突然地獄めぐりを強いられました~俺がしたいのは自分探しなんかじゃない~   作:トウノセツ

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人狼の間8

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――暗闇。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処は何処だ、というのは愚問だと頭の奥でもうひとりの自分が囁く。

 

 視界が利かないなか、かさかさと、ぞわぞわと、耳元を何かが這っている感触が身体を侵食していく。虫のようなそれを排除したくて身体を動かしたいのに、指の一本も動かせない。おまけに声を出せない。

 

 なのに、耳はよく聞こえているという事実を次の事象が俺に教える。

 

 

【ハル君】

 

 

 突如として頭に響いた御堂琴音の声。ぬるぬると、ぬたぬたとした声。

 

 それを追いかけるのは覚えのない…いや、少し前に聞いた男子の声。少なくともふたり。

 

『コイツ、名前もだけど、顔も女みてぇ。ネコみたいに鳴くんじゃね?』

 

『ヤッちまおうぜ』

 

『あっちの女も?』

 

『あとでヨウタ達と輪姦(まわ)そうぜ』

 

 幼さの残る声の会話の後。ビリッと何かが破けた音と、ひやりとする俺の身体。そして、異常なまでの生臭さ。

 

 何かが俺の身体を這う。ぞわぞわと、ずるずると。虫みたいに。

 

 また、何かが破ける音がした。今度は何かがベタベタと俺の身体を這って――その何かの這う感触は俺の下半身を蠢いた。やっぱり虫みたいに。虫みたいに。

 

 其処に響く、女の――御堂琴音のつんざくような悲鳴。

 

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやダいヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダぁぁあああぁああああああああああああ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【しっかりしやがれ!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然の頬の痛み。ベチンッ、と割と強めな衝撃に、俺はハッとなった。

 

 目は開けてるはずなのに、視界がイマイチはっきりしない。

 

 俺を覗き込む顔がひとつふたつみっつ…よっつ。エンとアディさんとウタスキーとハグレ。皆泣きそうなぐらい顔がクシャクシャで、ハグレに至ってはぶわぁっと泣いてる。あれ?俺、死んだ?

 

【いや、死んでない】

 

 どうやら声に出てたらしい。エンが真顔で答えをくれた。

 

 俺はエンに抱えられて横になっていた。まぁ、俺はウタスキーと身長がどっこいで、ハグレはサイズ的に論外で、女性のアディさんに抱えられるのも何だか変だし、エンは俺からしたら身長めっちゃあるから妥当な線だとは思うが…男に抱えられても嬉しくない。全くもって。

 

【そんだけ毒が吐ければ大丈夫だな。あーあ、心配して損した】

 

 またもや声に出てたらしい。一体どの辺から漏れたというのか。そしてエン。ぽいっと俺を地面に捨て置くな。あ、眩暈がまだする。

 

【怨霊と精神で繋がってるっていうのは厄介だね。其処を含めてなんとかしたものだけど…】

 

 アディさんは短いため息を吐きながらそう零した。ついでにアディさんの手が俺の額を撫でる。子ども扱いされている気分だが、ひんやりとして気持ちいい。で、いま気づく。俺の身体、汗でベッタベタだわ。あ、汗でベッタベタなのは人狼の間にきたときからだった。たいようあつい。

 

 …そういえば俺、夢をみた気がする。みた気はするのに思い出せなくて、でも思い出そうとするとぞわぞわして………ひたすら嫌な気分になる。

 

【―――――――――――立てるか?】

 

 起き上がりかけた俺に差し出されたエンの手に、俺はどういうわけかどう表現していいのかわからない悪寒が背筋を駆け抜けていった。

 

()ってっ?!】

 

 エンの悲鳴じみた声に、俺が知らず知らずエンの手を叩き落としていたことに気づいた。「(わり)ぃ」そう言おうとしたのに、唇が震えて思うように言葉にならない。唇どころか、手、足――全身がガタガタと震えだした。

 

 悪いのは俺なのに、【えっ?!俺、なんかした?!】ってオロオロとしたエンの声が聞こえて、気づいたらアディさんに抱きしめられて――また子供みたいに今度は頭を撫でられた。

 

【大丈夫。あたし達はアンタを傷つけないよ。…約束する】

 

 アディさんは何度もそう言って、何度も俺の頭を撫でた。

 

 恥ずかしいから、「もういい」って言いたいのに言えなくて、身体の震えは酷くなる一方で、俺はボロボロと泣き出してた。

 

 それでも二十代という意地がわんわん泣くのは拒んで、結局嗚咽になって。自分で自分がわからなかった。何が怖いのか何に嫌悪してるのかわからなくて、それが更に涙を呼んで。

 

 俺は俺がわからない。俺の過去がわからない。俺はどういう人生を歩んだ――?

 

 ウタスキーの、トコトコという枝の打楽器の演奏が、泣きすぎた頭にじんわりと染みていった。

 


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