君に気持ちを伝えたい   作:世嗣

10 / 21
かなり長い。
行きたいところまで書いてたら、なんか9,000文字超えてた。

遂に戦闘が来た。
タグの「バトル」に恥じないものにしなくては。


六月二十日

 

「お願い雉咲くん、これディアーチェちゃんまでよろしく!」

 

「え?やだ」

 

目の前にはJYS(女子)(10人くらいしかいないが)。そのセンター、いかにも人生エンジョイしてそうなイケてる女子がプリントをもって僕に手渡してくる。

 

「というか何故に僕?」

 

僕は委員長と何の関係もないぞ。そもそも名前が何であるかもおぼろげだしさ。

 

因みに委員長は既に帰宅済みである。

なんでも委員長が大事なプリントを学校に忘れてしまったらしい。

 

「だって雉咲くんディアーチェちゃんと仲良いでしょ?いつも一緒にいるし」

 

残りのJYS48もうんうんと何度も賛同するようにうなずく。

 

「待て、誤解が生まれている」

 

勘違いしないでほしいが、委員長と僕が一緒にいたのは職務の都合上のことであり、それが僕と委員長の関係だし、断じて友達などでは無いし、仲も良く無い。と思う。

 

「え〜?でもぉ、この前ぇ、ディアーチェちゃんとぉ君が自転車二人乗りしてるの見たってぇ人がぁいたけどぉ?」

 

するとJYS48の右端あたりにいるポワポワした髪の女の子が口を開いた。

というか何だこいつ。はっきり喋れよ。

 

ん?ちょっと待て。

 

「何でそれを知っている」

 

あの時間帯はもう人はいなかったはずだが?というかそうじゃ無いと恥ずか死ねる。

 

「普通に下校の途中でみえたらしいけどぉ?」

 

JYS48がきゃーと色めき立つ。

何だよこれもうやめてくれ。

 

「じゃあ、雉咲くんに任せとけば安心だね。今日はシュテルちゃんもいないし丁度よかったよー」

 

センターの子が僕にプリントを渡してくる。プリントはネコのクリアファイルに入っておりいかにも女子力が高そうだ。

 

JYS48はやいのやいの言いながらクラスを後にした。残されたのはネコのクリアファイルを持ち一人佇む冴えない男子一人。

 

言いたいことも不満も沢山あるがとりあえず一言言わせてもらいたい。

 

テメェで持っていけよ、と。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「グランツ研究所か……」

 

目の前に堂々とそびえ立つ建物の大きさに半ば嘆息のような呟きがもれる。

 

それはこの街に住む人ならば誰しも知っている場所だ。

名前からわかるようにここはグランツ博士の個人経営の研究所で、特にスポンサーも付いていないらしい。

 

そんな事で食っていけるのか?と思わないでも無いがそんな心配するに及ばない。

天才グランツ・フローリアン博士が生み出した夢の発明「ブレイブデュエル」。

ブームはもはや海鳴だけに留まらない。

今度日本全国に展開するらしいのでよっぽどの豪遊をしなければ食いっぱぐれることは無いだろう。

 

前置きが長くなったが僕はそういう場所の前にいるのである。

 

因みに委員長の居候先でもあるらしい。

 

「入るか」

 

意気込んで踏み出すと自動ドアがするすると開く。

辺りを見回すといるのは小学生から中学生。所々に高校生も見受けられる。

 

「場違い感が半端無いな」

 

いや、世代としては僕もジャストなのだろうけど僕はこういうリアリア充充している場所は苦手なのだ。

 

何故かはわからないが、どうしようもなく僕の劣等感が刺激されるせいかもしれない。

 

憂鬱なため息と共にクリアファイルを握りしめた。

おっと、これには委員長に届けるプリントがあるんだった。危ない危ない。

 

とりあえず委員長の知り合いっぽい職員さんやシュテルンなんかがいないかどうか探してみる。

 

すると目に入る日本ではなかなかお目にかかれない金髪。あれは僕の記憶が正しければ、テスタロッサ姉妹のものだ。

目を凝らして見るとツインテールのリボンがピンクであることが確認できた。

 

