艦娘の咆哮 ~戦場に咲き誇る桜の風~   作:陣龍

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今話の小説書き溜めの経緯

世界観の背景を決めよう
  ↓
政治ネタが止まらない……
  ↓
じゃあ『桜風』の日常で中和しよう
  ↓
休日丸一日消費し書き溜め決行
  ↓
……ドウシテこうなった(AA略)





第二八話  日本国海軍庁山本蒼一の憂鬱と駆逐艦『桜風』が沈んだ日

水無月こと六月の上旬も過ぎ、日本全土が梅雨入りして久しい今日この頃。深海棲艦が太平洋や大西洋、インド洋と言った大洋を支配する前には世界各地で日常茶飯事であった気温の乱高下や季節外れの降雪や真夏日に渇水その他諸々は何処へやら、現在ではそう言った天候は文字通りの『常とは異なる気象』へと、ある意味本当の有るべき形へと原点回帰している状況であった。そんなある日、梅雨特有の一日中続く長雨が日本列島の街中に降り注ぐ中で、スーツ姿の男達が首相官邸の会議室に詰めていた。

 

 

 

「さて、今回諸君に集まって貰ったのは他でも無い。前回の硫黄島沖大演習の結果発生した諸外国や国民の反応、そして現段階で収集出来た超兵器に関する情報を報告して貰い、それらの諸問題に対して対策を練る為だ。どんな情報でも構わないし、この場に居る全員の忌憚の無い意見が出される事を期待する」

 

 

司会役には現在の日本国内閣総理大臣の職務を務めている『浅野幸喜』が執り行う今回の会議には、各国務大臣に加えて海軍庁長官の山本蒼一に自衛三軍や防諜等の為に軍と関わる事の多い国家公安委員会だけでなく、外務省等の関係部署から来た役人、国内治安維持に日夜奮闘している警視庁の代表として幹部、変わり種としては実動戦力が少なくなりつつも今なお日本国に駐留している在日米軍からの人間も出席していた。色々と異例かつ前例の無い出席者の所属組織であるが、此処でその様な事を指摘して時間を潰す様な暇人は流石にいなかった。

 

 

「では先ず外務省からですが・・・。駆逐艦『桜風』と超兵器の情報や映像を公開した結果、大よその国家の反応が以前の会議で発表した予測通りでした」

 

「東アジアや東南アジアは特定の数か国を除き日本支持を継続し、その数か国も現在では表立った批判は超兵器の存在も有り停止中。欧州は英仏と独間での関係悪化と対日援軍要請の継続、アメリカは日本艦娘の増援要請の更なる強化・・・。つまりはこれまでよりもマシになった所が有るも大体は今まで言う事だな」

 

「はい・・・。結局はそうなりました。日本が強大な戦力を保持する可能性があると言うのに、思っていたよりも大半の諸外国の政府は批判では無く賛同されておりました」

 

「それだけ日本が信用、信頼されていると言う事なのだろうが、かといってこれに胡坐をかいてはならない。難しい難題だらけと思うが、外務省の各職員にはこれからも宜しく頼む」

 

 

 

ある意味一番の難題とも言える諸外国との関係悪化だが、思いの外すんなりとクリア出来た事にホッとして居た者が多かった。確かに『始まりの艦娘』がこの世界に出現して以降、どういう訳か本来存在して居なかった筈の場所・・・日本で言えば沖ノ鳥島や沖大東島、南鳥島に油田や鉄、金銀銅にレアメタルと言った地下資源が多量に産出され始め、ある程度の資源は自活で賄えているが、日本全てを活かすには湧いて出て来た資源では未だ不足しているので、外国からの輸入は今でも必要だった。それに、無資源国かつ富裕国でもある日本だからこそ切れる『資源輸入』と言う外国へのカードを捨てるのももったいないと言う理由も有るが。深海棲艦でシーレーンを潰されている現状、律儀に資源国へ艦娘の護衛付きタンカー等を派遣して大量に輸入する様な国は、今では日本ぐらいな物なのだから。

 

 

・・・まあ『表向き』はそうだろうが、本当の所は『いい加減黙らないと本当に引き上げるぞ』と遠回しに脅したのだろうな、外務省は。艦娘を二週間あの海域から引き上げさせたのは【本気である】と信じ込ませる為のブラフだろうに

 

 

