艦娘の咆哮 ~戦場に咲き誇る桜の風~   作:陣龍

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Q.何コレ?

A.(……一応?)艦これ(の筈)


状態となりつつある現状ですが、もう少しで『ドレッドノート』との交戦が始まりますので今しばらくお待ち下さい……


第三六話  対超兵器『ドレッドノート』戦の準備期間 転

「『桜風』!!今日は鈴谷たちとお洋服買いに行くよ!!」

 

「……………はえ?」

 

 

 その日、行儀悪く対潜哨戒関係の本を読みながら朝食を流し込んでいた『桜風』は、鈴谷に熊野、青葉の重巡洋艦娘トリオとプラス深山提督のカルテットに唐突に包囲された上、鈴谷に上記の言葉を宣告された上で強制連行されていった。

 

 

 

 

 

――――……うーん……目新しい物は見当たらなくなってきたなぁ……

 

 

 食堂にて分厚い本を読みながら、注文した食事を待つ黒髪少女。深山艦隊に加入してからおおよそ二ヵ月経ち、その間に結構な頻度でイベント(騒動)を発生させて艦隊の皆に話題の種を提供している『超甲種重武装突撃型高速巡洋駆逐艦 桜風』は、完全に手詰まり感を感じていた。

 

 

 前回戦った『ヴィルベルヴィント』戦では、搭載していた兵装こそ『前の世界』と同一では有ったが、撃沈する直前に、本来『ヴィルベルヴィント』に存在する筈の無かった『暴走状態』へと移行していた。あと暫くすれば交戦する『ドレッドノート』も、この世界に来て何かしらの新しい能力に覚醒している可能性も高い。杞憂の可能性も有るが、情報も無しに『前の世界』と同じだと断じる様な楽観的な『桜風』では無かった。

 

 

『はい『桜風』さんお待ちどう!ご注文の朝食簡易セットです!!』

 

「ん、ありがと」

 

 

 間宮食堂では余りにも質素かつ量も少なめで、良い点は注文から出されるまでの時間だけと言う事も有って注文される事は殆どない朝食簡易セットを本を読みながら妖精さんより受け取った『桜風』は、そのまま本から視線を移す事無く朝食を食べ始めた。()()()と言うよりも大して噛まずにお茶で胃に流し込むと言う()()()()とも言うべきな粗雑な味わい方であったが。

 

 

 

――――資料を見ても正直『ドレッドノート』戦に役立てそうなのはあんまり無かったし……

 

 

 

 元々対潜戦闘に関しては第二次世界大戦でのトラウマから対潜哨戒機をアメリカ以上に保有し、戦術も高度に練り込んでいた海上自衛隊が発展して生まれた海上自衛軍らしく資料は豊富だったか、深山提督の伝手とインターネット等で収集したそれら資料は多少は参考に成らないまでも無くは無かったが、決定的に対『ドレッドノート』戦に役立てそうな情報は無かった。よくよく考えなくとも『超兵器』なる物が存在しない世界なのだから当たり前な話であるのだが。

 

 

――――やっぱり深海棲艦の住処に単艦突撃した方が良いか、提督に依頼しないと

 

 

 最終的にそう結論付けた後、善は急げとばかりに焼き御握りをお茶とみそ汁で一つ流し込んだ直後に、冒頭の情景へと相成った。尚『桜風』本人の意見や抗議は一言も聞かれなかった模様。

 

 

 

 

「……あの、鈴谷さん?提督?青葉さんに熊野さん?」

 

「どうしましたか『桜風』さん?」

 

「んぉ、どしたの『桜風』?お姉ちゃんに言ってみ?」

 

「もう直ぐ『ドレッドノート』戦に突入すると言うのに、何故衣服を買いに行かないといけないんですか……?」

 

「『桜風』、貴女今まで自身がずっとマトモに休んでいない事、自覚している?」

 

「提督。……ちゃんと休んでいますけど……」

 

