艦娘の咆哮 ~戦場に咲き誇る桜の風~   作:陣龍

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奇跡のカーニバル 開 幕 だ (AA略)

後『ドレッドノート』の戦闘方法に違和感が有るかもしれませんが、と言うか違和感しか無いかも知れませんがその点は御免なさい。


第三九話  南洋の海魔

南洋の大海原にて開幕した異世界出身艦同士の決闘。その初動は、超兵器『ドレッドノート』による魚雷攻撃にて幕を開けた。

 

 

「『桜風』!魚雷発射音!!」

 

「全速前進、機銃、迎撃開始!スカ―フェイス隊は直ちに出撃せよ!」

 

『了解!』『戦果、期待して下さい!』『ハッ!『ドレッドノート』なんか指先一つでダウンさ!』『だからお前は死亡フラグを何でそう立てまくるのかと……』

 

 

 聴音員としてのいきなりの初仕事を問題無く成功させる霞の一声に、『桜風』は即座に回避と迎撃、そしてSH-60J(シーホーク)搭乗のスカ―フェイス隊4機をセオリー通りに出撃させる。演習ではふざけていた部分の見受けられた妖精さんも、口では兎も角顔つきや目線は戦人へと完全に変貌している。

 

 

「射出地点の特定は?」

 

「……無理。音が足りない」

 

『現在アクティブソナーでも索敵中ですが、こちらも現在サッパリです』

 

「……分かった」

 

 

 本来雷撃を受けた場合、魚雷発射管からの魚雷射出音、そしてアクティブソナーによる探知にて早期に敵潜水艦を捕捉するのが望ましいのだが、通常の潜水艦なら兎も角、あれだけの巨体でありながらも静穏性も極めて高い『ドレッドノート』相手では、そう望むべくも無かった。加えて、今回は()()()()とは少し戦況が変化していた。

 

 

『……え?か、艦長!『音波探信儀Ⅴ』と『電波探信儀Ⅴ』より超兵器ノイズが消失しました!!』

 

「私も確認している。『ドレッドノート』……超兵器機関を停止させたのね」

 

「…超兵器が超兵器機関を停止させて戦えるものなの?」

 

『超兵器には、万が一の為にか補助機関を搭載しているのが存在してんだ。多分超兵器機関が何らかの理由で稼働不可になった場合の為だろうな』

 

「と言っても超兵器機関は構造上止めようとしても完全に停止するわけじゃ無く、()()()()()()()()()()()だし、それに補助機関だけでも水中10から12ノットくらいは出せる。霞はそのまま聴音に専念して」

 

「わ、分かったわ…」

 

 

――――……?私、()()()()()()()()()()()()()()()……?

 

 

 一瞬思念に雑念が混ざるも、戦場ではそう言った思考に耽られるだけの時間を与えられる贅沢を与えられる事は少ない。今も、水雷妖精からの『ドレッドノート』の魚雷の推測が完了したとの声が飛ぶに及び、雑念は容易く消え去った。

 

 

「水雷妖精。『ドレッドノート』の魚雷性能は?」

 

『航行の痕跡から見ても酸素魚雷である事は確定です。迎撃で発生した爆発の大きさからすると……恐らく、『53.3cm酸素魚雷』と『48.3㎝酸素魚雷』です!』

 

「……やはり、『ドレッドノート』も強化されていたのね」

 

『こっちは弱体化したってのに、酷い話ですよね』

 

「対艦魚雷が『61㎝4連装魚雷』だった()()()よりははるかにマシだよ。船体だって『フリゲートⅡ』な上、『5連装新型対潜誘導魚雷』にスカ―フェイス隊のSH-60J(シーホーク)だってあるんだし」

 

 

 そんな会話を『桜風』は自身の妖精さんと交わしつつも、『ドレッドノート』の捜索は一切怠って居なかったが、()()()とは違って早期に発見は出来ていなかった。勿論、()()()は一応友軍艦艇の存在も有って早期に『ドレッドノート』の射点等を確認出来るだけの情報を確保出来たのだが、今回は『桜風』単独である。