すまし顔で報告する外務大臣の顔を見ながら、誰にも悟られない様に頭の中でそう考える山本長官。実際の所、深海棲艦に対して特攻効果のある唯一の兵器である艦娘を多数所有している日本の腕力と影響力は、当たり前であるが深海棲艦が出現する前よりも遥かに強化されていた。この最新兵器でも歯の立たない化物が跋扈する戦乱の世の中で『艦娘』と言う強大な武力が存在する事は、国家生存に加えて自国の都合を押し通す為には極めて有意義である。話し合いで全て解決できると頭から信じ込み、宗教の様に『反軍』『反政府』『平和主義』を唱える人間は絶対に認めないであろうが。

 

 

「それで・・・欧米の艦娘事情の方はどうなっていますか?やはり・・・『あの時』から変わっていませんか?」

 

そしてつい先ほどまで脳内で考えていた事をおくびにも出さずに、山本長官は報告している外務大臣へと問いかける。問われた外務大臣は多少は驚くも、問われた内容を理解するとすまし顔から一転して苦笑いしながら報告を開始した。

 

 

「欧州の艦娘事情ですが・・・。やはり深海棲艦の直接的脅威を受けている英仏伊は独艦娘の保護と戦力化に積極的ですが、肝心の独は『キールの悲劇』から変わらず反ナチス法を旗印にドイツ人提督やドイツ艦娘を例外無く逮捕、拘禁し艦娘の解体を続行する意向を翻していません。その為ドイツ人提督と艦娘の仏英伊への亡命が続発し、引き渡しを要求するドイツとそれを拒否するフランス、イタリア、イギリスとの間で一触即発しかねない状況です」

 

 

会議室が沈黙に覆われる。日本に『始まりの艦娘』が現れてから時間にして大よそ一か月後、第二次世界大戦に参戦した列強交戦国の内、有力な海軍艦艇を揃えていた英米仏独伊にもそれぞれ艦娘が現れていた。深海棲艦による本土への攻撃を受けた英米仏は諸手を挙げて歓迎し、一応本土攻撃を受けていないイタリアでも『ワルキューレの再来』と美人だらけで可愛らしい艦娘をイタリア全土を挙げて歓迎するムード一色だったのだが、唯一ドイツのみは『反ナチス法』に基づいて『ナチスドイツの軍艦』であるドイツ艦娘とその指揮官役であるドイツ人提督を問答無用で逮捕する選択をした。

 

不幸にも提督個人の指揮で出撃からキール軍港に帰投直後に捕縛された不運な数隻と数名のドイツ艦娘やドイツ人提督は必至の説明も弁解も行うが政府には一切聞き入られず留置所に叩きこまれ、当時艦娘の事など一番初めに艦娘と接触した日本ですら殆ど分かっていなかった時代、ドイツ政府はドイツ艦娘の艦艇(身体)を一般的工法で解体した為に、人で言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()生き地獄を、艦娘特有の痛みへの頑丈さの為に皮肉にも狂う事も出来ずに味わい続けた末に、この世から消滅。この『キールの悲劇』を知った、幸運にもドイツ官憲に見つかっていなかったドイツ人提督と艦娘は、当然ながら例外無くドイツから亡命。この亡命したドイツ人提督や艦娘は、WW2の経緯からか質こそ良好だがフランス人提督と艦娘の根本的な数が足りないフランスが主な受け入れ先となった。しこりが無い訳では無いが、ドイツ艦娘の惨状と危急を要する戦況が、その様な贅沢を言う暇を与えなかった。

 

 

 

「イギリスとフランスが楯となって北海への深海棲艦の侵攻を防いでいる状況だと言うのに、ドイツは一体何を考えているんでしょうかねぇ・・・」

 

「・・・『反ナチス法』がいわゆる【不磨の大典】と化して自己中毒を起こしている現状、こうなるのは避けられなかったかと。今のドイツは『反ナチス法』の改正や、ドイツ艦娘の支持等を少しでも匂わしたら反ナチス法違反容疑で即逮捕される大変な状況です」

 

「・・・・・・もう80年近い昔の事だと言うのにな・・・未だドイツは『あの時』に縛り付けられたままなのか・・・」

 

 

 

・・・『ドイツは』では無く『ドイツも』ですよ、大臣。我が国も、未だに『80年近い昔』に縛られている人間が、たくさんいますよ・・・

 

 

 

「少々よろしいでしょうか」

 

 

