艦娘の咆哮 ~戦場に咲き誇る桜の風~   作:陣龍

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今回は戦闘皆無の日常回。そして『桜風』の提督である深山満理奈の情報が出てきますが……

まあ皆さん普通に予測ついてますよねぇ(遠い目)


第四五話  帰郷

 【平和とはどんな光景か?】……この質問には、きっと多くの答えが返ってくるだろう。

 

 ある人は、親子供が一つの部屋で団欒する光景だと言う。ある人は、子供たちが元気に外で遊ぶ光景だと言う。ある人は、警察官や軍隊が暇をしている光景だと言う。ある人は、軍隊が世界から廃絶された光景だと言う。

 

 

 

「うわぁ……凄い勢いで流れていく……しんかんせん、って凄い……!うわぁ……うわぁぁー……」

 

「あはは、『桜風』はんすんごい目ぇ輝かせとるなぁ。ホンマ微笑ましいわ」

 

「そうですね。……提督?どうしてカメラを構えているんですか?」

 

「青葉に撮影して来てって頼まれたからね」

 

 

 白のワンピース姿でリニア新幹線の車窓に噛り付き、外を見てはしゃぐ少女と、それを優しく見守る三人の少女と女性たち。この光景は、間違い無く平和そのものと言えるだろう。この光景を演出している少女たちは皆平和とは正反対の戦争を生業としているが。

 

 

 

 

 

「でもなぁ、司令はん。本当にうちらで良かったん?陽炎姉とかハンカチ噛んで見送っとったけど」

 

「サラッと嘘を言わないの黒潮。……実際、向こうに残す戦力(鎮守府居残り艦隊)を除いて私の実家に来ても問題なさそうなのが少ないから、ね。実家もそこまで大きくないし」

 

「提督が出した条件が、特徴的な口癖が無く、身長も有る程度有り、目立たない為に黒髪黒目。でしたね」

 

「おもろい口調や色とりどりの髪や目ぇしたのが多いもんなぁ、艦娘っちゅうのは。しかしやっぱ見とるんやなぁ提督はん。まあ、陽炎姉がまるで修学旅行に行く子供の親見たいにハンカチやーティッシュやー生水飲むなやーとか、あれやこれやとやってたのは事実やけどな」

 

 

 日本内地の風景を見て『桜風』が本気で感動しているのはさておき、保護者役の三者はそれぞれ雑談を交わす。一人旅なら兎も角、仲の良い複数人で行く旅の華はこういう気楽なお喋り大会である。

 

 

「凄い整って機械化された田圃と建物群……馬や牛が居ないし……それもそうか、21世紀だし。あ、あれって、えっと、なんだろう……?」

 

「……この娘全部本気で言っとるんやろなぁ」

 

「見る物聞く物全てが物珍しい物ばかりでしょうからね」

 

「こんな言葉を聞くたびに、『桜風』の居た世界は本当に歪んだ成長を遂げたって思い知らされるわね……」

 

 

 そして雑談のもっぱらの種は、リニア新幹線に乗って出発してから飽きる事無く外を眺め続けている『桜風』であった。いや、新幹線に乗るまでにも東京のビル群や雑踏を間近に見てお上りさんオーラ全開で通り掛かった通行人に温かい目で見られたりしても居たのだが。なお以前鈴谷たちと買い物に行った時は、殆ど訳も分からず連れ去られた形なので、周囲を眺める余裕など無かった。

 

 

「……ところで『桜風』はん。ホンマに身体の方は、大丈夫なん?」

 

「……え?いや、本当にもう大丈夫だってば。何度も同じ事聞かれても、私も困るよ、黒潮」

 

「でも昨日の今日の話やしなぁ。ちゅうか、『桜風』はんいっつも無茶ばっかしいよるから説得力無いねん」

 

「むー……深山提督、何か言ってくれませんか?」

 

「何か違和感があったら直ぐに言いなさい。良いわね?」

 

「アッハイ」

 

 

 

