艦娘の咆哮 ~戦場に咲き誇る桜の風~   作:陣龍

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明言するのもなんですけど、今回超兵器の威力を身を持って世界に知らしめる連中の親玉が登場します。政治的小話も有りますが細けえ事は良いんだよ方式でお願いします。


第一八話  日本に残る最後の膿

「・・・『桜風』、もう朝御飯よ。早く起きなさい」

 

「昨日の事は誰も責めませんから、早く起きて皆と朝食を食べた方が良いですよ?」

 

「御免なさい提督!大淀さん!無理です!昨日あんな事やっているのにノコノコとみんなの前に出れません!」

 

・・・覚えていたのね、昨日の酔った『桜風』が抱き着き魔になって皆に抱き着いていた事。

 

昨日の歓迎会で寝入ってしまった『桜風』を、執務室の仮眠室で寝かせた深山提督。その後の宴は『軽巡那珂主役のバックダンサー付きゲリラライブ』やら『重巡青葉秘蔵の写真スライドショー』等で少々盛り上がった後に解散した。殆ど『桜風』一人に持っていかれた感がするが、まあなんだかんだ言いつつも皆楽しんでいたのだから良いのだろう。そして翌朝になって酔いが醒めた『桜風』は、蓑虫の如く布団に包まって離床拒否していた。まあ真面目な部分の多い『桜風』にとって、昨夜の暴走行為は恥ずかしい以外の何物でもない。

 

「・・・仕方が無い。夕立、時雨」

 

「ぽい!」

 

「うん」

 

「連行、お願いね」

 

「分かったよ。・・・『桜風』、行こうか」

 

「皆『桜風』を待ってるから早く来るっぽい!」

 

「え、いやあの・・・わ、わわわ!?」

 

 

深山提督の命令一下、夕立と時雨の白露型駆逐艦姉妹は『桜風』の布団を剥ぎ取り、『桜風』の両肩を引っ掴んで食堂に強制連行していった。『後生です!後生ですから!今日だけは!今暫くだけは!提督!大淀さん!ていとくー!ぴゃあああぁぁぁぁー・・・』との『桜風』の縋る声だけが、執務室に取り残されていった。

 

 

「・・・ふふ」

 

その姿を見送った深山提督は笑みを零す。少なくとも昨日『桜風』が大暴走した事も有って、深山艦隊の艦娘は皆『桜風』に対する無用な警戒などは一切抱いていない。誰であろうと『酒に酔って無邪気に抱き着いて甘えてくる少女』に対して負の感情を持つ事は殆ど無い。食堂に行った後もきっと『桜風』は先輩方に良い意味で弄られるだろう。

 

「・・・さて、それじゃ私は・・・」

 

そう言いながら朝一番に届けられた書類を目にし・・・あからさまに顔をしかめる深山提督。同じく書類処理に向かおうとした大淀も深山提督の表情の変化に気付き、書類を覗き込み・・・深山提督と同じく、思わず眉を潜めてしまった。

 

「・・・また第一期生からですか」

 

「そうね。・・・上層部(うえ)から拒否する旨は通達されていると言うのに、まだ諦めていないのね、あの連中」

 

 

そう言って興味を失くした書類を躊躇いなくゴミ箱に放り込む深山提督。その書類には『駆逐艦『桜風』の最前線転属要請』との題名が書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・もうこっちに来るのはいい加減にして欲しいものだな」

 

「形式上は立派なお題目ですが、明らかに本心が駄駄漏れ過ぎるのは最早隠す気が無いんでしょうかねぇ」

 

『桜風』が間宮食堂に強制連行されている頃、海軍庁では山本蒼一海軍庁長官が朝っぱらから押し掛けて先程まで噛り付いていた『招かれざる連中』に対して、かなり強い毒を吐いていた。まあ部下が本心から追随している時点で、山本長官だけで無く他の人間にも余り好まれていない人物である事は明白だが。

 

