色々詰まったり何だったりで遅れてしまいました。いやぁ、冬は雪で酷い事になりましたが今は暑さで酷い事になってますな(白目)
『……Holy shit』
日本艦娘の艦内とはまた違ったレイアウトと設備の艦橋にて、金髪碧眼の二等身饅頭……アメリカ艦娘の妖精さんが、第二次世界大戦型としては優秀な部類に入る自艦のレーダーが伝える過酷な戦況を前に、そう思わず呟いていた。
『此方後部見張り員!
『
『被雷した
『
艦橋に響く、敵艦載艇への砲撃による強烈な爆音に負けない様にするための怒鳴り合う様な大声での報告の殆どは、現在このアメリカ本土防衛の為に掻き集められた大艦隊が加速度的に損耗を強いられている事が否が応でも理解させられる物しか無かった。
「Hey、Little Friend!」
『……
「
『
――――本当は、
何時もと変わらない笑顔と溌溂な声で周囲のどんよりとした雰囲気を何とか打ち消そうとする、この戦艦の主たるアイオワ。彼女もまた、艦長としての責任感が如何にか押し止めて居るだけで、内心は今回の未知の世界に恐怖していた。なまじ、ある程度熟練と言われるだけの戦闘経験を積んでいただけに。
『主砲、発射準備完了!!』
「OK!Fire!」
十何度目かの、アイオワから下される砲撃命令に、大気に轟く轟音と共に撃ち出される12の砲弾。それらは全て、海上を疾走する敵小型艇の群れへと飛び込み、水柱を高々と作り出し……
『……戦果、確認出来ず!』
「Hitするまで撃つのよ!……Fire!!」
『……敵小型艇、三隻命中!しかし敵小型艇、更に増大しています!!』
「
そして、苦労には全く見合わない戦果しか得られなかった。元々アイオワ級戦艦はパナマ運河を通過する為に船体が細く、主砲の衝撃を吸収仕切れないが為に踏ん張り切れず命中率が低いと言う話はあるが、今回はその程度の話ではない。余りにも、理不尽で相性が悪すぎるのだ。
アイオワに搭載された
――――……
目の前で幾度も繰り返される不毛極まりない戦闘を長時間見せ続けられていれば、どれだけ強固な精神を持ち気丈に振る舞おうとも、人の身と心を持った艦娘にも少なからず心の隙が生まれる生物である。
『
『
「
『戦友に加え姉妹艦二隻の戦没』と言う凶報を受けた直後、雷に打たれたかの様に飛び出したアイオワ。ガラスを突き破る勢いで確認した彼女の瞳には、報告に合った通りに姉妹艦が船腹を天に晒している姿と、船体が真っ二つにされた戦友の上空を憎たらしく勝ち誇った様に旋回する『A-6B
『
「……
動揺を隠せない自身の妖精さん達に対して、一瞬言葉に詰まりながらも普段通りの声色で、安心させようと言葉を発するアイオワ。
「今回、皆には
『…………
……とは言え、その言葉も
『……通信、入りました!極東の友人達が、これより戦線に参加します!!』
そして……その暗い雰囲気の中、二つの報告が入る。一つは、脳裏から忘れ去られかけていた援軍到来の一報。
『敵機確認!右舷側を水面飛行中、投弾体勢!!』
「直ちに迎撃と回避運動!