 先日の艦艇召喚の際、気絶して海没し深山提督に引き上げられた『桜風』であったが、結局その後一日熟睡した翌日には至って健康その物な状態へと戻っていた。その為今回の深山提督の帰郷に着いて行く事に不安の声が有りはしたのだが、深山提督のいない横須賀鎮守府に残っている方がよっぽど暴走すると言う懸念の方が大きかった為、『桜風』本人の意思は全く聞かれる事無く同行する事になっていた。海没した僅か二日後に自らの艤装の性能を確かめに海に出ようとする様な輩に、発言権が与えられる訳も無いだろうが。

 

 

 

 

 

「……提督」

 

「鳳翔。何?」

 

「……先ほどから、誰かが私達を付けてきている様な……」

 

「え、ホンマ?」

 

 

 そんな中、少し様子の変わった鳳翔が、他者には聞こえない小声で深山提督に対して不安げに誰かに付けられている居るのでは無いかと言い出す。黒潮には分からなかったようだが。

 

 

「あぁ、それなら……」

 

「心配しなくても大丈夫だと思いますよ、鳳翔さん」

 

「『桜風』はん?」

 

 そんな鳳翔の心配を打ち消したのは、深山提督の言葉を遮った『桜風』。なお、視点は完全に外にしか向いていないが。

 

 

「鎮守府を出て暫くしてから車でずっと一定距離で着いて来ていますが、自然と背景に紛れ込む動きからみて多分護衛として派遣された人達だと思います。駅で新しく来た人たちはベテランさんですかね?」

 

「そっから着いて来てたん?!てか、何人着いて来てるん!?」

 

「声大きいよ黒潮。数は多分一応7,8人くらいかな。流石に拳銃は携帯していないようですけど、やっぱり大事にされているんですね深山提督って」

 

「……取り敢えず、『桜風』さん」

 

「何ですか?」

 

「人と話す時は、面と向き合って話しましょうか」

 

「ふぁい!?あ、あがいあひた(わ、分かりました)……」

 

 

 取り敢えず人に背を向けて話していた『桜風』が鳳翔の手によって膝の上に引き倒されてほっぺムニムニ(お仕置き)されるのを他所に、座席から顔を覗かせてあちこちを見回す黒潮であったが、黒潮の眼には別に怪しい人間は見受けられなかった。

 

 

「……分からへんわ。ホンマに居るん?」

 

「そう簡単にバレたら隠密護衛の意味無いでしょ、黒潮」

 

「あ、深山提督が依頼したんですか」

 

「ええ。一応VIP扱いだからね、私と『桜風』(貴女)は」

 

 

 黒潮の疑問を他所に、アッサリとネタ晴らしする深山提督。贅沢を言えば陸戦のスペシャリストである陸上自衛軍所属特殊作戦群辺りが来てくれれば最高だったのだが、流石に彼等程の戦力を実弾装填済みの銃と共に派遣出来る程日本国内の治安は悪化しては居ないし、それに彼女達も襲撃されても撃退乃至逃走する位は比較的容易だ。後一応非戦闘地域である日本国内で戦闘可能な自衛軍兵士を動かす為の法整備が遅れていたりする裏事情も有る。

 

 

「てことは、もしかしてその護衛の人たちもずっと着いてくるん?」

 

「今回はね。でも福井に着いたら向こうの警察に引き継ぎするとも言ってたわね」

 

「土地勘のある地元警察の方が良い、と言う事ですか」

 

「後は、基本的に福井には変なのはほとんどいないし、それに実家に親戚一同が集まる事に配慮してくれた様ね。有り難い事だわ」

 

 

 因みに、深山満理奈少将の実家は福井県である。そして今回の帰郷では深山提督の帰郷に合わせて滋賀や山梨、神奈川の各地に居る親戚が集まるのだ。丁度8月のお盆の時期でもあるので、墓参りも行われる予定である。

 

 

「深山提督、そう言えば提督の故郷の福井って、どんなところなんですか?」

 