会議室に微妙な沈黙が流れる中、この会議室で唯一のアメリカ人である在日米軍司令官『リアム・バトラー』が流暢な日本語で、発言を求める。因みに在日米軍の現在の状況だが、本国に帰還しようにも既に深海棲艦によって太平洋は分断されており、深海棲艦相手では殆ど日米同盟が機能していない状況下の為現在の在日米軍の発言力は相当低い。だがそんな状況でも自分たちを尊重して物資供給等を行ってくれている日本政府や自衛軍には感謝するしか無い状態の為、在日米軍は極めて日本に対して協力的である。

 

 

 

「本国からの情報ですが、気になる情報が入ってきました。・・・カリブ海にて深海棲艦とは全く違う戦闘艦が出現。当時カリブ海を航行していたアメリカ艦娘やアメリカ海軍が護衛する輸送船団が複数攻撃を受け、多数が轟沈若しくは大破したとの事です」

 

「全く違う・・・戦闘艦、ですか?艦種に関する情報は?」

 

「夜間戦闘の為不明確ですが、ソナーに反応が有ったとの事なので恐らく潜水艦、それも戦艦砲を搭載した艦艇との事です」

 

「・・・俄かには信じがたい話ですね。潜水艦と戦艦の混合編成の敵艦隊だったのでは?」

 

「それならばレーダーにも反応が有る筈です。・・・そして、その不明艦と戦闘した船団は例外無く()()()()()()()()を観測したとの事です」

 

 

そう結んだ『リアム・バトラー』の言葉を聞いて、一斉に複数の両眼が山本蒼一の元に向けられ、向けられた本人は苦い表情で目頭を押さえるしか無かった。()()()()()()()()・・・それは、駆逐艦『桜風』が証言し、また超兵器『ヴィルベルヴィント』によっても証明されている『超兵器の存在』だった。

 

 

南北アメリカ大陸を一手に防護するアメリカ海軍所属艦娘は、隻数で言えば日本に次いで二番目に艦娘が存在しているが、第二次世界大戦に無数に艦艇を量産したせいか建造しても現れるのは大半が『カサブランカ級護送空母』『インディペンデンス級軽空母』『フレッチャー級駆逐艦』等であり、有名な『アイオワ級戦艦』『エセックス級空母』『ヨークタウン級空母』『サウスダコタ級戦艦』『ボルチモア級重巡洋艦』等が建造確認されたのは極僅かだった。その為広大な防衛領域の大部分を軽量級艦娘主体の編成で回さらざる負えず、必然的にアメリカ艦娘の連度は『逃走、生存能力』に関してはある意味日本の艦娘を超えていた。敵を沈められなくとも、どれだけズタボロになろうとも、生還さえ出来ればそれで良し。そこまで割り切っていた。

 

『生き残る』能力、そして艦種の構成上対潜戦闘に関しては全世界トップランクのアメリカ艦娘が多数一戦で轟沈したと言う事は、確実に相手は艦娘の対深海棲艦への特攻防御を貫通出来る能力を持ち、尚且つ逃走させる間も無く撃滅可能な速力や火力を保持している。そんな事が可能な化物は、超兵器しか存在しない。

 

 

 

「・・・現状、深山提督所属の艦娘を選抜して訓練に当たっていますが、駆逐艦『桜風』が開発した高ランク兵装には未だに振り回されている状態であり、ランクの低い兵装を開発しつつ少しずつ習熟度を上げて言っている段階だとの報告が入っています」

 

「現在本国からの情報によれば、その不明艦・・・仮称『超兵器 ドレッドノート』ですが、現在までに艦隊が被害を受けた地点、状況を解析すると、欧州には向かわず大西洋を南下しているようです」

 

「我が国にとっては悲報だが、欧州にとっては朗報だな。・・・恐らく、報告に合った様に、その超兵器の本国が有ったと言うウラジオストクに向かっているのだろうな。対策は有るのかね、山本長官」

 

「訓練を重ねて連度を高めつつ、最悪の場合は『桜風』本人に交戦して頂くより他は有りません」

 

 

首相からの問いに勤めて無表情で答える山本長官。正直山本長官含めて日本政府としては異世界の艦娘に頼らずとも自らの危機は自らで何とかしたいのだが、そんなプライドで日本に対して無意味な損害を与える訳には行かない。感情に振り回されずに理屈に基づき日本を守る為に動く彼らは、銃を持たないも立派な戦士たちだった。

 

 

―――会議はまだまだ続いて行く。日本を守る為に、自らに与えられた職務を果たす為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・うぁ・・・?」

 

―――駆逐艦『桜風』が目覚めた時、その視界に入ってきたのは白い天井とカーテンに覆われた周囲の映像だった。

 

 