ーーということはあれはフェイトか。

 

フェイトの周りを見るとアリシアに茶髪のおさげ、紫髪のストレート、僅かに淡い金髪の女の子がいた。

 

アレがプレシアさんから聞いていたフェイトのオトモダチというやつだろうか。

 

ふむ、ここは挨拶に行くべきか否か。

 

もう一度フェイトに目を向けるとオトモダチとにこにこ笑いあっていた。

 

「本当に友達できたんだなぁ……」

 

胸に温かいものが広がった。可愛がっていた妹分だけあってあんな風な姿を見るとああいう姿を見るのはとても嬉しい。

 

ここは僕のような冴えない男子がいくような時ではあるまい。僕はさっさと委員長にプリントを届ける退散するとしよう。

 

フェイトから目をそらし研究所の知り合いを探そうとすると、こちらを見つめているアリシアと目があった。

 

目で「気にすんな」と言うと、アリシアは大きく頷いた。

よし、我が友人アリシアとの以心伝心は成功したようだ。

 

流石アリシアだね!

 

アリシアは近くの女の子達に何かを言って僕の方に走ってきた。

 

ちょっと待って、何故に?

 

「やー、どうしたのケイくん」

 

「何故に僕の方に来たんだ。僕は来なくていいって言わなかった」

 

「え?あの目配せそういう意味だったの?寂しいから早く来て、という意味かと思った」

 

「僕がそんなことするわけないだろ〜」

 

むいー、とアリシアのほっぺたをぐにぐにと引っ張る。

 

「ちょっとアンタ止めなさいよ!」

 

そんな事をして遊んでいるとツンとしていてやたらと高圧的な声がした。

その声の主はアリシアのほっぺたを引っ張る僕の手を叩いてアリシアと距離をとらせた。

 

「アンタどこの誰だか知らないけど、アタシの友達虐めんじゃないわよ」

 

おお、かっこいい。さながらどこかの主人公様だね。

友達のピンチに助けに入るとは、友情とは美しき(かな)

 

近くを見れば先ほどまで遠くで賑やかに騒いでいたフェイト達がこちらに駆けつけたところだった。

 

ここで少し悪戯心が働いた。ちょっといかにも怖いお兄さんといった感じで威嚇してみよう。

 

「はぁん?オレが誰に何しようと勝手じゃー」

 

身振り手振りを大げさにつけて眉を寄せて厳つい顔にしてみる。

すると金髪のお嬢さんは瞳に炎をたぎらせながら僕に突っかかってきた。

 

「確かに誰に何しようが勝手だけど、アタシの友達に手を出すのは許さないっつてんのよ!」

 

「ナンダトコラー」

 

「なに?やるならいいわよ、表でなさい!」

 

ちら、と金髪のお嬢さんの横に控えるアリシアに目を向けると顔を下に向けて必死に笑いをこらえていた。

更にその奥のフェイトは僕の演技に気づいているのかは知らないが、あわあわと仲裁しようとしていた。

 

想像以上の面白さに思わず笑いが溢れでる。

 

「くくく、ふふ」

 

「な、何が可笑しいのよアンタ!」

 

「く、あははは、ごめんねアリサもう無理っ」

 

アリシアが僕の笑いにつられたように笑い出し、お腹を抱えて地面を叩く。

 

「い、一体何なのよ?!」

 

「ケイも姉さんも悪ふざけが過ぎるよ!アリサが困ってる」

 

「え?なにどういうこと?」

 

フェイトがようやく仲裁すると今度は金髪のお嬢さんが困ったように僕とアリシア、フェイトの顔を順番に見た。

 

「くく、ごめんねお嬢さん。ちょーっと悪戯がすぎたね」

 

「アリサこの人は、私の知り合いの、ふふふ、雉咲禊、ふふ、ね」

 

「はいはい、宜しくねテスタロッサ姉妹のご友人方」

 

にこにこと笑って手を振ってやるとそこでようやく得心がいったのか金髪のお嬢さんさ今度はぷるぷると震えだした。

 

