艦娘の咆哮 ~戦場に咲き誇る桜の風~   作:陣龍

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どもです。丸一月ぶりですが出来ました。遅れた理由としては上手い具合な言葉が流れで無かった事と、後安価サイトを放浪していたからです。だって面白いんだもの(小並感)


第四十話  死地を越えて求しもの

「……なあ、大和」

 

「何ですか、長門さん」

 

「……『桜風』が開発した兵装、本当に凄まじいな」

 

「……はい。本当に、そう思います。ですが……」

 

「分かっている。…分かっているんだ」

 

 

 そう会話を交わす深山艦隊対超兵器部隊所属の戦艦娘二隻。『桜風』と別れて、『ドレッドノート』と『桜風』が交戦する海域に侵攻する気配の見えた深海棲艦の艦隊を、()()()()()()()()()()()全滅させた感想であった。

 

 

 

 現状、対超兵器部隊が装備する『桜風』が開発した兵装は、押し並べて低位の兵装に限定されている。高位な兵装は一応開発されてこそいるが、それらを装備した結果が硫黄島沖大演習の惨事である。実は処理能力だけでなく、長門や大和が搭載した『46㎝75口径4連装砲』『50.8㎝75口径4連装砲』『41㎝65口径4連装砲』『41㎝50口径3連装砲』は、その大きすぎる発砲振動がそれぞれの船体の許容範囲を大きく逸脱しており、帰投後調査すると船体の一部に亀裂が入りかけていた。

 

 『桜風』の開発した砲塔兵装の砲弾には『近接炸裂弾』『新型徹甲弾』が既に固定で搭載されている。その砲弾事態には大きな問題は起きなかったのだが、代わりに『桜風』の開発した大口径砲は例外無く『発砲速度が異常に早かった』。『桜風』の視点では自動装填装置を一切使用していない為相当な低速なのだが、長門達から見れば有り得ない高速装填であった。長門が愛用している41㎝連装砲の装填速度は最高40秒、最悪1分30秒だが、一番口径が大きい『50.8㎝75口径4連装砲』でも()()()()()2()0()()()()()()()()。連射し続ければ、船体が振動に耐え切れなくなるのは自明の理である。

 

 

「……一応、今回は『桜風』さんが開発できた低位の兵装を搭載していますが……」

 

「それでも完全に使いこなせているとは到底言えない。……向こうでは『桜風』が『ドレッドノート』と死闘を繰り広げていると言うのに、此方は深海棲艦相手に苦戦。……自分が情けない」

 

「長門さん。それ以上は士気に関わります。反省は母港に帰ってからに」

 

「……そうだな、大和。……着任直後と比べると、成長したな。あの時は…」

 

「む、昔の事はもう終わった事です!!」

 

 

 既に戦艦タ級flagshipと重巡リ級flagshipが基幹である敵深海棲艦打撃艦隊を殲滅しているとはいえ、この談笑中も索敵は欠かしていない。この点は、熟練艦である二隻には当たり前の行動である。因みに今回長門に『40.6㎝55口径3連装砲』大和に『45.7㎝50口径4連装砲』を搭載して実戦投入を行っているが、砲撃戦にてタ級flagshipに対して水中弾の一発で爆沈させる結果を得ている。この事からやはり威力は申し分無いのは明白なのだが、船体に対する振動対策は根本的有効策は出ていなかった。その為現状は振動が完全に治まるまで待ってから斉射を行う、装填速度の速さを殆ど生かせない戦闘方法である。一応この戦法でも破壊力は凄まじいのではあるが。

 

 

【「大和さん。長門さん」】

 

「瑞鶴か?」

 

「瑞鶴さん?何か問題が起こりましたか?」

 

 そんな中、通信が長門たちの元に入る。今回は二隻ペアとなって深海棲艦との戦闘を行う手筈になっている。本来戦力の分散は愚の骨頂でしかないのだが、元々6隻とも戦闘経験はそれ相応に積み上げているし、確認出来た深海棲艦には姫級や鬼級が混ざっていない事は既に何度も確認済みであるし、その上で何かあった場合はすぐさま合流する為に比較的近距離を航行している。

 

 

【「いえ、問題は起こって無いです。此方も終わりました」】

 

【「戦果はヲ級eliteを二隻、ヌ級flagship一隻、その他小艦艇。ロングレンジでの二撃で決着しました」】

 

「分かりました。それでは一度合流しましょう」

 

「後は陽炎と青葉か……」

 

