艦娘の咆哮 ~戦場に咲き誇る桜の風~   作:陣龍

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皆様、新年明けました(一か月遅れ)

いやあ、何だか社会人になってより月日の感覚がぶっ壊れて久しい感じだったり、何だか続きが出て来ないなぁとか色々有ったのですが


遅れました一番の原因は龍が如くのプレイ動画見てたからでした(謝罪)
仕方なかったんや、深山提督が今度(大分先)にやる予定の対人格闘戦の資料に一番良さそうだったんやコレ。そしたら見入ってしまったんや、虎落しとか色々カッコ良かったんや、俺は悪くネェ(開き直り)


第五三話  悪夢、再び(Nightmares again)

「……もうそろそろです!皆さん、事前の作戦通りにお願いします!」

 

「一番苦労するのは相変わらず『桜風』だけどね!無茶して怪我しないでよね!」

 

「頑張るけど多分無理!」

 

「やりなさい!私怒るわよ!」

 

「いやでも今から戦場に出るのに流石にそれは理不尽だよ陽炎?!」

 

 

――――仲が良いのは素晴らしい事では有るんですが……

 

 

「……青葉、顔に出てるよ」

 

「司令官」

 

「気にしなくても大丈夫。これからもどうにかなるから」

 

 

 オレンジ髪の少女と黒髪一束結びの少女が暴風に負けない様に大声を出しあう中、何時の間にか制御役ポジションに収まりそうな気がしてならない青葉は、相変わらずに相変わらずな二人を見て何とも言えない思いになるのだった。尚、この場では金剛と不知火は現在パラシュート降下のやり方の最終確認を、加賀と瑞鶴は艤装を呼び出して艦載機の微調整をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦況は刻一刻と……主に、米軍にとって悪い方向へと変化しつつあった。ファースト・ラウンドの航空戦では世界最強と自他共に確信する米軍の戦闘機部隊によりやや優勢のまま推移しつつあったが、『デュアルクレイター』がその外見的最大の特徴である双胴式の船体に収められた二つのウェルドック(デッキ状のドック式格納庫)より無数の艦載艇を発艦させ始めると事態は変化した。

 

 

 『桜風』の居た世界……もっと言えば、ウィルキア帝国が源流の超兵器技術を用いられた艦艇は、船体の基礎構造が異様に強化されているのが通常であり、この法則は『デュアルクレイター』が放つ小さな艦載艇でも例外では無かった。

 

 

 

Shit(シット)……至近弾で転覆も誘爆もしないのはおかしいネー!」

 

「雷爆撃を直撃させない限り、あの艦載艇を撃沈は出来ない……厄介な話です」

 

「気持ち悪い位に居る……まるで、海が意思を持ってうねり出している見たい」

 

 

 

 彼女達帝国海軍見張り員仕込みの、初期型電探より()()()艦娘の視界の中には、アイオワ級戦艦の砲撃が至近距離に着弾しても平然と水柱を()()()()()ひた走る小型艦載艇の姿が有った。視界の端では、最新鋭の新型空母、ジェネラルド・R・フォード級航空母艦に搭載されたMk.15 20mmCIWSで蜂の巣にされた筈が、何事も無かったかのように突貫し雷撃を敢行、狙われた米軍空母を庇うべく緊急増速したボルチモア級重巡洋艦の横っ腹に大きな水柱が生まれていた。

 

 

 

「……『桜風』。あの艦載艇の名前は?」

 

「小型艇Ⅰ型。艦級とか名前とかは特に無い奴だけど、行き成りどうしたの不知火?」

 

「そうですか……いえ、特に理由は無いです」

 

「不知火さん。多分『あんなとんでもない艦ならばどんな名前なんだろうか』と思ったんですよね?」

 

「……はい」

 

「青葉さんに内心見抜かれて顔を染めた不知火可愛いー!流石私の妹!」

 

「……陽炎姉さん、一体何を言ってるんですか。不知火に落ち度でも?」

 

 

 

