艦娘の咆哮 ~戦場に咲き誇る桜の風~   作:陣龍

22 / 55
今回は鋼鉄世界の兵装による大規模な実践演習の巻。ですが色々な意味で早々容易には行きません。何せ『世界』が違う物同士を組み合わせた訳ですからね。不具合が出るのは仕方が有りません。


…有りませんよね?


第二一話  硫黄島沖大演習午前の部 ~理想と現実~

大石艦隊と深山艦隊による硫黄島沖大演習。第四期生でも近年では取り分け抜きん出た戦果を出した舞鶴鎮守府第7海上部隊と、第一期、第二期生で唯一『アイアンボトムサウンド無傷攻略』と言う語るまでも無い伝説を成し遂げた横須賀鎮守府第3海上部隊の精鋭たち。

 

この演習を見ていた人間誰もが、血肉湧き踊る『正統的艦隊決戦』を想像したのは言うまでもない。双方共に精鋭であり、尚且つ片方は扱いは成熟していないが前人未到の新兵器を搭載していたのに対して、もう一方は従来兵装では有るがそれこそ自身の身体の様に扱いこなしている。双方共に一長一短と言えたはずだ。

 

 

 

そしてその幾多の人間や思惑とは裏腹に、『正統的艦隊決戦』が『こんな展開』に発展するなどとは・・・、恐らく、『艦娘』と『桜風』の両者と良く関わっていた深山提督を含めて、誰にも予測出来なかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・無様な失態ね」

 

「お互いにね」

 

そう神妙な面持ちで語る二人の空母艦娘。深山艦隊に所属している『加賀』と『瑞鶴』だ。彼女たちは艦橋でお互いに自身の飛行甲板から『事前想定の二倍近い時間をかけて』発艦完了する第一次攻撃隊の姿を眺めていた。

『何故二倍もかかったのか』と言う疑問には、こう答えるしか無かった。

 

 

「でも、まさか妖精さんが『ヒューマンエラー』を連発するとはねぇ。あ、でも『妖精さん』だから『フェアリーエラー』かな?」

 

「五航戦。今は演習に集中しなさい。・・・疑問は、後で調査するのよ」

 

「・・・分かってるってば、加賀さん」

 

 

艦娘が現れて早三年以上たつが、その間に一度たりとも何処からも報告されていない『妖精さんの不手際やミスによる遅延』。それが、今回の演習に参加した加賀と瑞鶴では多数発生していた。確かに『桜風』が開発した艦載機は全部『未知の兵装』で有る事は確かだが、それを言い出せば瑞鶴も加賀も『烈風』や『流星改』など昔の『物言わぬ艦艇』だった時代には搭載した事も無い『未知の兵装』だ。同じ『未知の兵装』で有るにも拘らず、一般的に使われている『烈風』や『流星改』は問題無く飛ばすことが出来、『桜風』が開発した『流星改』や『烈風一一型』ではミスや事故を連発する。道理に合わなかった。

 

 

 

「・・・それに、『妖精さんの不手際』を笑える立場に無いしね・・・」

 

「・・・・・・」

 

問題はそれだけでは無かった。試験では加賀と瑞鶴が直接操作して居た為に問題無かったが、通常の場合、戦闘では艦娘が全艦載機を操作するのではなく、大半の艦載機は妖精さんの手に委ねられている。これも本来は例え前日まで零戦21型に乗っていた妖精さんがいきなり烈風改に乗せられても問題無く編隊を組んで戦えているのだが、今回は今までに無いほどにかなりグチャグチャな編隊構成であった。加賀と瑞鶴が必死に『いつも通り』に飛ばそうとしても、どうやっても編隊は崩れて行った。

 

 

「・・・やはり、修練が足りませんね」

 

「・・・甘く見過ぎていたね、『桜風』が開発した艦載機を」

 

 

理由は何となく分かった。艦娘が開発する兵装は例外無く彼女たちが所属していた軍とその時代に存在した兵装・・・つまりはWW2レベルの兵装に限定されている。欧州やアメリカではどうなのかは彼女たちは知らないが、少なくとも日本の艦娘はそうである。そして一つ例に挙げると、現状通常での開発可能な艦載戦闘機で最も優秀な艦戦である『烈風』は、『最小の2000馬力級エンジン』として名高い1800馬力の誉エンジンを搭載している。

 