「『アレだけの戦闘力と開発力を誇る艦娘を本土に留め置くとは何事か。前線に送り込んで深海棲艦との戦闘を有利にするのが本筋だろう。そもそも少将如きにあの艦娘を配備させるよりも、大将や元帥が居る第一期生に任せた方がよっぽど()()()使()()()』・・・か」

 

「まだ艦娘以外には通用しない、実質名誉階級に近い提督の階級を振りかざす馬鹿が居るとは。そもそも『上手く使う』とか言い出している時点でまだ変心していないんですね・・・」

 

「・・・兎に角、あの連中には駆逐艦『桜風』を転属する事は認めない。そもそも『桜風』は『()()()()()()()出身では無い』。無用な軋轢を招くような事態は絶対的に避けなければならない」

 

 

そう疲れた表情で言う山本長官。艦娘に命を救われたと言う個人的事情も有るが、それ以上に艦娘を『駒』や『紙面上の数字』としか見ない第一期生の傲慢さには辟易していた。何度『自分たちは艦娘に()()()()()()()()のだ』と言う事を説教しても、返ってくるのは『提督が艦娘を使()()()()()()()()』と言う返答か、若しくは適当な生返事だった。それでいて艦娘の轟沈率を無視すればしっかりと深海棲艦を撃沈しているのだから質が悪い。現状の法律では『艦娘=兵器、つまりただの物』でしかないので、艦娘の損害率を理由に更迭するには少々無理が有った。極論、いくら『備品が』沈もうが戦果拡張と資源輸送をやっていれば、それだけで上層部は何も言い出せなかった。何せ艦娘の建造費用や資源は『妖精さん』と言う未知の存在のお陰か異様に少なく済んでいる。

 

 

「・・・最近になって活発に深海棲艦との戦闘を、奴らは行っています。現在国会で『艦娘保護法案』が審議中の為、少しでも発言力を確保する為かと思われます」

 

「あいつらの脳味噌には『国防』と『国益』の4文字は無いのかね・・・。しかし、その法案は今はまだ衆議院を通過すらしていなかったのではなかったか?」

 

「はい。・・・だからでしょう。今大きな戦果を挙げて国民の脚光を浴びて、自分たちに不利になりそうな法案を施行される前にどうにかして潰そうと画策しているのでしょう」

 

そう諦め顔で言う部下に対して、山本長官は思いっきり溜息を吐いた。

 

 

元々深海棲艦が出現した時の日本の政権は、今の日本を運営している保守政権では無くいわゆる『ポピュリズム型理想主義的左派政権』と言う、悪く言えば『口先だけの三流政権』が与党を担っていた。特に失点の無かった前政権を難癖付けて徹底的に批判し、文字通り『夢の様な政策』を訴えて国民を扇動した末に政権を奪取したのは良い物の、現実はそう甘い物で無く彼らの『政策』は失敗し続けて、支持率が文字通り底値だった時に深海棲艦が出現した。はっきり言って日本にとって最悪のタイミング以外の何物でもなかった。

 

自衛隊や在日米軍から矢継ぎ早に飛んでくる深海棲艦の存在を、確かに理解不能な存在だったとはいえど、映像を見せつけられても頭から否定し続けて自衛隊の防衛出動を『対話による解決』『日本人が出なければ被害が出ない』等と言う空虚な妄言を吐いて拒否し続け、何とか強引に自衛隊と米軍による共同出撃を認めさせた時には既にミッドウェイやニューギニアと言った太平洋戦争時の激戦地を中心に各地域の要所を失陥しており、拠点奪還と国土防衛の為に文字通り死力を尽くした戦闘でも深海棲艦には攻撃が一切通用せずに多数の戦死者を出してしまっていた。

 

その後山本長官も参加した『始まりの艦娘』が現れた『硫黄島沖海戦』で、アメリカ海軍在日米軍所属の空母一隻撃沈、一隻中破し、日本海上自衛隊も虎の子のイージス艦二隻を喪失する大損害を受けつつも、『始まりの艦娘』の支援も有って何とか初めて深海棲艦の撃退に成功。『艦娘』と言う未知の存在と『硫黄島沖海戦』での大損害に関係各所で混乱が発生するも、その混乱が発生している中当の与党は『艦娘管理法』なる艦娘を『物』として縛り付ける法案を強行採決して『文民統制に基づく暴力装置を制御する為の正当な行為』を成功させた事に勝手に酔いしれていた。ただ散々好き勝手に理想論を振りかざし続けたその結果が衆参総選挙で両議会併せて僅か7名にまで政党議員を落選させられ、最弱の泡沫政党にまで転落させられる末路であったが。