 海を覆う艦載艇(ピラニア)と、一向に減少する気配を見せない敵垂直離着陸機(ホーク)ヘリコプター(ハゲワシ)の群れを追い払うのに難渋する米軍艦艇(カウボーイ)全艦種揃い踏みの米艦娘(獅子と鯱)を横目に見ながら、相変わらずやいのやいの騒ぐ駆逐艦勢(小動物達)とそれを微笑ましく見守る長門達大型艦娘勢(菩薩勢)。『桜風』に関しては、雰囲気こそ柔らくも抜き身の妖刀の如き威圧を秘めていたが。

 

 

 

「……時間です。皆さん、幸運を!」

 

 

 そう言うなり、一番に『デュアルクレイター』が懐に飛び込む為に扉の目の前に居た『桜風』は一息に飛び降りようと……

 

 

 

 

 

「……何やってるの、『桜風』?」

 

 

 

 ……する筈が、車のサイドブレーキを行き成り全開にしたかのように突然、扉の淵をつかんだまま急停止した。身体は外に向けたままなので、『桜風』の表情を見る事は出来ない。

 

 

「…………陽炎」

 

「どうしたの?」

 

「…………怖い」

 

 

 ポツリと言われた『桜風』の言葉に、全員が一瞬意味が分からず唖然とした。が、考えてみれば当然である。海上であれば鬼神の如き戦いと、死狂いと思われても仕方が無い行動ばかりしてのけるが、それ以外では一部ズレてるだけの少女である。初めての空中ダイビングに恐ろしさを感じても仕方が無いと言えば仕方が無い。

 

 

 

「はぁ……『桜風』」

 

「深山提督、ちょっと、ちょっとだけ待って下さい。今心の……」

 

 

 呆れた溜息を吐く深山提督が、順番待ちしていた艦娘の脇を通り『桜風』の背後に立つ。その事を感じ取り、声を聞き取った『桜風』は何事か言い出すが……。

 

 

 

 

「えっ?」

 

 背中に背負ったパラシュート越しに伝わる衝撃と、地に足が着かない未知の浮遊感。

 

 

「はい、行ってらっしゃい」

 

「……ぴ、ぴゅあぁぁああーーーーー……」

 

 

 時間が押している事も有ってかそんな事(泣き言)は一切聞かずに、深山提督は容赦なく『桜風』の背中を押した。……()()()、と言うよりは()()()()()()、と言うべきかも知れないが。

 

 

 

 

 

 

「……綺麗な顔して、容赦無いなあの人……おい、大丈夫か」

 

「ああ……まだ痛むが、骨までイカれてる訳じゃ無さそうだ」

 

 

 唖然とする面々を他所に「先に往くわよ」との一言と共に深山提督が飛び出したのに触発された艦娘達が慌てて全員飛び降りた後の空っぽの機内にて、アメリカ人護衛兵二人は、そんな感想を交わしていた。既に荷物を届け終えた『Sky Train』は、旋回して戦闘空域より離脱を始めている。

 

 

「……勝ってくれよ」

 

「心配するな、彼女達は絶対勝つさ」

 

「……その無駄に自信満々な根拠の理由は?」

 

「知れた事!日本人は、『()()()』と言った事は絶対やってのけるって話だからな!」

 

「……それ、本当に宛になるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

「……そう言う事か。そう言う事か!ああ何と言う事だ、こんな世界に来てもお前と会いまみえるとは!」

 

 

 雪の様に白い髪色と瞳が特徴的な氷の美女の言葉が木霊するCIC。双胴と船体それぞれにそそり立つ艦橋が外見上一番主張している、超巨大双胴強襲揚陸艦『デュアルクレイター』。それを操る彼女は、先程までのある種の虚無感等掻き消えたかのように、様々な感情を爆発させていた。

 

 

「私をっ、超兵器をっ、『デュアルクレイター』を沈めた駆逐艦が、まさか共に、この世界に転移して来ていたとは!ああ、神よ。私は今こそ貴方に感謝しよう!こんな、こんな場所でっ、まさか、あの駆逐艦と戦えるなんて!!」

 

 

 所々詰まりながらも、そして目尻に涙を浮かべながらも、雪の様に白い顔を紅潮させる『デュアルクレイター』。先程までの退廃的な雰囲気など消え失せたその姿は、軍人然とした風貌とは似つかわしくない程に……まるで、数時間迷子になり、漸く両親を見つけた幼児の様であった。

