艦娘の咆哮 ~戦場に咲き誇る桜の風~   作:陣龍

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エイプリルフールなんて無かった(迫真)


第四六話  命の洗濯

「……今頃、『桜風』は何やってるのかなぁ」

 

「陽炎さん……今日はそればっかりですね」

 

「青葉さん……。仕方が無いでしょ、この惨状を見ていると、現実逃避もしたくなるわよ」

 

 

 深山提督とその一党がリニア新幹線にて横須賀の地を離れてより丸一日。本人の意図とは大半は関係無しに何かしらの騒動だかイベントだかが高確率で発生していた此処横須賀鎮守府深山艦隊の港湾では、騒動発生源が居ない為に一昔前の様にそれなりに騒がしくも特筆する様な事も無い、平和な日常が見られていた。

 

 

「……目……目が……頭が痛い……」

 

「うぅ……未だ、視界が緑色に……」

 

「駄目……駄目、那珂ちゃん、ファイト。アイドルは吐いたり、なんかしな、い……うっ?!」

 

 

 極めて珍しい事に、川内型軽巡洋艦娘が埠頭から海に向かって揃って顔を覗かせているが、とある駆逐艦娘の所業や負傷経歴から見れば平和の範疇である。他所の鎮守府ともなれば驚天動地で大混乱が巻き起こりかねない異常事態かも知れないが。

 

 

 

「……やっぱり早急過ぎたな、三人とも」

 

「長門さん……ですが……」

 

「お水です。……確かに、このナイトビジョンを使いこなせれば夜戦も有利になる事に興奮するのも理解出来ますが、慣らしの時間も無しにいきなりするのは無謀です」

 

「加賀さん……。うぅ……何も言い返せない……正直舐めてた……おえっぷ」

 

 

 加賀から渡された水で口を漱ぐ川内。妹の二隻も同じく長門から渡された500mlペットボトルのミネラルウォーターでうがいをしていた。三隻とも可愛らしかったり美しい顔立ちであると言うのに、それが完全に台無しな酷い顔である。

 

 

「……そんなに酷かったでちか?」

 

「……どーして……ハチとイクが駄目で……ゴーヤとイムヤは平気なのー……?」

 

「そう言われてもね……私に聞かれても分からないわよ」

 

 

 そしてその日本美人三人娘が倒れ伏している反対側では、提督指定と言う事実無根なのか有根なのか良く分かっていない装甲水中服(スクール水着)を来た金髪と水色髪の少女二人が、同じように埠頭から頭を海に向かって覗かせていた。

 

 

 

 『桜風』が毎日開発している解析班が大体頭を抱えて対超兵器部隊が人身御供となって体当たりで使用法を修練する様な代物だらけの各種兵装だが、改になってからも開発で出て来る装備は相変わらず船体強度と艦娘の限界に挑戦する様なオーバースペックが多いが、その内には『桜風』曰く【補助兵装】と呼ぶ物がそれなりに多くなって来ていた。その為、少しずつ通常の対深海棲艦との戦闘に回っている艦娘にも一部装備の委譲を行ってみたのだ。通常の装備より幅を持つ事の優位性は論ずるまでも無い。

 

 

「……気持ち悪いっぽい……」

 

「……うん……睦月、相性が悪い見たい……」

 

「だ、大丈夫、二人とも……?」

 

 

 ただ、ある程度予想されていた通りに、搭載して運用した艦娘の大半は使用後暫くで嘔吐や吐き気、中低度の頭痛に苛まれる事象が確認された。現在埠頭で我慢出来ずに倒れた川内型三姉妹(夜戦の女神トリオ)夕立(ソロモンの狂犬)睦月(護衛商船乗員のマスコット)だけでなく、それ以外にも帰投後即座に工廠内のベッドやトイレに駆け込んだ艦娘も複数居た。【ナイトビジョン】を除けば全部『桜風』曰く【Ⅰ型】か【Ⅱ型】相当の補助兵装では有ったのだが。

 

 

「……因みに、吹雪はどうでちか?」

 