「・・・あれ・・・私・・・なんで・・・医務室に・・・?」

 

グワングワン揺れ動く視界と胃袋の異様な違和感。そしてつい先ほどまで何をしていたのか思い出せない自分。

 

 

「はわわっ、『桜風』さん!?起きちゃって大丈夫なのです!?し、司令官さん呼んできますね!司令官さーん!お姉ちゃーん!『桜風』さんが、『桜風』さんがー!!はわ!?なんでこんなところに雑巾が!?み、深雪ちゃんそこ危ないのですー!!?」

 

ベッドの脇で座っていたらしい電が大慌てで医務室を風の如く走り去って行った直後にどんがらがっしゃーん、と医務室にまで聞こえる転倒音を聞きながら、駆逐艦『桜風』は『なんでここにいるんだろう』と言う思考を、何時に無く回らない己の頭で考えていた。

 

 

 

 

「ひえー・・・ひえー・・・ひぇぇぇぇー・・・」

 

「くっ・・・この磯風・・・こんなところで、航行不能になるわけにはいかない・・・」

 

「磯風は良い加減反省しなさい。・・・『桜風』、本当に大丈夫?自分の事、思い出せる?」

 

「はい、もう大丈夫です。深山提督」

 

駆逐艦娘の電が医務室から出て行ってから大体20分後。ベットで長座位となっている『桜風』の目の前には、比叡と磯風が、それぞれの保護者的存在である金剛と陽炎の監視のもと硬いコンクリート製の床の上で正座をさせられていた。尚『桜風』の両隣のベッドには駆逐艦娘の深雪と電が横になっているが、この話は横に置いて置く事とする。

 

 

「・・・じゃあ、悪いけど事情聴取させてね?思い出せる事だけで良いから。青葉は書記をお願い」

 

「分かりましたー!」

 

 

そうして駆逐艦『桜風』は語りだす。少し前の自分に何が起こったのかを。

 

 

「・・・えっとですね、あの時は確かヒトゴーマルマルで、調理室で・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・する事が無いなぁ・・・」

 

 

『あの時』こと15時00分。その時『桜風』は、特に与えられた仕事も無く、また演習の予定も無く、そして友人関係にある陽炎や不知火、瑞鶴や青葉たちはそれぞれ出撃やら演習やらで艦娘宿舎に居ない為に、暇を持て余していた。普通の艦娘ならば外出許可を取って街に行く事も可能なのだが、『桜風』はその存在が特殊で有る為に今なお外出については認められていなかった。現在他の艦娘の護衛付きならば街に行ける様に深山提督と関係者たちが調整中である。

 

「・・・あれ、『桜風』ちゃん?どうしたの、こんなところで」

 

「あ、比叡さん。・・・いえ、特にやる事が無いので歩いていただけです」

 

 

そうして艦娘宿舎内を適当に散策していた『桜風』は、調理室の前にて比叡に呼び止められる。エプロンと調理用の帽子をかぶっているその姿は、いかにも様になっていた。

 

 

「そう・・・なら、もし良かったら私の新作カレーの試食をしてくれませんか?」

 

「・・・えっと、良いんですか?比叡さん。その、新作カレーの試食役が私で」

 

「はい!『桜風』さんの舌に見合うのならば、きっと他の皆にも自信を持ってお出しできます!」

 

 

そう言われて断れる『桜風』では無く、言われるがままに、招かれるがままに調理室へと入る『桜風』。調理室は間宮や鳳翔の様な調理関係の仕事をする艦娘だけでは無く、誰にでも開かれているオープンな場所である。ただ、基本的に食材は艦娘個人が持ち込むか、大淀に理由を申請して供給して貰うと言うのが普通である。

 

 

「・・・いい香りですね。見た目も美味しそうです」

 

「はい!その点はもうバッチリです!」

 

 

椅子に座って新作カレーを目にした『桜風』の言葉に対して、そう言って胸を張る比叡。『桜風』が暇な時間で漁った書物の知識から、戦艦比叡は御召艦だったと言う事、そして艦娘の性質は艦艇時代の経験が反映されている事が多いと言う事例を中途半端ながらに知って居る為、『桜風』は『きっとこのカレーも美味しいのだろう』と当たりを付け、躊躇無くこの比叡新作カレーを口に放り込んだ。

 

 

 

「っーーーーー?!」

 

「ひえぇ!?ど、どうしましたか『桜風』ちゃん!?」

 

 

