グリムガル〜灰燼を背負いし者たち〜   作:ぽよぽよ太郎

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épisode.10

 

 

 

          *

 

 

 「――イブキ! 大丈夫だったのか!?」

 

 駆け込んできた俺を見て、シュンが言った。その顔から未だに怒気は萎えていないことがわかるが、とにかく状況を説明してほしかった。

 マイはぐったりしているが、微かに呼吸はしているようだ。俺はマイの枕元へと向かい、片膝をついた。見た所外傷はないが、身体全体から力が抜けているみたいだ。

 

 「――それより、マイはどうしたんだ? それに、なんでシュンはタケシと揉めているんだ? 頼むから、説明してくれ」

 

 正直身体中の傷が痛むが、この状況を把握しなくてはいけない。こんな時に仲間割れなど自殺行為だ。

 

 「――マイは、ここに辿り着くまではなんともなかったんだ」

 

 シュンの話を聞く限り、マイはここまで逃げてきてからいきなり崩れ落ちたんだとか。それまでは普通に会話もできていたし、毒矢だってくらっていないから毒の可能性もない。だからたぶん、逃亡の際に頭に食らった棍棒のダメージだろうというのがシュンの見解だった。それは俺も同意だ。

 頭部へのダメージは楽観視できない。現にマイは力なく横たわったまま動けないみたいだ。下手したら、すでにどこかに麻痺が出てきているかもしれない。

 

 考えてみれば、ゴブリンの棍棒を頭部に食らうなんてことは相当な衝撃だ。ゴブリンは体躯こそ小さいが力はある。人間族と鍔迫り合いだってできるし、その一撃の威力は馬鹿にできない。それを頭部に食らって、無傷でいられるわけがないのだ。マイの場合は裂傷がなく血が出ていなかったこともあり、それに頓着しなかった。だが、こぶさえできていないというのはまずい。脳内で出血していた場合、手遅れになるかもしれなかった。

 

 「それなら、早く治療を……! タケシ……ッ!」

 

 だが、それならばなぜ、タケシは治療をしていないんだ……?

 癒光(ヒール)を使えば、なんとかなるかもしれないのに。苦しそうなマイの痛みを、少しでも和らげることができるはずなのに。

 

 俺の叫び声に、タケシはビクリと肩を震わせた。シュンは依然として、軽蔑するようにタケシを睨んでいる。

 

 「ぼ、僕には……僕にはできない……!」

 

 「さっきからずっとこの調子で、マイを治そうとしないんだ!」

 

 「……タケシ! いったいどういうことなんだ?」

 

 タケシは何を言っているんだ? 魔力切れとかそういう雰囲気じゃない。何かを怖がっている。早くマイを治療しないと取り返しのつかないことになるかもしれないのにだ。

 

 「ぼ、僕には……ッ!」

 

 だが、タケシは突然走り出した。まるでゴブリンたちから逃げるような、そんな恐怖に歪んだ顔をして。

 

 「はぁっ!? おい、待てよタケシ!」

 

 シュンが咄嗟にタケシを捕まえようと手を伸ばすが、空を切る。俺はあまりのことに唖然としてしまい、動けなかった。本当に、意味がわからない。

 

 兎にも角にもタケシを追いかけ、マイを治療してもらわなけらばならない。迷っている時間はなかった。俺は立ち上がり、シュンに叫んだ。

 

 「シュン! 俺が追いかけるから、マイのことを頼む!」

 

 「あ、ああ……。もう、意味わかんねえよ……」

 

 シュンは俺の言葉に頷いたが、力なく俯いてしまう。俺だって同じ気持ちだ。だけど、うだうだしている時間はなかった。

 

 「……イ……ブキ、くん……?」

 

 だが、駆け出そうとした俺に弱々しい声が聞こえた。

 

 「マイ? 気がついたのか……!」

 

 俺は再びマイの横で片膝をついて、声をかける。

 

 「マイ、大丈夫か!? 聞こえるか?」

 

