艦娘の咆哮 ~戦場に咲き誇る桜の風~   作:陣龍

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何か言いたいこととか書き忘れた事が有った気がしますが忘れてしまいましたので
そのまま投稿します


第四四話  汝はパンドラの箱なるか、それともノアの箱舟となるや

「仲本提督。ご指示の通り()()の準備を行いました。こちらが報告書になります」

 

「分かったわ。やって」

 

「了解しました。では失礼します」

 

 

 まるで機械の様に無表情かつ必要最低限の言葉だけを交わして退室する重巡洋艦娘の古鷹。それに対して欠片も注意を払う事のない元帥階級の提督。この通常の艦隊では先ずあり得ない関係性と光景が日常のトラック泊地仲本穂乃果元帥旗下の艦隊では今日、常日頃の通常業務とは違う作業が混ざり込んでいた。

 

 

「……全く。此方の眼晦ましになるから構わないと割り切っていたけど、こんな連中ばかりじゃ私も巻き込まれかねないわ」

 

 

 仲本提督が執務室に据え付けられた軍用パソコンには、上層部より下った特定海域侵攻禁止命令を無視して超兵器ドレッドノートに殴り掛かり、見事に配下の艦娘諸共海の藻屑に成り果てた特大級の愚物(タウイタウイ泊地所属提督二人)の調査報告書が映し出されていた。

 

 

「既にある程度超兵器の異次元性は、関係者で有れば調べれば分かる程度には情報公開されている。しかも態々日本国から命令も下されている。その状況下でドレッドノートに挑みかかったのだから何か策があるのかと買い被れば、蓋を開ければただの玉砕特攻」

 

 

 赤の他人の所業とは言え、余りにも無意味に戦力を蒸発させた提督二人組の愚か過ぎる行為にため息が出てしまう仲本提督。しかも命令違反で出撃した動機は、自衛軍所属の警務官による内務調査が進んでいる事を恐れ、功績を立てて自身の犯していた汚職やら配下艦娘に対する不適切行為を有耶無耶にする為であった。あらゆる意味で擁護も処置も出来ようがない。

 

 

「まあ、少なくとも感謝するべきかしらね。貴方達の死によって得られたデータと空いたポストは、私がキッチリ有効活用させて貰うわ」

 

 

 内心は欠片もその様な愁傷な感情など無いが、言葉上は感謝している仲本提督。配下の艦娘を道連れにした戦死によりタウイタウイ泊地には二名提督の空きが出来たが、そこには本土にて自身が実家の財閥と自分個人のコネを使い自身のシンパを送り込む事が出来た。表向きは当然の事、少し捜査した程度では辿り着けない位には表向き関係性が薄いので、本土の公安等防諜、国家機関に悟られる危険性は先ず持って低い。それ以前に一提督に避ける程の人員は無い。

 

 

「艦艇魚雷化艦娘と神風隊混合編成の初期案では、良くて打撃を与える事が出来れば御の字ね。仕方ない、第二案に移行するとしましょう」

 

 そう言った直後、トラック泊地鎮守府施設内に少女の悲鳴と哀願、助けを求めるらしき声が響き渡る。鎮守府内が静かなだけに、余計に聞こえやすくなっているようだ。

 

 

「五月蠅いわね……。貴女の大好きな提督の元へ送り届けただけなのに」

 

 

 ドレッドノートが撃沈されて僅か3時間後、何かしらの超兵器関係の物資等の調査任務を与えられていた仲本提督配下の臨時遠征部隊が偶然沈没寸前の損害を受けて漂流していた駆逐艦娘を発見。保護(回収)して治療中(即時拘束後)聞き取り調査(手段を問わぬ情報収集)を行い、『桜風』がドレッドノートと交戦する前に暴発した提督達の顛末を把握した。

 