「日中殆ど座らりも立ち止まりもせずに工廠での開発や資料の調査、それに近海での対潜掃討をやっていて、睡眠時間も長くても3、4時間程度と言うのは到底休んでいるとは言えませんわよ?それに、『桜風』が近海の敵潜水艦(カ級、ヨ級、ソ級)が一時全滅するまで戦闘を繰り返したお陰で『戦力育成が出来ない』と他鎮守府からの苦情も……」

 

「…………はい、分かりました……黙って洋服購入に行かせて頂きます……」

 

「素直で宜しい」

 

 

 深山提督の運転する普通自動車にて近くの洋服店に向かい走る中、最後の抵抗を試みた『桜風』は熊野の言葉によってとうとう観念させられるしか無かった。因みに熊野の言う敵潜水艦の一時全滅は法螺でも何でも無く事実である。一応深山提督や海軍庁の許可の元行われはしたものの、深海棲艦の増殖速度よりも圧倒的に『桜風』の撃沈スピードの方が速く【新米から中堅提督が狩る潜水艦が物理的に居なくなる】と言う前代未聞の事態が起こっていたのだ。因みにこの事を『桜風』が知ったのは10分ほど前の事である。

 

 

「でも珍しいよねー。提督が運転してくれる上に私達に付き合ってくれるのってさー」

 

「まあ、仕事に関してはある程度目途が着いていたし。それに大淀に今日の事言って休みを申請したから、一日何処に行くとしても問題無いよ。……休日申請した時、大淀に『もちろんです!寧ろそのまま一週間位旅行にでも行かれてはどうですか!?』と笑顔で泣いていたんだけど、どうしてか知らない?」

 

「え……と、言う事は……今回提督はお休みを取った上でプライベートと言う形でお買い物に付き合って下さると……?」

 

「そうよ。……どうしたのよ、その顔」

 

「……あの、何をそんなに驚いているんですか?」

 

 

 かなり不思議そうな表情でバックミラーに移る熊野と鈴谷の硬直した表情、そして何時の間にか何時も愛用しているカメラを取り出していた青葉を横目に見ながら、『桜風』と同じく鈴谷たちの反応の意味を分からずに目を点にさせていた。

 

 

 

「ねえ、青葉さん?」

 

「この買い物終了後即座に号外を出します。題名は『取った!?提督が休みを取った?!』辺りが適当ですかね?」

 

「印刷とかは鈴谷も手伝うよ。これはとてつもない大事件だからね……」

 

「……たかが休みを取ったくらいで大げさな……」

 

「提督?今の今までお盆も正月も無しに働き詰めでした事、忘れさせはしませんわよ?」

 

「提督ってば、誕生日もクリスマスも関係無しに働き過ぎだからねー。この前提督自身の誕生日も忘れてたし」

 

「……そこまで根詰めて働かなくとも、祝日や誕生日位休んでも罰は当たらないと思うんですが、提督」

 

「青葉が思うに、それは『桜風』さんが言えた義理では有りません」

 

 

 最後に見事な『お前が言うな』セリフを発した『桜風』に綺麗に青葉が突っ込みを入れ、『桜風』が何も言えなくなったころ、目的地であるデパートへと到着した。平日かつ一応日本が戦時体制で有る事も有ってなのか、駐車場に存在する車両も広めの駐車場にまばらに点在している程度であった。

 

 

 

「平日ど真ん中と言う事も有って、お客さんも少ない見たいだねー。これは掘り出し物が見つかりそうだね熊野!」

 

「そうですわね。出来るだけ『桜風』には可愛らしくて良い物を着て貰わなければなりませんわ」

 

「……えっと」

 

「言いたい事はたくさんあると思いますが、『桜風』さんは鈴谷さんと熊野さんの言う通りに試着してくれれば大丈夫ですからね?」

 

「いや……その……別に、安いTシャツやジーンズとかで……」

 

「……『桜風』?」

 

「『桜風』?少々勘違いされているようですけれども……」

 

 