 

 

 

『……あー、クソッ!駄目です艦長、アクティブソナーには全く反応が有りません!新入り、そっちは!?』

 

「五月蠅い騒がないで!気が散る!……敵艦?全然分からない!機関駆動音に迎撃で水面下がグチャグチャなのよ?!」

 

 

 その為に、現在アクティブソナー(『音波探信儀Ⅴ』)パッシブソナー(零式聴音機改)にて『ドレッドノート』の居場所を探している訳なのだが、アクティブソナー(『音波探信儀Ⅴ』)はサッパリ『ドレッドノート』を捉えられず、パッシブソナー(零式聴音機改)は高速で駆ける『桜風』の機関駆動音に加えて、魚雷迎撃にて発生した爆裂音で全く使い物になる状況にはなかった。

 

 

「機関減速、前進微速のまま固定。……これは、長期戦になるね」

 

『現在戦闘海域外に雨雲が存在し、こちらに向かって来ています。……早期に発見し、撃沈しなければ圧倒的不利になります』

 

「その点は皆分かっている。……でも、アクティブソナー(『音波探信儀Ⅴ』)パッシブソナー(零式聴音機改)の両方とも『ドレッドノート』を探知出来ないんじゃね……」

 

 

 因みに現在『桜風』の搭載しているパッシブソナー(零式聴音機改)だが、これは元々駆逐艦『桜風』の船体の固定装備で有り、『音波探信儀Ⅴ』の様な補助装備とは違って取り外しが不可能な装備である。丁度秋月型駆逐艦自身に搭載している高射装置と似たようなものだ。

 

 

『……ですが、何故なんでしょうか?』

 

「副長?」

 

『確かに、理由は分かりませんが『ドレッドノート』の性能は()()()()よりも強化されているのでしょう。ですが、基礎性能が強化された程度で『音波探信儀Ⅴ』の探知から逃れられるとは思えないのです』

 

「……それは……」

 

 

 一瞬考え込んだ『桜風』の副長に返そうとした言葉は、唐突に入り込んできた通信によって遮られた。

 

 

『艦長、スカ―フェイス隊、配置に着きました。これよりディッピング・ソナー並びにソノブイを投下し、『ドレッドノート』の捜索に入ります』

 

「ん、了解。くれぐれも気を付けて」

 

『大丈夫ですって艦長!『ドレッドノート』には対空ミサイルなんか搭載していないんですからさぁ!』

 

『だからスカ―フェイス3は良い加減そのビッグマウス兼フラグ建立癖をどうにかしろと小一時間……』

 

 

 

()()()()では開発未了の為に行えなかったが、今回の対『ドレッドノート』戦における切り札の一手と目されているSH-60J(シーホーク)4機。時速300㎞、航続距離257㎞、武装に『航空爆雷Ⅱ』と『対潜ミサイルⅠ』、夜戦、悪天候共に戦闘可能な対潜ヘリコプターの存在は、十分に切り札足り得る存在であった。潜水艦に取って航空機は、ある意味一番の脅威であるのは、どの世界でも違いは無かった。

 

 

『ソノブイ投下、データリンク開始』

 

「受信確認。……やはり反応が見られない、か」

 

『ですが、このまま捜索して居れば、いつかは必ず』

 

「……だと、良いんだけどね」

 

 

 そう答えつつ、『桜風』は自身の艦橋ガラス面の表示を、通常時から戦闘海図へと一瞬で変更させる。自身の艦艇、スカ―フェイス隊4機それぞれの位置並びに高度、加えて『桜風』とスカ―フェイス隊4機それぞれの索敵範囲を一面に表示した物だ。普段は映像表示などせずに処理しているのだが、敵艦状況不明確かつ情報を整理したかったために、今回は表示を行った。

 