「……正直に言えば……なんだか、むかむかします。イムヤさんたちは?」

 

「イムヤも、何だか身体が浮つく感じね……何と言うか、風邪を引いた時の様な」

 

「ゴーヤもそうでち……吐き気とかは無いでちが、ちょっと熱っぽい感じがするでち」

 

 

 一応深山艦隊所属艦娘は数が多い為に、総当たり形式で試験を行っていった結果、極少数ではあるが『桜風』開発の兵装を運用してもそこまで苦痛症状を発する事が無い艦娘もいる事にはいた。重症でないだけでそれぞれ何かしらの症状が出ている為、到底戦線投入出来得る状況では無かったが。常時風邪に似た症状のままで思考力、判断力が低下しているのでは、『桜風』製の兵装であっても使いこなせる訳が無かった。大体『桜風』の兵装は例外無く通常の兵装とは性能以前に目指している場所も土台すらも違う異質極まりない物なのだから、活かすには柔軟な思考は必須である。

 

 

「……これでは、どうしようもないですね」

 

「そうですね、大和さん。何度も言われていた通り、やはり時期尚早だったと思います。青葉たちの様に、時間をかけてゆっくり慣れていくより他無いと思います」

 

「そうだね……陸地でも、あんな感じだしね」

 

 

 そう言いながら、深山艦隊が駐留する鎮守府近くの放棄され、国に買い取られた田圃に建設した軍用滑走路から飛び立つ単発航空機を眺める青葉、陽炎以下深山艦隊対超兵器部隊所属艦娘四名。

 

 

「……大丈夫なのでしょうか」

 

「思考、感性が柔軟な瑞鶴であの有り様ならば、先が思いやられます」

 

「事故とか起きてないと良いんだけど……」

 

「大丈夫ですよ陽炎さん。事前に消防車や放水車が待機していますから」

 

「事故を起こす前提か……確かに、起こった時を考えれば、早く対処できる方が望ましいが」

 

 

 

 彼女達の視線の先には、西側諸国にてその高性能から多数採用されたベストセラー機ではあるも、現在では改修を施されてはいるも完全に旧式化している事は否定し様も無い第三世代型ジェット戦闘機である『F-4J ファントムⅡ(Phantom・The・Second)』が、まるで生まれたばかりの雛鳥の様にヨタヨタとふらつきながら飛行していた。自衛隊時代から続く世界有数の錬度を誇る航空自衛軍では、まずあり得ない光景である。

 

 

「……瑞鶴。具合はどうですか?」

 

【「……全然……駄目……舵が……重いし……思う、様に……」】

 

「……瑞鶴さん。赤城さんや飛龍さんたちも一応参加していたと思うのですが、皆さんは何処に?」

 

【「……他、の……皆は……出力、上げられなくて、オーバーランで……事故は、起きてないけど……」】

 

「……飛ぶ事すら出来なかったか」

 

「事故が起きる程度の速度すら出なかったんですね……」

 

 

 艦娘の持つ召喚型の船体兵装とは別に、身体にランドセルや矢筒等の形状で装備されている艤装を通じて行われた加賀と青葉の問いかけに、瑞鶴は途切れ途切れに答える。歯を食い縛り、紅潮させながら『F-4EJ ファントムⅡ(Phantom・The・Second)』に搭乗している自身の妖精さんを通じて懸命に操縦している姿が、声だけでありありと脳裏に浮かび上がらせるだけの緊迫した声色であった。

 

 

「基地航空隊の要領で、陸地に艦娘と召喚艤装を配置する案はそれなりに面白いとは思いましたが」

 

「零戦や流星、41㎝連装砲の様な通常装備は陸地に態々配置する必要性は低い。私達が海に出て運用する方が有効的だからな」

 

「本命は『桜風』の開発した兵装ですからね……。陽炎さん。『桜風』さんが言っていたあの機体の性能はどのような物でしたか?」

 