 外見の華美よりも実用性、耐久性特化で流行りやファッション性等には欠片も興味が無く、某お昼のバラエティー番組の辛口評価型ファッションコーナーでは審査員から『女を捨てている』とでも言われかねない格好を好む『桜風』。本人の感覚から言えば『服なんかに多額の現金を使わなくとも他に使い道が有るのに』と言うのが嘘偽りない本心なのだが……。

 

 

乙女の戦場(ここ)に来た以上は……」

 

「貴女に発言権は有りませんことよ?」

 

「…………ハイ」

 

 

 一度海へと飛び出せば無類の強さと行動力、発言力が有る『桜風』と言えども、この陸の戦地(デパート)では深山艦隊の中でも一家言の有る鈴谷や熊野(ファッション界の鬼神)に到底歯向かえなどしない、新兵にすら劣る発言力しか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……確かに可愛らしいっちゃ可愛いけどさ……地味じゃない?」

 

「地味では無くて清楚と言って下さいまし!大体鈴谷の選ぶ『桜風』の洋装は……その…露出が激しいですわ!」

 

「えー、でも今梅雨でもう少ししたら夏じゃん?だったらさっきみたいな恰好が『桜風』の魅力を引き出せると鈴谷は思うよ?肌の傷も、クリームで誤魔化せるし」

 

「……そ、それは……そうですけれど……」

 

 

 殆ど引きずられるように連れて来られた『桜風』に先ず待ち受けていたのは、女性用衣類品店による熊野と鈴谷が執行する着せ替え人形の刑であった。このデパートに来る時に来ていた単色かつ飾り気皆無のジーンズとジャージは既に剥ぎ取られ、現在試着室で着替えた『桜風』の新しい装いを撮影する青葉の隣で苦笑いしている深山提督の手に渡っている。

 

 

「ほうほう……良いですねー。やっぱり『桜風』さんって、普段色気の無い恰好しかしていませんから、そのギャップも有ってすっごく可愛らしいです!」

 

「鈴谷と熊野のセンスが良いのも有るだろうけどね。当の本人は顔真っ赤で床ばっかり見ているけど」

 

「駄目ですねー。それだと『桜風』さんのお顔がカメラに収まりません!『桜風』さん、コッチににっこりとした笑顔を向けて下さい!後出来ればピースもお願いします!」

 

 

 カメラマン根性全壊の青葉の声にビクンと反応した『桜風』は、おずおずとながらにゆっくりと面を上げて、目尻に軽く涙を溜めながらに目を細めて口角を上げて「えへへ……」と言いながら言われるがままに両手でVの字を作った。綾波型駆逐艦の9番艦が言うところの、いわゆるエヘ顔ダブルピースと言う奴である。

 

 

「良いですねー良いですねー!その表情とっても良いですねー『桜風』さん!」

 

「更衣室を背景に撮影された、清楚な白いワンピースと麦わら帽子を被った黒髪少女の赤面写真……犯罪的な香りが凄いわね」

 

 

 

――――うぅぅ…………もう止めて下さい……もう服は上下合わせて5着は買ったじゃないですか……何時までこんな事続けるんですか……

 

 

 艦娘の依代を得てから味わうこれ以上無い恥ずかしさと何時もは味わう事の無い空気や風の感覚で思考力が鉱山でボーリングされるが如く、アラハバキのドリル突撃かヴォルケンクラッツァーの四国縦断砲(波動砲)の様に『桜風』の思考力がゴリゴリ削られ続ける中、鈴谷と熊野が満足するまで時間にして約2時間余りの間、この戦場では二等兵以下でしかない『桜風』は『耐えがたきを耐え、忍び難きを忍ぶ』より他無かった。因みに後の週刊青葉新聞のファッション特集で『桜風』の写真が大々的に使われ、それを目撃した本人が真っ白に灰となって銅像の様に硬直したりするのだが、それはまた後日の話である。

 

 

 

 

「……こんなに買ってどうするんですか……水着まで複数購入するって……深山提督のお金なのに……」

 

「気にしないの。一応私も将官の端くれなのだから、給料も結構あるからね」

 

「その割には、提督ってどこかに遊びに行ったりとかしないよね」

 