 駆逐艦『桜風』(自身)を映像上右下に置いて俯角を取りつつ見下ろす戦闘海図が示す現在の状況は、スカ―フェイス隊の内3機が索敵を行い、1機が何時でも攻撃可能な状況にて空中待機。そして『桜風』(自身)はスカ―フェイス隊のカバー範囲外ながらも直ぐに援護可能な様に比較的近距離に存在する立ち位置であった。実の所、今回の陣形は深山少将を通じて入手した海上自衛隊の対潜戦闘の教本を参考にしている。

 

 

 

「……『桜風』、機関の騒音が酷くて、余り遠くの音までは拾えないわよ」

 

「……一応前進微速のままだけど」

 

「それでも17ノット以上も有るでしょ。もっと下げないと、私が聴音している意味が余り無いわ」

 

「……全身微速と機関停止を繰り返して如何にかする。これでいい?」

 

「……これなら、何とかなりそう。でも……いえ、何でも無いわ」

 

 

――――加減速を繰り返すせいで、やっぱり無駄に騒音が発生している、か

 

 

 霞の進言により、機関を全身微速(ギア1)と機関停止を繰り返して可能な限り低速かつ騒音を少なくする努力を行う『桜風』。とは言え、元々の根本的設計構造として()()()()()()()()()()()()()()()()()()である為、缶の圧力を調整可能な陽炎や霞、大和たちとは違って機関後進、機関停止、前進微速(ギア1)前進強速(ギア2)全速前進(ギア3)しか機関調整が出来ない『桜風』では、細かい速度調整はどう足掻いても通常の方法では不可能である。無理矢理やった場合の末路は機関部溶解&暴発の悪夢待った無し、である。

 

 

『……取り敢えずは、『ドレッドノート』が網に捉えられるまで待つだけですね、艦長』

 

「ん…そうだね、副長」

 

 

――――そうそう上手くいくとは、到底思えないけど

 

 

 『ドレッドノート』が潜伏していると思われる海域を、駆逐艦『桜風』のアクティブソナー(『音波探信儀Ⅴ』)パッシブソナー(零式聴音機改)SH-60J(シーホーク)3機のソノブイにディッピング・ソナーによって立体的に捜索を続行する面々。そんな中『桜風』の危惧は、目を閉じてパッシブソナー(零式聴音機改)が拾う音に集中していた霞からの報告によって、早くも現実のものとなる。

 

 

「……『桜風』!注水音確認!!」

 

「霞、場所は!?」

 

「……えっと…ここ!」

 

 

 機関部の動作音に邪魔されつつも如何にか居場所を捉えた霞により、『桜風』の眼前に表示される艦橋ガラス画面に『ドレッドノート』の兵装からと確実視される注水音が捉えられたポイントが瞬時に表示される。そしてその場所は……

 

 

『こ、此処って!?』

 

「スカ―フェイス3!操縦借りるよ(I have control)!!」

 

 

 必殺の『航空爆雷Ⅱ』と『対潜ミサイルⅠ』を抱えて『ドレッドノート』に打ち込むべく空中待機していたスカ―フェイス3の至近距離で有った。

 

 

 

 

 

 

 

 

【「スカ―フェイス3!操縦借りるよ(I have control)!!」】

 

『え?わっうぉぉぉおおおー!?』

 

『ちょ!?がぁぁああーー!?』

 

 

 唐突な『桜風』(艦長)の宣言に、スカ―フェイス3の妖精さんが何かしらの反応を起こす前に、妖精さんが搭乗するSH-60J(シーホーク)の操縦が『桜風』に奪われ、すぐさま右後方へと横滑りを開始。勿論の事、妖精さんたちはしっかりとシートベルトを着用しているために機体の計器などに叩き付けられる心配は無いのだが。

 

 

 

『艦長?!行き成り何を!?』

 

『き、機長!ミサイル警報!!』

 

 

 突然の『桜風』(艦長)の奇行を問いただすスカ―フェイス3であったが、その問いを遮り機内にはミサイル接近を知らせる警告音ががなり立て始めた。

 