そしてカレーを一口食べて二秒後に突然口を押えて両足をバタつかせる『桜風』。比叡がいきなりの『桜風』の奇行に慌てまくるも、水を飲んで少しすると『桜風』の奇行は止まり、数回深呼吸をしてから比叡に対して口を開いた。

 

 

「比叡さん・・・これ、大分辛いです」

 

「ひえぇー!?そ、そんな筈は・・・すっごく、すっごく甘く仕上げたはずなのに・・・」

 

「・・・あ、はい。何となく分かりました」

 

 

他鎮守府では『料理の天災』だの『ナチュラルバイオウェポンメーカー』やら『悪飯艦』だの酷い渾名が着いている事が多い金剛型戦艦二番艦の比叡だが、この深山艦隊に所属する比叡は希少種乃至絶滅危惧種扱いを受けているメシウマ型比叡だった。・・・苦味やうま味等その他の感覚は至って正常だと言うのに、何故か()()()()()()()は虚数空間の彼方に光速でカットビング状態である事を除けば、だが。

 

 

「あ、でも私だとちょっと辛すぎますけど、もっと大人の人ならこのままでも美味しく食べてくれる人は居ると思いますよ」

 

「・・・本当ですか、『桜風』ちゃん?」

 

「はい。・・・この辛さに慣れたら、結構癖になりそうな美味しさが有りますし。こう、具材とカレールーの美味しさが良い感じにマッチしています」

 

「・・・よっし!ではこの比叡!これからも!頑張って!改良していきます!!」

 

 

そう言って両手に握り拳を作り、気合を入れる戦艦娘の比叡。姉の金剛が大好きで、精力的な努力家で有り、何時いかなる時でも変わらずな元気っ子であるこの少女の真っ直ぐな表現に、知らず知らずのうちに微笑ましい表情を浮かべていた『桜風』だった。

 

 

 

「・・・なんだ、比叡さんに『桜風』か」

 

「ひぇっ」

 

「磯風?」

 

そんな温かい雰囲気に包まれた調理室に来たのは陽炎型駆逐艦の12番艦である磯風。比叡が凄まじい形相で固まっているのを疑問に思いながらも、『桜風』は磯風に話しかける。

 

 

「一体どうしたの?調理室に来て」

 

「何、ちょっとこの磯風も杏仁豆腐と言うデザートを作って冷やしておいたのだ。『桜風』も食べてみるか?」

 

「杏仁豆腐・・・知らない料理ですね・・・。良いんですか?」

 

「ああ、もちろんだ」

 

「ひぇー?!」

 

 

―――さっきから比叡さん、なんでそんな反応しているんだろう・・・?

 

ひえーひえーしか言わなくなっている比叡の事を尻目に、磯風は嬉々として冷蔵庫の中から彼女が作った『杏仁豆腐』を取り出し、スプーンと共に『桜風』の前に供した。

 

 

「これが・・・杏仁豆腐・・・?」

 

「ああ、そうだ」

 

「・・・()()()()()()()()()だね」

 

「ちょっとこの磯風が普通の杏仁豆腐を改良したんだ」

 

「ひえぇぇーーー??!」

 

 

―――違います!『桜風』ちゃんそれは杏仁豆腐では有りません!!磯風今度は何を混ぜたんですか!!?

 

良く調理室を利用する両人の為、比叡は磯風の料理の技量を知っていた。彼女の料理方法を一言でいえば『ケミカルクッキングマイスターISOKAZE』。いわゆる『メシマズ』のお手本の様な存在である。尚その為矯正を幾度も試みられるも磯風単独での場合では料理技能は全く好転せず、結局料理する時は誰かほかの艦娘と調理する事を言われているが、それでも時々人目を盗んで磯風単独で調理しているのだ。

 

 

「さ、『桜風』ちゃん食べちゃダメです!!」

 

「なんだ、比叡さんも食べたいのならそう言ってくれればいいのに。ほら」

 

「モグァ!?」

 

 

その為磯風製料理風のナニカを『桜風』が食べない様にさせようとするも、変な思考の飛び方をした磯風によって自作の『杏仁豆腐』を口に突っ込まれ・・・衝撃で昏倒した。辛味の味覚以外は一流調理人並に優れていたが為に、理解不能な味が脳処理の限界を超えるまで理解出来てしまったのだ。

 

 

「ひ、比叡さん?!」

 

「はっはっは。まさかそこまで美味しかったとまでは思っていなかったぞ。さあ『桜風』。『桜風』もこの杏仁豆腐を食べてくれ」

 

「え・・・えっと・・・」

 

 