 

 

結局そう言った政治的なゴタゴタのせいで『提督予科練』第一期生は、艦娘が提督に対して極めて従順な事も有って手の付けられない所にまで増長していっていた。元々教育方針がまともに定まっていなかったり提督になれる人間を片っ端から集めたせいで思想チェックで振り落とす暇も何もなかったりしたせいでもあるので、ある意味彼らも被害者かも知れない。同情する余地は欠片も存在しないが。

 

 

「・・・それで、あの『女狐』もやっているのか?」

 

「はい。・・・今回の『桜風』の転属要求も彼女から出たようです」

 

「・・・奴は一体どれだけの艦娘を沈めれば気が済むのだ・・・」

 

 

海軍庁長官として本来は他の政府機関と同じく松代市に移るべき所を、前線に近いところに居たいとの要望を押し通してこの横須賀に居残っている山本蒼一長官。相も変わらずな提督第一期生の思考回路に、もう何百回目かもわからない深い溜息を吐いていた。お陰でもうそろそろ髪を黒に染め直す時期が近付いている様子である。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・石頭にも程が有るお年寄りたちね。年取って『兵器』を『孫娘』にでも見間違えるほどに老衰したのなら早く引退すれば良いのに」

 

トラック諸島に存在するとある泊地では、うら若き女性が『桜風最前線転属要請書』を全て却下した上層部に対してキツイ毒を吐いていた。彼女の名は『仲本 穂乃果』。『提督予科練』の第一期を首席で卒業した要領の良さと優秀な才能に恵まれた女性である。容姿も優れ、『提督予科練』での成績も歴代第()()であり、ついでに言えば実家は相当な富豪でもあり父母を通して得られた人脈も多数存在する。正しく『天は二物を与えず』と言う格言を真っ向から否定する存在であったが、そんな彼女の致命的な欠点として『他人を駒としてしか見ない』のと『自分を絶対的に正しいと狂信する』性質があった。

 

 

 

「・・・あ、あの・・・ていとく・・・」

 

「・・・何?書類ならさっさとそこに出して待機所に戻りなさい」

 

「ひっ・・・て・・・ていとく・・・今日・・・帰還途中で・・・」

 

「・・・聞こえなかったの?早く、戻りなさい」

 

「は・・・はい・・・」

 

 

・・・相変わらず覚えの悪い『兵器』ね。全く、使えないったらありゃしない。

 

涙目で訴えようとする艦娘を一瞥もくれずに即座に追い出す仲本提督。彼女の艦隊では、深山提督の様な艦隊とは違って『艦娘=兵器』として徹底的に扱っている為、殆どの艦娘は提督の一挙一動に終始怯えているか、若しくは仲本提督の臨む様に己を『駒』と自己暗示する艦娘のどちらかしかいなかった。

 

 

彼女・・・『仲本 穂乃果』が提督になったのは、紙面上や言葉の上では適当に取り繕ってはいたが、本心としては『日本を牛耳る為の踏み台』であり、際限なく無限に増大し続ける『虚栄心』や『権勢欲』を満たす為であった。欲しい物はなんでも手に入る富豪の家に生まれ、幼い頃から両親に甘やかされ、周りの人間からはおべっかを使われ続け、そして自分には他者よりも優れた容貌や能力が有って全てに置いて自分の思うがままに成功し続けたのだから、こんな人間になるのは当たり前だったのかもしれないが。

 

 

・・・しかも、その『兵器』を、あろう事か老衰した爺連中と一緒に『仲間』等と戯言言って興じているあの女は、不遜にも『桜風』を手放そうとしない。・・・ああイラつく・・・!