「えっと……時速850km、航続距離2850km、夜間、悪天候可能でも戦闘は可能。正し装備は500lb爆弾のみで機銃や対空ミサイルは搭載無し。搭載爆弾が『彗星五四型』の1500lb爆弾より小さいとは言え、速度と耐久力は『F-4EJ ファントムⅡ(Phantom・The・Second)』の方が上だから、将来の装備艤装としてはこっちの方が望ましい……だって」

 

 

 この性能表を見た時、深山提督を含めた艦娘だけでなく、素材解析から始めている日本技術者、研究者一同は例外無く()()()()な印象を受けた。確かに爆撃機の仕事はその名の通り目標に対する爆撃である。だが、だからと言って護衛の為の機銃もミサイルも搭載しないのは些か妙であった。最高速度もマッハ0.7弱程度と自衛空軍が自衛隊時代に使用していたF-4EJより遅く、又搭載量も少なかった。

 

 自衛軍が知っているF-4EJとは違い、着艦用の装備やかなり高度な操縦時の補助装備が充実しており、10㎝45口径砲弾が10発直撃しないと撃墜されない異常な耐久力、そしてその気になれば完全自動操縦による作戦行動が可能になる人工知能が搭載されている等、機体材質等の使用されている機体技術の高度さに比べて、肝心な基礎戦闘能力が低いように思えたのだ。

 

 本格的に『桜風』から、『桜風』が居た世界の詳細な聞き取り調査を依頼するべきか悩み始めた技術者たちを他所に、そんな裏での苦労など関係の無い試験官として瑞鶴が志願し、それに引きずられる形で赤城と飛龍、蒼龍が『F-4EJ ファントムⅡ(Phantom・The・Second)』の搭乗試験を、自衛空軍や技術者との合同で決行した結果が、瑞鶴のみ飛行に成功するもレシプロ機にも落とされそうなふらつきと低速具合が精一杯なこの始末である。一応自衛空軍パイロットも試験するも予想通りに始動すら行えなかった事を考えれば、最早ヤケ酒に走るしかない。

 

 

 

「……まるでエクスカリバーね」

 

「石に突き刺さった剣を抜けた者のみが、神に認められし本当の王となる。……確かに、近いかも知れませんね」

 

「……大丈夫だ、陽炎。確かに私達の歩みは遅いのかも知れないが、それでもしっかりと一歩一歩進めている。あの暴走娘の隣に立てる日も、必ず来る」

 

「……ありがとう、ございます。長門さん」

 

 

 焦る必要はないと諭す長門に、様々な感情が綯い交ぜになった表情で言葉を返す陽炎。『桜風』の開発した高レベル兵装(エクスカリバー)使う(握る)事は出来る、だか使いこなす(石から引き抜く)事は二ヵ月を超えた今でも到底目途すら立つ気配がない。硫黄島沖大演習の時の様な、膨大過ぎる情報量を処理出来ずに発生した頭が引き裂かれる様な激痛や、設計限界を遥かに超える船体が引き裂かれんばかりの主砲射撃の衝撃による損傷は、現在の所高レベル兵装を使用せず、低レベル兵装でも細心の注意を払う事で抑えられている。

 

 とは言え当然の事ながら、改になっても相変わらずなニトロっ娘の気性を知る対超兵器部隊の面々がこの程度で満足している訳では無い。明確に先の見えない、目隠しされたまま綱渡りをさせられている様な現状の打開策を手探りで探している事の必要性は皆理解している。納得出来ているのは余りいないが。

 

「……本当、『桜風』は今頃何をやってるんだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うんうん、良い娘だからそんな顔しないで良いよ。皆気にして無いからね」

 

「さくらおねーちゃん、まちがえて、おさけのんだら、だめだよー」

 

「でもあんな風に甘えてくれる姿は可愛らしかったな美咲、っって痛い痛い痛い!?抓るな抓るな本当に痛いから!」

 

「あんたねぇ……いい歳した大人が馬鹿言ってんじゃ無いよ、全く」

 

「母さん、父さんは今運転しているんだから降りてからやってよ。事故ったらどうするのさ」

 

「おい治樹なぁ、お前父親を……」

 