 

 そうこうしている間に、再度通信が入る。従来型の装備で有れば、彩雲や水偵などの航空機を経由したとしても相当な遠距離間では通信は不可能なのだが、『桜風』が開発した兵装、特に航空兵装に関しては相当強力な通信機器が搭載されていた。『桜風』曰く【被撃墜されるのが大前提とは言え、どれだけ離れて居ようとも、確実に少しでも情報を伝える為】なのだが。

 

 

【「青葉です。此方の戦闘も終了しました」】

 

【「戦果は雷巡チ級flagship一隻、戦艦ル級flagship改一隻、その他雑兵が幾つかね」】

 

「……え?ル級……flagship改?」

 

「待った。陽炎、それは誤認では無いのか?」

 

【「誤認では有りません。後で写真も見せますので」】

 

【「6連装酸素魚雷が上手い具合に命中したから、意外と簡単に沈みましたよ?」】

 

 

 事も無げに、さも当然とばかりに言う青葉と陽炎に対し、当然ながら大和と長門は驚き、疑念を抱く。陽炎は、大日本帝国海軍艦隊型駆逐艦の集大成たる陽炎型駆逐艦のネームシップだが、所詮は駆逐艦でしか無く戦艦相手では勝利するのは極めて厳しい。青葉に至っては1927年就役の初期も初期な重巡洋艦であり、ある意味駆逐艦以上に戦艦相手の戦闘は厳しい。

 

 

「……二人とも、一体何をしたのですか?」

 

【「いえ、別に変な事はしていませんよ?」】

 

【「『桜風』の作った補助兵装の『バウスラスター』で回避しただけだしね。まあ、お陰で船体が痛んじゃったけど」】

 

【「やっぱり未だ修練が足りませんねぇ」】

 

「……は……?」

 

 

 何時もの凛々しい長門からは連想できない間の抜けた声が出る。今自身が耳にした陽炎と青葉の言葉は、長門にそうさせるだけの衝撃力が有った。

 

 

「……お前達、何時のまに?」

 

【「……えっと、『バウスラスター』の事ですか?」】

 

【「『バウスラスター』なら、五日前に『桜風』が二個開発成功したから、搭載して実戦運用しているだけだけど……」】

 

「……あの……大丈夫なのですか?」

 

【「心配しなくても大丈夫です、大和さん」】

 

【「この位は大した負担じゃ有りませんしね。処理能力的には」】

 

 

――――いや、そう言う意味では無くてだな…!お前たちは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 歴戦の兵士と言う物は、例外無く()()()()()()()は忌避する傾向にある。例えどれだけ高性能でも、戦闘中に使い物にならなくなったらその瞬間に自身の生命に関わるからだ。長門達は『桜風』が開発した兵装の能力は極めて高く評価していたが、かと言ってそれらを今すぐ使いたいとは思えなかった。有体に言えば、硫黄島沖大演習での惨事の記憶が、自然と『桜風』が開発する高レベルな補助兵装の搭載を避けていた。

 

 

 未知の大馬力エンジンや大口径機関砲、重装甲に独特の操縦感覚を持つ航空機の操縦に今なお四苦八苦している加賀と瑞鶴にしても、補助兵装に関してはまずもって殆ど搭載していない。これ以上の物を抱え込んだら、確実に取得する情報が自身の処理能力以上に簡単に飽和して操る航空機全てを墜落させるのが目に見えていた。大型艦全てがそうである中の青葉と陽炎の今回の行為は、対超兵器部隊の中では異端だった。

 

 

『艦長、ただいま見張り員より『桜風』さんと『ドレッドノート』との戦闘海域方面から、一機ヘリコプター(SH-60J)が飛来しているとの報告が入りましたが……艦長?』

 

「……あ、ああ……分かった」

 

【「……何か、有ったのかな」】

 

【「私たちは早く長門さんたちと合流する事を優先しましょう、陽炎さん」】

 

 

――――……陽炎と青葉の二人を問いただすのは帰投してからだ。今はそのヘリコプターの事だな

 

 

 そうして後回しにした長門の思考は、『桜風』が派遣してきたヘリコプターが搭載していた()()()によって跡形も無く消し飛ぶ事になる。

 

 

「……袋?……モゾモゾ動いているな?」

 

「何が入ってるんでしょう……?」

 

『艦長のご命令で、()()()()()()()()()()()。それでは、私たちは戦場に戻りますので、この娘をお願いします!』

 