 その後自身の提督に深い忠誠を誓っていた(既に亡き提督に堅く口止めを命令されていた)その駆逐艦娘は、自己と自身の提督が行った所業を深く恥じて(情報を吐かせる為の拷問で瀕死となり)周囲の艦娘や仲本提督が止めても聞かずに(すべての情報を吐かせ終わった仲本提督は)提督の後を追っての殉死を懇願(隠蔽の為に解体を命令)仲本提督は本艦の意志を尊重し(結果微弱な抵抗を排して)解体を許可した(強制解体が執り行われた)。本土への報告書はそうなる予定である。

 

 

「さて……駆逐艦『桜風』の改造日は今日だったわね。いったい、何処まで強くなるのかしらね、貴女は」

 

――――必ず、駆逐艦『桜風』を私の旗下へ編入しないと。貴女が輝ける戦場は、私の下にしかありえないわ

 

 

 

 既に一定の提督が『桜風』の引き抜きに掛かっている事は掴んでいたが、仲本提督は一切気にしていなかった。引き抜きに掛かった提督共は例外無く、『桜風』を引き抜ける程の()()を持っていない有象無象程度の輩だった。『桜風』を旗下へ置けるに相応しいのは自身しかありえない。仲本穂乃果は、心の底よりそう確信していた。

 

 

 

 

 

 

 トリープフリューゲルが日本の空を舞ってから数日後。今回はその特殊性もあり、前例が無かったが海軍庁長官に対しても許可を取った上で、駆逐艦『桜風』の改造第一段階目が執り行われる事となった。本日は晴天の吉日、絶好の改造日和。

 

 

「頼む『桜風』!東南アジアにはアンタの力が必要なんだ!!この通りだ!」

 

「……深山提督に話を通してからが筋じゃ無いですか」

 

「何度も依願したさ!だがあの人は全然話を聞かない!だからこうして直接頼みに来たんじゃないか!!」

 

 

 

 本来であればそんな晴れやかな日の朝に居る筈の無い、服装は兎も角雰囲気が明らかに不良である青年に近い少年っぽい男提督が、唐突に深山艦隊隷下の工廠内にて『桜風』の引き抜き交渉へ打って出てきていた。尚、当然ながら『桜風』に他鎮守府に移籍する意志など無いし、この行為は何をどう言い繕うとも完全なる横紙破りなのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

「……またですか。(ひいらぎ)(じゅん)パラオ泊地中将」

 

「ああ、何度でも来るさ。アンタが東南アジア諸国へあの駆逐艦娘を増援として送るまではな」

 

 如何にも『面倒な奴が来た』と言う表情と雰囲気丸出しの深山提督に対し、憮然とした表情で率直に返す、前政権下での促成栽培された第八期生の提督の一人であるこの男。促成栽培型の提督の中では割合優秀な戦果と損害比率を持ち、トラック泊地に次ぐ東南アジア諸国の壁であるパラオ泊地所属提督ではそこそこの上位戦果を誇っている。

 

 

「そもそもこの行為は横紙破りであり、全うにあの娘(『桜風』)を求めるなら上層部に依願して下さい。そして上層部がその事について許可を出した時点で検討しますと、私は何回もお答えした筈ですが」

 

「そんな暇は無い!今『桜風』(あの娘)が東南アジアの防備に回らなければ、もし超兵器が来た場合の被害は計り知れない!それに超兵器だけじゃない、深海棲艦の猛威も未だにヤバいんだ!」

 

 

 通り一遍の返答を返す深山提督に対し、机に手を叩き付けて簡単に激昂する柊中将。この男の最大の欠点がコレである。促成栽培教育の為軍人としての自覚が極度に薄く、不良漫画主人公の様な経歴と性格が殆ど修正無しでそのままの状態で提督として着任していた為、日本国家への奉仕を志向する深山提督とは相性が悪かった。相手が完全なる善性の人間である事もあり、余計に。

 

 

「確かに今でこそ如何にか防衛は賄えているが、これに超兵器まで増えちまうと俺の艦娘や現地住民(ダチ)が死んじまうんだ!どうしてこっちに向かわせてくれないんだ!?日本にはもうすでに十分戦力が有るんだろ!?」

 

「現状、戦況は不確定要素が多すぎます。貴方の言う超兵器も、いったいどこに出現するのか明確ではない状況下で、本国の守りを疎かにするわけにはいきません。何せ、超兵器相手に抗戦可能なのは『桜風』しかいませんから」