だが『桜風』が開発した艦載機は、例えば『陣風』一つを例にとっても『40mm航空機関砲』と『30mmバルカン砲』と言う強武装を装備する機体強度に加えて『最大速力時速685㎞』『航続距離2700㎞』『夜間戦争可能な電子装備』の性能を実現する為に、発動機は圧巻の『3500馬力』である。誉エンジンを鼻で笑い飛ばせるこの怪物エンジンに、いくら艦娘と妖精さんが熟練揃いであったとしても、元々『歴史上存在しない筈の物品』に対してノータイムで適応出来るはずが無かった。

 

 

・・・まあ、私達はまだ良い方かもしれないわね

 

心中で瑞鶴がそう零しながら、視線を動かす。その視線の先には、『桜風』が開発した機関や主砲、補助兵装等を搭載した長門や青葉たちが、悪戦苦闘しながら航行している姿が有った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・青葉、そっちはどうだ!?」

 

【「・・・駄目です、処理しきれません・・・頭が、痛い・・・」】

 

【「青葉さん!無理しないで下さい!・・・っ、痛い・・・」】

 

 

・・・まさかこんなことになるとは、夢にも思っていなかった・・・

 

 

事前の練習では問題無かった為に楽観していたあの時の自分を殴りつけたくなる長門。斯く言う長門も、青葉や陽炎、そして無言で歯を食いしばっている大和と同じく『桜風』が開発した補助兵装である、全力稼働状態の『電波探信儀IV』『電波照準儀III』『新型火器管制装置』から大量に流れ込む情報量の前に、頭が激痛に苛まれる程に一杯一杯だったのだが。

 

 

 

 

瑞鶴と加賀の兵装に関しては、高角砲と機銃、後は艦載機の換装程度で終えられたが、大和や長門たちには『桜風』が開発した補助兵装が少ない事も有って集中的に搭載させられていた。開発された補助兵装は全て砲雷撃戦用で有る為、極々普通の判断だった。そして瑞鶴たちと同じく『フェアリーエラー』を無数に連発するだけでなく、艦娘本体自体が、補助兵装から大量に流れ込む情報の奔流の為に、完全にオーバーヒートに近い状態へと陥っていた。

 

・・・考えてみれば当たり前である。過去の艦艇時代には極初歩的な電子装備程度しか扱った事が無いのに、今使っているのは『昔』よりも遥かに高度で、高精度で、そして濃密にあらゆる情報を取得し、運用できる電子装備である。仮に例えるとすれば、20世紀末期の旧式PCで最新のオンライン型FPSゲームをやろうとする様な物だ。経験皆無な艦娘がこの情報量をマトモに処理し切れるはずが無い。

 

 

 

「・・・ビッグセブンの誇りにかけて、無様な戦いは見せられない・・・!」

 

己を奮い立たせるためにそう意気込む長門であったが、自身の妖精さんは『桜風』製の補助兵装が全力稼働してから相も変わらず脂汗と鼻血を大量に垂れ流しながら、初めて扱う未知の電子機器と説明書を片手に向き合っていた。32号電探などを操作した事のある妖精さんですら例外では無く、この『電波探信儀IV』『電波照準儀III』『新型火器管制装置』の前では白旗を振るしか無かった。

 

 

 

 

【「・・・青葉さん、針路が逸れていますよ・・・」】

 

【「・・・あっ、すみません、直ぐに戻り・・・痛い・・・」】

 

「・・・陽炎も、艦隊から離れないようにな・・・」

 

 

当然ながら問題は補助兵装だけでは無い。副産物である砲兵装の開発の方が多かったが、機関レシピでも少数とは言え『桜風』は新型機関の開発に成功し、それらは長門たちに搭載されていた。長門と大和には『ガスタービンVI』、青葉には『巡洋ボイラーVIII』と『標準タービンVI』、陽炎には『駆逐ボイラーIV』と『駆逐タービンV』。お陰で速力は強化されているが、今度はこっちでも今までに無い性能や特性を持つボイラーやタービンに対して、機関科妖精さんが血反吐を吐きながらこの機関を動かしていた。当然連動して艦娘本体にも重い負担はのしかかっている。

 

 

【「・・・敵機、電探にて確認しました!一部が防空戦闘機隊を突破してきます!」】

 

「嘘、加賀さんと瑞鶴さんの防空網を突破したの?!」

 

【「大和さん!今はそんなことより迎撃を・・・うぅ、頭痛い・・・」】

 

 

 