 

 

「艦載機隊、艦載艇部隊!出し惜しみ無しだ、全て出す!邪魔物は全てこの海から叩き出せ!あいつは、あの駆逐艦は、私の!私だけの得物だ!!」

 

 

 

 戦闘空域に突貫して来た輸送機が誰かを降下させたかと思えば、それが軍艦に変化……しかも、最弱である筈の駆逐艦でありながら自身をブリテン島沖の海底へ叩き沈めた駆逐艦『桜風』であった事は、超兵器としての立場と矜持を粉微塵に打ち砕かれた汚名を雪ぐ為に神が作り出した絶好機に他ならなかった。少なくとも彼女は、そうとしか思えなかった。

 

 

 

「沈めて見せる!絶対に、我がウィルキア帝国に歯向かったあの駆逐艦は、この『デュアルクレイター』が沈めて見せる!それが、それこそが!私の使命だ!」

 

 

 

……彼女の思考は、既に『桜風』をどうやって撃沈するかの一点に全てを注ぎ込んでいた。先程まで襲っていた米海軍の事や、レーダーと艦載機で確認して居た筈の別の降下した艦艇群の事は、完全に忘却の彼方であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……生きてますかー艦長ー?』

 

「……死ぬかと思った」

 

『OK、大丈夫ですね。じゃあ行きましょうか』

 

「……心配の言葉一つくらい掛けてくれても良いんじゃないかな、副長」

 

『撃沈されない限り死にはしないでしょ、艦長』

 

 

 艦艇前部第三砲塔の最上部で腹這いになり、海水で全身びしょ濡れのまま降下中叫び過ぎて荒い呼吸をしていた自らの艦長に対して完全なる塩対応で答える駆逐艦『桜風』の副長。周囲の妖精さんもパラシュート降下で減速していたとは言え、想定外の着水を強いられた艦の状態チェックに余念が無く、自らの艦長の事は殆ど放置状態である。

 

 

「……提督や青葉さん、陽炎たちは?」

 

『向こうは向こうで無事着水したようです。ただ風で少し流されたらしく、艦艇のチェックと合わせて少し集合まで時間かかる見たいですが』

 

「……なら、良かった」

 

 

 顔こそ下に向けたままで表情は見えないのだが、声色は安堵し切った様子で副長に答える『桜風』。少しとは言え動かずにいた為、荒かった吐息も段々と落ち着きを取り戻しつつある事を内心安心しながらも、副長は次の言葉を紡ぐ。

 

 

 

『それで艦長』

 

「何……?」

 

『どの程度()()()の事見てるんですか?』

 

「……何時から気付いてたの?」

 

『初めから、ですかね?』

 

 

 

 

 

 黒髪より海水を滴らせながら面を上げた『桜風』に対して、仁王立ちして事も無げに返す副長。この世界に転移してからずっとの付き合いである。『桜風』(艦長)が本当は何を考えているのか、何となく見当が付いていた。

 

 

「……まあ、『デュアルクレイター』の事は置いて置くとして。此処まで誂えた様な絶好機を逃したら後が怖いからね」

 

『真意知ったらまた陽炎さん達怒りますよ?』

 

「後回しにしたら余計に苦労するから……それに、言わなければ、大丈夫だから……多分」

 

『まあ正直に言って、深山提督筆頭に言わずとも艦長が何か企んでる事自体はバレてると思いますけどねぇ。艦長分かり易すぎますし』

 

「…………イヤ、キット大丈夫ダカラ、ウン」

 

 

 顔面真っ青にしながらも自分に言い聞かせる様に呟く『桜風』に、此奴もうダメだと勝手にご冥福を祈り出す副長妖精。挑戦した回数は少ないとは言え、この世界に来てからこの様な裏のある考えが思惑通りに行った事は一度も無い。

 

 

 

 

 

「……ふぅ。……落ち着いた」

 

『じゃあ早く艦長席に来て下さい。もうそろそろ艦全体の確認が終わる頃ですし』

 