 

【「スカ―フェイス隊!直ちにその空域から退避せよ!!現在貴隊の真下に『ドレッドノート』が存在している!!」】

 

 

【「ス、スカ―フェイス2了解!!」】

 

【『スカ―フェイス1了解』】

 

【『スカ―フェイス4了解!』】

 

 

 

 僚機が次々と空域から離脱を始める中、今なお『桜風』のコントロール下から離れていないスカ―フェイス3のSH-60J(シーホーク)が『ドレッドノート』から放たれたミサイルから逃れるべく水面ギリギリ、高度にして僅か2メートル前後の低空にまで全速力で降下する。妖精さん二名が操縦権とレール無きジェットコースターの前に抱き合いながら顔面蒼白で絶叫しているが、そんな事は些細な事である。

 

 

 

【「霞!水雷妖精!『ドレッドノート』の居場所は!?」】

 

【『アクティブソナー(『音波探信儀Ⅴ』)が欠片も意味を成していないです!全く『ドレッドノート』の居場所が特定出来ません!!オイマジでぶっ壊れてんのか?!』】

 

【「『桜風』が全速出しているせいで失探状態よ!今の状態じゃあ『ドレッドノート』の居場所を特定なんて出来ないわ!」】

 

『艦長こっちの方に意識向けて下さいってばー!?』

 

『ミサイル!ミサイル!!ミサイルこっちクンナー?!』

 

『ウヴァァァアアー!?』

 

『艦長ヘルプミー!!I don't want to die(ワタシマダシニタクナーイ)!』

 

 

 通信で流れ込む駆逐艦『桜風』の艦橋内の騒ぎをよそに、全ての生殺与奪を『桜風』(艦長)に握られているスカ―フェイス3妖精さんコンビとしては、メインローターが海面に接触しそうなまでに機体を傾斜させて低空で回避運動を行うSH-60J(シーホーク)操縦席で流されるがまま恐怖に恐れ戦き、妖精さん同士で抱き合うより他の選択肢は無かった。艦長には全幅の信頼を置いているが、だからと言って恐怖心まで掻き消える訳では無い。

 

 

 妖精さん二名の悲劇は兎も角、操縦権を握った『桜風』の操るスカ―フェイス3のSH-60J(シーホーク)目掛けて海中から飛び出した後、弧を描いて天から垂直に迫りくる『ドレッドノート』のミサイルは、時速300㎞超の高速でミサイルが描いた弧の内側に滑り込むSH-60J(シーホーク)の機動に追随出来ず、機体から僅か5mの至近距離を通過して海面に激突、爆散した。

 

 

『うぉっっあ!?』

 

『抜っけたあ!!』

 

【「……良し、スカ―フェイス3、操縦権をそっちに返す(You have control)直ちに帰投して(Return to base now)!」】

 

『はっ……ハイ!』

 

『艦長!?空からの攻撃は!?』

 

【「たった四機しかいないのに一機でも落とされたら取り返しがつかない!以上!」】

 

 

 進言を言下に一刀両断された直後、いつの間にか至近距離にまで突入していた駆逐艦『桜風』(艦長)が『新型対潜ロケット』を、先ほどミサイルが射出された海域を中心に複数撃ち込んでいた。が…

 

 

『……何か、おかしくね?』

 

『……です、ね。艦長、今日は()()()()()()()()()()()()()()見たいですね……』

 

『……取り敢えず、帰るか』

 

『そうですね』

 

 

 

 その言葉と共に、スカ―フェイス3は母艦へと帰艦する。あの至近距離でミサイルが撃たれたと言うのに()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う事は、結局発見できなかった。その事は、何時もおふざけしかしていない様に見えるスカ―フェイス3で無くとも、駆逐艦『桜風』の妖精さんなら誰でも理解出来た。

 

 

『今回の戦、一筋縄ではいきませんね』

 

『何時もの事だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……駄目です。効力無しと思われます!』

 