「……そう、ね。私の故郷の福井、と言うより私が住んでいた所は……」

 

 

 そう呟いて口を噤んだ深山提督の二の句は。

 

 

「……田圃と自然と小さい市街地主体の田舎。遊ぶところなんか本当に少ないから、現代っ子の鈴谷や熊野は連れて来れないわね」

 

 どこか遠くを見つめて、乾いた笑みの元で紡がれた。

 

 

――――……いくら艦娘の中でも特例の『桜風』と言っても、あっさり悟られるとはね……

 

 

「……司令はん?どうしたん?」

 

「……ん?いえ、何でもないわ」

 

 

――――……もう一度、根本から鍛え直しかな。動きが鈍っている私含めて。……特に私は、過ちが許される立場ではない……

 

 

 どんな景色何だろうかとやいのやいのと『桜風』と鳳翔が会話を交わし、黒潮が深山提督に対する僅かな違和感を感じる中、深山提督は自身の心底に吹き出しかけた激情を慈母の微笑みで覆い隠した。

 

 

 

 

 

 日本国北陸地方福井県。深山満理奈少将の生まれ故郷かつ提督適正が発覚するまで過ごしていたこの地域では、深海棲艦と人類による全面戦争が勃発する中、戦前と余り大きな変化も無い日常を過ごしていた。勿論戦争勃発直後は資源輸入が絶たれた事から自動車保有率が高いこの県は混乱し掛けたのだが、ほぼ同時期に日本各地にて油田が発見されており、若狭湾にも油田が発見されてすぐさま採掘されたが為に海上通商路が復活するまでの期間事なきを得ていた。因みに新規発見された油田の質は例外無く相良油田並であり、唐突な超高質油田の出現に地質学者が悉く頭を抱えている。

 

 そして戦火に晒される可能性もある太平洋側と比べて、佐世保や舞鶴鎮守府の存在によって安全が確保されている日本海側の各県はそれぞれ企業や住民移住の誘致を行ったのだが、自衛軍と雪達磨式増強された艦娘の奮戦で安全が確保された事も有ってか福井への誘致は余り上手くいかず、その結果戦前とそこまで変わりない状態だった。まあその為なのかそれとも別の要因からか、主催者発表は兎も角実数では少人数とは言え各地で行われている反軍、反政府系のデモ活動とはほぼ無縁ではあるが。

 

 

「んー……着いたなあ、『桜風』はん」

 

「そうだね黒潮……!深山提督のご家族って、どんな人たちなんだろう……!」

 

「えっと、普通の一般家庭だから、そんなに眼を輝かせるほどじゃ無いよ『桜風』?」

 

「ふふっ……そうそうくるくる回る物では有りませんよ」

 

 

 そしてそんな平穏な地に降り立った深山満理奈達一行は、到着直後よりまるで独楽の様に回りながら周囲を見渡す『桜風』の奇行で少々悪目立ちしていた。元々艦娘は例外無く美麗だと言うのに、『桜風』は純白のワンピースに麦わら帽子と遠目でも目立ち易い恰好で陽気にはしゃいでいた。幸いなのが、比較的帰省客が少なかったため駅にはそれほど人が居なかった事だろう。

 

 

 

「『桜風』はん、独楽見たいに回るのはええけど、そろそろ……」

 

「おー、居た居た。満理奈、満理奈!」

 

「あ、婆ちゃん!」

 

 

 そうこうしている間に、黒潮の声を遮る女性の声。深山提督の祖母が迎えに来たのだ。

 

 

 

「久し振りだねぇ満理奈、御帰り。……あら、後ろの別嬪さんは?」

 

「えっと、向こうでの私の部下。電話入れていたよね?」

 

「おやまあ、こんな綺麗さんが部下だなんて。何時も孫がお世話になっています」

 

「いえ、此方こそ提督に何時も助けられておりますので……」

 

 

