艦娘の咆哮 ~戦場に咲き誇る桜の風~   作:陣龍

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次回、『桜風』達が乱入すると言ったな…?

スマヌ、流れ的に無理でした(白目)




第五二話  ニューヨーク沖海戦(Naval Battle off New York)

 ハリケーン『アレクシア』がその勢力を衰えさせつつも未だに大西洋西部に居座る中、大統領命令によって連邦軍並びに州軍の誘導の元民間人が完全に避難し、時折軍用車両が行き交うだけでこれまでの喧騒がまるで夢幻かと思う程に一時静かになった米国東海岸。

 

 

【……『Sky Train』、『Sky Train』。こちら空中警戒管制機『Star eye』応答せよ】

 

「こちら『Sky Train』。『Star eye』、どうした?」

 

【現在、当空域は戦闘状態である。今、護衛戦闘機を回した。彼等の誘導に従い、針路を変更されたし】

 

 

 その一時の静けさが文字通りに消え失せ、無数の排気音や発射炎、爆炎が蒼海のキャンパスを彩りつつあったその領域に、極東の同盟国よりとある()()()を載せた輸送機が一機、最大速度で突撃しつつあった。輸送機なので、当然ながら防御手段等無い。

 

 

「……あー、すまない。それは無理だ」

 

【……何を言っている?貴機には傷付けてはならない積み荷が有る事は、此方でも把握……】

 

「その()()()()()の要望なんだ。……護衛機には無理をさせてしまうが、海まで飛ばさせてくれ」

 

【……『Sky Train』。まさかとは思うが……本気なのか?】

 

「本気も本気だ、あの積み荷さんたちは。……此方としては、彼女達の想いに答えたい。危険だが、最悪は機体を放棄してでも脱出するさ」

 

【…………了解した。護衛機を増やす。……絶対に落とされるんじゃ無いぞ】

 

 

ーーーー言われなくても、分かってるさ

 

 

 

 10秒近い沈黙の末に、苦虫を噛み潰し、苦悩の果てに絞り出したと丸分かりな苦々しい声での空中警戒管制機(E-3 Sentry)搭乗の管制官より出た指示に、内心の言葉は発する事無く了解の意を返す。

 

 

「……機長。顔、凄い歪んでますよ」

 

「う……」

 

「……まあ、思う事がない訳じゃ無いですよ。自分も輸送機で空戦空域に突っ込めだなんて、幾ら護衛機が付くとしても()()()()()()()()()御免被りたいです」

 

 

 正面を見据えながらそう言う副操縦士。実際問題、鈍重かつ自己防衛の武装が一切皆無の輸送機で戦闘空域に突っ込めと言うのは、ハッキリ言って狂人の沙汰以外の何物でもない。KC-46が如何に合衆国が誇る新型輸送機と言っても、戦闘機を振り切れたりミサイルを回避出来る様な速力も機動力も無い。加えて護衛機が付くと言っても、それで絶対に撃墜されないと言う保証は絶無なのは、過去の無数の戦歴が証明している。

 

 

 

「……だが、この方法が一番速く、現在苦戦を強いられている戦友たちの元に送り届けられるんだ」

 

「それはそうですけど……」

 

 

 

 

 

「『桜風』、止めましょう。危険です」

 

「ですけど、この方が手っ取り早く海に飛び込めますし」

 

「ですが私達に落下傘降下技能は有りません。飛び降りても敵戦闘機の攻撃を受ける可能性は極めて高く、加えて風に流される可能性も……」

 

「敵戦闘機に関しては、アメリカ空軍(USAF)アメリカ海軍(USN)、それに海兵隊(USMC)の戦闘機部隊が排除してくれます。降下と言ってもパラシュート背負って飛び降りたら紐を引けばいいだけですし、問題無いですよ」

 

「……確かに、加賀さんの言っている事は最もだけど、でも一度空港に着陸してから再度ヘリコプターか何かで移動するのは二度手間なのは事実だよね……時間が無いのも事実だから、私は『桜風』の意見に同意します」

 

「陽炎姉さん、本当に『桜風』に染まりましたね」

 