 「イブキくん……? シュンくん、タケシくん? ど、どこにいるの……? なんで私……真っ暗で何も見えないよ……っ」

 

 マイは俺の言葉に答えずに、不安げな口調でつぶやいている。目は開いているが、どこか虚ろで何も写していないように見える。そしておそらく、耳も聞こえていないんだろう。俺の声が聞こえている様子はない。

 そんな彼女の様子を見て、俺は何も言えなくなった。そっと、彼女の手を取る。

 

 「……っ! 誰なの……?」

 

 触覚はあるようで、自分の手が取られたことには気がついたみたいだ。俺はマイに優しく声をかける。

 

 「マイ、待ってろ。タケシを連れてすぐ――」

 

 「――私、死にたくないよ……」

 

 「え……?」

 

 否、かけようとした。

 

 「私は……嫌だったのに、怖いって言ったのに……ッ! どうして私が……! もう、こんなの嫌だよぉ……」

 

 漏れる嗚咽。マイから聞こえるのは、隠していたであろう本音。

 

 「イブキくんのせいだ……ッ」

 

 それは、俺の胸を容赦なく抉った。

 

 「私は義勇兵なんて、なりたくなかった……! それなのに……!」

 

 マイは俺の手を握りつぶさんばかりに握りしめ、涙を流していた。

 

 「死にたく、ないよぉ……」

 

 それが本音なのかもしれないが、俺に言うつもりはなかったのかもしれない。だが、こうも面と向かって言われると、やはり、結構辛かった。

 涙を流すマイから手を離し、立ち上がる。

 

 「シュン、マイの手を握っててやってくれ」

 

 「イブキ……」

 

 「……頼んだ」

 

 オルタナに帰ったら、マイに謝ろう。そして、今までのこと、これからのことをしっかりと話そう。そのためにはまず、タケシを見つけないといけない。

 

 シュンがマイの横に座り込んでその手を握ったことを確認してから、俺はタケシを追って廃屋を飛び出した。

 

 

 「くそっ! どこまで行ったんだ!?」

 

 廃屋を出た俺は、半ば闇雲に走り回っていた。

 どこかへ走り去ってしまったタケシを一刻も早く連れ帰らないと、マイが危ない。マイとシュンを連れて探すことも考えたが、頭部にダメージを負ったマイはできるだけ動かさないほうが良いだろう。

 

 それに、本来神官は真っ先に狙われる存在だ。俺たちのパーティーは運良く今まで奇襲を受けることがなかったが、少しでも知能のあるモンスターは神官がパーティーでの重要な役割を担っていることを知っている。そんな神官であるタケシがたった一人。相当に危険だ。

 

 もしタケシがここから逃げようとしたのなら、オルタナ方面へと向かっているはず。そんな淡い期待を込めて、俺はオルタナ方面へと走っていた。少数のゴブリンやホブゴブリンは見かけるが、あの鎧のホブゴブリンのような奴らはいないみたいだ。それだけが、救いだった。

 

 しばらく周囲を警戒しつつ進むが、タケシらしい人影は見当たらなかった。

 

 一旦戻るかこのまま探し続けるかを考えていると、不意に叫び声が聞こえた。

 

 「ひぃぃぃっ……!! く、来るなぁ……っ!」

 

 「タケシ……っ!?」

 

 聞こえてきた声は確かにタケシのものだった。

 どうやら何かに襲われているようで、聞こえてきた声は切羽詰まっているようだ。聞こえた声は比較的近く。俺はそちらへと走った。

 

 俺がいた場所から数本横の路地。そこでは3体のゴブリンが何かを追って廃屋へと入っていくところだった。おそらく、タケシを追っているんだろう。

 

 俺は急いでそちらへと向かい、中の様子を伺った。中は比較的広く、崩れた天井からは陽の光が差し込んでいる。急いで中へと突っ込むことも考えたが、闇雲に突っ込んでいってもどうにもならないだろう。

 

 「や、やめ……来るなぁ……!」

 