 

『あの女』・・・深山満理奈提督の姿を思い出し、イラつきの余り手に持っていたボールペンを圧し折る仲本提督。『民間上がり』かつ『途中編入』と言う大きなハンデを背負いながら、自らが記録した最終試験での首席成績を僅か一期で更新した深山提督の存在を知ってから、仲本提督は彼女に対して強烈な敵意を抱いていた。仲本提督の人生初の『敗北』であり、しかも深山提督はその事に対して『日本を守る為に勉強しただけなので、成績順位とかはあまり興味が無い』と発言していた。この言葉は仲本提督の風船の様に膨れ上がったプライドを甚く傷付けた。しかもその後に起こった『アイアンボトムサウンド』では、仲本提督は多数の艦娘を轟沈させながらどうにか突破したのに対して、深山提督は誰も沈める事無く突破に成功し、上層部から名指しで激賞された。一方の仲本提督には何も無かった。仲本提督の『敵意』が『殺意』に変わるのに、そう時間はかからなかった。

 

 

・・・そうよ。超兵器を私だけで沈めれば良いのよ。そうすれば私の発言力は誰にも止められない程に高まる。第一期生のメンツも甘言で適当に集めて、頃合いを見て蹴落とせば手柄は全部私の物。そうすれば私の出世も早まるしライバルも消せる。『駒』を『駒』のままでいさせられ易くなるし『あの女』も今度こそ軍から消せる。まさしく一石四鳥ね。

 

そう脳内で結論付けて、つい先ほど艦娘が持って来た書類に適当にサインして処理済みの箱に投げ込む仲本提督。その書類には『遠征並びに出撃で轟沈した艦娘名簿』が存在した。

 

 

 

 

 

仲本穂乃果海軍元帥。『提督予科練』第一期生首席卒業者にて、東南アジアのトラック諸島で対深海棲艦との戦闘を継続している彼女にとって、配下の艦娘は例外無く『己の栄誉栄達を達成するための踏み台であり補充が簡単に利く駒』であり、同期や後輩の提督も『上に上る為に使える者は甘言や誘導で徹底的に使い潰して蹴落とす』存在でしかなかった。無論この本心は誰にも言っていないし、そもそも外では徹底的に猫を被って居る為に山本長官を含む極少数を除いて、仲本提督の本性を知っている人間は少ない。両親ですらこの狂った性根を知らないのだ。

 

 

・・・『超兵器に物量は効かない』?本当に救いようが無い馬鹿ね。『お手手繋いで仲良しこよし』な貴様には想像もつかないのね。『超兵器の搭載弾薬量よりも多く艦を突っ込ませればいい』だけじゃ無い。兵器は戦って沈む為に存在するのよ。『駒』に情を向けるとか、本当に救いようのない愚物よね、深山満理奈は。

 

 

脳内に深山提督の姿を浮かべながら、そう嘲る仲本提督。既に深山提督を失脚させるべく色々な手をバレないようにしながら打ったが、その全てで完全に失敗し、しかも生皮を剥がす様に己の打てる手立てや嗾けられる輩を潰されつつある現状で深山提督を馬鹿に出来る立場では無いのだが、最早仲本提督は深山提督が憎すぎてそう言った事を考えられはしなかった。

 

 

 

「・・・『仲本穂乃果』は、石頭の上層部やあんな『甘ったれたお遊戯女』の様な愚物には、絶対に負けない。今に見てなさい、貴様たちを必ず地に引きずり落し、私は頂点に立ち、地に這い蹲った貴様たちを見下ろして見せる・・・!」

 

 

そう一人で、自分以外誰も居ない執務室で声を立てる仲本提督。その声に答える『物』は誰一人としておらず、仲本提督の管轄するトラック諸島鎮守府は、仲本提督の声以外には海風と風の音しか聞こえない、まるで幽霊屋敷の様に静まり返っていた。艦娘の声は、一切聞こえる事は無かった。




ネタばれ:超兵器に残弾やら弾数制限の概念は有りません。砲身冷却等で一時攻撃中止になる事は有りますが
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