 深山提督の祖母の言葉とお辞儀に対して丁寧にそれぞれを代表して鳳翔が答える。何処か垢抜けた深山満理奈の面影は薄いが、艦娘相手で有ろうとも分け隔てない優しげな雰囲気に関しては、『桜風』達に対して成る程この二人は家族だと思わせるに十分であった。

 

 

「取り敢えず家に行こう、婆ちゃん。親戚の叔父さん達ももう来ているんでしょ?」

 

「おお、そやったそやった。立ち話もアレだからねぇ、それじゃあ行こうかね」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「あの、『桜風』はん?人居るから、なるたけ静かにな?な?な?」

 

 

 文字通り目に星を浮かばせるくらいに輝かせた『桜風』の姿と元気のいい言葉に、姉から引き継いだ血なのか『桜風』の世話に入る黒潮。鳳翔は目を細めて「あらあら」と言うばかりであり、深山満理奈とその祖母は『桜風』の姿を、まるで元気な親戚の子供を見る様な目で見て特に静止もしない。深山艦隊の苦労人の一角として頭角を現しつつある黒潮の明日は何処だ。

 

 

 

 

 

 

「ここが深山提督の実家ですか……」

 

「地方の旧家屋。広さはまあそれなりに有りはするけれど、何処にでもある家よ」

 

「自然が有ってとてもいいところだと思います!横須賀の空気とは比べ物にならない位静かで良い雰囲気です!!」

 

「ありがとねぇ、『桜風』ちゃん」

 

「サラッと横須賀ディスってるな、『桜風』はん……。あんま合わんのか、都会の空気」

 

「あ、ごめん。そう言うつもりじゃ……」

 

 

 そんなこんなで深山提督の祖母が運転する軽自動車によって深山提督の実家に到着した艦娘三人衆と人間お二人編成の御一行。到着して直ぐに車から出た『桜風』の眼に入ったのは、武家屋敷……とは到底言える規模では無いが、こじんまりとしつつも蔵と納屋が一つずつ有る都会では相当な額を積み上げなければ購入出来なさそうな平屋二階建ての旧家屋であった。

 

 

「既に幾つか車も着いてますね……近江、横須賀、長野?」

 

「親戚の車よ、気にしないで大丈夫よ『桜風』。……で、何そんなところで突っ立ってるのよ、才牙」

 

「うごえ?!ま、ままま満理奈姉!?」

 

「人の顔をみて開口一番【うごえ】とは何事よ全く」

 

「痛い、いで、いでででで!やめ、やめて満理奈姉!あた、頭割れ、割れるって?!アゴゴゴゴゴゴ……」

 

「……えっと、深山提督の弟さんですか?」

 

「違よ『桜風』ちゃん。あの子は親戚の風間さんの息子さんやって」

 

 

 両手拳で高校生程度の少年の米神を、中指の第二関節で抉り込ませる様にグリグリこねくり回す深山満理奈を他所に、彼女の祖母は何事も無い様に初対面である『桜風』達に風馬才牙を紹介する。とてもシュールである。

 

 

「それよりも……爺さん!爺さん!満理奈が帰って来たよ!」

 

「ん?おう、満理奈か。お帰り、仕事は大丈夫か?」

 

「爺ちゃん。うん、向こうでの仕事は特に何も無かったよ」

 

「おおそうか。それで、良い加減才牙の坊を離してやりなさい」

 

 

 そう言われて素直に風馬才牙を開放する満理奈であったが、当の被害者(風馬才牙)は頭を抱えて小さいうめき声と共に蹲っている。傍目にはじゃれ合っているようにしか見えないが、意図的かつ的確にツボを押した場合は洒落にならない痛みが発生するのだ。尚普通の人がこめかみを軽く押して痛みを感じた場合、眼精疲労の蓄積等の可能性がある為、注意が必要である。

 

 

「……お、おおお……あ……頭が……割れる……ガチで……」

 

「精進が足りん、出直してきなさい」

 

「それで、その三人が満理奈の所のか?」

 

「……あっはい!『桜風』と言います!」

 

「鳳翔と申します」

 