 タケシは廃屋の壁を背にしてスタッフを振り回している。それをあざ笑うかのように、三体のゴブリンはタケシを囲んでニタニタとした笑みを浮かべていた。剣持ちが二体に棍棒持ちが一体。そいつらは武器でタケシを突く振りをしたりして、完全に遊んでいる。

 周囲への警戒も薄く、奇襲するなら今がチャンスだ。

 

 俺は一気に中へと踏み込んだ。当然ゴブリンたちも俺に気がついたが、武器を構える前にハルバードで一番手前のゴブリンをひと突き。首元を狙ったそれは寸分(たが)わずゴブリンの首を貫いて、絶命させた。

 

 残りは剣持ちと棍棒持ちの二体。残った二体は未だに動揺しているみたいで隙だらけだった。

 俺は剣持ちに突きを放ち牽制。剣持ちがガードしたのを見計らって、棍棒持ちを思い切り蹴飛ばした。俺に攻撃をしようとしていた棍棒持ちはまさかの攻撃にたたらを踏んで後退する。それに一瞬気を取られた剣持ちの足を突こうとするが、ギリギリ剣持ちは飛び上がってそれを避ける。

 だが、狙い通りだ。着地際を狙って剣持ちの足を薙ぎ、転倒した剣持ちの胸へとハルバードを突き入れる。「ぎぃ……!」と短く鳴いて、剣持ちゴブリンは動かなくなった。これで、あと一体。

 

 俺が残った棍棒持ちのゴブリンに向き直ると、そいつは振りを悟ったのか後ろを向いて逃げ出した。一瞬追撃しようかとも考えるが、今はタケシを連れ帰るのが先決だ。

 逃げていくゴブリンから視線を切り、壁際で(うずくま)るタケシを睨む。

 

 「――タケシ……!」

 

 なんで逃げ出したとか、なんで治療しないんだとか、聞きたいことはたくさんあった。だが、それはあとでいい。今はとにかく、一刻も早くタケシを連れ帰らないとマイが危ないのだ。

 俺にも怯えているようで、タケシは涙目になって何も言わない。

 

 「……あ〜もういい。さっさとマイたちんところに戻って、治療してくれ……」

 

 俺はため息をつきつつ、諦めたようにそう言った。怒ったところでタケシは動いてくれない気がしたし、正直彼に呆れてもいた。

 

 「ふざけるな……ッ!」

 

 だが、予想に反してタケシから出てきたのは怒声だった。

 

 「なんなんだよアンタは! いつもいつも偉そうに!」

 

 いつもの大人しいイメージのタケシとは違う、恨みの籠った視線を俺に向け射殺さんばかりに睨んでくる。

 

 「あいつらの誘いを断って、誰も頼んでないのに恩着せがましく俺たちに付いてきてさ! それで勝手にリーダー気取って、何様のつもりなんだよ! 別に僕たちは戦いたくなんてなかったんだ!」

 

 タケシは俺のことを、ずっとそう思っていたのか。確かに俺は残されたタケシたち三人に同情し、パーティーを組んだのかもしれない。でも、俺がいなかったら三人ともこうして生活できてはいなかっただろう。思い上がりかもしれないが、そう思う。

 これがただのタケシの八つ当たりで、他の二人はそう思っていないのかもしれない。だが、先ほどもマイから同じようなことを言われた俺には、笑って流すことができなかった。

 

 「タケシお前、そんなこと思ってたのか……?」

 

 「気がつかなかったのか? そうだよなぁ、アンタは孤高を気取って僕たちのことなんて気にしてなかったもんなぁ? だから僕たちのことを何も知らなくても無理ないさ!」

 

 タケシの顔には狂気が宿っていた。だが、その表情はどこまでも真剣で、本気だった。

 確かにタケシの言う通り、俺は三人とはまったく話をしていなかった。いろいろ言いたいこともあったんだろうけど、こうして溜め込んでいたのかもしれない。

 

 だが――

 