「……そう?」

 

 

 

 

 

 

「……本当に大丈夫ですかね?」

 

「言うな……きっと大丈夫だ……多分」

 

 

 ……幾ら祖国の危機と言えども、前述した無茶な進入に加えて当の本人たちの内一部(某一航戦)慎重論を唱えている(怖気付いている)のを見れば、不安にならざる負えないのは仕方が無いのかも知れないが、彼らの思惑とは別に『Sky Train』(KC-46)は燃費無視の最大速度で突き進んでいく。

 

 

 

 

「……自分、この任務が終わったら絶対休暇取って家族と団欒の時を過ごします」

 

「そうか……俺は、馴染みのバーにでも行って、キープしてた酒でも飲むとするか。それくらいしても文句は言われんだろう」

 

 

 

 二人が交わした愚痴。それを合図にしたかの様に、機体のレーダーや機器は無数の反応と警告を音と画像で奏で出す。

 

 

 

「……戦闘空域は目前だ。絶対に切り抜けるぞ」

 

「了解。……絶対に落ちてやる訳には行きません。来月、友人の結婚式に出なきゃいけないですし」

 

「そうか。なら、余計に落とされる訳には行かないな!!」

 

 

 

 その音、そして信頼し合うコンビが交わした軽口は、自衛する武器も無き者達が見せる、敗北を許されない決死の戦いが開幕を告げる音色で有った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「輸送機が丸裸で此処に突撃してくるだって!?アンドルーズ空軍基地に行くんじゃ無かったのか!?しかも空戦している最中の空挺降下!?馬鹿じゃ無いのか、死にたいのか?!」

 

【そんな事は分かっている!だから貴隊に護衛を頼むのだ!今はもう時間が無いのだ!!】

 

「……ああ、クソ!分かったよ、やってやるよ。……ウィングス隊、聞こえていたな?」

 

『アイ、サー』

 

『お返し出来ると思ってたんですけどねぇ……』

 

『ウィングス3、あの輸送機に乗せている積み荷はあのバケモノ対策のスペシャリストだそうだ。護衛を完遂すれば、あのクソッタレに対するこれ以上ない報復になるだろうさ』

 

 

 

 米軍の国籍マークが記されたF-22(Raptor)F-15(Eagle)F-16(Fighting Falcon)F-35(Lightning II)F/A-18(Super Hornet)と、IFFも国籍表記も雑多の極みである垂直離着陸機並びにヘリコプターによる混成部隊が無数に織り成す轟音と爆音の中、その混沌の空へと向かっていた4機のF-22が翼を翻し、トライアングル編成を全く崩さない妙技を誰かに見せるでも無く遂行しながら、音速以下で無謀にも突貫してくる宅配便のお手伝いに向かうのだった。

 

 

 

「……州軍か」

 

『総力戦ですからねぇ。西海岸防衛のための兵力以外、それこそ中部以東の全航空兵力がこの東海岸近辺キャパシティギリギリまで集められてるそうですし』

 

『一部の部隊はカナダの基地も借り受けているらしいッスね……って、アレって……』

 

「……CF-18。おいおい、まさか政府、カナダ空軍まで動かしたのか?」

 

『でしょうね……カナダにとっても、すぐ目の前の脅威に対して何もしない訳には行かないと言う事情も有るんでしょうけど』

 

 

 

 州軍のF-16(Fighting Falcon)と、F/A-18(Hornet)がカナダ用に改修された機体であるCF-18を横目に見送るこの4機。彼等は暫く前、在英米空軍駐留レイクンヒース空軍基地第48戦闘航空団(48th Fighter Wing)に所属し、アメリカ人として初めて超巨大強襲揚陸艦『デュアルクレイター』の艦載機部隊と遭遇、交戦し、そして生還した数少ないパイロットであった。

 