「分かってるって……さて、と」

 

 

 

 何やら呪文の様に小声で「大丈夫、大丈夫、キット分カッテクレル」と暫く呟き続けて落ち着いたのか、『桜風』は副長妖精を肩に乗せて第三砲塔より甲板に飛び降り、何事も無かったかのように自身の居るべき場所へと歩み出す。

 

 

 

「……後部主砲」

 

『撃ちー方、始め!!』

 

 

 

 唐突に歩みを止めて下された号令に、間髪入れずに反応する副長と瞬時に稼働し、咆哮する二基の『15.5㎝75口径4連装砲』。直後、何かが爆散する轟音が辺りに響き渡る。

 

 

 

「……英国空軍の国籍マークが記された、複座型可変翼機。間違いない、『トーネード GR.4』」

 

『向こうさんもようやく本気出したって事ですねぇ』

 

 

 

 15.5cm75口径砲弾複数の直撃と至近弾の爆圧を受けて炎上し、艦上部を飛び越えて海面に突っ込んだ敵機の一瞬の姿を見届け、そう判断しながら艦橋直通昇降機(エレベーター)へと入っていく『桜風』と副長。対艦兵装は無誘導の1000lb爆弾だけの為に直線軌道を取らざる負え無いとは言え()()()()()()()()()()()()()()事は本来相当至難の業なのだが、そんな事位は駆逐艦『桜風』では極々当たり前の日常である。

 

 

「……何だか凄い事になってるね、無線」

 

『まあ、今までヘリコプターとV/STOL機しか出してませんでしたし、通常の固定翼機が出て来る事は想定外だったんでしょうけどねぇ』

 

「一応こうなる可能性とかは伝えはしてたけど、やっぱり直接見るまでは信じられない、か。まあそれはある意味軍隊組織的には極めて真っ当かつ正常である証拠でもある訳だけど」

 

 

 傍受した無電から、垂直離着陸機だけでなく通常の固定翼機……それも、完全なる陸上機が『デュアルクレイター』の短い飛行甲板より多数飛び立った事に様々な動揺と驚愕、そして逆に奮い立つ音声が流れる中、何処か他人事の様に話す二名。とは言え、『桜風』に取っては()()()()()()()()()()()()

 

 

 

『それよりも艦長。早く何時もの服装に着替えられたらどうですか?エレベーターが水塗れになりますし』

 

「あ、ごめん。えっと……」

 

 

 艦橋へ向かう昇降機の前で副長に指摘された『桜風』。そして『桜風』は、両手と海水に濡れ切った衣類を眺めて……

 

 

『……どういう理屈でそうなるんですか』

 

「……さあ?」

 

 

 その場で軽く一回転した途端に、『桜風』の身体の線が浮かび上がる程度に海水に浸かっていた上下共に飾り気皆無のシンプルな普段着から、『桜風』の艤装でも有るウィルキア解放軍女性士官用の軍服へと一瞬で着替えられていた。何故そんな事(何時でも艤装に着替えられる事)が出来るのか等の理由は全く分かっていない。艦娘共通の七不思議の一つである。

 

 

「まあ、今更の話だしね」

 

『まあ、確かに今更の話ですね』

 

 

 昇降機(エレベーター)から降りて艦橋の戦闘指揮所へ入る扉前にて、軽く言葉を交わし終えた『桜風』が自動開閉扉横のセンサーに右手を当て、空気が抜けた様な軽い音と共に開け放たれる見慣れた風景に、何時もの場所で何時もの様に仕事をこなしながら挨拶する艦橋に詰めている妖精さん達。何故か、自然と安心してしまうこの状況。

 

 

 

「じゃ、本題に行こうか」

 

『そうですね……では』

 

 

 

 

ご命令を(What's the order)艦長(Captain)

 

敵の撃沈(The enemy's sinking)それも全てを(that's all)

 

了解(Roger that)艦長(captain)

 

 

 艦橋に詰めている妖精さん達に見せた、穏やかな微笑みを湛えているその二対の眼の光は、先程までの柔らかさが一切掻き消えた、触れる物全てを切り捨てる刃の如き鋭さを秘めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「各員、状況を」