「みんなと出来るだけ一緒に居たいからね。……嫌、かしら?」

 

「そんな事有り得ませんわ。……ただ、これからも今の私達と同じようにお出かけして頂けると、皆も喜ぶと思いますわ」

 

「……仕事……」

 

「鈴谷たちに任せれば良いだけの話じゃん。雷とか夕雲とか『司令官が私を頼ってくれない』って、最近とうとう鬱っぽくなってきた位だから……」

 

「なんだか猛烈に仕事を手伝って貰いたくなってきたわ」

 

「よろしいですわ」

 

 

 最終的に暴走する欲望に対して忠実に動き続けた結果、『桜風』用に合計12着の普段着や外出着、そして計3着の水着も追加購入してご満悦の極みである航空巡洋艦娘の二隻に、怒涛の如く着せ替え人形にさせられて、最終的に先ほど購入した白のワンピースと麦わら帽子を着させられて色々と疲労困憊しきった『桜風』。そして本格的に自身の艦娘にも仕事を手伝って貰う事を考慮する深山提督とその驚天動地の変革をする様子をしっかりとカメラに収める青葉。5人とも例外無く綺麗で有る為に目立つのだが、平日で有るだけに彼女たちの歩く駐車場には殆ど人影は少なかった。

 

 

 

「お、おおお。こんな平日真昼間にどうも!世界一かわいい美女5人も居たんで流石に声掛けました!!」

 

「もうご飯とか食べちゃった?この近くに美味しいお店あるんだけど、良かったら俺たちと一緒に入らない?」

 

「……はい?」

 

 

 人影が少ないだけで、全くいない訳では無かったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――なにがどうしてこうなった……?

 

 

「この私に気安く話しかけるなんて、何か勘違いされてるのではなくって?」

 

「あー、ツンツンしているねー。でもその表情可愛いよー!」

 

「えっと……青葉は、もうそろそろ帰ってやりたい事が有るので……」

 

「お昼だしご飯食べるくらい大丈夫でしょ?俺たち退屈させないよー?」

 

「んぉ、ナンパ?いやいや、こんな真昼間にって、暇なんだねー」

 

「暇じゃなくても、声かけるのは当たり前だろ?君たちみたいに可愛らしいのならばさ」

 

「……彼方達、可及的速やかにこの場から帰ってくれないかしら?」

 

「良いじゃないですかお昼おごらせて頂きますよ!」

 

 

 

 6人の青年に行く手をふさがれ、拒否の意を伝えても全く意に返さずにナンパとしか言いようのない言葉を言い続けられ、深山提督や鈴谷たちの後ろに引っ込んでいる『桜風』は、今までに感じた事の無い『不気味さ』『気味の悪さ』を感じていた。別にこの現在全力ナンパ中の青年たちの顔立ちや肉体が醜悪と言う訳では無い。寧ろ最低でも平均以上、中には俳優でもやって居そうな洒落っ気の有る男も居るし、物腰も言葉使いも柔らかな物だ。

 

 

 

――――でも…………目から漏れ出す妙な思考だけは隠せていない……それに、言葉も()()()()()()()()()()…?

 

 

「……おっ、後ろにも小さい子が居るじゃんか。ねーお嬢ちゃん、お腹空いていない?お兄さんたち美味しいお店知っているから、このおねーさんたちと一緒に食べに行かない?」

 

「ひぇっ……い、いえ、私はもう帰りたいので……」

 

「ちょっと!その子に手を出さないでってば!!」

 

 

 現在駐車場のど真ん中でナンパと言う相当アレな事をしている連中に対して『桜風』がそんな考察している最中、ズケズケと横から割って入った青年の一人が『桜風』と目線を合わせてそんな事を言い出す。本来ならば力づくで押し通りたいのは山々だが、生憎この5名は国家公務員たる軍人とその配下の軍艦である。下手に力を振るって怪我でもさせたら、ほぼ間違い無く横須賀鎮守府に『文句のつけようのない正義の御旗』を満面の笑みで掲げた連中が大挙して…は言い過ぎかもしれないが、少なくない数が来るのには疑う余地も少ないだろう。要するに、もう少しで『ドレッドノート』と交戦するこの時期に余計な厄介は抱えたくなかったのだ。