 

「……あの娘(『桜風』)を全部日本が独占しようってのか」

 

「戦争には、優先順位を付けなければなりません。守るべき物は守り、切り捨てられる所は切り捨てる。今現在、東南アジア諸国に戦力を回して日本国が壊滅すれば、連鎖して東アジア全土、ひいては人類社会が崩壊しますから」

 

「切り捨てられる側の事はどうだって良いってのか?!何十万もの人間が居住している事くらいは分かってるだろう!?」

 

「既に東南アジア諸国との外交的交渉は締結済みです。……そもそも、提督には自身以外の他提督配下艦娘に対する指揮権も要求する権利も存在しない事くらい、知っているのでは」

 

「……クッソ……もう良い!アンタには失望した!!」

 

 

 無駄に熱い説得も、湯飲みのお茶を軽く飲みながら軽く返し続ける深山提督に対し、とうとう怒って出て行った柊中将。

 

 

「……提督」

 

「大淀……どうしたの?」

 

「良いんですか?」

 

 

 絶対面倒事起こしますよ、と目と表情がありありと語っている秘書艦大淀の言葉に、深山提督は苦笑いで返していた。尚、柊中将が『桜風』の元に説得に向かったと知ったのはもう少ししてからの話である。

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、大丈夫なの?『桜風』」

 

「藪から棒にどうしたの、陽炎?それに不知火も」

 

「柊中将の引き抜き要請の事です」

 

「ああ、それ……。実際問題、どうしようもないでしょ?確かに東南アジア諸国の防備が未だ不十分な事は知ってるけど、だからと言ってそっちに戦力を回した結果日本艦娘の本拠である日本列島が陥落したら全てが終わるんだし」

 

 

 結局柊中将の懇親の説得も『桜風』の心を動かす事は無く、御付きの秘書艦と共に丁重な言葉と共に帰されてより30分後。余計な闖入者こそ有りはしたものの駆逐艦『桜風』の改造は予定通りに執り行われる事となった。ただ真摯な訴えをかなり無碍にした事を陽炎たちは気にしていたが、当の本人は殆ど気にもしていなかった。

 

 

「理論的にはそうですけど……向こうはそれで納得出来たとは、青葉には到底思えませんね」

 

「勿論、実際の脅威に直面している彼等に取って見れば、こっちの理屈は頭に来るものでしかないから、そこはこっちから戦果と実績を更に積んでいくしかないです。()()()()()()()()()()()()で持って示す事ですから」

 

「……うん、やっぱり『桜風』は戦争関係になると相当ドライだね」

 

「普通の思考だと思うんですけど、瑞鶴さん。それに東南アジアを喪失したとしても、資源に関しては周辺海域からの採集が有りますし、最悪は日本海経由での大陸方面も有ります。勿論数十万人単位の市場喪失による経済的損害に国際的地位や評価の点では拙い事には違いありませんが、それでも完全を目指して破滅する訳には行きませんし」

 

 

 言外に必要時は東南アジア諸国を見捨てる旨の発言を躊躇無く行う『桜風』。尚、艦娘は基本的に深海棲艦からの人類守護を本能的行動としている為、口先だけで有ろうとも()()()()()()()と言う言葉や行動は嫌っている。提督個人の思考や教育等の外的要因によって変わったりする事もあるが、根幹から変わる事は普通あり得ない。

 

 

「……この娘の将来が末恐ろしいと思うのは、私の気のせいでしょうか、長門」

 

「いや……同感だ、加賀」

 

 

 だからこそ……『桜風』の今の言葉は極めて異端だった。深山艦隊では人類を見捨てよ、等と言う教育や思考誘導は当然ながら一切されていない為、これは『桜風』自身の素としか考えられなかった。一応こういった思考が出来るか出来ないかで言えば勿論出来た方が良いが、仮にこの言葉や考え方が外に漏れた場合相当な失言にしかならない。

 

 