『無理です!間に合いません!!』
もう一つは、
「……Jesus Christ」
主砲、副砲は敵水雷艇砲撃の為に明後日の方向に向き、機関砲は妖精さんによる操作で照準が追い付かない。しかも
―――此処まで、ね。Sorry, my sisters……
目の前に脅威が迫っている事も有って周囲が気が触れたかのように叫び続ける中、ただIowaのみは静かに達観していた。戦友や姉妹艦が撃沈されている以上、自身の順番が来ただけなのだ。自身にも応急修理要員が搭載されている以上、完全に沈み切る事は無い。考えるのも恐ろしい沈没と言う
「……後は頼んだわよ、
だが、達観はしても生きている限り、戦える限り最後の最後まで絶対に諦めないのがアメリカンスピリット。撃ち勝つのが無理だとしても、せめて一矢報い相手に吠え面でも掻かせてやると意気込み、最期の檄を飛ばそうとしたIowaは……
「…What、What's wrong?」
投弾の為か一瞬だけホバリングした
「……全艦、無事に着水成功を確認しました、司令官!」
「了解。全艦、『桜風』の立てた作戦案……と言う程の物でもない突撃案だけど、それにに従って。一応細かい場所は私が随時指示、通信して修正するわ。青葉、海戦と同時並行になるけど宜しくね」
「了解しました!」
時は少し遡り、駆逐艦『桜風』が着水に成功するも、肝心な当人が一時的に疲弊してずぶ濡れなまま砲塔の上でへばっていた頃。降下に成功した深山艦隊対超兵器部隊の面々もそれぞれ戦闘準備を短時間で完了させていた。この事からも、この艦隊の錬度の高さが伺える。空中ダイブしても平然とし続けて指示を出す深山提督に引き摺られた結果でも有るが。
「……ところで、テートク?」
「不知火たちは、一体何をすれば良いのでしょうか?」
そんな中、護衛役として深山提督と共に居る不知火と金剛は、青葉の艦橋で居心地悪そうに手持ち無沙汰であった。周囲では忙しそうに既存の見慣れた装備と共に、妙に垢抜けて新品特有の輝きを見せる機器を妖精さんの群れが整備や調整に勤しんでいる中、何もする事が無いと言うのは真面目な二隻にとって中々に精神的な苦痛がある。
「ちょっと手伝って貰うわ。これから東海岸全域に侵攻を仕掛けている敵艦載艇の完全排除と、苦戦している米海軍への救援をしなければならないのだから」
「了解デース」
「了解しました」
青葉が自身の妖精さん達へ元気よく指示を出す中、艦橋内の海図台を取っ払って設置したタッチパネル式汎用台が動き出し、重巡青葉に据え付けられた『桜風』が開発した複数の補助装置をベースに、
因みにこの
「……やっぱり、未だ慣れ切っては居ませんね」
「無理はしないでね、青葉。不味くなったら絞め落してでも止めるから早めに言って。余りやりたくないから」
「し、絞め……あ、あはは……分かりました」
ただ、配慮しているとは言え船体のベースが第二次世界大戦型の日本艦艇で有る以上演算能力はどうしても制限がかかり、
余談だが、
「……長い間見ていると、目が痛くなる光景デース」
「目が疲れるのは諦めてね、金剛」
「テートク!私そんな
「……誰もそんな事言ってません」
両手を振り上げて大袈裟な怒りの表現と共にある意味恒例なネタを言う金剛と何時もの鉄仮面で小さくツッコミを入れた不知火を他所に、深山提督は青葉と共にタッチパネル式汎用台を操作し、この場に居る各艦から送られてくる情報を呼び出すと、殆ど読み込みに時間をかける事無く東海岸海域に存在する敵味方全ての艦艇、航空機の居場所……それらをリアルタイムで映し出していた。仮にこのタッチパネル式汎用台自体に後付け式の補助演算装置と発電装置が付いていなければ、青葉達は今頃情報処理が追い付かずに眩暈か何かを起こし、ついでに電力不足で動かす事も出来なくなっていただろう。
「……それで、そう動きますか、司令官」
「うん……最優先事項は、米艦艇を拘束している艦載艇の排除。続けて、ヘリコプターを主軸に敵艦載機の排除と妨害が第二目標。全艦、特に加賀と瑞鶴の二人は
【「了解」】
【「分かったわ、提督さん」】
「……行き成りPop Upされると、流石にHeartにDirect Attackデース」
深山提督の指示に対して、前兆も無しに汎用台に小さめに映し出された加賀と瑞鶴の顔写真に対し、小さく呟く金剛。ゲーム化する戦争と言う言葉が有るが、今目の前で起こっているのは一昔前の近未来SFアニメの世界だった。帝国海軍の見慣れた伝声管や測距機器等の中にこんな垢抜けた物が堂々と鎮座しているのは余りにも違和感を感じさせて成らないが。