「……は?」

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 『桜風』航空隊所属のSH-60J(シーホーク)が長門たちの元に到着する時より1時間前。

 

 

 

「……冗談にしても笑えないわよ、『桜風』」

 

「この命令は嘘でも冗談でも無い。霞、今すぐこの場から離れる事。時間の猶予は…」

 

「嫌よ!絶対に嫌!!此処まで来て、此処まで来て私を置いてけぼりにするなんて許さないわ!!」

 

「確かに中途半端なところで放り出す形になるのは重々承知している。だけど…」

 

「馬鹿言ってんじゃないわよ『桜風』!」

 

 

 戦場にて、二人の少女が争っている。一方は淡々と自身の言いたい事を言い、一方は激昂して感情の赴くままに叫んでいた。淡々と話す黒髪の少女は、艦橋ガラスに映し出され、滝の如く流れ落ちる情報の海から一切視線も身体も動かさず、灰色のサイドテールの少女は持ち場から立ち上がり、今の上司を睨んで両手に握り拳を作りながらに。

 

 

「……スカ―フェイス隊、SH-60J(シーホーク)はどう?」

 

『何時でも飛ばせますが…』

 

「待ちなさい『桜風』!私は絶対に認めないわ!大体、聴音員として使えるって話だったじゃない!それを…」

 

 

 頑として説得を聞き入れようとしない少女に対し、もう一人が取った手段は短絡的、かつ有効な手段。

 

 

「……やって、皆」

 

『ハッ!』

 

「え、ちょ…は、離しなさい!『桜風』、止め!止めて…!」

 

「……ごめんね、霞。貴女を、守る為だから」

 

 妖精さんが寄ってたかって袋詰めにして、強制的に連れ出す方法であった。

 

 

 

 

『……本当に良かったんですか?』

 

「こうした方が、今からの戦闘を効率的に出来るからね」

 

『そんでもって霞ちゃんを怪我させずに済みますしね。こっち、と言うか艦長への配慮もして欲しい物ですが』

 

「……先ほど通達した策は変更しないよ。皆には悪いとは思うけど」

 

『じゃあ少しは艦長自身の身体を慮って下さい』

 

「却下」

 

 

 『ですよねー』等の妖精さんたちの諦めの声が艦橋に、そしてSH-60J(シーホーク)の駆動音が艦尾より響き渡り、そして遠ざかる中、『桜風』たちは今なお居場所を特定できていない『ドレッドノート』への次の一手打とうとしていた。

 

 

『艦長。……本当に、やるんですか?多分、成功率は一桁クラスですよ?』

 

「副長、低く見積もり過ぎだよ。成功、失敗率は共にfifty-fifty」

 

『……その心は?』

 

「フフッ」

 

 

……駆逐艦『桜風』が超兵器と会敵した時に辿る航路(みち)は、『沈める』()『沈められる』()か。その何方かに決まってるでしょ?

 

 

『それ完全なる詭弁極まれりじゃ無いですか艦長』

 

「……そんなに言下に切り捨てなくたって、ちょっとカッコつけるくらい良いじゃない……」

 

『と言うか誰に吹き込まれたんですかそんなセリフ』

 

「対ワールウィンド戦で負傷した後に工廠の医務室に軟禁されてたでしょ?あの時に秋雲が漫画持って来てくれてね。この時代の漫画って絵柄もストーリーも多種多様で面白かったよ」

 

 

 

――――まあ本当は以前の、対超兵器対策会議で話した事そのまんまだけど

 

 

 妖精さんたちが騒めく中真実は話さず適当に返した『桜風』。お陰で妖精さんたちの中での秋雲への評価が下落したりしていたが、そんな事は実際どうでもよい話である。因みに彼女たちは秋雲が過去やらかしていた同人誌関連の事は知らない。

 

 

 

 

「さって……アクティブソナーの使用停止。機関減速、ボイラー圧力、並びにスクリュー速度調整し()()8()()()()()()()

 

『了解!』『サーイエッサー!!』『あーもう!また鳳翔さんや古鷹さんに怒られますよ!』『と言いますか艦長。本当に来るんですか!?』

 

「必ず。釣り針付きと言えども、これだけ無防備となった獲物。『ドレッドノート』ならば、確実に獲りに来る」

 

『その心は?』

 

「『ドレッドノート』が超兵器だから」

 

『身も蓋もねえッスね!?反論し様が無いですけど!』

 

 