「……ああ、勿論今見たいな事は外では絶対言いませんから。流石にその位の常識は有ります」

 

「しかし、『桜風』の場合ふとした拍子にぽろっとこぼしそうですが」

 

「……ねえ、不知火。そんなに私の事が信用ならない?」

 

「はい」

 

 

 『桜風』が投げたボールを不知火に華麗にピッチャー返しされて一撃撃沈判定を喰らい、しょ気返る『桜風』。実際、真面目で善性の性格なのは良いのだが陸地だと何処か浮ついていたり隙も多く自身の事に極度に無頓着な『桜風』は、他者から見ると極めて危なっかしい存在でしかない。極めて高い戦闘力を誇っていても、行動や思考原理がある意味猫よりも読めないのだから当たり前だが。

 

 

 

「とうとう来ちゃったのねぇ、『桜風』さん。いったいどんな身体(艦艇)になるんだろうねぇ、睦月ちゃん、皐月ちゃん」

 

「きっともっとたくさん大砲を積むと睦月は思うぞよ!」

 

「うーん、僕は機銃を減らして魚雷を載せてくると思うなー」

 

 

 因みに深山艦隊では、誰か艦娘が改造する際は手隙の者や交友関係、姉妹艦である艦娘は大体が工廠に集まって、ドック内に設置された監視所や艦艇停泊所からやや離れた場所から見守る事が多い。

 

 

「ヒャッハー!目出度いねえ飛鷹!こりゃ飲むっきゃないねぇ!」

 

「隼鷹……ここぞとばかりに、一升瓶持ち込んできて……」

 

「今日はもう諦めた方がええで飛鷹。司令官も目出度い日やっちゅーて、苦笑いして許可しおったしな」

 

 ……まあ、ただ単に酒やら何やらを飲み食いする口実に利用しているだけの輩も居るが、大体の艦娘は好奇心や興味と共に、純粋に新しく生まれ変わった仲間を歓迎する為である。特に今回は、未改造の段階で凄まじい戦闘力を誇る『桜風』である。どのように進化するのかに、興味が湧かない筈もない。

 

 

 

「……ふう」

 

『かんちょー?』『やっぱ緊張しますよねー』『まあ艦艇(からだ)が変わるって言うんだからなー』『ところで俺たちはどうなんの?リストラ?』『今まで確認された事はないから大丈夫……な、はず』『()()……に、御座るか……』『何故に侍口調だ。……まあ、艦長の同位体は存在していないしなぁ』『まー何とかなるっしょ』

 

「君たちは何時も相変わらずだね。心強いよ、本当に」

 

『皮肉っぽく言っても艦長の容姿や性格だと普通に褒めているようにしか聞こえませんね』

 

「……副長、それは酷いと思うんだけど」

 

 

 

 そしてそんな改造式典の主役である『桜風』だが、特に緊張した様子も無く自身の妖精さんたちや対超兵器部隊所属艦娘と適当に話をして時間を潰していた。見学人の入りが多すぎた為、深山提督や艦隊の大人勢(霧島や赤城ら)が誘導を終えるまで暫く待機している事になったのだ。

 

 

 

「……それで改造って、本当に艦艇内で念じるだけで大丈夫なんですか?こんなに人が集まって改造出来ませんでした、と言う事態になったら笑い事じゃないんですが」

 

「それならそれで構わないと、不知火は思います。一番は『桜風』の身の安全です」

 

「そうね。……艦艇収納機能や艤装召喚能力が未だに無い『桜風』の事だから、余計にね」

 

「不安にさせる様な事を言わないで焼き鳥五航戦」

 

「う、うぅ煩い冷血一航戦!そういう加賀さんだって着物の付け方が逆になる位心配してるじゃない!そっちの方が余計に不安になるじゃない!!」

 

「頭に来ました。……着替えて来ます」

 

「なにをー!!……うん、私もちょっと頭と心冷やしてくる」

 

 

 そして当の本人よりも保護者の方が緊張したりするのは人類でも艦娘でも大差は無い。静と動の正反対な性質である加賀と瑞鶴も、やってる事は殆ど同じである。他鎮守府は兎も角、深山艦隊の瑞鶴と加賀は相当似た者同士と言うか実は魂の姉妹なのではないかと言う疑惑が浮かばざる負えない。