 

 

――――何で間違えてお酒飲んじゃったの昨日の私……うぅ、穴が有ったら布団に丸まって籠りたい……

 

 

 その頃、当の『桜風』は望月家の車に相乗りして顔を真っ赤にしながらプルプル震えていた。ネット界によく入り浸っている漣や望月、秋雲ならきっとこう言うだろう。『船堀パロ乙』、と。

 

 

 

 

 

「んー……やっぱあっちとは海の色とか違うなぁ」

 

「あー、言われてみれば確かに。匂いとかもちょっと違う」

 

「うみのいろ?ちがうの?」

 

「そうやでー。太平洋の海と日本海の海って、似てるようで色々違うんや」

 

「そーなんだー」

 

 

 深山家の山梨に住む親戚である望月家の次女、つまり望月彩夏(さいか)の妹である彩夢(あやめ)の言葉にニッコリ笑顔で返す黒潮。因みに余談だが、望月家の家族構成は山梨で林業を営む家長の誠、妻の美咲、自衛軍に志願し後方勤務に回されている長男の治樹20歳、長女彩夏は高校二年生の16歳、次女彩夢は幼稚園児である。

 

 

「……人が少ない……と言うよりは、時期を考えると殆ど居ませんね……」

 

「舞鶴や佐世保鎮守府、後つい最近新設された大湊警備府が蓋をしていて安全だと言っても、深海棲艦の影響による風評被害は避けられないからね。気にする事は無いよ、鳳翔」

 

「提督……はい」

 

 

 彼女達一行が居るのは、夏真っ盛りで海水浴シーズンで有りながら海水浴客がかなり少なくまるでリゾート地の様に広々としている海水浴場である。端的に言えば、彼女たちは帰省したついでに安全な日本海で思いっきり泳ぐために来たのだ。因みに墓参りは早朝6時過ぎに鳳翔や『桜風』達が寝ている間にそれぞれ終わらせている。

 

 

「……それで、何で大石君がここにいるの」

 

「えーっとですね、自分達も休暇の為ここに泳ぎに来たら偶々出くわしただけとしか……」

 

「貴方舞鶴鎮守府でしょ。海水浴場ならそっちにも有るでしょ?」

 

「すみません、深山提督。向こうの海水浴場は、すぐそばに鎮守府があるせいで、人が沢山集まっていて……」

 

「……そう。羽黒がそう言うのなら」

 

「あの……その、すみません、深山提督。どうして自分の言葉よりも羽黒の言葉を信じられるのでしょうか?」

 

「胸に手を当てて貴方のその本能染みた口説き癖の事を思い出しなさい。話はそれからよ」

 

「もうナンパはやってませんって!そんな事したら叢雲だけでなく皆で錨に縛られて海に沈められちまいます!」

 

 

 

 そうした海の家にとっては商売あがったり状態な海水浴場には、深山提督の家族と親戚、そして『桜風』達に加えて、何故か舞鶴鎮守府第7海上部隊所属である大石翔大将とその配下の艦娘がワッサリと来ていた。現在大石提督の傍に居る妙高型重巡洋艦の羽黒以外はわざわざ持ち込んだビーチパラソルやポールをキャイキャイ騒ぎながら設置している。

 

 

「あの……深山提督」

 

「『桜風』?どうしたの?」

 

「いえ、その……は、恥ずかしい……です……」

 

 

 深山提督が駐車場から続く海水浴場の砂浜に降りる階段下で大石提督を聴取する中、遠慮がちに声をかけて来たのはタオルケットを身に纏った『桜風』。俯き加減にタオルケットで肩から下全てを隠しているその姿は、何だか巣穴か布団の中から頭だけ出して不安げに人を見上げる兎か犬を思わせた。

 

 

「皆水着着てるのよ?『桜風』だけじゃないから、恥ずかしくないわよ」

 

「いえ……でもっ……コレは、あんまりじゃ……」

 

「……男の俺が口挟めることじゃ無いだろうが、余程変なのじゃない限り何でも似合うと思うよ?『桜風』ちゃん」

 