 隊長機が撃墜された後も交戦を継続したウィングス隊の各員も、指揮権を継承した二番機の指揮の元交戦を継続するも、三機とも悉く弾薬欠乏の末に敵機に集られた末に撃墜されたが、ベイルアウト・胴体着陸・着水と方法は全て別であったものの如何にか彼らも脱出に成功した。その後は全員五体満足だった事も有り報告の為に本国に引っ張られた末に、アメリカ空軍が誇る近代化改修済みのF-22(Raptor)を受領。そして現在に至る。要約すれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 

 

 

「レーダーに探知……アイツか。戦闘空域で空挺降下やろうっていう大馬鹿は」

 

『最大速度で飛ばしてますね。まあ、流石に輸送機何で遅いですけど』

 

『度胸有りますねえ……』

 

『これから敵中突破を援護させられるこちらとしては、もっと増援を切実に寄越して欲しいですが』

 

 

 そうこうする間に、ウィングス隊は件の輸送機をレーダー、そして視界にて捉える。何度見ても|軍事学的常識に真っ向から喧嘩を売り付ける《戦闘空域に向けて丸裸の輸送機一機が飛行する》非常識な光景に呆れた物言いが出てしまう面々であったが、()()()()()()()()()()()()()()と言う特異性を持つ艦娘の事を考えればこの無謀な行動にも一定の理が有るので、それ以上言う事は無い。

 

 

 

【……あー、此方『Sky Train』。前方の友軍機、あんたたちの愚痴此方にも丸分かりだったが】

 

『やっべ……』

 

「こちらウィングス隊。これより貴機の護衛に付く。それと、俺達の独り言は聞き流してくれ。大体事実だろ?」

 

【一切否定できないのが悲しい話だ、全く……】

 

 

 

 ーーーー彼も苦労しているな

 

 

 

 一端後方に飛び去ってから改めて旋回し護衛に付きながら、この無茶無理無謀な三無し突撃行を輸送機のパイロット自身は望んでやっている事では無いと分かり内心同情するウィングス隊隊長(ウィングス1)。その場に居ない人間であれば『祖国の危機に何を軟弱な事を』だの何だのと好き勝手に彼らの弱音を責め立てるだろうが、一瞬の動きが生死を分ける命を賭けた戦場を駆け抜ける者達に取って見ればそんな世迷い事など聞く気は無い。

 

 

 

 

「……ウィングス1より『Star eye』。戦闘空域の戦況を教えてくれ」

 

【……『Star eye』よりウィングス1。現状は此方側優位。逐次投入してくる敵機を、各部隊で交代しつつ処理し続けている。ただ、弾薬の消耗が激しくてミサイルのみならず機関砲弾すら枯渇した部隊も居る】

 

『ミサイル戦全盛期たる21世紀にもなってドッグファイトとはねぇ。……幸いなのが、相手の動きが力押し以外の何物でもない点だけか』

 

【私語は慎め、ウィングス3。その力押しが厄介過ぎて各部隊への指示に四苦八苦している私達(早期警戒管制機隊)への当てつけのつもりかな?】

 

『……ウィングス3より『Star eye』。すみませんでした』

 

【よろしい】

 

 

 

 そう遠くはないとは言え、戦闘空域からは多少外れている事も有ってか軽口を交わすウィングス3とE-3『Star eye』の管制官。不真面目に見えるかも知れないが、この様な気の抜けた会話によって精神的無用な緊張感を解し、余計な緊張をしない様に努める事も重要である。

 

 

 

【……そして、続報だ。戦闘空域をすり抜けた8機が其方に向かっている。機種はそれぞれYak-38M(フォージャー)が2機、AV-8B(ハリアーII)が2機、ハリアー GR.1が4機だ】

 

()()()へ攻撃するつもりか。各機、AIM-120 AMRAAM(アムラーム)スタンバイ。『Star eye』、誘導を頼む」

 

【分かった。発射タイミングは此方から出す】

 

『了解、ボス。しかしこの編成としては、後方基地へ爆撃も有り得そうですね。だがYak-38M(フォージャー)って、本当は博物館にしかない様なレア機体なんだが』

 

『しかも国籍表示(IFF反応)が何故かアメリカだからな。アレ本来はソ連製の機体だし』

 

『ウィングス2より3・4へ。好い加減に真面目にならないと()()滑走路を往復100周させられますよ』

 