 

 

 何時もの服装(ウィルキア解放軍女性士官用の軍服)何時もの場所(艦長席)にて下される、何時もの声色(『桜風』)の声。その声に応えて機器を操り艦橋全面ディスプレイに映像を出す妖精さん達も、手慣れた物だ。

 

 

 

『電測員です。敵小型艇と航空機、今なお増大傾向。正し、米軍艦艇並びに分艦隊(深山対超兵器艦隊)へと新規に向かう戦力は激減。平たく言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()です』

 

『加えて、当の超巨大双胴強襲揚陸艦『デュアルクレイター』も獲物を見つけた狂犬の様に此方に向かって来ていますよ。艦長、ペットにでもどうです?』

 

「うーん。じゃ、餌には水雷妖精を食べさせれば良いかな?」

 

『それだけはお許しください『桜風』様!』

 

 

 

 「なら真面目にやってね、もう」と少々困った表情で軽くため息を吐きながら言う『桜風』の言葉に、内心(やっぱり砂糖より甘いよなぁ艦長)と当の本人(『桜風』)除く艦橋要員全てが思いながらも、物理的に五体投地な水雷妖精以外の面々は自分の仕事をこなしていく。

 

 

 

『威力偵察に出撃したスカ―フェイス隊、並びに米軍空中管制機からの情報集約が完了。今、海図をモニターに……』

 

「もう出したよ。……よし、取り敢えずはこのルートで」

 

『アッハイ……って、コレ……敵さんのど真ん中を強行突破するルートなのですが』

 

「うん。まあ、一々回り込む時間的余裕も無いしね。向こうがこっちに向かって来るお陰で相対的距離はそこまで長くは成らないと言うのも有るから、被弾も最低限に抑えられるよ」

 

『……ウチ等は名高き鬼島津の末裔か何かですか?関ケ原の退き口級の敵中突破具合なんですが』

 

「ボヤいてる暇が有ったら総員第一種戦闘配置。後少しで敵小型艇群と会敵するよ」

 

 

 

 行き成りの『桜風』から下された命令に対し、口々に悲鳴を上げながら砲術班等の戦闘要員が艦艇各所を全力疾走する妖精さん達。饅頭顔の二等身が多数動き回る様は傍から見ればコミカルだが、当の妖精さんらは至極本気で真面目である。

 

 

 

『敵小型艇接近!総数不明!!』

 

「海を埋め立てる勢いだねー。レーダーでの光点で分かっていたけど、実際に見ると壮観だよ」

 

『何呑気な事言ってるんですか艦長!』

 

「はいはい。先ずは面舵30度、全速前進。小物に関わってる暇も無いから、砲雷撃は最低限で行くよ」

 

『因みに針路上を塞ぐ敵小型艇は!?』

 

「轢き潰して」

 

『何となく予想着いてましたよ了解しましたコンチクショー!』

 

 

 

 真顔で事も無げに言われた馬鹿げた命令を、諦観満載の絶叫で返す主計課妖精。周囲の爆笑に包まれながら漫画やアニメ的表現ならば確実に双眸より涙のラインを浮かべながら放った彼の言葉は、修理や補給の度に工廠の面々から呆れと引き攣った表情を常々見せられる気苦労が多量に織り交ざっていた。実際の所、主計課妖精が処理する修理費用や補給申請の報告書は『桜風』所属の妖精さんのみならず、深山艦隊所属全艦娘の中でも頭二つ分抜きんでているのだから仕方が無い。

 

 

 

 

「……取り舵15度、前進強速。主砲、撃ちー方、始め」

 

『取り舵15度、前進強速!撃ちー方、始め!』

 

 

 笑い声が響く艦橋の雰囲気が、『桜風』の号令一下にて一瞬で塗り替わる。幾多の各種機械音と『桜風』の号令、妖精さん達の応答と報告の声。そして遠雷と轟雷が折り重なる様にして艦内にまで響き渡る、砲雷撃と防御重力場の被弾による反射が生み出す無数の轟音。駆逐艦『桜風』では日常の、何時もの(異常な)光景。

 

 

「さて……やりますか」

 

