「・・・青葉さん」
「・・・どうしましたか、大和さん」
「『桜風』さんには、ちゃんと退避するように通信してありますよね?」
「そうなんですけど・・・」
横須賀鎮守府所属の深山少将配下にある戦艦娘『大和』を旗艦とする『『桜風』救援艦隊』は困惑していた。事情説明もそこそこに緊急に出撃したのは良いとして、肝心要の救援目標である駆逐艦『桜風』に深海棲艦の大艦隊が横須賀に向けて侵攻中であり、直ちに退避するように通信するも、『桜風』からの返答は『委細問題無し。我これより敵艦隊と交戦す』と言うとんでもない物だった。
「青葉さん・・・大丈夫なのかなぁ、『桜風』ちゃん」
「瑞鳳さん・・・」
・・・正直青葉は大丈夫じゃないと思います。いったい彼女は何を考えているんでしょうか?硫黄島航空隊からの偵察情報だと、敵艦隊は『空母棲姫』や『空母ヲ級flagship』、『戦艦棲姫』に『戦艦ル級flagship』と言った深棲海艦の中でも最上級の精鋭艦が存在することが確認されています。その精鋭艦隊相手に、たった一隻で何をする気なのですか、『桜風』さん・・・?
「えーと、お話し中ごめん、ちょっといい?」
「陽炎か?いったいどうした?敵艦隊か?」
「な、長門さん?!い、いえ、敵艦隊では無いです。ただ、ちょっと気になるものが海面に・・・」
…そんなに私は駆逐艦にとって怖いのか。陽炎の深い意味はなく単純に唐突に声をかけられたから驚いたことにサラッと勘違いして落ち込む長門だったが、とにかく『『桜風』救援艦隊』の面々は陽炎の言う『気になるもの』に目をやり・・・
「・・・深海棲艦の艦体や艦載機の残骸?」
異口同音にそう呟いた。
「・・・本来この海域に存在する艦隊は、大和たち『『桜風』救援艦隊』しか存在しないはず。増援が出たという報告も無いし、仮に秘匿して出撃していたとしても、これだけの艦隊と戦闘したのなら、電探に何かしらの反応が有ったはずなのに・・・」
「ふむ・・・警戒して進む必要があるな」
自分たちの知識では、普通の艦娘であればこの大量の深海棲艦を撃滅する為にはかなりの時間と労力を要する。硫黄島航空隊からの報告を受け取ってすぐに本土で残っていた艦隊の中で即応できたのは、距離的戦力的な問題もあり唯一深山提督だけだったため、本来深海棲艦に対して有効的打撃を与えられる存在は『『桜風』救援艦隊』だけだった。その為、自分たちが交戦していないのに大量に深海棲艦が沈没していたこの異常現象に、大和や長門たちは『深海棲艦の同士討ち?』『本土の秘密兵器?』などと言う的外れで摩訶不思議な考察をし始めていた。
・・・まさか、『桜風』さんが・・・いやいやいや、あり得ませんね、いくらなんでも『駆逐艦一隻』でこの戦果を出すのは無理です、常識的に考えて。
『あり得ない』と否定しつつも、唯一『正解』へとたどり着いた青葉を除いて。
「さーて、そろそろ敵空母部隊との交戦距離に入るね。各員、戦闘準備に問題ない?」
『一切合切無問題です。それと艦長、くしゃみされたお姿もとても可愛かったです!』
「通信手。あなた紐に括り付けて地引網のように海面に放り込むよ?」
『それだけはご勘弁を!』
横須賀の『『桜風』救援艦隊』が大量の深海棲艦の残骸と遭遇していたそのころ、その残骸を生み出した下手人たる駆逐艦『桜風』は、機関全開の最高速度で敵機動艦隊へと突っ走っていた。青葉たちが発見した『元』深海棲艦は『重巡リ級flagship』を旗艦とする高速巡洋艦部隊であったが、交戦した『桜風』は『ちょうど良い実践演習相手』と見做された程度の脅威度の低い存在であり、雷撃どころか砲撃する事すら叶わずに一方的に『15.5㎝75口径4連装砲』4基の弾幕射撃の前にあっさりと全艦撃沈される憂き目を見ていた。
『艦長!レーダーに反応!敵艦載機の大群です!』
「速度と性能解析の報告は?」
『失礼しました!解析したところ、敵艦載機の性能は『F6F ヘルキャット』や 『BS2C-1C ヘルダイバー』と推定されます!』
「・・・舐められてるね。確かに装備は依然と比べて画然の差があるけど、レシプロ機程度の航空機相手なら問題なく今の『桜風』は戦えるというのに」
『これが敵艦隊の最新鋭艦載機と言う可能性もありますが?』