「アーリーシーアー」

 

「おおっと私はこの件は悪くないよ!悪いのは悪戯したケイくんと勘違いしたアリサでしょ」

 

アリシアはぴょっと慌てて僕の背中に隠れると顔だけを出して金髪のお嬢さんに抗議をした。

 

「お嬢さんこの件は僕も悪かったよ。だから、そう怒らないで」

 

そう言うとお嬢さんはしばらく僕とアリシアを睨んでいたが、突然気が抜けたようにため息をついた。

 

「その人がフェイトの言ってた【ケイ】なのね。それならそうと言えばいいのよ」

 

「ごめんねアリサ〜」

 

アリシアが僕の背中から出てお嬢さんの頭を撫でた。

身長が足りなくて必死に背伸びしてしてるところが何とも面白いね。

 

「改めて自己紹介するね。僕は雉咲禊。天央中学二年生。気軽に禊でもケイでもケーでもみそぎんでも好きに呼んでいいよ」

 

未だポカーンと僕を見ていた茶髪と紫の子に言うと、茶髪の子は慌てて頭を下げた。

 

「た、高町なのはです!海聖小学四年生です。よろしくお願いします!」

 

「私は月村すずかです。歳はなのはちゃんやフェイトちゃんと同じです」

 

茶髪の子(なのはちゃんだったか)の次には紫の子(たぶんすずかちゃん)が挨拶してくれた。

 

「アタシはアリサ・バニングス。その、悪かったわね」

 

「バーニング?」

 

「バニングス!」

 

がうと犬のように吠えるアリサ嬢。なかなか弄りがいがある。

 

あっはっはと声を挙げて笑う僕に手を上げたなのはちゃんが遠慮がちに質問をしてきた。

 

「あの、ケイ先輩はフェイトちゃんやアリシアちゃんとどういった関係なんですか?」

 

「おろ?どういった?」

 

「その、フェイトちゃんの口からよくケイ先輩の名前を聞いたので、どういった関係なのかなーって思ったり」

 

あはは、と気まずそうに笑うなのはちゃん。

 

「ふむ、つまりなのはのお嬢さんはその、僕に嫉妬してるの?」

 

「にゃっ?!べ、別にそんなんじゃ……!」

 

「うん、冗談」

 

顔を赤くして俯くなのはちゃんに呆れてその隣のフェイトを見るとフェイトはフェイトで顔を赤くしてそっぽを向いていた。

 

ーーえ?なにあそこ出来てたの?

 

「あそこはあんまりいじっちゃダメだよケイくん」

 

アリシアが耳打ちで教えてくれた。ふむ、確かになんかめんどくさい。

 

「かむばっく、フェイト」

 

とりあえずフェイトの頭を軽くチョップした。

 

「あうっ」

 

「どんな関係、だっけ?兄貴分てのが一番しっくりくると思うよ」

 

不満そうに上目遣いでこっちを睨んでくるフェイトの頭を撫でてやる。

なのはちゃんは少し納得いかないような表情を見せていたが、安心してにこにしているフェイトをみてひとまず礼を言ってくれた。

 

あそこは本当にデキているのかもしれない。

 

「あのさ、ケイくんは何でここ(研究所)にいるの?」

 

アリシアが小首を傾げる。

それは確かに妥当な疑問かもしれない。ここはブレイブデュエルの専門店でもあるんだし、ここに来る人は大抵それ(ブレイブデュエル)絡みの人だ。

僕みたいな人間が来る場所ではないのかもしれない。

 

「まあ、ちょっとウチのクラスの委員長に用事があってね」

 

手に持ったネコのクリアファイルを掲げてみせる。

 

「僕のことなんかは良いんだよ。アリシア達はなんで研究所に?」

 

「ん、ちょっと人と待ち合わせしててね」

 

「ブレイブデュエル絡みの?」

 

「うん、そーだよ」

 

アリシア達のブレイブデュエルは相変わらず好調らしい。

自分が少しでも関わったものが人気になっているのなら嬉しいというものだ。

 

「ほんと、何してるのかなぁ()()()()()()

 