「……よし、送信完了」
「碁盤目……成る程、領域区分ですか」
「α、β、γに数字を入れて、視覚的に分かり易くする……此処は私達の知らない海だから、有難いネー」
金剛が言う様に、元来日本は本土近海、もっと言えば西太平洋海域は兎も角それ以上の対外軍事行動は殆ど考慮しておらず、特に大西洋に関しては海上自衛隊の練習艦が訪問する事は合っても艦隊規模が訪れた事は無い。特に艦娘に至っては、文字通り一隻足りとて太平洋とインド洋以外の海を知らなかった。|異世界とは言え大西洋での戦闘経験のある例外《駆逐艦娘『桜風』》は兎も角としても、大西洋の海をマトモに知らない経験不足を少しでも補う為の措置であった。
「そうね……さて」
基本機能を使用して区分けをした深山提督は、まじまじと線引きされた海域を映す汎用台を見遣る
「……始めるよ」
周囲では様々な喧騒で包まれている中、何故かその声だけが重巡青葉の艦橋内で妙に響き渡った。
「瑞鶴、加賀の両航空隊の内戦闘機隊はポイント
【「り……了解、しました」】
【「わっ、分かった!」】
アイアンボトムサウンド戦以後は戦力が整って来ていた事も有り部下である筈の艦娘達によって殆ど強制的に鎮守府業務に押し込められていた上、その戦闘での主役は主に戦艦や駆逐艦であったが為に人伝えでしか、戦場に置ける深山提督の言葉を知らなかった新旧一航戦コンビ。雰囲気の激変に驚愕しつつも、即座に指示された通りに反応。
「大和、長門は直ちに
【「はいっ!」】
【「了解した!」】
深山満理奈が再び面を上げ、双眸を見開いた時には、横須賀鎮守府第3海上部隊所属『深山艦隊』が創設されて半年も経たぬ内に勃発し、多数の艦娘と提督が飲み込まれたアイアンボトムサウンドにて敢えて陣頭指揮を執り、錬度未了の艦娘すらも一隻足りとも喪失しなかった……
「陽炎、並びに青葉両艦は速度を活かし遊撃する。敵艦載艇と艦載機の群れにこの経路で突入、敵陣を徹底的にかき乱し時間を稼ぐ」
「……
「金剛さん。司令がこの場で冗談を言う人だと思いますか」
「全く思わないデース……」
事もなげに真顔で通達され、言葉と共に描かれる突入ルートを見て、金剛は天を見上げて声無き悲鳴を上げた。乱暴に纏めれば、『デュアルクレイター』が放つ敵艦載機と艦載艇の大群に対して横殴りに乱入し、鮭が川を遡上するかのように敵中突破。しかも突貫するのは機動力は兎も角耐久、防御力、ついでに火力すらも低い駆逐艦と旧式小型の重巡洋艦。有り体に言って、狂人の戯言である。
「敵水雷艇群の中を中央突破ですかー。前代未聞ですねー」
【「初めての体験だけど、良い経験になりそうね」】
当の突入を命じられた両艦は割と平然としているように見えている。……言葉端と腕組みした手が僅かに震えている事を除けば、だが。一応意志無き艦艇時代、ソロモン海等の海戦を戦った過去の有る両艦だが、流石にこんな無茶苦茶な戦闘は経験していない。寧ろこの様な海戦を経験した軍艦が存在するのならお目にかかりたいものである。丁度一隻居はするが別世界出身なのでノーカウントだ。
「敵中に突っ込む以上必然的に一手のミスが即轟沈に直結する。……青葉、陽炎。沈みたくなかったら指示を聞き漏らさないで」
そしてそんな心境の艦娘達の事を知ってか知らずか極めて平静に言葉を発し続けていた深山提督は、ここまで語ると敢えて一拍子置き……
「征くよ」
戦闘開始を、宣言した。
「……すっかり忘れてたけど、テートクってこんな人だったデース」
「私も半ば抜け落ちていました。……ですが、やはり司令官は頼もしいですね」
「Hey、不知火。ソレ感覚おかしくないデスカー?」
「……そうでしょうか?不知火はおかしくないと思いますが」
「……若しかしなくても、
言葉遣いこそ変わっているがそれ以外は大体常識人な深山艦隊の金剛が呟く、不知火以外には届く事も無い悲鳴満載な泣き言など知った事では無いと言わんばかりに、彼女達が乗り込んでいる重巡青葉は深山提督が指示した通りに転舵を開始する。尚、重巡青葉の妖精さん達は深山提督の言葉に当てられでもしたのか何故か妙に士気軒昂である。ただ単に無茶苦茶言われて開き直っただけかも知れないが。
「ところで司令官。一つ宜しいでしょうか」
「手短にね、不知火」
「日本でのブリーフィングでは、私達は基本的に全艦一塊と成って行動し、分散行動は成るべく行わないと『桜風』に伝えていたと思うのですが」