「でっ……ですけど……こっこの……恰好は……」

 

 

 

 大石提督による真面目なフォローを受けても、タオルケットを外そうとする気配の無い『桜風』。開発装備がぶっ飛んでいる為に忘れられがちだが、『桜風』の中身は戦前、それも戦時中でもある1939年頃で有る為、一応レジャーとしての海水浴の事は知っているが、『桜風』の視点では女性が着用する水着は上半身から太腿までを覆うランニングシャツと短パンを組み合わせたような、21世紀現代から見ると相当古臭い水着であるのが普通であった。

 

 

「……や、やっぱり、私車に戻って……」

 

「さーくらちゃん!」

 

「さーくらはん!」

 

 

 結局羞恥心に耐え切れず着替え直そうと回れ右した直後、『桜風』の進路を塞ぐ様に狙いすまして現れた黒潮と望月彩夏。出会って一日程度しか経過していない筈のこの一人と一隻だったが、共に年頃の少女の為か早期に意気投合し仲良しになっていた。安直では有るが相互に『くーちゃん』『あやはん』と渾名で呼び合う程度には。

 

 

「ふぇ?!」

 

「大丈夫、一時間位遊べば慣れるって!」

 

「ちゅー訳で、いざ御開帳!海に行くでー『桜風』はーん!」

 

「わあああー!?返して、お願い後生だから返してー!!」

 

 

 彩夏と黒潮の息の合った連携プレイで成す術も無くタオルケットを奪い取られた『桜風』。泡を吹きながら必死に二人に追いすがっているが、タオルケットの奪還に気が回り過ぎている為か二人が『桜風』を砂浜に誘導している事には全く気が付いていない様子。

 

 

「……って、何時の間に砂浜に?!」

 

「ふっふっふっ……じゃあ泳ぐで『桜風』はん!」

 

「それじゃ行こう!さくらちゃん!」

 

「や、う、腕掴まないで、って、ぴゃ、ひぃやあぁぁーー……」

 

 

 明石工廠特製の特濃肌色クリームを全身に塗りたくった事により、見た目ただの少女には余りにも不釣り合い……否、異常かつ不自然極まりない傷痕は影も形も見えなくなっている『桜風』。深山艦隊屈指のファッションセンスを誇る鈴谷と熊野プロデュースによる、シンプルな青と白を基調とした空模様のバンドゥ・ビキニとボーイレッグの水着が、純朴な雰囲気を漂わせる『桜風』に対して愛らしさと少しばかりの色気らしき何かを感じさせる。

 

 

「くすっ……可愛らしいですね」

 

「そうだなぁ……何か和むな」

 

「ふふっ……」

 

 

 最終的には黒潮と彩夏に両腕を抱えられて引き摺られ、砂地に『桜風』の両足によって轍が描かれていったのを見送った深山提督達保護者勢。硫黄島沖大演習にて自分達を氷の様な冷静さで一方的に蹂躙した『桜風』が、陸地では真逆の隙で全身をコーティングされた天然気質な言動である事を目前で確認した大石提督配下の艦娘達が、姉心を発揮して全力で遊び(弄り)倒す事を心に決めたのは言うまでもない。概念的にはギャップ萌え辺りが近いだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、本当の所はどうなの?」

 

「休暇申請出したら山本長官からのビデオ通信で先輩の護衛に行くように言われました」

 

「素直で宜しい」

 

「……では、自分を解放して頂けないでしょうか?」

 

「却下」

 

「じゃあ満理姉。俺の方を……」

 

「却下」

 

「そんなぁ……」

 

「……うぅ、許してくれよ彩夏……」

 

 

 そして時は流れて一時間後。結局完全に吹っ切れて羞恥心が麻痺し切った『桜風』がビーチバレーや海水浴で黒潮や望月彩夏達と全力で遊ぶ中、深山提督と大石提督、加えて風馬才牙はビーチパラソルの元その様子を見守っていた。……男コンビの方は|目の前の桃源郷に現を抜かしてしまった《雄としての本能満載の眼で嘗め回す様に監視していた》が為に、叢雲と望月彩夏(それぞれのパートナー)の手により報復として頭以外の全身を砂で覆い固められていたが。