 

 

 

「うんうん、お姉さんたちと一緒で君も可愛いねー。どう?お兄さんテレビの人と知り合いだからテレビに出てみない?」

 

「……はぅ……?」

 

 

――――ああ、分かった。こいつは、敵で間違い無い。

 

 

 と言っても、その『正義の御旗』は『無力な一般市民に対して』力を振るった場合にのみ限られる。不躾かつ失礼にも程が有るが、まるで品定めをするかの如く『桜風』の顎に右手をやって表情を眺めているこの男には妙な衣服内のふくらみが有る事に、目敏く『桜風』は気付いた。そして()であるならば、『桜風』は手加減はしても一切容赦する事はない。

 

 

――――()なら、ちゃんと()()しないとね

 

 

 ……そもそもの話、初対面の少女に対していきなり顎に手をやる様な男など、こうなるのが当たり前なのではあるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いでででででででででーーー!?やめ、止めろ止めろ止めろ!!腕が、腕が捻じれて折れちまう!?があああーー!?」

 

 

 第三者からの目で見ると、それは異様な光景であった。健康的に鍛えられた大の大人が、年端も無い少女に右腕を片手で捻じられているのだ。人類の腕部可動域の限界に挑戦するかのように右腕を捻じられて情けなく叫ぶ男を無表情で眺める、男の右腕を片手で軽く捻る少女。現実味の全く無い風景である。

 

 

「え……一体……何が……?」

 

「うわぁ……痛そう……」

 

 

 鈴谷と熊野が呆然としながら『桜風』を見ている様に、先ほど深山提督たちをナンパしていた男達や青葉も唖然としながら、この荒唐無稽な光景を見ていた。例外は今なお冷厳に周囲を見渡す深山提督だけである。

 

 

「いてえ……痛え……おいこの餓鬼!!人が丁寧に下手に出てやってるのに何やらかしてくれとんじゃ!?ああ!?」

 

 『桜風』の捻じりから解放されるや否や、右腕を庇いつつ早速涙目で本性を現したナンパ男改めチンピラその一。言葉だけは何処かの筋の者のようで勇ましい限りだが、それ以外で全てが台無しである。

 

 

「…………初対面の人間に対して、いきなり品定めする様な蛮人にかける情けなど不要です」

 

 

 情けないチンピラその一に対して、自身の両手首を片方ずつ揉み、回しながら事も無げに言い放つ『桜風』。全くと言うほど『貴様等、眼中にない』と言わんばかりの反応に『侮られた』と感じたチンピラその一が取る行動は、古今東西代り映えの無い物だった。

 

 

 

「このクソガキ……この俺が蛮人だと、野蛮人だと言うのか!?」

 

「……最低限の礼儀すら知らぬ者など、禽獣にすら劣る存在では?」

 

「このアマ……!」

 

「お、おい……子供に対してやりすぎだぞ」

 

「ああ?うるせえ引っ込んでろ!」

 

「がっ!?」

 

 

 仲間と思われたチンピラと一緒にナンパしていた男の一人が止めに入るも、当のチンピラは痛んでいない左腕で止めに入った男を躊躇無く裏拳で殴り飛ばし、仲間で有る筈の男たちが目に見えて動揺しだす。どうやらこのチンピラと組んでいたナンパ男達とは何か違うようだった事は、色々と展開に置いて行かれかけている青葉たちにも何とか理解出来た。

 

 

「…クックック……この俺を怒らすとは、良い度胸を…」

 

「…丁度良いわね。喉乾いているでしょ?コレ飲みなさい」

 

「あ、有難うございます」

 

 