「……兵装選択を間違えたね。『新型対潜ロケット』と『5連装新型対潜誘導魚雷』じゃ、範囲攻撃は出来ない。『ドレッドノート』の居場所を完全に特定出来ない限り、一撃も与えられない……か」

 

 

 スカ―フェイス3が駆逐艦『桜風』艦尾の発着場に着艦する頃、『桜風』(艦長)は『ドレッドノート』の居場所を今なお特定出来ぬまま彷徨っていた。否、一応は捜索してはいるのだが、その目標である『ドレッドノート』が今なおアクティブソナー(『音波探信儀Ⅴ』)パッシブソナー(零式聴音機改)を酷使しても捉えられていない為、捜索と言うよりも彷徨うと言うべきな艦艇移動であった。因みにこの頃にはとうとう水雷妖精が整備科に怒鳴り込み、仕事の邪魔をするなと蹴り出されている。

 

 

『……艦長』

 

「何、副長」

 

『『ドレッドノート』は対空ミサイルをも追加装備しているのでしょうか?』

 

「それは無いね。スカ―フェイス3の記録映像を見ると、あのミサイルは対艦ミサイルVLSだった。前の世界と同じく、ウィルキア解放軍とほぼ同一の様式だったし直ぐに分かったよ」

 

「…あの映像、一瞬だったのに良く分かったわね」

 

「艦艇時代に散々見続けたんだから。それに大層な異名を頂いている以上、あのくらいは出来ないと」

 

『因みに対艦ミサイルを『ドレッドノート』が対空ミサイルとして流用出来た理由は?』

 

「こっちだって手動入力で対艦ミサイルを対地、対空目標に、対空ミサイルを対艦、対地目標に流用可能でしょ?私達に出来る事が、相手に出来ない訳が無い」

 

 

 

 直接映像に捉えられたのは時間合計にして3秒も無いと言うのに、『ドレッドノート』の撃ち放ったミサイルが対艦ミサイルVLSと断定出来た事に呆れる霞に事も無げになんだか常識から身投げしている返答をする『桜風』。尚、誘導ミサイルを本来の想定された目標物以外に射撃した場合、威力は兎も角誘導性能は例外無く本来の誘導ミサイルよりも低下している。今回低速航空機の代表格であるヘリコプターがギリギリとは言え被弾を回避出来たのも、『桜風』の操縦が優れていたのも有るが飛来したのが比較的低速であるVLS型の対艦ミサイルで有った為である。

 

 

 

「……副長。この海域の変温層を表示するよ」

 

『え?……あ、そうか!』

 

「ある程度は絞り込める筈だから、多少は判断材料になるよね」

 

「……『桜風』、行き成り何言ってるの?」

 

 

 以心伝心で少数の単語で意思疎通を終える『桜風』と副長(小さき龍とその眷属筆頭)に、多少機器的に軽減されているとはいえそれでも爆音を何度も聞いた耳を休める為に本来のソナー要員の妖精さんと交代した霞が問いかける。

 

 

「海には温度が低温へ急激に変化する層が存在して、その層の下部に存在する潜水艦はアクティブソナーでは探知が殆ど不可能になるの。特に正午ごろだと海面温度が上昇して、その温度変化する層が顕著になり、アクティブソナーの探知能力が激減する「アフタヌーンエフェクト(午後の効果)」って言う現象が見られるんだって」

 

『提督さんから借り受けた対潜戦闘の教本に書いてありましたしね。……所で艦長、何故今頃になって?』

 

「………………だって」

 

『だって?』

 

「………………完全に頭の中に無かったから、その変温層とかの事」

 

 

 視線を床に逸らして白状する『桜風』。『桜風』と同じくスッポリ忘れ去っていた妖精さんも同じく気まずくなる中、霞だけは呆れかえっていた。

 

 

「……あれだけ過酷な戦場を戦って来ているアンタがこんな事も忘れてるって、何やってんの」

 