 「――今は時間が惜しい。早く戻ってマイを治してくれ。そして、全員でオルタナに帰って、しっかりと話し合おう」

 

 言いたいことはオルタナに帰ってから聞く。三人のことをもっと知ろうと、そう決めたのだ。その時に、こうやって罵倒されることも予想はしていた。タケシやシュン、マイだって俺やそれぞれに言いたいことがあるはずだ。

 言いたいことを言い合って、全部を吐き出して、そうすれば俺たちはやっと本当のパーティーになれるだろう。そのためならいくらでも罵倒は受けるし、嫌ってもらっても構わない。

 

 だから今は、マイを助けることが最優先だ。

 

 「――……っ!」

 

 俺の言葉にタケシは驚いたように目を見開く。そして、申し訳なさそうに俯いた。

 

 「タケシ……?」

 

 「もう遅いよ……ぼ、僕はマイを治せない……」

 

 タケシは小さく呟く。その声音からは涙を堪えているようにも感じられ、タケシの痛みが伝わってきた。

 

 「治せないって、どうしてだ……?」

 

 「だって、僕は――」

 

 タケシが言葉を続けようとした時に、ヒュンと空気を裂く音がした。同時に、タケシの口から真っ赤な血が漏れてくる。

 

 「……ごふ……っ?」

 

 タケシは自分の手に落ちてきた血を見て、信じられないといった表情を浮かべて膝をついた。その首には鋭利な矢が突き刺さっていて、空気が漏れているのかぷくぷくと泡立っている。

 

 「――タケシ……ッ!」

 

 俺は急いでタケシの元へ向かおうとするが、その前にもう一本矢が飛んでくる。そしてそれはタケシの頭に突き刺さり、膝立ちだったタケシが崩れ落ちた。俺はもう一射こないうちにタケシを遮蔽物の裏へと引っ張る。おそらく崩れた天井から狙撃されたのだ。横たわったタケシはピクピクと痙攣していて、口からは止めどなく血が溢れている。タケシの瞳からは、すでに光が失われていた。

 

 「おい、タケシ! しっかりしろ! みんなで帰るんだろ!?」

 

 そう言っても返事がないことはわかっていた。でも、それを受け入れるなんてできるわけがなかった。

 さっきまで目の前で話していて、ずっと言ってこなかったタケシの本音を吐露してくれたばかりだったのだ。オルタナに帰って、お互い言えなかったことを話して、喧嘩でもなんでもしようとそう思っていた。

 

 「その矢先に、これかよ……」

 

 もう、どうすればいいのかわからなかった。不思議と現実味がわかなかったが、タケシがいなければマイが危険なままなのだ。だが、タケシは死んでしまった。それをもうあっさりと。人はこうも簡単に命を落とすんだと、ぼんやりと感じた。

 本当にもうどうすればいいのかわからずに、途方に暮れるしかなかった。

 

 「……とりあえず、シュンたちんとこに戻らないと」

 

 現実味を感じなかったことが逆に良かったのかもしれない。そのおかげで、なんとか動ける。目の前で仲間を失ったが、まだ冷静でいられた。

 

 タケシを物陰に引きずり込んでからしばらくは矢が射ち込まれていたが、今はもう諦めたのか射ってはこなかった。俺は周囲の様子を伺いつつ、タケシを背負った。不死の王(ノーライフキング)の呪いで、死んだ者は数日で生ける屍に変わってしまう。タケシをそんな風にはさせられない。

 

 俺はシュンたちの元へと急ぎつつ、今後の行動を考えていた。とにかくマイを早く治療しないとまずいことになる。最悪は、タケシを置いて三人でオルタナへと向かうべきだろう。シュンにマイを背負わせて俺が先導し、最速でオルタナへと帰ってマイを治療する。そして、それからタケシの亡骸を取りに戻ればいい。

 

 頭の中で考えをまとめつつ、先を急いだ。探している時は半ば闇雲だったから時間がかかったが、今はシュンたちのいる場所がわかっている。ほどなくしてシュンとマイの待つ廃屋へと辿り着いた。