「大前提として
「ソレ隠す気Nothingの完全な確信犯デース?!」
【「……加賀さん。そっちはどう?」】
「想定通りに多数の負傷者と応急修理用の鉄材消費。それ以外には特に」
そして、時間軸はアイオワに対する航空攻撃が紙一重で阻止された時まで巻き戻る。
【「そう……こっちも同じく。皆、良くやってくれているわ」】
「先程、先遣戦闘機隊が米海軍の戦艦娘を救出したと通信が入っています。想定通り、被害は相当なようですが」
【「再建に最低でも年単位の歳月を必須とする通常艦隊を守る為の楯となる役割を果たしている事の裏返し、とも言えますけどね」】
「……そうね。貴女の言う通りよ」
陸では何時も優し気な雰囲気や表情が殆どな深山提督とは打って変わって本能的に背筋へ電撃を走らせた命令一下艦を走らせた
「……このやり口があの娘に知られたら、どんな風になるのかしらね」
【「多分泣きながら繰り返し御免なさいって言ってくると思います。責任感強すぎて何でも背負い込み過ぎますから」】
「簡単に想像出来るわね。此方が勝手にやっている事だと言うのに」
そう雑談を交わす両者の双眸には、木製甲板上にやや斜めを向けて妖精さん達が支えている
「……初めてこのアイディアを聞いた時は、貴女を休ませるか悩んだわよ。瑞鶴」
【「あ、アハハハ……。本当は装甲空母化出来るのが一番ですけど、現状そう言った能力や改造方法は発現して無いので、木製甲板に引火しない様に運用するにはこれしか無いかなと、アメリカさんの原子力空母を見ていて……」】
「一度そのまま発艦させようと実験した瑞鳳が火達磨になった事を考えると、あの娘も少し自重して貰いたいのだけど」
【「……多分無理だと思う。あれだけ未知の艦載機相手に目を輝かせていたのを見ると」】
ーーーー……でしょうね
内心瑞鶴の諦観した返答に同意しながら、震電改のジェット噴進の炎を鉄板の隙間から直撃して火達磨になった妖精さんが消火剤で泡だらけになる姿を艦橋より見下ろす加賀。技術的な理屈は加賀や瑞鶴達には全く分からないが、『桜風』が開発で生み出した艦載機は例外無く一定の飛行甲板が有ればどんな機体でも完全武装状態での発着艦が可能だった。それこそ、空母としては極めて小型な鳳翔や通常は水上機だけ運用する伊勢型航空戦艦でも。
正し、
『桜風』の生み出した艤装や船体を日本本土で研究者や工廠の妖精さん達が素材解析等に勤しんでいるが全く進捗していない現状、技術者でも何でもない
【「所で加賀さん。これで私達の超兵器に対する宣戦布告を成し遂げた訳だけど、アメリカさんには何て言う予定?」】
「……私が言うのですか」
【「いやだって……加賀さんがこの
「瑞鶴の方が愛嬌が有るでしょう」
【「厚木に向かう直前に、赤城さんからコミュニケーションに関しては加賀さんに全てお任せする様に言われてるから……それに、提督さんも笑ってそうする様にって」】
「何……ですって……?」
思わぬ相方からの裏切りに、普段鉄の様に硬い表情が俄かに崩れかける加賀。瑞鶴曰く、加賀が何時も鉄仮面だったり他者に口調が冷たく感じさせる事を気にしている為、荒療治としてアメリカでは積極的に喋らせるように赤城が提督達へ依頼したのだと言う。加賀に取ってはミッドウェイの敵機直上並みに寝耳に水である。
「……分かりました。どうにかして誤魔化します」
【「えっと、赤城さんからは『難しく考えないで笑う事を意識する様に』とのアドバイスが……」】
「簡単に言ってくれます……」
親友からの無茶ぶりに困り果てた先輩の姿にあはは、と小さく苦笑いするしかない瑞鶴に恨めしい目線を一瞬向けた加賀だったが、自艦の通信妖精さんから新型通信機を渡されると仕方が無しに諦めて向き合う。なお、この通信機も『桜風』製の補助兵装の備品としてくっついて来ていたモノである。従来の物より遥かにクリアな音声と通信強度を持つ上機器の使用面積も削減されている為将来的には艦娘全艦に搭載したいと願望全開な要望が出されている。
「……発:日本海軍遣米艦隊所属空母加賀。宛:米海軍本土防衛艦隊全艦艇」
尚、渋々発信する加賀は知らない。
「『
政治的、軍事的にもそうだが、そもそもアメリカ合衆国史上初の
さてようやっと対『デュアルクレイター』戦となりますが、何時も通り白紙に御座ります(目逸らし)
今度も何時次話が出来るか全く分かりませんので気にせずにお待ちくださると幸いです