 何時もの様にゴチャゴチャと騒ぎながらも、『桜風』を含む戦闘要員全ては自身の職務に邁進している。普通なら命を賭してでも『桜風』の策を止めるべきなのだが、現状その『桜風』の作戦案以外で『ドレッドノート』を捕捉出来る手段は見当たらず、そもそも妖精さんは艦長たる艦娘に対して『意見具申』や『感想』を述べる事は出来ても『命令拒否』をすることは不可能である。この点は提督と艦娘との間柄にも同じことができる。

 

 

『……艦長』

 

「どうしたの、副長」

 

『……仮に、仮の話ですが……この手段が失敗したら、どうするんですか?』

 

 

 最後の確認として、己の字義通りの腹心たる副長妖精からの問い。

 

 

「ああ、その点なら大丈夫」

 

 

 その問いに対する『桜風』の答えは、簡潔極まりない物であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――しくじったとしても、()()()()()()()()

 

 

 悪戯を仕掛けて相手の反応を楽しむ幼児(おさなご)の様な声色と可愛らしい笑顔で返した『桜風』。己の身の安全を天秤どころか歯牙にもかけない、硫黄島沖大演習で鈴谷たちが見た物よりも遥かに色濃く、極めて純粋無垢なる狂気(何かが狂い、壊れきったバケモノ)が、そこには存在した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光り無き深海に、一匹の鋼鉄(くろがね)大鯨(おおくじら)が潜っていた。

 

 

「……ふむ。アクティブソナーの反応停止、かつ機関騒音も極度に低下……全く、無茶をしおるな、あ奴は」

 

 

 その大鯨の頭脳(『ドレッドノート』)は、自身の持つ優れた耳……ウィルキア帝国軍が採用した08式水中聴音機改二型(パッシブソナー)を用いて、己が好敵手(『桜風』)の異変を感じ取っていた。尚『ドレッドノート』には特注改造が施された曳航式ソナーが装備されていたのだが、あの海(カリブ海)ですらイギリス海軍に目敏く発見され、全滅する直前の意地の一発で破壊された程度の装備であり、『桜風』には通用していない。

 

 

 

――――ウィルキア軍の艦艇は、帝国軍、解放軍ともに例外無く乗員削減のために一部機能を犠牲にしておる。『桜風』、主は我を見つける為に爆沈の可能性がある賭けに出たか……

 

 

 

 

 

 

 音無き深海にて、『ドレッドノート』は一人思案に耽る。元々当たり前だと言うべきか、超兵器技術を除けば根本から枝分かれした存在であるウィルキア帝国軍とウィルキア解放軍が保有する艦艇や兵装、航空機の設計、技術思考は殆ど同一である。超兵器技術もさることながら米英日独それぞれの国家が持つ技術も、一方は撃沈艦、撃墜機又は鹵獲、一方は購入や供与又は技術交換によって入手しており、枝分かれしつつも殆ど同一の方向へと進化していた。その為、『ドレッドノート』は『桜風』の奇怪な行動に辺りを付けることが出来た。

 

 それにウィルキアは、此方の世界で言うウラジオストクからカムチャッカ半島に至るまでの海岸部分を領土とした国家であるのだが、その為大した穀倉地帯は保有しておらず、そもそも当時ロシア帝国に支配されていた日露戦争時に置いて日本と共に戦い、独立したという経緯でもある為に、人口は同盟国である日本にも及んでいない。マンパワーが絶対的に不足している以上、特に海軍にとってはダメージコントロール時の対応力低下を甘受してでも艦艇の必要乗員を削減するのは、ウィルキアにとって9割方本能染みた行動でもある。有意義な削減が行えたのは超兵器技術が流入してからだが、『桜風』にその技術が流入していないと考えるほど『ドレッドノート』は楽天家では無い。

 

 

 

 

 

――――はてさて、これは困ったぞ。理で考えれば、この場はあやつ(『桜風』)が自滅するまで待ちの一手であるが……

 

 

 今現在『桜風』の行っている設計無視の速度調整は、仮に車両で例えるとすれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う無謀などの次元を通り越した自殺行為であり、尚且つ決戦の場であるこの8月の南洋の海水温は例年よりも温かかった。放置しておけば機関部に多大なダメージが入り続けた末に溶解、爆発して勝手に轟沈するのが目に見えていた。

 

 

 

 

「……雷撃準備。二、四、六、八番」

 

 