「ウチは黒潮と言います。宜しくお願いします」

 

「おうおう、元気が良いのう。孫が何時も世話になっとりますが、これからも宜しく頼みます」

 

 

 そう優し気に声をかける深山満理奈の祖父は、農作業で程よく日焼けした顔に皴を湛えながら笑みを浮かべていた。『桜風』達の眼からでは、昼日向に地方の農道を歩けば麦わら帽子を被って畑仕事をして居そうな、立派な田舎の好々爺だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……二人とも良い娘だったでは無いか、満理ちゃん。鎮守府でもあんな娘たちが居るのか?」

 

「現段階では艦娘に限定しても総数百名弱が所属。工廠や各艦艇に属している妖精を含めれば千名を優に超えております。虎一様」

 

「……満理ちゃん。確かに我等一族が揃った場所とは言え、そこまで畏まる必要は無いぞ?」

 

「何分性分ですので、お許し下さい」

 

「……昔からこうなの?」

 

「そうなんだよ彩夏……まるで時代劇の役者見たいになるんだよ……」

 

 

 親戚一同に会し、恒例である庭先での焼肉パーティにて大人用に持ち込まれた焼酎を飲んだ『桜風』が大変面白い事になる等のハプニングが有りはしたものの、長旅で疲れた艦娘三人衆は既に床に就き、彼女達に続いて多くが眠りについていた。深山満理奈や風馬親子ら少数を除いて、だが。

 

 

 

「さてと。先ずは才牙の坊に、婚約相手が出来たそうだな。おめでとう」

 

「……え、いやいやいやいや!?どうしてそこまで話が勝手に進んでいるんですか!?」

 

「……才牙は、私じゃ嫌?」

 

「いやそうじゃ無く、そうじゃ無くてね……」

 

 

 そうして始まった怪しげな密談の口火を切ったのは、まさかの風馬才牙と山梨県に住む遠縁の親戚である望月彩夏との婚約話で有った。まあ二人とも歴とした正真正銘の現役高校生である為、世間体で有ったり色々な障害があるのだが、親戚や二人の両親、そして望月彩夏自身が乗り気である為、風馬才牙が人生の墓場送りになるのは時間の問題だろう。二十歳すら迎えずにこうなるのはある意味哀れかも知れないが。

 

 

「さて、じゃあ場も温まったところで本題に入ろうかね……満理ちゃん」

 

「はっ……何でしょうか、虎一様」

 

「……満理ちゃん。本当の事を言ってくれ」

 

 

 そうして深山満理奈の祖父母が同席し、将来夫婦となるであろう若者二人、更に複数いる親戚一同を代表して、風馬家当主風馬虎一が渦中の深山満理奈に問い質す本題は。

 

 

「一体、これまでに幾つ取ったのだ?掃除をしていた才牙や我等にも与り知らぬ塵や鼠が頻回にみられていたが」

 

向こう(横須賀)では、ハルザキヤマガラシの株を12個、蛆の入った国産栗を27個。ドブネズミは18匹、ヒロヘリアオイラガは10匹処分しております。以前より除草剤を撒く等手入れをしてはおりますが、何分礼儀を知らぬ輩が頻繁に投げ込んできております故……」

 

 

 一見すると大仰では有るが単なる掃除に関する世間話。だが当然ながら態々皆が眠っている夜に集まって掃除談義をする様な面白可笑しい感性は誰一人として持っては居ない。

 

 

「……なあ満理姉。割と昔から思ってたんだけどさ、満理姉の処分方法が流石に過激過ぎると思うんだけど」

 

「仕方が無いでしょう、才牙。文も言葉も通じぬ、欲に塗れた獣には焼いた炎で追い払う以外有効な手は無い」

 

「……そう言う話じゃ無いだろうに」

 

「そもそもだ、才牙。以前シナハマグリを掃除した際、処分を怠り他所の者に迷惑をかけていたお前が、何か言える立場だと言うのか?」

 