 

 だが、どこか様子がおかしかった。妙に静かで、生き物の気配がない。そして、廃屋内からはすでに嗅ぎ慣れてしまった嫌な臭いが漂ってくる。さきほども感じた、ツンと鼻をつく血の臭い。

 

 嫌な予感がして、俺はタケシを下ろして廃屋内へと駆け込んだ。

 

 「シュン! 無事か!?」

 

 廃屋内には、ばらばらに点在する3体のゴブリンの死体。ここを出た時と同じように横たわったマイ。そして、全身から血を流すシュンの姿があった。

 シュンは執拗に全身を刺されたようで、文字通り血まみれだ。シュンの近くには一体のゴブリンの死体があるが、そいつの剣だけが異様に血まみれになっていた。あいつがシュンを刺した奴なんだろう。背中にはシュンの愛用する短剣が刺さっていて、それが致命傷になったようだ。シュンの剣鉈は近くに落ちていて、その刀身はぽっきりと折れていた。

 

 全身の力が抜けて、俺は膝から崩れ落ちた。無力感に苛まれ、頭がガンガンと痛んだ。少し考えればわかることだったのだ。シュンは狩人、その攻撃ではゴブリンと対抗することは難しく、仲間と連携することで真価を発揮する。そんなシュンをたった一人残していけばどうなるかなんてことは明白だった。

 

 「――イブキ……?」

 

 小さな声がした。うっすらと目を開けたシュンが、虚ろな瞳で俺を見ている。俺は急いでシュンの元へと向かい、膝をついた。

 

 「シュン!? 大丈夫か!?」

 

 一縷の望みをかけてシュンに声をかける。

 

 「ごめん……。俺、できると思ったんだ……」

 

 咳き込みながら、シュンが言葉を紡ぐ。一言話すたびに口から血が漏れてきて、もうシュンが助からないであろうことがわかった。

 

 「俺、イブキみたいに強くなりたいって、そう思っててさ……。イブキのこと見返したくって、必死に頑張って……だから、ダムローから逃げ出したくなかった。イブキがビビるようなところで俺が活躍すればって……そう思って……結局、マイも守れなかった……」

 

 シュンの言葉にマイのほうを見るが、確かに彼女はすでに息をしていなかった。横たわったまま、その瞳はただただ虚空を見つめている。

 そんな俺を見て、シュンは苦笑いを浮かべた。その瞳からは涙が溢れ、静かにこぼれ落ちていく。

 

 「……死にたく、ないなぁ……」

 

 そして、そう言ったきりシュンは何も言わなくなった。

 

 遠くから何かの動物の声がする。それは虚しく木霊し、周囲に響いた。

 

 

 朽ちた廃屋内で、俺はただただ途方に暮れていた。これからだと、これから俺たちは変われるんだと、そう思っていた。

 いつも通りにゴブリンを倒して、いつも通りオルタナに帰ってくる。そして、俺は三人との距離を縮めるためになけなしの勇気を振り絞って食事に誘う。たくさん酒を飲んで、酔いに任せてお互いが思っていることをぶつけ合って、大喧嘩だってする。最初はギスギスするかもしれないけど、時間が経つに連れて少しずつ解けていって、パーティーとして成長する。そうして正式な義勇兵になって、それでもまだまだ俺たちの未来が続いていく。

 

 そう、思っていたんだ。

 だけど、それはもう叶わない。今だに現実味がなく、頭がぼうっとしてるけれど、それだけは理解できた。

 

 俺は前のめりに倒れこんだ。だんだんと身体に力が抜けていき、糸が切れた人形みたいに身体が動かなくなった。思えば血を流しすぎたのかもしれない。未だに頭部の出血は(おさま)っていないし、身体中からも血が出ている。

 

 薄れゆく意識の中、俺はただ己の無力さを呪うことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日、一つのパーティーが壊滅した。

 

 

 

 

 

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