「心配するな、ウィングス2。今日の働き如何で既に100周走らせるかどうか考え中だ」

 

 

 

 その隊長の一言に震え声で意見具申を始める(慈悲を求める)ウィングス2と3を尻目に、自機のコンソールを操作しF-22(Raptor)の牙の一つである中距離空対空ミサイル(AIM-120 AMRAAM)の発射準備を手早く完了させる。二番機のウィングス2も同様に準備完了させ、色々言っているウィングス3と4も同じく準備を完了させる。彼らはエースだ、間違いなく。

 

 

 

 

【……(three)……(two)……(one)……(Now)!】

 

「了解!ウィングス1、Fox3!」

 

『ウィングス2、Fox3!』

 

『ウィングス3、Fox3!Fox3!』

 

『ウィングス4、Fox3!』

 

 

 『Star eye』のコールと共に、間髪入れずにアクティブレーダー誘導ミサイル発射の符丁をコールするウィングス隊。その直後、F-22(Raptor)胴体の爆弾槽が解放され、各機に搭載されていた中距離空対空ミサイル(AIM-120 AMRAAM)が機外へ放出、そして自身の存在意義を果たすべく白煙を引きながら一瞬で彼方へと飛び去って行く。

 

 

【誘導開始……敵機、ミサイル発射。電子妨害開始】

 

「回避は?」

 

【問題無い……妨害に成功。ミサイル、全弾命中確認!】

 

 

 

 そう『Star eye』が宣言した直後、レーダー上に表示された敵機が纏めて消失したのをウィングス1は確認した。双方がヘッドオンのまま、特に相手側が高速で接近していた為にミサイル発射から余計に時間がかかる事無く撃墜出来たのだ。マッハ4で飛翔するAIM-120 AMRAAM(アムラーム)の性能とE-3『Star eye』の支援が優れていたのも大きな要因だろうか。

 

 

 

「……やはり、奇襲さえされなければ此方が有利か」

 

『寧ろ電子戦機の支援も無しに単独で飛行するV/STOL機の編隊相手に、AWACSの支援付きのF-22(Raptor)が撃ち落されたとあっては、私達の存在意義がないですしね』

 

 

 

 イギリスでもそうであった。まるで湧いて出たとしか思えない状況からのスタートで有ったが為に数的不利に加えて至近距離での乱戦に巻き込まれて結果敗退はしたものの、単純なキルレート自体は機体性能が優れていた人類側空軍の方が優位であった。

 

 

 

「……イギリスとフランスの借り、この場で返して貰うぞ。このMutant Ship(クソ野郎)……!」

 

 

 

 イギリスでそれなりに親しかったイギリス空軍(RAF)の友人、又顔を見た事は無くとも共に戦い、異国(ブリテン島)の空に散ったフランス空軍の戦友を多く失っていたウィングス1の奥底から煮え滾った決意の宣言と、E-3『Star eye』からの【敵機増援多数!】のコールが無線上に響き渡ったのは、殆ど同時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……一体、どういう事だ?何故、遅々として進まない?」

 

 

 やや暗い照明に包まれたCICにて呟く、一人の白銀の女性。少々渋い表情と疑問満載の一言は、思念操作にて動かし、映し出したスクリーンの戦況状況に向けて放たれていた。

 

 

 

「米軍の長距離対空ミサイル攻撃である程度削れる事は見越していた……だからこそ対応能力を遥かに超える機数を叩き付けた……だが、未だに東海岸の内陸に雪崩れ込めない……?」

 

 

 自身の予想を超える戦況に、動揺とまでは行かないまでも考えが追い付かない『デュアルクレイター』。目算では既に乱戦に持ち込んだ米軍航空部隊と地対空ミサイルの防衛網を突き破り、各地の軍事基地に加えて弾薬が余れば適当に自由の女神等のアメリカを象徴する建造物でも破壊する予定だった。後者は挑発の為だけである。

 

 

「……ならば、仕方が無い。少し早いが艦載艇を出そう。まさか、操縦者が機械で無く人間であると言うだけで此処まで差が付くとは、な」

 