 

 

 

「……はい、お待たせしました『桜風』さん!準備が出来ましたので、早速お願いします!」

 

「すまない明石。準備とは何のことだ?」

 

「長門さん?いえ、単に提督がこちらに来られたのと、観測用の機械設置が終わっただけの事で……あの、長門さん?何故徹甲弾を取り出しているんですか?」

 

「いや、なに……何でもない。今すぐ使()()()()か再確認していただけだ」

 

「あの、観測機械に関しては別に私の趣味とか()()じゃ無いですよ?!これは提督から指示が有って、『桜風』さんを守るために……」

 

「じゃあ行ってくるよ。陽炎、不知火」

 

「気をつけてください。何かあったら即座に中止を」

 

「私達が居るからね。怪我しないでよ!」

 

 

 艦隊の保護者(我らがながもん)が明石に対して言外に脅迫している光景を他所に、準備が出来たと知った『桜風』は二隻を放置して自身の艦艇へと、自分の妖精さん達と乗り込んでいく。相変わらずの能天気な駆逐艦『桜風』の妖精さんと共にタラップを歩く少女の姿は、一切の気負いも不安感も見えない程に穏やかであった。

 

 

 

「……では、行きましょうか。陽炎姉さん」

 

「……そうね、不知火。ここに居ても、邪魔になるだけだしね」

 

 

 黒潮に『ホンマ過保護なお姉ちゃんしとるな陽炎はー』と言われる程には世話を焼いている陽炎。本当は傍に居てやりたいのだが、そうすると改造に悪影響が及ぶ可能性もある為に、今回は遠くより見守る事にしている。振り返った直後に『目出度い席で喧嘩するなこの馬鹿者共』の大和型戦艦二番艦の一声と打撃音が二つ響く音を背に受けながら、二隻の少女は黒潮が確保していた一等級見物席へと向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『取り敢えず妖精さんは総員何時もの配置に着きましたが、実際の改造手段って何ですか?』

 

「うん。……それで、改造する方法なんだけど」

 

『どうするんですか?』

 

「……やっぱり、念じるだけ?らしい?そうしたら、気付くと既に改造が終わってるんだってさ」

 

『何ですかその具体性皆無のふわふわ説明』

 

「実際そう言われたから仕方が無いじゃない……」

 

 

 艦外では迫りくる改造実行時間に騒めく中、駆逐艦『桜風』の艦橋内部では何時も通りの『桜風』と妖精さん達。実際問題、如何やって改造するのか聞いたら『念じれば出来るよ』と異口同音に答えられた彼女達には、何とすれば良いのか分かっていない為に何時も通りで居るしかない。具体性の欠片も無い()()()と言う精神論など、『桜風』に取っては久し振りであった。

 

 

 

「……そろそろ時間だね」

 

『そうですね。では自分たちは持ち場で待機しています。何が有っても大丈夫なように』

 

「ん、ありがとう。……何でバケツ持ってる妖精さんが居るのかは聞かないでいた方が良いのかな」

 

『そりゃ決まってますがな。仮に艦長が錯乱した時にぶっ掛けて正気に戻す為の水ですかゴボガァ?!』

 

『はーい、馬鹿言ってる妖精さんはバケツごとしまっちゃおうねー』

 

『ゴブゴッ!?ゴボボボボ!!』

 

 

 改造予定時刻となり、それぞれ心と持ち場での準備を始める『桜風』と妖精さん達。『桜風』は何時もの艦長席に、その他妖精さんは戦闘時の自分の職場に、アホな事やってた航海妖精は自身の持って来た水入りバケツに顔面を突っ込まされて何処かへとしまわれていった。そしてこの事に一切『桜風』が突っ込まなかった事を見るに、完全に感覚が麻痺してしまったのだろうか、自身の妖精さんの圧倒的フリーダムっぷりに。

 

 

 

 

――――……念じる……念じる、かぁ……どうやれば良いんだろう……?