 右腕を振り回して痛みを隠すチンピラが改めて凄み直そうとするも、凄まれている『桜風』は全く意に介さずに深山提督から投げ渡された缶コーヒーのプルトップを開けて喉を鳴らして飲みだし始める。まるで目の前のチンピラが存在しない物の様に思わせる『桜風』の行動は、大して堪え性の無いこの男をキレさせるに十分な行動だった。

 

 

「このクソアマ……ぶっ殺してやる!!」

 

 

 ようやく右腕の痛みが治まったのか、いかにも三下らしいセリフと共に、自身の懐から隠し持っていた拳銃を取り出し……

 

 

「……銃火器と言うのは、素人が操れる様な玩具では無いですよ、っと!!」

 

「ウゴォ?!」

 

 

 標的(『桜風』)に銃口を向ける直前に、飲み干したばかりの缶コーヒーを上に放り投げ、某少年探偵の様に右足でチンピラ(敵兵)の顔面に空き缶を蹴り込む『桜風』の一撃によって呆気無く昏倒。頭部への強烈極まりない一撃に加えて、アクション映画でのショットガンの直撃を受けたやられ役が良くやるその場での宙返りからの地面への叩き付けでうめき声しか上げられなくなったチンピラを他所に、『桜風』はチンピラのベルトを取り外して拘束しつつ、拳銃を確保した。

 

 

 

「…………うん……ブローニング製のM1910。密造銃では無い、純正の正規品。密輸品なのは確定かな?」

 

「…………あ……え…………?」

 

「一応聞かせて貰うけど、いまこの場に居る貴様達。まさかあの娘を攫おうと結託……」

 

「しっしししししていません!!」

 

「は、はい!誓ってその様な事は考えておりません!!」

 

「アイツとは酒場で知り合って二日前に逢ったばかりの男なんです!!俺たちは単にナンパして皆で遊ぼうって集まった田舎者なんです!本当です信じて下さい!!」

 

 

 深山提督の詰問に、あっさりと直立不動になった上に聞かれても居ない事すら話し出す青年たち。成程確かに、あのチンピラとは違ってしつこくナンパはしていた者の、それ以上の行動はしなかった。された方の深山提督御一行に取ってはたまったものでは無かった事はさておき。

 

 

 

「……まあ、それはそれとして。貴方達も事情聴取で連行されるから、洗いざらい話す方が身の為よ?」

 

 

 深山提督がそう宣告した直後、エンジン音を響かせながら数台の車両が駐車場に雪崩れ込んで勢いよく停車し、下車したスーツ姿の男たちが手早く『桜風』に拘束された上に足蹴にすらされている襲撃犯に手錠をかけ、その男と共にいたナンパ集団には警察手帳を見せた上で事情聴取の為に同行を求め、集団は一切抵抗せずに車に乗り込み始め出した。

 

 

「……なんとまあ、お早いお出ましで?」

 

「すみません。元々警護要員は早期に派遣する手筈だったのですが、あのデモ行進の混乱に巻き込まれてしまって……」

 

「……そう。状況はあの青年たちが説明してくれるから、私たちは帰らせてもらうわよ?何か聞きたい事が有ったら鎮守府に人を寄越して。出撃して留守の時も有るだろうけどね」

 

「了解しました。それでは、失礼します……」

 

 

 この言葉を最後に、この警察官のリーダーと思しき中年の男性の指示によって気絶したままのチンピラと今なお呆然としたままの青年たちは纏めて連行され、排気音と共に今来た車両が居なくなった駐車場には、深山提督や『桜風』たち御一行だけが居た。

 

 

「……『桜風』は、どう思う?」

 

「十中八九…否、ほぼ確実に()()()ですね」

 

 

 怒涛の展開に少々置いてけぼりな青葉たち巡洋艦娘トリオを他所に、深山提督と『桜風』だけは自身の考えが同じである事を確認し、深い深いため息を吐いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、お前はどう思う?」

 

「今回の容疑者()では、本丸にまでは手繰れそうに無いですね」

 

「……そうだな。今公安調査庁や他部門と共同で銃の出所を洗いざらい探っているが、正直に言って期待出来そうにないな」

 