 

 

「提督さん提督さん。夕立、ジュース持って来たっぽい!」

 

「ああ、ありがとな夕立。出来ればこの砂を除けてくれると助かるんだが……」

 

「……叢雲に怒られるから、流石に出来ないっぽい」

 

「おうふ……」

 

 

 ただまあ、熱中症にならない様に陽射しを遮るビーチパラソルを設置したり、時折飲み物を持って来たりしてくれている為、何だかんだ言いつつも慕われている大石提督の人徳は中々な物である。因みに秘書官の尻に敷かれている提督と言う軍隊に有るまじきヒエラルキー逆転現象は稀に良く有る。

 

 

 

「……しかしまあ、凄い勢いで打ち解けたな」

 

「『桜風』ちゃんの事っぽい?」

 

「ああ」

 

「だってあの娘、弄るととっても面白いっぽい!それに初めてレジャーを楽しんでる『桜風』ちゃん可愛いっぽい!」

 

「……先輩?」

 

「……仕方が無いでしょ。まさか東京湾に遊びに行く訳にも行かないし、それに私は仕事が忙しかったし、あの娘(『桜風』)もそう言った事をやろうとしなかったから」

 

 

 そう言い訳しながら地に埋もれた大石提督から眼を逸らす深山提督。因みに今現在彼女は黒色の三角ビキニにラッシュガードを着込んでいる状態である。高雄だの伊19だのと言った突き抜けた艦娘の中でも特に突き抜けた存在の為に余り目立たないが、極めて健康的に鍛えられた肉体美は平時であればナンパを賭けて玉砕する男共が列を成しそうな程に整えられていた。

 

 

「深山提督ー!一緒にビーチバレーしませんかー!!」

 

「……呼ばれているから行くわね。夕立ちゃん、大石君の事よろしくね」

 

「了解っぽい!……それで提督さん。夕立は何すれば良いっぽい?」

 

「逃げちまった……ん、そうだな……じゃあ夕立、記念撮影の為にちょっと俺の鞄からビデオカ……叢雲、落ち着いてくれ。俺は決して不埒な事は一切考えていないと言うかむしろ思い出の記念の撮影と言うのは旅行に行く場合には普遍的に当たり前の事で有って……ちょ、や、やめ……あっあっあっあっ……」

 

 

 ラッシュガードを脱ぎ置いて、後方で大石提督の懇願とくぐもった悲鳴を背にしながら、何年振りかの海辺での遊びに参加する深山満理奈。久し振りの大所帯、しかもその殆どが多種多様な美女と美少女だらけだった為、今まで閑古鳥が鳴いていたも同然だった海の家の従業員や偶然居合わせた少数の一般客が色々な意味で大歓喜状態だったり大混乱状態だったりしているのを尻目に、うら若き女性らしく『桜風』達と共に遊ぶ深山満理奈の姿は、鎮守府では余り見せる事の無い、心底楽しんでいる姿であった。

 

 

 

 

 

「……それで、反省した?」

 

「正直悪かったとは思う。だけどこれは男として正常な生理的現象である部分も有るから……」

 

「良し分かった。砂に加えて海水も追加よこの馬鹿」

 

「ちょ、や、止め……お、重い……!マジで重い……!」

 

 

 因みに大石艦隊の艦娘や深山艦隊の黒潮、鳳翔、『桜風』達に雄としての感情が籠った視線を向けてしまった片割れの風馬才牙だが、結局大石提督が叢雲によって制裁されている脇で、望月彩夏の乙女心を完全に地雷を踏み抜く言い訳でぶっ壊してしまい、能面の様になった彩夏の手により砂追加の刑に処せられていた。周囲から見れば恋人同士がじゃれ合っている様な物であり、一部に至ってはこの甘い光景に対して砂糖を吐いていたが。尚、風馬才牙は少量とは言え口内に飛んできた砂を吐いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……久し振りに、柔らかい表情だったな。楽しめたのか?」