「ディアーチェ?!」

 

アリシアが不満げに漏らした単語に大きく反応してしまう。

僕の声に驚いたのかアリシアはやや引きぎみだ。

 

「ご、ごめんごめん。ディアーチェって僕の知り合いの名前だったからさ。少し驚いただけ」

 

「そ、そっか。驚かせないでよねもう」

 

どうやら今アリシア達と委員長は待ち合わせしているらしいからここで待っていれば委員長と会えるという解釈でいいのか。

 

「アリシア僕もここで一緒に待っていていいかな?」

 

「別にいいよ」

 

よし、了承は得た。後はアリシア達と喋って時間を潰すだけだ。

 

「ケイ先輩質問いいですか?」

 

そう言ったのはすずかちゃん。

 

「はいはい、何でしょう」

 

「ケイ先輩はブレイブデュエルされてるんですか?」

 

「いや、別に?何で」

 

「フェイトちゃんからいっつも「凄く強い人がいる」って聞いてたからもしかしてって思って」

 

そうなの?という風にフェイトを見ると気まずそうに目をそらした。どうやら本当らしい。

 

「僕が強いって?あはは、それはないよ。そもそも僕は()()やってないしね」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

「いえいえ」

 

僕の答えが不満だったのかじとーっと僕を睨んでいるフェイトは無視して会話を終了させた。

こんな会話もうできるかっての。

 

「ねえ、アリシアちゃん。今私たちは誰を待ってるのかな?」

 

「いやね、ほんとはディアーチェやユーリなんかが出迎えてくれる予定だったはずなんだけど、なんか遅いねぇ」

 

「王様たちが?」

 

「それは不自然だね」

 

フェイトと三人娘が僕を慌てて見た。そう注目しないでくれないかしらん?

 

なのはちゃんやすずかちゃんたちの会話に割り込んで申し訳ないとは思うが、ちょっと聞き逃せない言葉があったのだ。

 

「委員長が遅れてるって?」

 

「委員長?」

 

すずかちゃんが首を傾げた。

ああ、そうかこの呼び方は他の人には伝わらないのか。

 

「えと、で、ディア……クローディアが遅れてるの?集合時間に」

 

「うん、10分くらい」

 

あの委員長に限ってそれはないだろう。

厳格で威厳に満ちていてお節介焼きの代表みたいな生粋の委員長が集合時間に遅れるなんてマネする訳はない。

 

「なんかトラブってるのかもね」

 

僕が言うとアリシアたちは驚いたように僕を見つめた。

 

「よくわかるね」

 

「何となくね。それなりに深い付き合いしてるからね」

 

「王様たち大丈夫かな……」

 

まあ、トラブってると言ってもせいぜいレヴィの落し物探しとかそんなところだと思うけど。

不安そうな顔をみせる彼女たちにそんな事言っても無駄だろう。

 

「心配なら生活エリアまで行ってみるといいよ。彼女のことだし別に怒りはしないよ」

 

一ヶ月ほど前に委員長に連れて行ってもらった生活エリアの方を指差した。

 

「ケイくんどこにあるのかわかるのなら連れてってくれない?私もフェイトもちょっと不安なんだよね」

 

三人娘とテスタロッサ姉妹が両手を合わせて頼み込んできた。

こう、なんか見目麗しい五人に頼み込まれると断りにくいなぁ。

 

「どうせ僕も委員長の所に行かなきゃだしついでに連れてってあげるよ」

 

やったぁ、と五人が喜ぶ。

 

こうやっていちいち一喜一憂できるのはなかなかの美点だよね。

 

五人を連れてエントランスからバトルブースへ移動する。後ろをひょこひょことついてくる五人で気分はアヒルの親である。

 

「ケイ先輩なんでバトルブースに?」

 

「こっからグランツさんたちの生活エリアに行けるんだよ」

 

「へー、よく知ってるわね」

 

「ふはは、褒めたたえよ」

 

そう言うと何故か気まずい雰囲気が広がる。

何かこう、イタイ人を見るような微妙な雰囲気。

 

「あの、ボケたんだけど……」

 