「前政権の規制緩和に一律の公務員削減のせいで相当な量の銃火器と工作員が日本に入り込みましたからね……。捨て駒の現地工作員一名にM1911一丁位、捨てても惜しくはないでしょうから」

 

「反戦デモだの何だの言いつくろって、あの道路を封鎖して邪魔してくれおった輩の首領共からも、何も出てきていない。……出来れば、芋蔓式にあの知恵遅れ共を引っ立てたかったのだがな」

 

「先輩、気持ちは分かりますがそう言う事は公では言わないでくださいね?」

 

 

 深山提督と『桜風』が巡洋艦娘トリオに呼び掛けて横須賀に車を出した頃、警察庁の指揮下にある公安部所属の警官二人は、『桜風』に襲い掛かって無残に返り討ちにあった現行犯の所有し、襲撃現場の駐車場に駐車していた車を押収した帰り道に、そんな雑談を始めていた。因みに公安警察と言う組織はあくまで俗称であって組織としては存在せず、警察庁警備局や各都道府県警察の中にある一部門でしかない。

 

 

 

「……しかし先輩。自分には正直に言うとかなり不自然に思えます。艦娘の拉致をするにしては、人数も脱出手段も粗雑ですし、殺害するにしては悠長でしたし……」

 

「……こちらの反応を見る為、かも知れないな」

 

 

 期待の若手としてひそかに期待されている後輩の疑問に対して、そう答える壮年の男性警察官。因みに公安部所属と言う事も有って、この二人は有名大学を成績トップ5以内で卒業している。

 

 

 

「仮にこんなやり口で艦娘の拉致、乃至殺害が出来るようなら、他所でも一気呵成に艦娘の奪取をする為の活動を開始し、一応防げたのなら政治的手段や更なる謀略の準備に入る……。今の情報で推測できる情報など、こんなものだ」

 

「そんな事の為にですか……。まあ、あんな捨て駒程度ならいくらでもいると言う事なのですかね」

 

 

 

――――全く……。今世界は深海棲艦の猛威に晒され、艦娘によって何とか侵攻を防いでいる様な状態だと言うのに、今なお戦前の論理で動く奴らの気が知れん。……そんなに、日本の存在が邪魔なのか?そんなに、貴様らに使えもしない艦娘の力が欲しいのか?

 

 

 戦前の論理で動く国家や勢力の策動を、職務上真っ先に直視し、対処している彼等の中には、本来常に冷静さを保つべき公安部所属の警察官に有るまじき事だがこう言った過剰な感情を抱き始めるまでに神経をすり減らしている人員も存在した。人間らしいと言えばらしいのだが、職務上不要な感情に苛まれ始めた彼等に一時の休息が与えられるのは、未だ大分先の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良し良し。まさかこれほどまでに良き物を得られるとは、我は良き運を持っておるな。これだけの量ならば十分じゃ」

 

 

 

 日本本土でとうとう『桜風』に対する襲撃が発生していたりする中、超巨大潜水艦『ドレッドノート』は遠くニューギニアのとある港町へと上陸していた。勿論航行中に多数深海棲艦と遭遇するも『ドレッドノート』の放つ多数の酸素魚雷に38.1㎝砲によって纏めて漁礁へと転身させられると、恐れをなしたのか近辺に近寄らなくなったのを良い事に、船体は沖合に停泊させて『ドレッドノート』は生存者は誰一人存在しないゴーストタウンに乗り込み、自身の欲していた物品を確保出来てご満悦であった。火事場泥棒以外の何物でもないが、本来の持ち主は既にこの世に居ないのだから誰も咎める者等居ない。

 

 

「……お主も不運よのう……。スマヌが、貰っていくぞ。さて……ん?……貴様、何奴じゃ」

 

 

 最低限の礼儀として、侵入した一室に横たわっていた白骨化した人間の遺骸に対して、軽く手を合わせて冥福を祈った『ドレッドノート』であったが、戦利品を大袋に背負って一軒家から出ると同時に視界には()()()()が飛び込んできていた。何が妙かと言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う物だったからだ。