 

 

 単にそこまで気を回す余裕が無かっただけなのかも知れないが。

 

 

――――……うーん……目を閉じて……念じる……念じる……改造、改造……()()()()()()()()()()()……

 

 

 何の気も無しに目を閉じて、思い付いた言葉を思う『桜風』。

 

 

――――……あ……何だろう……意識、が……

 

 

 その直後に、今までクリアだった意識が突如沼地へ放り込まれたかの如く重くなり、『桜風』がそれ以上言葉も思考も回す事も出来ずに……意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……あれ、此処は……右舷側の最上甲板通路?

 

 『桜風』(少女)が目を覚ました場所は、先ほどまで居た筈の艦橋から離れた、甲板通路。自身が此処まで歩いて来た記憶は無いし、それにいつも艦内では自身の傍に居る妖精さんの姿も見当たらない。

 

 

……ん、洋上……?何で?今日は出航する予定は無かったはず……

 

 そうして外を見ると、最近は見慣れた日本国側西太平洋上の海と空があった。そして、それとは別に一つ、違和感が有った。

 

 

……私、艦艇を動かしていないのに……妖精さんも居ないのに、どうして艦艇が動いているの?

 

 夢か現か幻か、ハッキリとしない現状。何処か懐かしい、自身(少女)の意志に関係なく駆逐艦『桜風』が動く感覚に感慨に耽っていると、遠くより話し声が聞こえ始めた。

 

 

……違う、()()()と言えるような穏やかな声色じゃない……これは、怒号?それも、駆逐艦『桜風』のクルーの?!

 

 聞きなれた妖精さんや艦娘とはかけ離れた……数か月前、()()()()に来る前に散々聞き飽きた男達の様々な怒号。喧嘩などではない。戦闘時に必然的に発生し、繰り返されて来た怒鳴り声だ。

 

 

……砲撃音、それに被弾……どうして……この海域で、海戦は一度も無かったはず……!?

 

 一時茫然とする『桜風』(少女)を他所に、駆逐艦『桜風』は激しい軌道と砲雷撃による衝撃を艦内と海にばらまき続け、小柄な『桜風』(少女)をまるでメトロノームの如く弄んでいた。

 

……くぅ……か……艦長……シュルツ艦長のところに行かないと……!

 

 

 『桜風』(少女)は健気であった。もう既に縁の切れた世界での知らない戦場。自身の立ち位置も殆ど分かっていない状況下で、過去の乗員の為に戦おうとしていたのだから。

 

 

 

 

……いったん最上甲板から出て、艦内通路から艦橋に向かわないと……!

 

 

 きっとこの世界の戦神は、この健気な少女(『桜風』)の姿を見ていたのだろう。そして、この少女(『桜風』)はその戦神に()()()()()()()()()()のだろう。

 

 

 

……うわっ……被弾!?……一瞬だったけど、アレは多分レーザータイプ……

 

 

 視界の端に入った一瞬の映像とすらいえない程度の視覚情報で、現在交戦中の敵艦の兵装を予測していた少女(『桜風』)の下に届けられた、戦神からの贈り物。

 

 

……え?

 

 

 何かしらの重い中身の入った、水袋の様な物が叩き付けられた音。

 

 

……ブラ……ウン……博士……?

 

 

 白衣と眼鏡を身に着けた、金髪の女性。傑出した情報分析能力により、少女(『桜風』)がシュルツ艦長と共に超兵器との戦闘を勝ち抜くことが出来た才女。その彼女が、少女(『桜風』)の眼前に落下して来たのだった。……両目を見開き、胴より下を失い、臓腑が飛び散り、自身に何が起こったのか理解出来ていない表情で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ……ここ……」

 

「『桜風』!?大丈夫!?私が分かる!?」

 

「……陽炎」

 

「……っ……!良かった……本当に良かった……!」

 

 

 『桜風』が意識を取り戻した時、まず目の前に有ったのは外見年齢相応に泣きじゃくる陽炎の姿が有った。ゆっくりと顔を動かすと、深山艦隊の艦娘が『桜風』を心配そうに覗き込んでいるのが認識出来た。