『不知火さんの真似ですか、艦長?まぁ常々ナイフ見たいな眼光している不知火さんと比べると、何だか可愛らしいモンですが』

 

「……水雷長。やっぱり終わったら釣りする為の餌ね。頑張ってサメをひっ捕らえるまで何度も投げ込むよ」

 

『止めて下さい()()死んでしまいます!!』

 

「いやそこは断言しなさいよ」

 

 

 

 

 

 

「……此処までは、予定通り。と言う訳ですかな」

 

「……取り敢えずは、そうなりますね。艦長」

 

 

 米国海軍第四任務部隊旗艦、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦アンツィオ(Anzio)。深海棲艦との戦闘で多数傷付き、漁礁へと化した全世界の現代艦の中でも極僅かの、開戦前からの生存艦の中で常に最前線で踏ん張って居ながら今まで一度足りとも被弾していない、現代の幸運艦である。

 

 

「しかし、壮観ですなぁ、司令官。不屈のゲティスバーグ(Unyielding Gettysburg)に、狂犬のオスカー・オースチン(Mad dog of Oscar Austin)血塗れのフォレスト・シャーマン(Bloody Forrest Sherman)。そしてこの、祝福のアンツィオ(Blessing of Anzio)……21世紀も始まって久しいと言うのに、まさかこんな武勲艦が勢揃いするとは夢にも思っていませんでしたよ」

 

「……そうですね。それも、彼女達は情報が集まっていない中での圧倒的不利な戦況で生き残り、戦果を上げ続けた、本物の武人達です」

 

「艦娘の娘達も、時々遊びに行っているそうですから、あの時の英雄(艦娘)達の御眼鏡に叶うだけの事は有りますなぁ」

 

 

 

 現代の海戦では通常有り得ないが、第二次世界大戦頃の常識では広すぎる程度の距離で大西洋を航行するミサイル駆逐艦、ミサイル巡洋艦主体で構成された米海軍第三任務部隊。最近海に出るには欠かせない艦娘は艦隊に居る物の数は少なく、輪形陣のやや外側に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()配置された少数のアイオワ級戦艦やレキシントン級航空母艦の存在を省いたら、現代の正規空母が不在なのを除いてまるでこれから観艦式に参加でもするような(通常では有り得ない)艦艇構成だった。

 

 

 

 

 

 

「司令官殿は、不満かね?」

 

「茶化さないで下さい、艦長。それに、我が母国の防衛を、他国に頼らざる負えない事に対して、拘泥たる思いを抱かない軍人は居ないと思います。……あの要請書を見るまでは、ですが」

 

「君らしい答えだが、全く持って同感だ。同盟国とは言え、やはり出来る限り自分の事は自分で終わらせたい。面子もあるが……」

 

「……軍人としての意地、ですね」

 

「……そうですな」

 

 

 米海軍原子力空母と艦娘による合同部隊。そして遠路遥々極東から空中ダイブしてまで戦闘に参加している同盟国の友人達が母国の至近で激戦を繰り広げている最中、米本国東海岸近辺の艦隊から掻き集めた()()()()()()()()()()()()()()()()()()で構成されたこの艦隊(第四任務部隊)は今現在、戦闘海域から西側に離れた、台風が残した残滓である荒れた海を航行している。

 

 軍人で有りながら本土防衛に参加出来ないと言う、ある種の絶望感。戦友達が命懸けで戦う中その()が来るまで待つしか出来ないと言う、軍人として真っ当な焦燥感。そして、形式上要請と言う事には成っているが実際には完全なる()()と同義である、別世界から来たと言う少女の言葉に()()()()()()()と言う、特大の屈辱感。正直な所、軍命が下っているとは言えこれほどの役満が揃えば、普通は士気低下は免れない。特に最後の()()()()()()()()()に関しては、無礼にも程が有る。

 

 

 

 

「……彼女は異世界出身だと言う。つまり縁も所縁もない我が国を守る為に太平洋を遥々超えて来たばかりか、自身の命すらもテーブルにベットした。危険を顧みずに血を流してくれている戦友に対して、みっともない戦は出来ない」

 

 