だが演習相手である大石艦隊が、深山艦隊に発生している異常事態に配慮する訳も無く、遠慮無用に攻撃を開始した。身体的異常事態に苛まれる中演習を続行されると言うかなり酷い扱いを受けている長門たちだったが、少なくとも今回の演習の目的は『『桜風』が開発した兵装が通常の艦娘でも実戦で使えるかどうか』の調査で有る為、その事を承知していた深山艦隊対超兵器部隊は演習中止を要請する事は無かった。流石にどうしようもなくなくなったら彼女たちの妖精さんが無理やりにでも止めるが。

 

 

【「敵機確認・・・、え、うそ、爆戦!?」】

 

「爆装零戦だと!?それになんだ、あの戦闘機の数は!?」

 

【「・・・相手の機体が何であったとしても、どうでも良いです。早く全部落として、撃沈判定を捥ぎ取って、司令官と『桜風』さんの所に帰りましょう」】

 

「お、おぅ・・・そうだな、青葉」

 

 

・・・珍しいな、青葉がそのような荒々しい態度を取るとは

 

青葉の見せた珍しい反応に『頭痛のせいか』と一人答えを出した長門は、大和の『全艦全速前進!合図に合わせて砲撃を開始して下さい!』との命令に従いながらも、自身に搭載された『41㎝65口径4連装砲』と『41㎝50口径3連装砲』、『10㎝65口径連装高角砲』『57mmバルカン砲』が敵機に向けて狙いを定め始め、また水上戦闘機『強風』が射出される姿を感じ取りながら、戦闘態勢に入る。

 

 

・・・戻ったら、徹底的に調査しなければならないな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【「提督さん・・・『桜風』・・・御免なさい。瑞鶴がもう少し上手く戦えていれば・・・」】

 

【「すまない提督、『桜風』。託された兵装を、上手く扱いきれなかった私の責任だ・・・」】

 

【「・・・ごめん『桜風』。今の私には使いこなせなかった・・・」】

 

 

 

「いやぁ・・・まさかこうなるとは」

 

「そうね・・・。まあ、今回はこっちの負けね」

 

「・・・俺たちが受けたのは戦術的敗北のC判定でしたが?」

 

「それでもあの兵装でS勝利出来なかった時点でこちらの負けよ。・・・もうちょっと突っ込んで、時間をかけて調査や試験をするべきだったのに、皆には申し訳ない事をしたわ。ごめんね、皆」

 

 

 

 

結果、初手の開幕航空戦における『艦載機の9割方を熟練戦闘機部隊で編成した大石艦隊』と『性能は兎も角連度が極めてお粗末な深山艦隊艦載機隊』の空中戦は、双方『ノーダメージ』・・・つまりは『深山艦隊の実質的敗北』と言う波乱の幕開けとなった。妖精さんが操る『桜風』製艦載機は、その高性能の前に妖精さんの方が付いていけず、『陣風』は何機も失速したり、敵機との巴戦で味方機と空中衝突したり、『流星改』『彗星五四型』は相手の激しい回避運動と叢雲の的確な対空射撃による妨害、そして飛龍と蒼龍の操る戦闘機隊によって悉く撃ち放った雷爆撃が失敗するばかりか、機体の引き起こしなどに失敗して海中に突っ込んだ機体すらあった。その後の航空戦も、艦攻、艦爆を搭載せずに殆どを戦闘機編成にして時間切れになるまで戦い抜いた、大石艦隊の飛龍、蒼龍姉妹の徹底的な防空戦によって有効打を与えられずに終わった。

 

 

 

次の艦隊決戦でも、深山艦隊対超兵器部隊は散々だった。確かに深山艦隊の装備したそれぞれの兵装は強力だった。『50.8㎝75口径4連装砲』『41㎝65口径4連装砲』『61㎝7連装誘導魚雷』『80㎝5連装空気魚雷』『5連装新型対潜誘導魚雷』その他多数。だがそもそも命中させられなければ、それらを幾ら砲撃しようとも空砲と同じである。そして武装に加えて機関や電子機器が『桜風』製の、自分たちにとって未知かつ極めて高度である装備に、大和たちの艦娘としての処理能力は終始オーバーヒート状態だった。終盤に意地の陽炎、青葉による近接雷撃が陸奥に、そして大和の放った『46㎝75口径4連装砲』の一弾が、大石艦隊旗艦の長門に直撃し、一撃で轟沈判定を捥ぎ取るも、その時点で時間切れとなった。

 

 

 

最終戦績としては『深山艦隊の戦術的勝利』つまりB勝利判定であったが、誰一人としてこの結果に喜ぶ対超兵器部隊所属の艦娘は居なかった。

 