 だが、その様な消極的姿勢を取れるほど『ドレッドノート』は惰弱でも無く……そして、利口では無かった。『ドレッドノート』の名の意味は【勇気ある者】。ある意味『桜風』が正面切って叩き付けた挑戦状から逃げれるような、そんな大層な神経は持ち合わせていなかった。

 

 

 

――――……悪く思うでないぞ『桜風』。これも、戦場の習いやでな

 

 

「…………撃っ」

 

 

 小さい一言と共に、『ドレッドノート』から12本の『53.3cm酸素魚雷』と『48.3cm酸素魚雷』が放たれる。既に魚雷発射管内部に注水を済ませており、尚且つ無駄な振動も出さない様に細心の注意を払って放たれた隠密魚雷は、『ドレッドノート』の意志に違う事無く突き進んでいく。『桜風』の逃げ場をなくすように、教科書通りの扇状に。

 

 

 そして、『ドレッドノート』は動かない。本来であれば雷撃後はその場から高速で離脱するのがセオリーなのだが、流石に雷撃に引き続きそんな戦術教本通りの型に嵌った行動をすれば、今まで苦労して隠密行動をしていた意味が無くなってしまう。

 

 

 

「…………機関音に変動無し。弾着まで……」

 

 

 自身の声と鼓動、そして08式水中聴音機改二型(パッシブソナー)から来る僅かな音以外何も響かない無機質なCICにて、『ドレッドノート』は待つ。潜水艦の本分は【機が来るまでただただ待ち続ける事】で有るがゆえに。

 

 

 

 

…………そして、『ドレッドノート』の耳に飛び込んできたのは6回の爆裂音と3回の船体着弾音。

 

 

「良しっ……六発は迎撃されたが、三発は命中確じ……つ……?」

 

 

 そしてその自身の口から発した言葉に、『ドレッドノート』の思考は停止する。

 

 

 

――――……奴には防御重力場が装備されておるはず。ならば、()()()()()()()()()

 

 

 防御重力場を使用した場合、文字通り艦艇周囲の重力を変化させる事により物理的な物質を破壊乃至その物質の速度を減殺する兵装である。レーザーや荷電粒子砲の様な光化学兵器に対しては一切の効力を発揮しないが、ミサイルや艦砲、航空爆弾等の物理兵装に対しては防御重力場が発揮する効力は大きい。魚雷に関しても例外ではなく、高度な防御重力場持ちの敵艦に対しては、命中する前に強烈な重力変化に耐えられない魚雷その物が破壊されるケースが頻発していた。……()()()()()()

 

 

「……何だ……何を考えておる、『桜風』」

 

【…………見つけた、『ドレッドノート』の居場所】

 

「っ?!……幻聴?じゃが、今の声は紛れもなく……」

 

 

 その答えは、被雷した『桜風』の行動によって示された。

 

 

――――……き、機関駆動音!?馬鹿な!?我の居所は発覚しておらぬ筈、それにあ奴は被雷したのだぞ!?

 

 

 今現在『ドレッドノート』の耳には爆発的な速度で増大する『桜風』の独特極まりないスクリュー音が飛び込んできており、状況からしてどう考えても被雷してから一切修理を施さずに全速前進しているとしか断定できなかった。先ほどの車両の例えを再利用するならば、『桜風』は()()()()()(ひしゃ)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()状況である。有体に言って、何時暴発してもおかしくはない。

 

 

「……メインタンクブロー!!直ちに浮上じゃ!」

 

 正直に言って常識的に考えるとあり得ない意味不明な状況ながらも、『ドレッドノート』は行動を起こす。動かないと言うリスクよりも、行動を起こすリスクの方がまだマシであると、『ドレッドノート』の本能が警告していたのだ。

 

 

 

 彼女は誇り有る【勇気ある者】の名を持つ、常識的範疇にある非常識な超兵器『ドレッドノート』である。……だからこそ、『ドレッドノート』は超兵器で有りつつもこの程度でしか無かった。『ドレッドノート』の最も優れた点は、勇者らしく正道(基本に忠実)()()()()であるのだが、逆に言えば『ドレッドノート』の最も劣った点は、基本に忠実(勇者らしく正道)()()()()()()()()()でもあった。要は()()などと言う世迷い事(時代遅れの遺物)を好む騎士(『ドレッドノート』)は、歴戦の精兵(『桜風』)が積み重ねて来た死地の重み(現代戦争が生み出した狂気)を見誤っていたのだ。

 

 

 

 