 

「恐縮です、誠様。……はい、向こうでは余り、此処まで気を抜く機会は有りませんでした」

 

「……えっと、満理奈さん?」

 

「……何か?」

 

「いえ、何でも無いです……」

 

 

 ビーチバレーで最終的に深山満理奈と掘り出されて解放された大石翔の提督連合対『桜風』と黒潮の駆逐艦娘コンビによる白熱した試合を最後に解散となった海水浴。大石艦隊の優しいお姉さん方と遊んだ望月彩夢と肩を寄せて穏やかに後部座席で『桜風』が寝息を立てる中、大人勢は少しばかり立ち話をしていた。尚黒潮と鳳翔は大石艦隊の艦娘と共に後片付け中である。

 

 

「……向こう(横須賀)だと、いっつも肩肘張って生活してるの?」

 

「常時、と言う訳では有りませんが、外部に漏れ伝わった情報を元に()()等を名目にした無作法な者共が間を置かずに押し寄せる時が有りまして」

 

「えっと、警察とか、自衛軍の人たちが警護してるんじゃ無いの……無いんですか、満理奈さん」

 

「敬語は不要です、彩夏。……確かに、提督や艦娘に気付かれない様に、若しくは不審に思われない様、鎮守府所轄地域の警察署並びに自衛軍や公安等は警護部隊の巡回経路を設定しています。ですが、元々防諜戦には法制度による制約や長年のブランクがある日本組織では限界も有ります」

 

 

 語弊があるかも知れないが、前代は兎も角現在の政権は防諜には相当力を入れてはいる。入れてはいるのだが、元々第二次世界大戦の敗戦後、旧日本軍が解体された際に諜報関係のノウハウや技術、人員が多数散逸した上に数十年に渡る長期の軍事的抑圧や制約の為諜報力は先進国内でも相当な低レベルだったと言うのに、それに加えて前政権によって行われた、軍や警察予算等公務員人員も含めての大きな削減と入国、移民規制緩和政策により余計に諜報、防諜関係は打撃を受けていた。

 

 現場の警察官による地域密着の奮闘のお陰も有り何とか日本各地の治安は維持されている状況では有るが、規制緩和中に大量に流入した他国人が原因か遠因となる治安悪化は避けようにも限界があり、それを隠れ蓑に策動する国家に所属した本物の諜報員の行動的な諜報活動を全て防ぎきるのは無理難題でしかない。それに機密保持や諜報員捕縛関係の法整備に関しても『自由や人権に対する迫害行為、そして一般市民にも被害がある』等と難癖つけて長期間妨害されても居た。機密情報を知ろうとする一般市民等普通は居ないと言う指摘等は当然彼等に取って馬耳東風どころか揚げ足取りが出来る為笑顔で批判出来る代物である。

 

 

 

「加えて、中には週刊誌記者等の事実無根の飛ばし記事も平然と書き叩く者共もおり、いかにも面倒極まりない状況になる事も有ります。この事に関しましては、先日申し上げた通りに」

 

「……ああ。分かってる。だけど虎一さんや才牙君たちは兎も角、君が無茶をするようだと本末転倒だからな」

 

「委細承知しておりますが、我が身等よりも御国と我が友の安全が最優先です故、その点だけは御承知頂きたく」

 

 

 諜報員、工作員もそうだが、ある意味それ以上に頭が痛いのは【報道の自由】を掲げて相手の事も考えずに電話取材攻勢であったり鎮守府周囲で張り込みや遠距離からの無断撮影を仕掛けたり、果てには不正確な情報やいい加減な憶測を元に事実無根の報道を繰り返し行っていたマスコミだった。一応、突如今までの報道方針を一変して現政権寄りな報道に180度転換したマスコミも居はしたが、そんな突然変異的な例外は極一部だ。

 