「仕方が無いでしょ……こっちの世界とは違って、潜水艦は偵察位にしか使えないって事で、水上艦艇の方が重視されていたんだから……」

 

 

 10割方言い訳にしか聞こえないが、事実では有る。霞や深山提督の居る世界では、その隠密性によって強力な戦力価値を誇る潜水艦だが、『桜風』の存在した世界では余りにも技術進化が早すぎた結果、潜水艦は偵察と多少の奇襲戦力以外では殆ど戦力価値が認められていなかった。早い話が、仮に最高のタイミングで主力艦艇を奇襲できたとしても、高度な防御重力場を備えている為に有効な打撃を与える前に発見されて撃沈されるのがオチなのだ。

 

 加えるとなれば、各種技術進化に対して潜水艦が全く追随出来なかったのも大きかった。戦争期間はわずかに一年。そのたった一年で最低でも一世紀、物によってはそれ以上にかけ離れたレベルの未来兵器が実用化されたが、今となっては『桜風』にもどうだったか判別は付かないが、潜水艦の少ない制限重量はどうしてもクリア出来ず、結果的に武装も防御力も強化出来ず、限界を知らぬとばかりに強化され続ける水上艦艇の攻撃力と防御力の前に続々と敗北していった。そんな状況で、戦術が練り込まれる程潜水艦が重用される訳が無かった。飛躍的に強化、又生産性が向上した水上艦艇を突撃させた方が何もかもが早かった。

 

 とは言え、これはあくまで『桜風』の居た世界の話では有るが、この世界ではあまり関係は無い。

 

 

「……超兵器相手に油断は禁物って口を酸っぱくして言っていたの、『桜風』じゃ無い。その当の本人が通常の潜水艦戦を基準に考えているとか、馬鹿じゃないの?」

 

「返す言葉もございません……」

 

 

 霞が駆逐艦『桜風』に乗り込んでから大体半日。これまで振り回されて来た霞が初めて『桜風』に対して優位に立てた歴史的瞬間であった。

 

 

 

『……遊んでいる暇は有りません艦長!浮上音です!『ドレッドノート』浮上!!』

 

 

 そんな妹に怒られる姉の様な微笑ましい両者の姿はさておき、パッシブソナーで『ドレッドノート』の浮上音を確認した妖精さんの報告によってどこかホンワカした艦橋内の雰囲気は一気に切り替わる。

 

 

「位置は!?」

 

『浮上位置確認!艦尾方向、『ドレッドノート』の砲口全てが此方に向いています!!』

 

「はぁ!?」

 

「直ちに反転!魚雷、ミサイルに注意!!砲雷撃戦用意!」

 

 

 完全に此方の位置を把握していたとしか思えない『ドレッドノート』の状態に思わず唖然とする霞と、そんな霞を無視して瞬時に修羅へと舞い戻る『桜風』。霞の栄光は、僅か3分と持たずに儚く終焉を迎えた。

 

 

 

『『ドレッドノート』、艦体前部の魚雷発射管より雷撃確認!並びに発砲確認!!』

 

「そのまま直進……今は『ドレッドノート』を射程に捉える事を最優先!その為なら多少の被弾は捨て置いて!」

 

「捨て置いちゃ駄目でしょアンタ馬鹿ぁ!?」

 

『了解!突撃します!!』

 

「了解しちゃうの?!」

 

『霞ちゃん、そんな事より、席空いたぜ』

 

「……あ、うん、分かったわ…」

 

 

 妖精さんの声によって今の自分の職場(聴音員席)に座ってシートベルト(特注のブツ)を着用する霞を他所に、最大速度にて転舵し『ドレッドノート』へ向かって突貫する駆逐艦『桜風』。(常識人)の無駄に鋭い突っ込みは何時も通り流された。

 

 

 

 

 