「魚雷疾走音!くっ……」

 

 

 『ドレッドノート』の決断は半分成功した。ノーロックで『桜風』の放った『5連装新型対潜誘導魚雷』の網を全て避け切る事こそ自身の巨体によってかなわなかったが、それでも浮上しなかった場合には20本近い対潜誘導魚雷が突き刺さっていた筈であった。『桜風』の行動に驚愕して動きを少しばかり止めてしまった代償はそれなりに着いたが。

 

 

 

「ぐっ…がっ…!浸水箇所、障壁封鎖!アクティブステルス(09式電波相殺装置)は……やられた、か。仕方あるまい……!」

 

 

 『ドレッドノート』への直撃弾は6本。『桜風』へ与えた本数の丁度二倍だが、双方の魚雷性能の差も有り、魚雷戦におけるダメージレート的には『桜風』の圧倒的勝利である。無論『ドレッドノート』も超兵器であり、幾ら『5連装新型対潜誘導魚雷』を6発撃ち込まれたと言っても、その程度で致命的な損傷を負う事は無かった。電波が反射する前に敵性電波を捉えて適度に打ち消すと言う性能と性質上耐久力に難の有るアクティブステルス(09式電波相殺装置)が破壊されたのは痛手には違いないが、それだけである。

 

 『ドレッドノート』への被雷箇所は幸運にも対艦ミサイルVLSや魚雷発射管などの脆弱箇所ではない、防御装甲が施された部分であったために、搭載弾薬の誘爆は発生していない。水圧による浸水の被害は笑って済ませられるモノではないが、直前に急浮上して水圧が多少軽減していたことも有って()()()()()程度の損傷である。

 

 

「やって……やってくれおったな、『桜風』……!よろしい!なればこそ我が死合いの敵手に相応しいという物よ!!」

 

 

 虚勢染みた言葉で有りつつも、『ドレッドノート』の本心からの言葉が叫ばれる。元々『桜風』との殴り合いで損害皆無で勝利出来るとは露ほど思っていなかったし、そもそもアクティブステルス(09式電波相殺装置)が破壊されたと言っても、魚雷発射管の対艦ミサイルVLSも40.6㎝砲もすべて生き残っている。戦闘力的には『桜風』とイーブンになったのと大差は無い。

 

 

 

――――……一瞬では有るが、海上より爆音が聞こえた。恐らく『桜風』(あ奴)の機関部が耐えられなくなったのであろう。ならば、仕切り直しの時間は有る筈じゃ……!

 

 

 そして、強気の要因の一端はこれである。機関の無理な抑圧と被雷による強力な打撃に加えてのインターバル無しでの全力稼働を行えば、想定を遥かに上回る負荷をかけられれば如何なる努力を施そうとも爆発するのは当然の帰結である。『ドレッドノート』の推測では、機関が暴発した程度で『桜風』が沈没はしないであろうが、最低限の修理を施す為に流石に一度離脱するだろうと踏んでいた。

 

 

「……待っておれよ我が強敵(『桜風』)。ここからが戦いの本番じゃ…!」

 

 

 

 ……事ここに至っても、不幸な事に『ドレッドノート』は『桜風』の本質を全く理解できていなかった。超兵器の中でも、ヴィルベルヴィントと同じ位に常識的なタイプの超兵器なのだからかも知れないが。

 

 

 

 

「海面まで、あと少し…!」

 

 

 垂直に近い急角度で急速浮上し、その勢いで海面より文字通り()()()()『ドレッドノート』。知らず知らずのうちに掻いていた手汗と額の汗を拭った直後。

 

 

 

 

 

「……馬鹿、な……!?貴様、何故!?何故此処に来るのじゃ?!死にたいのか!?沈みたいのか!?」

 

 

 

 『ドレッドノート』の装備し、自身の居場所が発覚した為に全力稼働を開始した電波探信儀、音波探信儀、そして視覚補助の為に各所に配置された多数のカメラが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の姿を捉えていた。

 

 

 

 

 




分かる人には分かるかも知れない説明(仮)

一般的艦娘OS=国際法準拠型第二次世界大戦頃OS(提督による外付けあり)

駆逐艦『桜風』OS=戦国島津×忠狂×無欲真面目誠実心の『"本来実在しえない"という意味も含めて極めて理想的な臣下』OS

まあ極々単純に中身の本質が前の世界のままで一切変わってないだけかも知れませんが(適当)


追記:『桜風』OSの説明を少々改変
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