「……満理姉がサブローに持って帰らせた評価点見て、絞られたからその事は掘り返さないで下さい……」

 

 

 古来より長き伝統を持つ集団にはその集団にしか通用しない言葉……隠語と言う物がある。現代でも軍隊や警察にそう言った物が存在する様に、戦国時代に各地で勃興した忍者にも同じく隠語が存在していた。勿論バレては何の意味も無いどころか害悪でしかない為に情報封鎖は徹底しており、現代にまで忍者が実際に使用していた隠語が伝わっている物は極めて少ない。

 

 そして、そう言った隠語の法則としてオーソドックスとも言えるのが、過去伊賀や甲賀の忍者は、仲間に自身が同国出身で有る事を伝える為に伊賀からの連想で出身地を栗と表現したり、甲賀出身者は郷家(ごうけ)と表現した様に、【対象を別の物に言い換える】事である。

 

 

「満理奈。今はそれで大丈夫だろうが、これからも掃除するだろう。風馬の所や望月家からも増援が有るにはあるが……」

 

「心配不要です御爺様……」

 

 

 昼に『桜風』や黒潮達に見せた姿とは打って変わった、厳冬の滝の様な厳しい雰囲気と威圧感を放つ満理奈の祖父に対して、彼女はそれに一切臆する事も動揺する事も無く。

 

 

「……前提として、私たちはお天道様に対して顔向け出来ないような事はしておりませんから」

 

 

 穏やかな微笑みと、清水の如く澄み切った両の眼で言い切った。……昔から一つ屋根の下で暮らし、尚且つ身体の動かし方や物事の視点の向け方等、様々な物を教え込んだ側である祖父母が、ほんの一瞬と言えども思わず後ろに下がりかけた程に、得体の知れない、底の見えない()()を、彼女は覗かせていた。

 

 

「さあ……夜は始まったばかりです。我らがご先祖が守り抜いて来た御国を、常世に生きる我等も守り抜くためにも……皆で、力を尽くしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本日は、御招き頂き有難う御座います。首相閣下」

 

「いや、此処に呼び出したのはこちらの方だ。そう畏まらないでくれ」

 

「はっ……では、何時もの通りで」

 

「ああ……そうしてくれ」

 

 

 東京は赤坂の某料亭の一室。歴代の首相を筆頭とした数多くの政界の重鎮達が、機密の混じる会話を行う時に使われるこの場所では、過去幾多の歴史に残る事の無い密談が行われていた。そして今夜も、歴史に残る事の無い密談が行われようとしていた。

 

 

「……彼女たちは、もう眠っている頃か」

 

「警護の警察官二人からは、特に『桜風』は極めて楽しそうにはしゃいでいたとの事ですので、恐らくは」

 

「そうか……なら、安心だな」

 

 

 仲居が運んできた食事を軽く摘みながら問いかけた首相の疑問に、最近自分の省の地位と権威が戦前とは比べ物にならない程上昇している事に本気で困惑する長老格の背広組や制服組の愚痴を時々聞くようになった防衛大臣が答える。

 

 

「……お疲れ、ですね」

 

「……まあ、な」

 

 

 溜息を吐きながらそう答え、日本酒を飲む浅野首相。彼の顔には、最早化粧でもしない限り誤魔化せそうも無いほどに濃い疲労の色が浮かびきっていた。

 

 

「首相。やはり少しでも休養を取った方がよろしいのでは?戦時中の首相と言う激務に加えて、国内の政争も処理し続けるのは……流石に、無茶です」

 

「分かっている。そんな事は分かっているが……」

 

 

 山本長官の言葉に渋い表情で返す浅野首相。本来戦争と言う非常事態に有っては、国家や政府は挙国一致政権を樹立するか、そうで無くとも最低限であっても各勢力は協力体制を施行するのが普通である。現在日本と同じく深海棲艦相手に戦争をしているアメリカ合衆国やフランス共和国、イギリス王国やドイツ連邦共和国等の主要各国は、形式はどうあれ統一された政権体制を整えている。