 

 だが現実は、三度目の超巨大強襲揚陸艦『デュアルクレイター』艦載機隊の強襲にも、米軍は耐えた。『デュアルクレイター』なりに、分進合撃や一塊となっての突撃と工夫もしていたが、米軍は適切に必要箇所に戦力を集中し、尚且つローテーションを構築し決して防衛網の網に穴を開ける事は無かった。一定数が強引に抜け出たとしても、大して間を置かずに撃墜され続けている。

 

 

 

「仕方が無い、少し早いが出るか……。しかし……分からんな、アメリカ人の考えは。()()()()()()を、それも()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 そう呟き思念操作にて艦載艇を出撃し、自身も突撃体制へと移行する姿を、高度一万メートル近い高空を飛行するE-3(Sentry)が、あらゆる機材で持って捕捉し、睨みつけていた。『デュアルクレイター』の思考と知識(データベース)には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……『桜風』」

 

「はい」

 

「……不知火が言う事では無いかも知れませんが」

 

「はい」

 

「……もう少し説明があっても良かったのでは?」

 

「……御免なさい」

 

 

 

 戦闘空域内へ突入して暫く経つ『Sky Train』内部。その中では『桜風』が座席の上で正座して不知火に小言を言われていた。これで『桜風』がこの世界に来てから一体何度目の御小言になるのだろうか。

 

 

 

「あれ程の兵器や技術を持っているのが敵なのですから、まさか()()()()()()()()()()()()()と言う事を予測しろ、と言うのは難しいです」

 

「はい……」

 

 

 

 しょぼくれる『桜風』の姿を見て、何とも言えない気持ちになるしかない不知火。余りにも無謀極まりない輸送機の突撃を()()()()()()()()()と主張し続ける事に、仲間への攻撃を極度に嫌う『桜風』の性質とは些かズレが有ると疑問を抱いた不知火の疑問に対して。

 

 

 

「だって、私達の世界は大艦巨砲主義のまま進化したせいで()()()()()()()1()9()3()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()から、この世界の米軍だったら問題無く防いでくれるよ」

 

「概念が進化していない……?」

 

「うん。砲撃戦や魚雷戦は此方の十八番だけど、代わりに航空戦関係だと数纏めてぶつける程度で空中管制機による三次元指揮とか、想像もされた事無かったから。結構早くに航空機は完全無人化されて比較的簡単な機動が主体だったり、脆弱なハードの航空機じゃ何したって直ぐに落とされるって現実も有るけど」

 

 

 

 こんな言葉を返されれば、何かしら言いたくもなるだろう。因みに米国には事前に二式大艇を使用してその旨は伝えられていた為、この場に居る面々が知らなかったのは完全に言葉が足りなかった『桜風』の失策である。猛省しなければならない。

 

 

 

 

「……流石に、今までの情報だけでその事を予測するのは無理だよ、『桜風』」

 

「うぐっ」

 

 

 瑞鶴の率直な感想の一撃により、中破し首を垂れる『桜風』。

 

 

「確かにな……あの映像で分かる事は多種多様な兵器と軍艦が乱舞していると言う事だけで、戦術関係の事まで想像するのは困難だ」

 

「ぐぅ……」

 

 

 続けた長門の一言が、更に『桜風』へ大破を齎し、更に深く首を垂れる。

 

 

 

「……それ以前の話として、米軍の事を信用するのは兎も角としても、ミサイルが飛び交う戦闘空域に突入して飛び降りろと言うのは、危険以外の何物でも有りません」

 

「……かはっ」

 

 

 漸く観念した加賀の冷たい一言が、『桜風』の脆弱な精神バイタルバートを貫き、サンドイッチの如く、または土下座するかのように深々と頭を垂らす。『桜風』、加賀の口撃により撃沈確実である。

 

 

 

 

「……どういう事何だ?」

 

「単純な勘違いによる伝達ミスです。あの娘、日常会話はそれなりに出来て来ているけど、過去の経験からこういった伝達とかは自分の中で止めて他人に伝えるのを高確率で頭から抜け落としている事が多々あるので」