「え?!そうだったんですか」

 

「素でこういう人だと思ってたの?」

 

「その、す、少し……」

 

なんだそれ傷つく。

 

脳裏に浮かぶ我が友(クロノ)の忠告。これからは少し真面目になろうね。

 

「人がいっぱいだね〜。流石総本山って感じかな」

 

「そうだね。T&Hとはなんか熱気が違うよね」

 

ブースの一区画で歓声が上がった。どこかで大規模なバトルでも行われているのだろうか。

 

声が上がった方に目線を向ける。そこは非常に盛り上がっていた。

そう、盛り上がってはいたのだが、()()()()()()()

まるで、ヒーローが一方的にやられている時に上がる、子供達の悲鳴のような。

 

まあ、僕には関係ない事だ。

そう言う事は内輪で仲良く盛り上がっていればいい。

 

「あの、ケイ先輩。あっち見て来ていいですか?」

 

なのはちゃんもその不自然さに気づいたのか指をさして僕に尋ねた。

 

「別にいいけど僕は先に行くよ」

 

「待ってくれないんですか?」

 

「僕はそれ程暇じゃないしね。行きたいのなら別に止めないけど」

 

なのはちゃんがあからさまにしょんぼりした仕草を見せる。

しかし、僕は基本的にはそういうスタンスで生きてきたのだ。

必要な事は関わり、不必要なものは切り捨てる。

 

そう、僕はこれまでそうして生きてきたんだ。

 

アリサのお嬢が僕を非難するように睨んだ。

 

だから、行きたければ行っていいと言ってるんだけど。

 

アリサのお嬢は僕をしばらく見つめていたが、目の奥に先程とは違った静かに燃える炎をたたえて僕に詰め寄った。

 

「アンタはあの不自然な雰囲気が気にならないの?」

 

「別に。僕がわざわざ気にすることでもないでしょ」

 

「……アタシはアンタは嫌いじゃないけど苦手よ。そういう歳の割に無駄に悟った事いう所がね」

 

「僕よりガキンチョが偉そうによく言うね」

 

「なんですって?」

 

一触即発。

もう僕に掴みかからんとするアリサ嬢と僕を押しとどめたのはフェイトの仲裁でも無ければ、アリシアの諌める言葉でもなく、すずかちゃんの放った一つの単語だった。

 

「あそこにいるのってーーディアーチェさん?」

 

思わず指さされた先のモニターを見る。

すると、確かにそこには僕のよく知るグレーの髪に毛先だけ黒のメッシュがかかった特徴的な髪型の少女がいた。

 

「ディアーチェったら、デュエルして待ち合わせの時間忘れてたの?!こりゃあ、後で文句を言わなくちゃあ」

 

アリシアがやれやれと言って額を抑える。

 

「ーーでも、なんか様子がおかしく無いかな。なんか、ディアーチェ苦しそう?」

 

フェイトがそう言った瞬間、モニターの中の委員長に斬撃が入った。

 

モニターの委員長が苦しげな表情を浮かべる。委員長の服はところどころ擦り切れて、上半身を纏う上着は左の袖が千切れて無くなっていた。

誰がどう見てもやられている。

 

「フェ、フェイトちゃん、ディアーチェちゃん凄く強いんだよね!」

 

「う、うん。そのはずなんだけど……」

 

なのはちゃんがフェイトに詰め寄る。フェイトはやや驚いたように体を引いたがしっかりと受け答えをしていた。

 

「フェイト、よく見てみなよ。なんで委員長が苦戦してるかすぐわかる」

 

フェイトと三人娘は慌たようにモニターをまじまじと観察すると、瞬く間に表情が困惑から驚きへと変わっていった。

 

「ご、五対二?!」

 

「ほとんど五対一みたいなものだよ。一緒に戦っている男の子はまだリライズもしてない初心者だね」

 

アリシアが冷静に分析の結果を言う。

 

委員長と一緒に戦っている男の子はバタフライナイフくらいの大きさのナイフを片手に必死に攻撃を受けている。

そして委員長の方はその男の子を守ろうとしているようだったが、数の暴力の前に傷ついていくだけだった。

 