 

 

「……挙国一致政策が潰されたのは、やはり痛かったですな」

 

「仕方が無かっただろう。そうしなければ予算を早急に通す事は出来なかった。ただでさえ憲法改正するだけでも相当無理を押し通したと言うのに……」

 

 

 だが一方、多数の艦娘と防衛地域を抱え込んでいる日本国の政治体制は、戦前と実質的な変化は皆無であった。精々が現在の政権与党が歴史に残る圧倒的勝利で多数の議席を抱え込んでいる程度の変化しか無く、政界に置いては挙国一致とは全く持って程遠い状態である。

 

 保守政権の政権奪還後、深海棲艦との戦争を優位に進める為に行おうとした憲法改正や各種法案改正に対して、野党に転落した旧政権与党やその旧政権与党に賛同した議員は太平洋戦争時代の頃と混同させ、挙国一致政策を【独裁国家にする為】【与党の許されない暴走】と称してあらゆる議場での牛歩戦術や無関係な質問攻勢、プラカードを持ち込んでの妨害等によって国会運営もままならず、早急に緊急予算案と憲法改正だけでも通したかった浅野首相は、挙国一致政策を取り下げる事で妥協したのだ。

 

 そして浅野首相の譲歩に対して、反与党で呉越同舟的に連合した野党やそれに類する団体は大々的に【日本の独裁化を阻止】【この勢いで政権交代】【日本は過去を忘れるべきでは無い】と現在も【自らの功績】として讃えて宣伝や報道しているが、結局は現在の政権与党に対する負担を無意味に激増させただけの【功績】でしか無かった。最近首相や大臣の体調管理問題で与党を叩き出しているので、初めから考えてこの事を狙っていたのならある意味大した物である。

 

 

 

「それにだ。現状、超兵器等と言う敵も出て来ているのだ。現在までの被害状況と『桜風』からの情報から推測から見て、次は欧州と予想はされているが、日本や東南アジアに唐突に出現する可能性も否定出来ない」

 

「……陛下からの、あの真実のお言葉を頂いた以上は、今更挙国一致政策等と言う些事で時間を潰す訳には行かないと」

 

「……全く信じられない話だが、陛下が嘘を仰せられるとは到底思えない。彼女の持つ力に対して、あの連中が排除や利用しようと圧力だの何だのを掛ける可能性は十分に有る。」

 

 

 そう言いながら、手酌でそれなりに上質な日本酒を乱暴に呷る日本国首相。そこには、何時も戦時中の首相足らんと周囲に見せつけている余裕など何処にも見受けられずにいた。かなり珍しい浅野首相の姿に、この部屋にいる多くが小さく騒めいているのを見ながらも。

 

 

 

「……大王(おおきみ)と言われていた時代より天皇家の影として付き従い続け、戦国時代に各地の忍び集団を吸収して強大化しても尚天皇家の影となり続けた一族が今なお現代に……それも、あの『桜風』の提督として存在している等、何時まで経っても信じきれそうも無いがな」

 

 

 深海棲艦、艦娘、異世界出身艦、そして超兵器……。それらに匹敵する、若しかすればそれ以上にオカルト染みた日本の歴史に埋められていた事実に対して、浅野首相はそう零すしか無かった。




歴史とは勝者が積み上げる物であり、天皇家は古代より続く家で有る為に、きっと天皇家に奉仕する護衛や情報収集を生業とする存在がいたのではないかと言うのは時々言われている話では有ります。いわゆるロマン?に当たる話かも知れませんねぇ。

取り敢えず次話はこれまた投稿日未定と言うか一文字も書かれていないと言う(遠い目)
もしコレを待っている方が居られましたのなら今暫く時間と予算を下されば……


……投稿後寝ますけどなんか音がしてるっぽい?誰だろこんな夜中に爆走してるのは……



追記:この物語は完全なるフィクションであり、実在の如何なる存在とも関係は有りません。有りません(繰り返し)。…………イイネ?OK?
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