 

 

 

「……ふむ……。成程、貴様らが陸地への侵攻を行っていたのだな。艦艇で陸地に出来るのは破壊のみで占領など不可。なれど人類が細々とした諸島どころか、このニューギニアやハワイなどすらも喪失したのは、貴様らの為か」

 

 

 一人頷いて納得している『ドレッドノート』であったが、彼女の目の前の戦車はそんな彼女の言葉を無視して…若しくは理解するだけの知性も無いのか、攻撃する為に砲塔を旋回させ始めていた。

 

 

「……全く。我は今少なからず感傷に浸っておったと言うのに、無粋な奴め」

 

 そう言うと、『ドレッドノート』は背負っていた大袋を地面に置くが早いか、突如疾走を開始。当然敵戦車も砲塔と共に車体を動かして『ドレッドノート』を捉えようとするも、旋回速度よりも遥かに『ドレッドノート』の走りの方が早く、あっさりと索敵範囲から見失ってしまう。

 

 

「……ふむ、まあこれを使った方が手っ取り早いからのう」

 

 

 この戦車が、この『ドレッドノート』の言葉を聞いたかは定かでは無い。だが少なくとも仮にこの戦車に『意志』と言う物が存在して居れば、確実に目の前の有り得ない光景に固まるか、即座に逃げ出していただろう。逃げ切れるわけも無いが。

 

 

「ふっ……さっ…て。我が道の邪魔だてを、する出ない!」

 

 

 『ドレッドノート』の一喝とほぼ同時に彼女を視界に捉えたこの戦車が最後に見たと思われる光景は『成人女性程度の身体を持つ艦娘が、コンクリートが着いた鉄骨を自らに勢い良く叩き付けてくる』と言う荒唐無稽極まりない物であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……流石に、やりすぎたかのう?」

 

 右手で軽く頭を掻き、髪を手櫛ですく『ドレッドノート』の眼前には、つい先ほど砲撃か爆撃によって破壊され、鉄骨がむき出しになっていた建物から引っこ抜いた代物を叩き付けられた、余りにも哀れ過ぎる()敵戦車の姿が有った。超兵器の持つ力をコンクリート付き鉄骨(即席超巨大ハンマー)によって全力で叩き付けられた為に、被害は一撃で平らにされた敵戦車に止まらずに地面にすら小さく罅が入ってすらいた。

 

 

「……まあ、ええじゃろ」

 

 目の前の惨状に対して最終的にそう結論付けた『ドレッドノート』は、数分前に置いたばかりの大袋を回収し…何を思ったか先ほどまで居た一軒家にまで戻って行った。大袋以外は手ぶらで来た為に何かを忘れた訳でも無い。『ドレッドノート』のやりたかった事は、ただ一つだった。

 

 

 

「……この海域に蔓延る深海棲艦を掃除し、あの妙ちきりんな戦車を一両潰し、主らもこうした。そして、これも渡す。……仕事量としては十分じゃろう?じゃから、これらは頂いて行くぞ。……では、さらばじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 一人の女性が立ち去った一軒家。長年手入れもされず、補修もされていない為に周囲は雑草が蔓延り、家の至る所は破れ、雨漏りも有る為か腐り始めている部分すらも有る。そんな廃墟という言葉が極めてよく似合う建物には、一つ寝室が有る。

 

 

 

 そのベッドには、大人が二人。子供一人の骸骨が丁寧に川の字で寝かせられ……この三人を見守る様に、一つの写真立てが枕元に立てられていた。劣化が進み、黄色く変色していたその写真には、一組の夫婦、そして一人の少女が楽し気な笑みを浮かべる姿が有った。




今月中旬ごろより艦これイベントが開幕しますので、恐らく次話投稿はまた大分後になる可能性が有りますが、そうなった時は御免なさいです。


…活動報告とか全然使ってませんが、使った方が皆さまにとって良いのですかね?使い方良く分かっていませんが…
…暑さで頭煮えてるカモ、寝ますか
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