ーー胸糞悪い。

 

「な、なのはさん」

 

モニターの下辺りから一人の女の子がかけてきた。

それはこの前のグランツ研究所に訪問した際に知り合った、ふわふわした金髪の女の子、ユーリだった。

 

「ユーリちゃん、これ何が起こってるの?」

 

「私が年上の人に荷物をぶつけてこかしてしまって、それで、それで……」

 

ユーリちゃんの息が荒くなる。荒く繰り返される息の周期がどんどん早くなって行く。

 

そういえばユーリちゃんは体が弱いと委員長が言っていた気もする。

感極まって過呼吸に近い症状になっているのかもしれない。

 

「ゆ、ユーリちゃん?!ど、どうしようフェイトちゃん!」

 

ユーリちゃんがなのはちゃんの体に寄りかかる。もう、一人で立っておくのも辛いのだろうか。

 

「アリシア、お前レジ袋持ってないか」

 

「レジ袋?ご、ごめん無いかも」

 

「他に、誰か持ってない?」

 

「わ、私のでよければ」

 

目の前に出される三角折りされた白いビニール。

不安げに僕の方へ出しているのはすずかちゃんである。

流石の女子力。惚れちゃいそうだ。

 

「ユーリちゃん、ゆーっくり深呼吸ね。ゆーっくり、ゆーっくり」

 

いったんアリシアにクリアファイルを預け、ユーリちゃんの口元に広げたレジ袋を持って行って背中をさする。

ユーリちやんは暫くの間そうしたのち段々と荒かった息を安定したものに変えていった。

 

「す、凄いねケイ」

 

「こんくらい出来て当然だ。大した事無いよ」

 

ユーリちゃんの背中をさすりながら視線はモニターからずらさない。

委員長は今この瞬間も必死に戦っていた。

反撃を試みようとして背後から攻撃され、防御しようとすると近距離から斬りつけられる。

 

「あいつら五対二なんて卑怯よ!」

 

アリサが怒りのあまりか悔しげに唇を噛んだ。

 

確かに五対二は卑怯ではあるが、委員長が苦戦してるのはそれだけではあるまい。

 

「上手いね、相手」

 

「そうだな。スキルの強力さもあるけどチームで戦い慣れている。どこが防御しにくいか、攻撃しにくいかをわきまえている玄人の動きだね」

 

「それだけじゃないよ。初心者クンも案外上手いけどね。相手がそれよりも上手い。彼を利用してディアーチェの行動範囲を狭めてる」

 

「このままじゃジリ貧だ」

 

僕とアリシアの分析を聞いてポカーンと三人娘が口を開けた。

アリシアの事よりもどちらかと言うと僕の冷静さに驚いてるみたいだ。

 

「え、えと。じゃあこのままだと負けるってこと?」

 

フェイトとがアリシアと僕とを交互に見ながら聞いてきた。

 

「たぶんね」

 

僕が頷くとフェイトは顔を険しくした。

 

「なのは」

 

「うん、助けに行こうフェイトちゃん」

 

二人は顔を見合わせるとポケットから手の平大のブレイブホルダーを取り出すとシュミレーターの方へ走り出した。

 

遠ざかっていく二人の背中。その姿はまるでヒロインのピンチに走るヒーローのようで。

 

「待って」

 

思わず僕は二人を呼び止めていた。

 

「ケイ?」

 

フェイトがこちらを振り返った。その瞳は早く行かせてくれ、と訴えていた。

 

頭ではわかってる。

彼女たちに行かせれば問題ないだろう。でも、心が理解してくれない。

 

フェイトたちじゃなくて、僕が助けたいと。委員長を守りたい、と訴えるのだ。

 

不意に腕の中のユーリちゃんから声が聞こえた。

 

「ケイさん……」

 

「ユーリちゃん?」

 

「ディアーチェを、助けてあげてください」

 

彼女は弱々しく、しかし僕を見据えてそういった。

 

ユーリちゃんの言葉で心が決まった。

ちっちゃい子から頼まれて、その願いに応えられなくて()()()()()()