 巨大潜水戦艦『ドレッドノート』は、多数の魚雷や対艦ミサイルVLSもさることながら、戦艦の名を持つ通りに『40.6㎝砲』と言う大口径砲を搭載している。此方の世界では第一次世界大戦末期に大英帝国海軍がM級潜水艦と呼ばれる305mm単装砲を主砲として搭載した物が建造されているが、潜水艦本来の運用に正面から喧嘩を売る面白仕様とあらゆる意味で性能的欠陥を抱え込んでいた為に、『潜水戦艦』は壮大な失敗作として記録されている。

 

 

「取り舵10度、機関後進、面舵23度、全速前進!左舷艦首前方魚雷接近、機銃迎撃!砲術妖精!」

 

『駄目です!射程圏外で届きません!くそっ、沈降速度が速い!』

 

「水雷妖精!」

 

『命中する前に『ドレッドノート』の潜航が終わるのが先です!畜生、コッチの雷撃を読んでやがったのかあの女武者(『ドレッドノート』)!!』

 

「ソナーは!?生きてる!?」

 

『今は未だ捉えられています!しかし……ああ、クソ、反応消失!』

 

「海中の爆裂音が酷くてもう何処にいるのか分かる訳が無いわ!」

 

 

 当然、超兵器を名乗る以上M級潜水艦の様な欠陥満載仕様になる訳が無く、超兵器機関が放つ膨大と言う言葉すら過少でしかない機関出力と演算能力、そして超兵器『ドレッドノート』に宿った依代(乗員全ての経験)が、『ドレッドノート』の持つあらゆる戦闘能力を徹底的に底上げしていた。前の世界で『ドレッドノート』を撃沈出来た『桜風』と言えども、早々容易く撃沈出来る様な相手では無かった。

 

 

『……駄目です、反応無し』

 

「聴音も全然駄目。……何も聞こえない」

 

「……了解」

 

 

 最終的に『ドレッドノート』への雷撃は空振り、砲撃に至っては射程圏内に入れる事すら出来ずに取り逃し、変わって『桜風』には二発の40.6㎝砲の至近弾と6発の雷撃の至近弾を受けていた。船体に対するダメージは無いに等しいが、このままではジリ便になった末に戦闘海域内に嵐が乱入し、『ドレッドノート』の独壇場となる事は予想出来た。『音波探信儀Ⅴ』(アクティブソナー)が意味を成さず、零式聴音機改(パッシブソナー)も嵐で使い物にならなくなれば、潜水艦最大の強敵(『桜風』)であっても、刈り取られる獲物(『ドレッドノート』の戦果)へと容易く成り下がる。

 

 

「……やっぱり、絶対おかしい」

 

『……艦長?』

 

「確かに『ドレッドノート』の性能は強化されている。だけど、それだけで『音波探信儀Ⅴ』(アクティブソナー)の探知から逃れられるとは思えない」

 

 

 今までの交戦で【長期戦は必敗確実】と確信していた『桜風』は思考する。『桜風』が心の底から敬愛し、尊敬し、そして崇拝する己の艦長(ライナルト・シュルツ)が、自身に乗り込んでいた副官がそうしていたように。

 

 

――――…ウィルキアのアクティブソナーは、効果範囲を狭める代償に出力任せで敵潜水艦を捉える兵装。それは超兵器が相手であっても変わりは無い

 

――――電波妨害?いえ、なら『ドレッドノート』から電波が発せられている筈……

 

――――……何か……何か、カラクリが有る筈……超兵器と言えども、物理法則を無視は出来ない筈……

 

 

 

『あー、もう!なんでだよ!なんでなんだよ!前は普通に音跳ね返していただろうが『ドレッドノート』!』

 

「私が知る訳無いでしょ……と言うか煩いから静かにして……」

 

『……あ、わりぃ』

 

 

――――…………()()()()()()》……ッ?!