 

「あ、えっと……説明、感謝します」

 

「結局お前も話しかけてるじゃねぇか。ズルいぞ」

 

「……いや、俺はお前と違ってそう言うつもりは無かったんだよ」

 

 

 そんな状況に着いて行けないゲルマン系護衛兵の疑問の声に、深山満理奈が律儀に解説する。戦場以外では基本的に『桜風』(何処にでも良そうな純朴少女)真面目系天然娘(戦場以外ポンコツ軍艦)な事を知る由も無い部外者が見れば、遠くから見た今回の姿は何某のヘンテコな儀式(西欧人視点東洋の神秘的なあれ)に見えなくも無い。多分。

 

 

 

 

「……それで、ミズ(Ms)

 

「何かしら」

 

「本当に、飛び降りるつもりかな?」

 

「当然」

 

 

 さも当然と言い放つ深山満理奈(大和撫子)に対して、軽くため息を吐きつつ肩をすくめたラテン系護衛兵。一見ラテン系らしいお調子者な雰囲気満載の彼だが、実態としては空挺技能を身に着け、原隊でも相当信頼されている程度には技量の高いベテラン兵士である。そんな彼からして見れば、空挺降下所かパラシュート降下をした事も無いずぶのド素人の自殺紛いに危険かつ無謀な行動には好い加減看過出来る訳が無かった。

 

 

 

「……正直言って、現役兵である俺から言わせて貰えば、あんたらの行動は余りにも危険すぎる」

 

「おい……」

 

「悪い、責任は俺自身が取るから黙っててくれ……。確かに、あんたらの選択(空挺降下)が一番手っ取り早いのは事実だが、今までパラシュート降下もやった事のない素人がするのは流石に経験者として止めざる負えない。アメリカ人として極めて有難いのは山々だが、今からでも……」

 

「…………」

 

 

 そう言って翻意を促すラテン系兵士であったが、当の深山提督はラテン系兵士の説得は何処吹く風、無言で窓の外を眺めていた。同輩の行動に頭を抱えたゲルマン系兵士が視線を移せば、つい先ほど生贄見たいな様相だった純朴少女(『桜風』)が同じように窓の方を見ていた。周囲の少女たちは何事か話し合っているが。

 

 

「……なあ、確かに不快になる気持ちは分かるが……」

 

 

 決意を翻させようとする言葉に不機嫌になったと思ったラテン系兵士が、更なる言葉を紡ぐべく口を開き……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……全員、何かに捕まって!!」

 

「皆伏せて!ミサイルが来る!!」

 

 

 深山提督、そして『桜風』の突然の絶叫、そして同時にラテン系兵士はゲルマン系兵士と共に行き成り座席に引きずり込まれたとほぼ同時に、鼓膜に直接叩き付けられるような爆裂音と金属が引き裂ける轟音、そして()()()()()()()()()()()()()()()()()が機内へと襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……機外に放り出された人は居ません!」

 

「轟音が……戦闘機……」

 

「……パラシュートを……飛ばないと、そろそろ限界……」

 

「……立ちなさい……蹲っても……」

 

「加賀さん……冷静過ぎ……」

 

 

 轟々と風切り音が吹きすさぶ中、場違いに冷静な声と共に、焦っている事が分かる調子外れな大声が風音にかき消されつつも機内に響く。

 

 

「……な……なに……が…………?」

 

 

 突風が吹き荒れる機内にて、ラテン系兵士は顔面と片腕と右足を強打して悶絶する同輩に対して、そう言うのが精一杯であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソ、状況は?!」

 

「機体後方にミサイル着弾!機体に大穴が開いています!機内気圧低下、右尾翼脱落!上部尾翼破損確認!」

 

「良く飛んでいられるな!流石我が合衆国の最新輸送機だ!!」

 

「やけくそ丸分かりですよ機長!」

 

「言われなくても分かってる!!」

 

 