 

 

「・・・まあ、取り敢えずは一端休憩を挟みましょう」

 

 

そう言って『硫黄島沖大演習午前の部』の終了を宣言した深山提督は、取り敢えずは自身の開発した補助兵装が、陽炎や青葉たちに対して過大な負荷がかかった事を知った『桜風』を落ち着かせる作業に取り掛かった。百面相の如くコロコロ表情を変え、頭を抱えて画面を見つめたまま支離滅裂に言葉を呻く『桜風』の姿は、可愛くは有ったが、明らかに錯乱して居る様にしか見えなかった。可愛くは有ったが。

 

 

「・・・『桜風』、午後からの演習に参加出来るのか?」

 

「あ、ああ、あああああ・・・なんで、ドウシテ、わたしだと問題無くつかえるのに、青葉さん、陽炎、瑞鶴さん、みんな・・・ガ・・・あわわわがががが・・・」

 

「・・・完璧にアカン状態だぜオイ・・・」

 

 

そう言って『あちゃー』と言う表情で目頭を抑える大石提督。初めて会った時は、男慣れしていないが極めて胆の座った冷静沈着な少女のように見えた。だが今の『桜風』には、そんな雰囲気は欠片も無い。まるで世界の終わりを目の前にしているかのような状態だった。

 

 

「・・・補助兵装の全力稼働を止めたら、青葉たちは元に戻ったそうだから、彼女たちに直接修正して貰うわ」

 

「・・・駄目そうだったら、午後の演習は中止ですね」

 

「そうね・・・。まあ、事情説明したら納得してくれるでしょ」

 

 

 

 

・・・今の演習の様子だと、『桜風』の開発した兵装は、そのまま流用しても殆ど有効には使えそうにないわね。・・・本格的にあの兵装を使うとしたら、やはり『桜風』の『建造』した『アレ』を使うしかないのだろうけど・・・

 

心中でそんな事を考えつつ、『桜風』を抱えて青葉たちの元に向かう深山提督。今の所『アレ』に関しては、工廠を管理する明石と工廠に良く入り浸る夕張に 『お願い』(めいれい)して、誰にも発見されない体制を取っている。まあ仮に誰かが発見したら、確実に大騒ぎになるだろう。『桜風』が『建造』した結果現れた『船体』や『艦橋』『煙突』のパーツがそれぞれ存在する光景を見てしまえば。

 

 

・・・でも、仮に『船体や艦橋などを改造、交換』したら、『艦娘』は一体どうなるのかが明確に分からない以上、改造で『コレ』を使えはしない。『改造、交換』して『艦娘』が消滅したら・・・致命的処の話じゃない

 

 

詰まる所、問題はその一点に尽きた。兵装ならば、ただ単に乗せ換えるだけで有る為、今までと同じく換装しても問題は無かった。だが『兵装』では無く『船体や艦艇設備』を『交換』した場合、『艦娘』がどうなるかは予想も付かなかった。現代科学でははっきり言って何もわかっていないに等しい艦娘の『核』とも言うべき、艦娘を艦娘足らしめる『場所』は今も分かっていない。ここで誰かを実験台にすると言う選択肢が脳内に一切出て来ない深山提督を『小の犠牲を厭う軟弱者』と取るか『仲間を大切にする慈悲深い女神』と取るかは、人それぞれだろう。因みに『仲本穂乃果』なら即断で適当な艦娘を実験台として生贄に捧げている。

 

 

「・・・大丈夫だから、『桜風』。貴女のせいじゃない。誰も、貴女を責めないから」

 

「・・・あおばさん・・・かげろう・・・ながとさん・・・ヒッグ・・・ぐすん・・・」

 

 

・・・考察は後ね。今は『桜風』を落ち着かせないと

 

 

意外と精神的に打たれ弱いと言うか、不安定な部分が有る事が判明した『桜風』を連れ立てつつ、青葉たちの所に向かう深山提督。その後青葉たちに飛び付いて泣きながら謝り続け、必死に青葉や陽炎たちに宥められたのは言うまでもない。




次回は恐らく深山艦隊と大石艦隊での、駆逐艦『桜風』上での昼食会になる予定?飛ばして午後の部になるやもしれませぬが。しかしこの調子だと次に出てくる予定の超兵器や深海棲艦との戦闘は一体何話後になるのだろうか。まあ自分でも分かりませんが

追記:話数修正
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。