 

 

「……そう言う事。超兵器らしからぬ機能ね。まあ、潜水艦だからある意味搭載して当然の機能かな」

 

『ふぁ?!』

 

「……『桜風』?」

 

 

 勝手に理解して納得する『桜風』の独り言に、当然ながら置いてけぼりの艦橋要員。そんな彼女たちに対して、『桜風』は艦橋ガラスに表示されたデータ、画像を激しく操作しながら解説を始める。

 

 

 

「確信に近い予想だけど、恐らく『ドレッドノート』は『音波探信儀Ⅴ』(アクティブソナー)に対してアクティブステルスを実行して逃れている」

 

『アクティブステルス?!』『ああ、その手が有ったか!』『で、でも処理能力足りるのか!?』『常識的な範疇の初期型とは言え超兵器だぞ!その位出来ない訳が無い!』『てことは俺らは今の今まで自身の位置を暴露していただけって事か!?』

 

「……御免、なにそれ」

 

『知ら……ないのか』

 

「アクティブステルス。この世界でも開発されている技術で、自分に飛んでくる電波を自分から電磁波を放って打ち消すスタイルのステルス技法。『ドレッドノート』は、アクティブソナーが放つ音に対して同じく音を叩き付けて打ち消している…きっと、確実に」

 

 

 艦長(『桜風』)の考察に一気に湧き上がる周囲を他所に、あくまで第二次世界大戦頃の軍事技術が戦闘思考の基軸である霞が疑問符を浮かべ、『桜風』は簡単に解説する。現実では自ら電波を発する為に開発が難航しているアクティブステルスだが、超兵器の持つ演算能力ならば()()()()()()()()()()()調()()()()()()()()する事は出来る。『桜風』は、そう考えた。

 

 

「……さて、手品の種が分かれば、もうマジックショーは閉店ね。今度はこっちが仕掛ける番」

 

『早っ』『…まあ艦長だしな』『ああ、そうだな』『やっと反撃開始かー』『よっしゃ、『ドレッドノート』を泣かせるチャンスだ!』『……お前、案外下種かったんだな』『何故そうなる?!』

 

「……それで、どうするのよ『桜風』」

 

「まあ、それより先に先ずやる事が有るから」

 

 

 沸き立つ妖精さんを横目に『桜風』に問いかけた霞に対して、『桜風』はこう答えた。

 

 

 

 

 

「霞。貴艦は直ちにSH-60J(シーホーク)に搭乗し別海域で戦闘中の対超兵器部隊に転進しなさい。これは艦長命令であり、異論は認めないから」

 

「……はぁ?!」

 

 

 

 

 

 此処に、超巨大潜水艦『ドレッドノート』と駆逐艦『桜風』との戦争は、新しいステージへと移行する。狩られる側から狩る側へと『桜風』が豹変する一手を打ち出す為にも、『桜風』は霞が何と言おうとこの戦争から離脱させる気であった。




因みに今回の『ドレッドノート』のアクティブステルス、大本は『イギリス海軍のバミューダ艦隊が何故緊急電も打てずに全滅したのか』と言う疑問から端を発しました。バミューダ艦隊の全艦がアクティブソナー未搭載と言うのはちょっと考えにくいですし、それに超兵器である『ドレッドノート』の船体はとてもデカく、アクティブソナーには容易に反応して爆雷を受けてもおかしくは有りませんし、そもそもそうなれば緊急電を打つ筈です。

なのに何故緊急電を打たなかったのか?それは『打つ暇も無く全滅したから』だとすれば『バミューダ艦隊のアクティブソナーに探知出来なかったから』と思います。主人公艦と『ドレッドノート』の交戦時には、『ドレッドノート』は超兵器機関を全開にしていた上にウィルキア王国軍本隊を潰す為に隠蔽も何も無しに浮上砲撃等もやらかしていますので『なんで主人公艦の時だけ捕捉出来たんだよ』と言う疑問も答えになっている…ハズ(自信無し)

こんなこじつけ的思考展開の結果、『ドレッドノート』に原作では欠片も言及されなかったアクティブステルス機能が付与されました。テコ入れ言われても仕方が無い気もしますが正直言ってアクティブステルスってロマンですよね、カッコイイですよね。何で付与しちゃいました。反省はしているけど後悔はしていない(一応)
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