比叡がぶっ倒れていると言うのに何事も無かったかの如く自身の杏仁豆腐を進める磯風。そのキラキラした目で進められている上に一切比叡を心配している様子の無い姿に・・・

 

 

「・・・わっ・・・分かった・・・。い・・・頂きます」

 

『桜風』は、後々まで後悔する最悪の選択をしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ひえっ・・・!」

 

磯風製杏仁豆腐(bioWeapon)を食べて、味覚から伝わる脳髄へと叩き込む衝撃の余り気絶してしまった比叡。開眼して数秒はボーっとしてしまった末に、『桜風』の事を思い出して飛び跳ねた比叡が目にしたものは。

 

 

「・・・ごっ・・・ごち・・・そう・・・さま、でした」

 

「うむ、確かこういう時には・・・お粗末様、だったな」

 

 

磯風謹製杏仁豆腐を、あろう事か完食する事に成功した『桜風』の姿だった。目に涙を貯め込み、嘔気を抑え込み、身体がかすかに震えている様子を見るからにお世辞にも大丈夫そうには見えないが。

 

 

「・・・あぁ・・・比叡さん・・・『桜風』・・・頑張り・・・ましたぁ・・・。頭に・・・ガーンって・・・ガーンって、何度も・・・来ました、けど・・・」

 

「ひえぇぇーーー!?『桜風』ちゃん!しっかりして!お願いだから意識をしっかり保って!!」

 

 

比叡を見るなり倒れ込んだ『桜風』を支えながら、比叡は幾度と無く『桜風』に呼びかけ、肩を叩いてどうにか『桜風』の意識をこの世に止めさせようとする。だが磯風はこの状況を見て何をどう考えたのか、『桜風』に止めを刺す一言を言ってしまう。

 

 

「・・・どうしたんだ『桜風』?もし必要だったらもう一つ杏仁豆腐をやるぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・比叡さん」

 

「ひぇっ・・・」

 

「・・・有難う、御座います・・・。・・・私は・・・駆逐艦『桜風』は・・・皆さんと過ごせて・・・幸せ、でし・・・た・・・」

 

「ひぃえぇぇぇーーーーーーーーー!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・私が覚えているのは、此処までです」

 

「なるほど、良く分かったわ。磯風」

 

「な・・・何だ、司令」

 

「貴女、これからは調理室に入る時は何時如何なる時であろうとも私の許可を直接取ってからね。勿論、書類を提出してから」

 

「な・・・」

 

「言い訳や弁解は一切聞きません、以上。後は陽炎に説教されてきなさい」

 

 

 

今回の【駆逐艦『桜風』轟沈事件】の主犯で有った磯風の判決が下った後、長女陽炎に引きずられていくのを見つつ、深山提督は『桜風』に再度問いかける。因みに比叡に関しては今回は無罪判決である。

 

 

「・・・今海軍庁から話が来たんだけど、カリブ海で潜水艦型の超兵器と思われる存在を確認したわ」

 

「っ、超兵器・・・ですか」

 

「ええ。でも今の所、その超兵器は大西洋を南下している段階だから、こっちに来るまでには大分時間が有ると思うわ」

 

「じゃあ早く開発や訓練を、うぐぅ?!・・・お、お腹、が・・・」

 

「・・・今のあなたの任務は『身体を休める事』よ。焦る気持ちも分かるけど、今は我慢してね」

 

「・・・はい」

 

 

 

そう言って素直に横になる『桜風』。最後に『もし脱走したら鳳翔に説教させるよ』とぶっとい釘を突き刺しつつ、深山提督は医務室から退室する。

 

 

「・・・はぁ。・・・ある意味では平和、ね。・・・磯風の、料理になると無茶苦茶な思考発展させるあのおかしい癖、どうにかならないかしら。料理以外だとすっごくマトモなのに」

 

 

そう言いながら思考をめぐらす深山提督。だが思いつく限りの矯正法を試すも磯風のとんでもない料理改造癖は全く修正されない為、現状磯風に料理させないと言う対処法しか方法は無かった。この磯風の料理下手が少しだけ修正されるのは、大分後に艦隊に浦風と浜風が加入してからになるのだが、その事は深山提督を含む深山艦隊の全員は知る由も無かった。




今回の話の後半は分類的には所謂ギャグパートに当たるんですかね?(超疑問)

取り敢えずこれから数話は日常系統の話になるんじゃないかなぁと思います。戦闘をお待ちの方。今暫く、今暫くだけお待ち下され……(遠い目)

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