 幾度と無く警告を受けようとも、深海棲艦との戦争が始まる前の感覚のまま自由気ままな政府批判報道をしていた彼等に取って、人類とは全く違う能力を持った見た目麗しい艦娘は恰好の報道対象だった。深山艦隊にこそ余り実害は無かったが、それでも風評被害を受けた他鎮守府もそれなりに存在した。そんな春を謳歌していた彼等マスコミも、この日より一週間後に【国家機密漏洩未遂罪】並びに【侮辱罪】容疑により、警視庁と公安警察合同で強制捜査を受けて一気に冬に突入するのだが、それは彼女達には関係の無い話である。

 

 

 

 

「てーとくはーん!片付け終わったでー!!」

 

「提督、御片付けは終わりました。大石艦隊の皆さんももう帰られるとの事です」

 

「あ、くーちゃんに鳳翔さん」

 

「ん、分かったわ。……では、帰りましょうか」

 

「……ああ。うん、そうだな」

 

 

 

 兎にも角にも、眠り姫(『桜風』)大海原の令嬢(黒潮、鳳翔)達を含めて今回の里帰りに余り関係の無い話は早々に切り上げた深山満理奈は、後ろからの不安げな視線を尻目に自らの仲間を迎えに歩き出す。休暇はまだ始まったばかりなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー、んぅうー……何か、こうして海で遊ぶのは初めてやったなぁ」

 

「え、くーちゃんやった事無かったの?」

 

「せやなぁ。深海棲艦がぎょーさんおるで、太平洋側の海で無防備に泳ぐ訳にもいけんし。後うち等艦娘は何処にでも引っ張りだこやで。はぁー、人気者はホンマ辛いでーあやはん」

 

「……そうだね。何時も皆を守る為に戦ってくれてありがとね」

 

「……ちょっとその反応は予想外やであやはん。そんな辛気臭い顔せんと、ほれ、笑顔や笑顔!」

 

「ひょ、ひょっと、ほほひっはるなくーひゃん……」

 

 

 海水浴の帰り道。席替えで『桜風』と入れ替わった黒潮と望月彩夏は、先ほどまで遊び倒していたのにその疲労を感じさせずに楽しくじゃれ合っていた。因みに風馬才牙は助手席にて静かに一言も発する事無く外を眺めている。居場所が無いのだ。

 

 

 

「……全く。才牙も男ならあの中に入り込まんか。枯れている訳でもあるまいに」

 

「いや平成の時代から考えるとあの中に介入する出来る様な奴は相当少ないんだけど……」

 

 

 

 呆れ顔で息子を横目に言う風馬虎一に対して、どこか遠くを焦点が定まってい無い目で見ながら答える風馬才牙。悟り系でも絶食系でも無いが、どちらかと言えば草食系よりな才牙にとっては、後ろの二人の仲に介入するだけの根性や勇気は無かった。つい先ほどまで砂浜に首以外埋葬されていた事が関係しているかは不明である。

 

 

「……あ、電話?……司令はんから?なんやろか……」

 

 

 

 そうした可愛らしい少女同士の触れ合いを断ち切る携帯の呼び出し音。何と無く聞こえて来た後ろからの声からは、何やら逼迫した様な黒潮の応対が聞こえて来た。

 

 

「……あの、すみません。ちょっとカーナビでテレビつけて貰ってもええですか?」

 

「構わないぞ。才牙」

 

「へーい」

 

 

 運転中である虎一が答え、才牙がもそもそと動きながらカーナビを操作してテレビ放送を受信する。

 

 

 

 

「……何だこれ、映画か?」

 

「ちゃうで。……本物や。本物の映像やって」

 

 

 

 そうしてカーナビの画面に映し出されたのは、荒い画像ながらも分かる、ロンドンと思わしき都市と異常な声色でまくし立てるレポーター、空を飛び回る多数のヘリコプターと戦闘機、そして……

 

 

「……ごめんな、くーちゃん。うちらの休暇、これで仕舞いになりそうや」

 

 

 

 何処かのビルの屋上と思しき場所から映し出された、余りにも巨大過ぎる強襲揚陸艦の映像であった。




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