 

 

「……冷たい」

 

「当たり前よ……『桜風』、貴女いきなり艦艇仕舞い込んで海に落ちたのよ。それも気絶した状態で」

 

「……深山、提督」

 

 

 何故かずぶ濡れになった状態で横になっている『桜風』に届いた声の主は、同じくずぶ濡れの自身をタオルで拭っている深山提督。聞けば、一切の前触れも無く駆逐艦『桜風』が消失し、『桜風』自身も浮きドック内の海水に水没して同じく一切の反応を見せず、突然の事態に着いて行けず騒然としかけた艦娘を他所に深山提督が真っ先に『桜風』の下へダイブ。引き上げたとの事だった。

 

 

「……私の、艦艇(ふね)

 

「『桜風』さん、その事はまた今度にしましょう?今は身体を休めないと……」

 

 

 事情を聴いた『桜風』であったが、何時もとはまるで違った簡素な言葉と、緩慢な動作。気絶していた為に海水を飲み込んだ量は最低限だと思われたのは事実だが、だからと言って安心出来る要素でもない。陽炎と共に見守る鳳翔も、心配して『桜風』へ優しく声をかけていた。

 

 

「……私の……別の、私の……艦艇(からだ)

 

「『桜風』、また後で調べよ?今は休まないと……」

 

「はぁ……!はぁ……!皆、担架持って来たクマー……!」

 

「運ぶのは任せといて!長良の足なら直ぐ着けるから!」

 

 

 だが周囲の動揺や心配を他所に、生気の無い瞳と顔を、つい先ほどまで停泊していた浮きドックに向けて右手を伸ばす『桜風』。明らかな異変に、とうとう陽炎は球磨と長良が大慌てで疾走して医務室より運んできた担架へ鳳翔と共に載せようとするのだが……

 

 

「……陽炎」

 

「え、何!?身体に何……か……」

 

「……出来たよ。……艦艇召喚」

 

 

 そう言って陽炎の片手を自身の左手で握り、右手は地面と平行に伸ばして握り拳を作って静かに笑みを浮かべた『桜風』が見ていた場所には、ようやく見慣れた駆逐艦『桜風』の今までの艤装とは違った、別種の駆逐艦『桜風』がそこに存在した。浮きドック内に深山提督が飛び込めた事から先程までは確実に存在していなかったのだが、今現在総員の眼前には【ロケットが入っている四角い箱】や【白く細長い棒が着いた小さいガトリング砲】【中口径のガトリング砲】【61㎝酸素魚雷発射管よりも大きい口径の7連装魚雷発射管6基】と言う、以前とは違う艤装を纏った駆逐艦『桜風』が確かに存在した。

 

 

「……ごめん、陽炎」

 

「……な、なに……?」

 

「……疲れたから、ちょっと、寝さ……せ……」

 

 

 そして初めての艤装召喚をやらかした『桜風』は、周囲の心配や雰囲気などお構いなしに、力尽きたように眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……現在『桜風』さんは、医務室にて熟睡されています。体温や血圧等、バイタル的には特に異常はみられていません。恐らく、溜まっていた疲労が原因と思います」

 

「……有難う、明石。見守り人員は必ず交代させるようにして」

 

「はい、分かっています……」

 

「……気になる?」

 

「……本音を言えば」

 

 

 『桜風』艦艇召喚騒動より数時間後。既に夜となったこの鎮守府では、この艦隊の後方を取り纏める大淀、明石、深山提督三人衆の内二人が執務室に居た。大淀は『桜風』の見守り人員への差し入れと入れ替え任務に当たっている。因みに事務方三人衆の内明石が一番発言力が低い。

 

 

「……改造第一段階の『桜風』が装備していた艤装。装甲ボックスランチャー型の【対潜ミサイル発射機III】【対艦ミサイル発射機III】。それに【68cm7連装酸素魚雷】【20mmCIWS】【57mmバルカン砲】が新規搭載」

 