 

「フェイト、なのはちゃん、()()()()

 

「ーーえ、でもケイ先輩、やってないんじゃ」

 

「あー、ごめんちょっと嘘ついた。()やってました」

 

苦笑いで答えると未だ力の入っていないユーリちゃんを近くにいたアリサ嬢とすずかちゃんに預けた。

 

「アリシア、今()()()?」

 

「もちろん合点!」

 

アリシアは僕の質問に満面の笑みで答えるとポケットから青のブレイブホルダーを取り出した。

そして僕の右手の上にぽん、と置いた。

 

「今なら、持ちきれる?」

 

「わかんないけど、持ちたいと思ってる」

 

「今が()()()()()()()()()()()()だよね」

 

「うん、()()()()()()()()()()()()だ」

 

ホルダーを握りしめる。アリシアはホルダーから手を離した。

 

大きく深呼吸をして歩き出す。

 

「ごめんねフェイトになのはちゃん。出番は貰うよ」

 

二人の頭をくしゃりと撫でてシュミレーターに走る。

 

僕らしくないだろう。

 

カッコ悪いかもしれない。

 

たぶんみっともないに違いない。

 

でも、今は、今だけは、僕はーー!

 

「ヒーローでありたい」

 

モニターの前に群がる観客を掻き分けてシュミレーターの中に入る。

 

「シュミレーターON」

 

ブオンとシュミレーター内に光が灯る。

 

「プレイスタイルは乱入で、場所は市街地Aの乱入」

 

久々のコマンドだったので出来るか不安だったが無事に出来たので一安心だ。

 

後は、魔法の言葉を一言だけ。

 

少し前までほとんど毎日のように紡ぎ続けたこの言葉を。

 

「ブレイブデュエルスタンバイ」

 

『プレイヤースキャン。開始します』

 

体が光に包まれる。眩しいが決して嫌ではない柔らかな光。

 

『アリーナ上にアバター生成。出現座標はランダム』

 

目の前に現れたホロウインドウにじしんを表す光点が出現する。

 

『続いてセンス、ダイブします』

 

体が溶ける。意識が体から離れて仮想空間のアバター内に入り込んんだ。

 

目を開く。

入り込むのは真っ青な空。

踏みしめるコンクリート。

 

そして、散る色とりどりの()()

 

「久しぶりだな」

 

慣らすために、手を何回か開いて閉じる。この、満たされる感覚。

現実とは違う身体能力の高まり。

 

「ふー、ちょっくら正義の味方してこようかな」

 

地面を蹴って弾幕の飛び交う空の中心へ。

 

しばらくすると上空に見える防御を張る灰色の少女と黒の少年。

 

スピードをゆっくりとした速さから加速させていく

 

あと少しで辿り着く、という時に少女に向かって特大の光弾が走った。

 

少女は、委員長はそれを防御する余力はもうなかったのかそれに直撃すると頭から下へ下へと堕ちて行く。

 

「ちっ、タイミング悪い!」

 

全速力で駆けるが間に合わない。

 

「なら、こうするしかないか!」

 

だから、翔けた。

地面を必死に走るのではなく、空を翔んだ。

 

委員長が地面に落ちるまであと200と少し。

間に合うか?

 

いや、()()()()()()

 

こんなににも必死になったのはいつぶりかな。

空を飛びながら他人事のように考える。

いつしか委員長は僕にとって大切な人になっていたのかもしれない。

 

だから、今僕はこんなにーー。

 

どすっと腕に心地よい重さが伝わる。

灰色の少女は目を瞑って衝撃に備えていたが、背中に伝わる衝撃が思いの外小さかったのを不審に思ったのか恐る恐る目を開けた。

 

そして、その瞳が驚きに染まる。

 

「助けに来たよ、委員長」

 

僕は、今だけは君のヒーローだ。

 

 

 

 

 




最近キャラ増えてきてごちゃごちゃしてきたので近いうちに簡単なキャラ相関図でも作ろうかな。

あー、長くて最後の方はダレてるんだよなぁ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。