 ……だが、彼らに士気低下しているという様子は見られていない。第四任務部隊の司令官の言葉に対しても、CIC要員のみならずすぐそばにいる艦長も、異論を挟む様子も見られていない。第四任務部隊所属のミサイル駆逐艦、ミサイル巡洋艦の陣形も荒波等存在しないかのように乱れる様子も無く、何処か覇気をも感じさせる様な趣であった。

 

 

 

「……しかも、初対面で有る筈の我が軍に対して、自身の心臓すらも預けて、ですからな。……絶対に、失敗は許されない」

 

「我が栄光あるアメリカ海軍の歴史に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う、恥以外の何物でも無い戦歴を刻ませるわけには……行きませんな」

 

 

 司令官の言葉に、何処かボヤく様な口調で返した艦長は、作戦開始直前、第四任務部隊所属の高級将校に配布され、出撃後に見る様に厳命されていた妙に高性能な軍用デバイスを使用し、()()()()()()()を開く。

 

 

 

「……艦長。また、見ているんですか?」

 

「……ええ。司令官殿も知っておられる様に、私には孫娘が居るのですよ。風の噂では、件の少女と私の孫娘は大体似た様な年齢だそうで」

 

「私はまだ独り身ですから、余り多くは言えませんが……」

 

「お気持ちだけで十分です。ですが……私も、子を、そして孫を持つ親であり、祖父として……」

 

 

 そこまで言うと言葉を詰まらせ、軽く俯く艦長。両目を閉じ、小さな溜息を吐きながら繋げた言葉。

 

 

 

「……こんな若い子供に、本来我々がやるべき全ての負担を押し付けた挙句に、血を流させるのをただ黙って待つしか無いのは、我慢ならんのです。ですが、軍人として、我慢するしか無いのです」

 

 

 再び目を見開いた艦長の視線の先には、妙に高性能な軍用デバイス……『桜風』が二式大艇にて要請書と共に送り付けた異世界産通信機器のタッチパネルディスプレイには、とあるコードが入力されているファイルと、そのファイルの題名に書かれた短文が映し出されていた。

 

 

 

『作戦失敗時、駆逐艦『桜風』のIFF(敵味方識別装置)コードを標的とし、戦術、戦略核兵器による全面飽和攻撃を実行されたし』

 

 

 

「出撃前に小耳に挟んだのですが……政府は内陸部に、一定数の部隊を展開しているらしいです。妙に厳重に存在を隠蔽されているらしく、それ以上は分かりませんが」

 

「……つまりは、保険ですかな」

 

「状況証拠としては、そうでしょうね」

 

 

 

 世界覇権国たるアメリカ合衆国は言うに及ばず、武力や権力の保持者を大きく動かすには、それ相応の何かしらの()()が必要である。完全なる()()()()()()()で国家権力の重い腰を上げさせる様な御伽噺は、それこそ無数の幸運や強力な指導者、社会のうねりの様な歴史の変革を齎せる()()が無い限りは絶対に有り得ない。『桜風』が対価の()()とした異世界技術情報だけでは、合衆国海軍への実質的指揮権の供与は、本当の所は不可能だった。対価の重みが軽かったのだ。

 

 

 

 

 

「皆、同じ気持ちですよ。此処まで身を捨てた作戦を実行してくれているんです。しっかりとやり通さなければ、男が廃るって物ですよ」

 

「……そうですな、落第寸前筆頭候補生。全く……学校に居た時とは、見違えるほどに成長されましたな」

 

「……その茶化すところは相変わらずですね、教官殿」

 

 

 

 

 

 『桜風』が突き付けた、米海軍を『桜風』の思惑通りに動かさせた一枚の切り札(Joker)。それは、如何なる手段を取ろうとも、()()()()()()()()()()()と言う狂った決意が滲み出た、超兵器『デュアルクレイター』との道連れをも考慮に入れられた作戦案であった。




今年はどういう訳か雪が大変多い時節ですが、皆さまもお体と雪道にはお気をつけ下さいませ。


『桜風』「相も変わらずダラダラ書き貫くこの小説ですが、今年も宜しくお願いします」(挨拶)
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