「だったら逃げ出さずに『数で押しつぶせる』と断定したその慢心と誤断に付け込むだけよ。・・・総員、対空、対艦戦闘用意!敵艦載機を撃滅したのちに敵艦隊内部に突入し、殲滅します!」
『桜風』の一声にて、艦艇に搭載された『15.5㎝75口径4連装砲』や『40㎜4連装機銃』並びに『RAM』が動き出す。雲霞の如く迫りくる敵編隊に対して、一機残らず死出への旅路へと航路変更させるために。かかってこいやカトンボども。対空砲にかじりつく妖精さんのうち誰かがそう言った。
簡単な仕事のはずだった。無謀にもこちらに突撃してくる駆逐艦を、艦載機で袋叩きにして沈め、これからの戦闘に勢いを突かせる為の生贄にする。その筈だったのに。
『侵攻空母機動部隊』の旗艦である空母棲姫は、目の前で繰り広げられる『不条理』が束になって荒れ狂う『戦闘』をみて、一人静かにそう思っていた。護衛として随伴していた『重巡リ級flagship』と『駆逐ニ級後期型』は、敵駆逐艦の雷撃によって一撃で跡形も無く消し飛び、自分と『空母ヲ級flagship』が搭載してきた新型艦載機は敵駆逐艦の放つ弾幕砲火と誘導弾によって次々と撃墜されていった。・・・どうしてこうなったのか。何の益も無いことは分かりきっていたが、彼女・・・空母棲姫は、ほとんど現実逃避気味に侵攻主力艦隊の旗艦である『戦艦棲姫』に対して、この『化け物艦娘』の存在を報告し始めた。
偵察機の報告により単艦で行動する駆逐艦を発見した『侵攻空母機動部隊』は、旗艦の空母棲姫が『人類の先行偵察艦』と判断した事もあり、この駆逐艦の向こう側に艦娘の主力艦隊が存在すると推定した。その為あまりにも粗雑な人類側の行動に、今回の深海棲艦の侵攻が人類にとってが完全に想定外であった事を深海棲艦の侵攻部隊は確信。そして空母棲姫よりも指揮系統的に上位に当たる戦艦棲姫の命令により深海棲艦の士気向上の為放った大編隊は、『速力20ノット程度で動く哀れな獲物』目掛けて勇躍突撃した。・・・そして、その『獲物』を深海棲艦の艦載機部隊が確認した直後、その『獲物』は、深海棲艦にとって最悪の『死神』へと一瞬で変貌した。
『獲物』または『死神』こと駆逐艦『桜風』は、まずは『15.5㎝75口径4連装砲』による対空射撃を開始。その砲撃の連射力に深海棲艦艦載機隊は少々動揺するも、どうせ遠距離での砲撃など当たらないと高を括っていた様子で、多少編隊をばらけさせた以外は何も対応しなかった。だが、その侮っていた砲弾は次々と『艦載機に直撃乃至至近距離で爆発』し続け、一瞬で深海棲艦をパニック状態へと追いやった。だがそこは歴戦の空母棲姫所属の艦載機隊である。空母棲姫の指揮にて分散し、全方位同時攻撃を敢行しようとするが、その間にも『15.5㎝75口径4連装砲』による砲撃は一切止まないばかりか速力を『50ノット』へと増速させるばかりか、接近するにつれて『今まで艦娘が装備しているのを一度も確認していない大口径機関砲』と『高精度な誘導能力を持つ対空誘導弾』が大量に艦載機隊に対して攻撃を開始し、異常な速さと転舵、旋回速度で回避運動を取り続ける『桜風』の前に、空母棲姫と空母ヲ級が誇る精鋭艦載機隊は、まともに雷撃も爆撃も行える事無く次々と撃ち落され、波間に揉まれ、母なる海へと還って行った。
護衛として随伴していた『重巡リ級flagship』と『駆逐ニ級後期型』がこの事態にいじらしくも『空母棲姫様を逃すために』この駆逐艦『桜風』に果敢に挑みかかるも、『駆逐ニ級後期型』は滝の如く降り注いできた砲撃にて搭載魚雷が誘爆し轟沈。『重巡リ級flagship』も『桜風』から先制して二回斉射された酸素魚雷によって一瞬で消滅した。護衛の部隊が『桜風』と交戦してから全滅するまでの時間は、わずかに5分足らず。意地の一発も充てる事すら叶わなかった。
カッタト……オモッテイルノカ? カワイイナア…
だが、こちらには戦艦棲姫を旗艦とする深海棲艦侵攻主力艦隊がいる。あの戦力をどうやって攻略するのか、見ものですね。
駆逐艦『桜風』から十本以上の酸素魚雷が自艦に向けて射出された中。この駆逐艦の情報を本隊へ送信した空母棲姫がそう思い、言い放つ。・・・その直後、発射された酸素魚雷が多数命中。空母棲姫、そしてその随伴艦は、日本本土をその目に見る事無く、全滅した。
次は戦艦棲姫との決戦予定。