 今までの警告より遥かに危機を煽る音色と点滅(レッドアラート)が操縦席全域を覆い尽す中、操縦士二人はコックピットが映し出す自機の被害状況を総浚いに確認しながらも、安定的な飛行を行える様に必死に任務を遂行していた。無理に飛ばせば、機体尾部が耐え切れずに引き千切れて操縦が更に困難になり、だが緩め過ぎた飛び方をすれば、敵機に集れて一巻の終わりだ。

 

 

 

「ウィングス隊!『Star eye』!此方『Sky Train』、被弾して損傷は軽くは無いが未だ飛べそうだ!」

 

【此方『Star eye』。『Sky Train』了解。後少しだから頑張ってくれ!ウィングス隊、行けるな?】

 

『問題無い、未だ行ける。行けない奴は俺が先んじて落とすからな』

 

『隊長それ流石に冗談ッスよね?!』

 

『ウィングス3、隊長は貴方が敵機を撃ち洩らした事により出た被害に対してお怒りの様子だよ』

 

ワントライ・トリプルキル(ヘッドオンからの一航過で三機撃墜)で不十分だと申すのかウィングス2?!後サラッと嘘言うな、アレ多分流れ弾だろ!?』

 

『護衛がもう少し居れば防げたかも知れませんけどね……数が多すぎて、手が足りなさすぎる』

 

 

 宝玉や黄金より遥かに貴重な積み荷に被弾を許してしまったウィングス隊だったが、『デュアルクレイター』搭載の艦載機隊からの攻撃はE-3『Star eye』の指揮の元奮戦し、撃退し続けていた。中距離空対空ミサイル(AIM-120 AMRAAM)は既に欠乏した為に短距離空対空ミサイル(AIM-9X サイドワインダー2000)バルカン砲(M61A2)で戦闘継続していたが、針路上とは別方向の戦闘空域より突発的に飛来したミサイルが偶然直撃したのだ。確率論的に絶対有り得ない訳では無いが、不運以外の何物でもない。

 

 

 

 

「……機長!アレ!」

 

「……冗談見たいな光景だな。流石にデカいにも程が有るぞ、俺達SF映画か何かの登場人物になったのか?」

 

「それだと、自分ら積み荷送り届けた途端に撃ち落される役ですよね」

 

「……そうなるな」

 

 

 

 そんな会話を交わして、視界に入った異様に巨大かつ異質な形状の軍艦らしい物(超巨大強襲揚陸艦『デュアルクレイター』)の事を軽く評する操縦士二人。厳密に言えば単純なる現実逃避だが。

 

 

 

「悪い、邪魔するぜ!」

 

「ちょっと、操縦席には入らないで……って、あんた確か護衛兵だな!?」

 

「時間が無いから要点だけ伝える!後5分だけこのまま直進してくれ!積み荷さんらの頼みだ!」

 

「五分、五分だな!?良いだろう、絶対飛ばし切ってやる!」

 

「それともう一つ……『無茶に付き合わせてしまい、ごめんなさい。お詫びに勝利をプレゼントいたします』、だ!!」

 

 

 

――――粋な事言ってくれるねぇ、あの嬢ちゃん達

 

 

 進入したラテン系兵士の伝言に対して現在笑える位に危機的状況でありながらも場違いにそう思った機長は、無言のままのサムズアップを答えとした。降下地点まで、あと少し……




技術のみ、兵器のみが発達し様とも、それらを扱うのは神成らざる人間です。そして軍人と言うのは、案外保守的な物です。

WSG2の時代設定は1939年3月から一年程度。この短期間では1000馬力級のレシプロ戦闘機から現用超音速戦闘機等にまで進化した兵器への対応で組織的に手一杯でしょう。

そんな状況で、此方側の世界で第二次世界大戦から始まり、冷戦化での競争により無数の戦訓を積み上げた【航空戦】に限れば、ノウハウ不足により『デュアルクレイター』の艦載機隊には不利でしょう。艦載機の能力さも有りますが。



…と言うかですね。E-2C ホークアイに爆雷やら対潜ミサイル乗っけてる様な世界が、全うに航空戦のノウハウ積み上げられたとは到底思えないんですよね、ゲームシステムの限界に色々言っても仕方が無いですが(メタ発言)

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