「代わりに、【40㎜4連装機銃】と【5連装新型対潜誘導魚雷】は取り外されていた上に、機関が通常のボイラーからガスタービンに代わっていました。そして、『桜風』さんが今まで搭載していたそのボイラー機関は何処にも見当たりません」

 

「機関丸ごと変更は前例が無いわね。それとさっき『桜風』の妖精さんから聞き出したけど、【対艦ミサイル発射機III】の威力は大よそ61㎝45口径砲の二倍に相当するそうよ。二基しかないから弾数がたった24発しかないとも嘆いていたけど」

 

「……必中の24発がその威力って、普通に考えると相当脅威だと思うのですが……」

 

「あの子たちが見ているのは、徹頭徹尾超兵器とその技術で生み出された眷属だけだからね。深海棲艦の事は事実上眼中に無いわ」

 

 

 上層部へ軍用パソコンを使用して送信する、現段階で分かっているだけの駆逐艦『桜風』の改造データを眺める二人。技術的な事には十分に精通している明石には政治的なあれコレは良く分からないが、その明石ですら今回の『桜風』の改造結果は各所を震撼させる物である事は想像がついた。何せ、初期段階の『桜風』の艤装ですら表に漏れ伝う程の騒動が起こったそうなのだから。

 

 

 

「取り敢えず、報告書と一緒に休暇申請もする事にするわ」

 

「『桜風』さんも連れてですか?」

 

「ええ。少し戦場から離して心身共にリフレッシュさせた方が良いわ。丁度私の故郷って穏やかな……まあ、何もない田舎だしね」

 

 

 公私混同と言われそうだが、実際の所鎮守府に『桜風』を置いて行くよりかは安心感が違った。『桜風』を単体で置いておくと、自己判断で出撃をしかねないと危惧されていた。本当は『桜風』は自己判断で出撃する可能性は、鎮守府が襲撃でもされない限りは命令無しで行う事は無いのだが、これまでの実績が実績であった。

 

 

 

「何人連れて行く予定ですか?」

 

「まあ、許可が下りてから選抜するわ。可能な限り、目立ちにくい艦娘()を中心にね」

 

「……そうとう揉めそうですね」

 

「例外無く容姿が美麗極まりない上に、大半の瞳や髪の色が日本人離れしているしね」

 

 

 オレンジや桃色、金髪等カラフルな目立つ色彩の艦娘は多いが、それとは別に黒髪又は茶髪系統の艦娘は余り多くない。深山提督の故郷はお世辞にも都会とは言えない田圃や山地が多くみられる地方である為、余計な騒動は可能な限り避けたかった。

 

 

「まあ、まずは『桜風』の回復を待ってからの話だけどね」

 

「そうですね……」

 

 

 

 

 

――――【駆逐艦『桜風』改】艤装データ報告書より抜粋

 

現在確認されている駆逐艦『桜風』改に搭載されている艤装並びに簡易的性能表

 

【艦艇基本性能】

『速力53kt』

『ガスタービンε9基』

『完全防御式対25cm装甲』

 

【主兵装一覧】

『68cm酸素魚雷 6基』

『対潜ミサイル発射機Ⅲ 1基』

『対艦ミサイル発射機Ⅲ 2基』

『57mmバルカン砲 4基』

『75口径15.5cm4連装砲 4基』

『20mmCIWS 19基』

『RAM 11基』

 

【各種補助兵装一覧】

『音波探信儀Ⅵ』『電波探信儀Ⅵ』『自動装填装置Ⅵ』『電波照準儀Ⅵ』『自動迎撃システムⅢ』『防御重力波Ⅴ』『電磁防壁Ⅴ』『サーマルビジョン』『発砲遅延装置Ⅴ』『イージスシステムⅠ』

 




次回は深山提督と『桜風』と愉快な仲間たち(少数)による田舎旅になる予定(かも知れません)

新幹線と飛行機のどちらが良いかな?


P.S 肝心な事を忘れていた(白目)
今回の『桜風』改のデータを提供して下さいましたNFS様へ、この場をお借りして御礼申し上げます。

……いや本当に足向けて寝られないですわ
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