を終わらせてすぐに部屋に入り、端末を起動する。
(ええと、とりあえず今までの俺の戦闘データから抽出したのが…炎使い、騎士、人形使い…あとは…光使いと龍使い、悪魔使いのデータはないからどうしようもないか。
ああ、そうだ。俺のカテゴリーもこれに保存しておこう。役に立つかもしれないしな…)
彼は、自身のI-ブレインと端末をつなげ、自分の知る限りの鍛錬法、効率的な能力運用について記録していく。
(ああ、もうすこしだ。もう少しで、俺は、俺という存在の証が残せる。
そうすれば…お前らも、俺がそっちに行っても文句は言わないよな…?)
死んでいった戦友達を思い出す。
彼が魔法士であろうと関係なく、一人の人間として扱ってくれた彼ら。
彼らが死ぬ前にそれぞれの証を残していった。
子供。後輩。それぞれに彼らの思いは受け継がれている。
彼らは死の直前、自分にこう言っていた。
「お前もなんか死ぬ前に残せよ?そうじゃねーとこっち来たときに蹴り返してやるからな」
死を目前に笑っていた。恐怖を乗り越えて。それ以上に自らの証を残すように伝えた。
証とは何か。その証を残せば、自分も何か変わるのだろうか。
そう思い続け―――ついに、その機会がやってきた。
(…っと、終わったな。明日来るはずだし…早めに寝るか…)
そう心の中で呟き、彼は布団に飛び込んで眠りに落ちた。
<ヴィー!ヴィー!ヴィー!>
警報。侵入者。
彼は跳ね起きて枕元の通信端末をひっつかんだ。
『ライトニングNo.11。このポイントにて侵入者を迎撃せよ。
他のポイントに割り振るためにそのポイントは貴様一人だ。逃がすなよ。以上だ』
「了解」
言いながら、彼は走り出した。だが、その頭の中は混乱していた。
ジャケットの中のメモリー。彼の「証」。
それをつかむことで若干落ち着きを取り戻した。
(狙いは何だ?このタイミングで起きたのが狙ってのことだったとすると、目的があるはずだ。
偶発的だったらお手上げだが、そうであるならばもっと前に発見され、捕まっているはず。
…今日ここに届く物…いや、まさか、者…!?後輩の魔法士か!?)
スピードを上げる。ポイントにたどり着いた。待ちかまえる。
そして、黒の少女が姿を現した。背中には少年。気絶しているようだ。おそらく彼女がやったのだろう。
「そこをどいてもらおうか」
少女が言う。答えは返せない。経験が告げる。
彼女は自分より格上だと。
「…それより先に…あんた、何者だ?」
「…賢人会議」
端的に告げられた言葉。彼はデータベースの情報を思い出した。
曰く。「各シティからマザーコア素体の魔法士を盗み出すテロ組織」
「もう一つ…。賢人会議ってーのは…魔法士を使い捨てる場所か?」
「ふざけるな!そんなことはしない!」
彼の確認に激高する少女。
それで彼は安心した。ああ、彼女なら大丈夫だ、と。
「はは、ちょっとお話ししようか?」
笑いながらI-ブレインを起動。能力を発動させる。
(電磁運動制御、電磁場形成。)
電子運動制御。分子の運動をより分解し、電子や陽子の段階から制御することを目的として考案されたチカラ。
分子運動制御以上に使い勝手が悪い癖に分子運動制御以上の演算領域を必要とするため、失敗作とされかけたもの。
戦闘では使えなくもないということで、彼は生かされた。モルモットとして。
少女は警戒し、ナイフを構える。画、彼の能力の矛先は彼女ではなく―――
周辺のカメラなどがすべて壊れた。
「…は?」
惚けたように呟く少女。彼女に向かい彼はジャケットから取り出したメモリーを投げつける。
「…なんだ、これは?」
危なげなく受け止め、いぶかしげに彼を見やる少女。
彼は笑ってこう言った。
「後輩を頼んだ。それには俺の知る限り、一番効率のいい鍛え方が保存してある」
「あなたは、何を…」
言いかけた少女を遮って、彼は続ける。
「俺はどうせこれ以上の高みへはいけない。だから後輩にそれを託す。
そしてそれが俺の『証』だ」
少女は何も言わない。言葉になってない部分、それを感じたのだろうか。
「わかった、ありがたく受け取ろう。あなたの名は?」
「ライトニングNo.11。そいつを鍛えるときにでも俺のことは伝えてくれ、それだけでいい。
ああ、そうだ。あんたの名前は?」
「サクラ、だ。いいだろう、その願い、確かに聞き届けた」
言って、駆け出す少女。
少女が来た方向から兵士達がやってきた。
(サクラ…桜、ね。データベースで見ただけだが、なるほど、ぴったりの名だ)
ククク、と笑いながら思う彼。
桜の気高さ、美しさ、そして儚さ。
彼女にこれ以上ないほどにぴったりの名だと感じた。
「…賢人会議、後は任せたぞ、サクラ」
つぶやき、彼は向かっていく。今まで彼と共に戦にたった者達と戦うために。
(戦闘起動開始。リミッター停止、フルドライブ)
さあ、始めようか
彼の唇はそう形作り…
彼は戦いへと消えていった。
シティ・マサチューセッツはこの事件を隠蔽。
この後作られた他の魔法士達に、このことは伝えられず…
彼の存在は、ある少女と彼女の教え子だけが知ることとなったのであった。