君に気持ちを伝えたい 作:世嗣
もう少しさっくりとした話にしたいんだけどなぁ。
「ケイくん何してるの」
「アリシアか」
T&Hの閉店間際に食事ブースでぼんやり佇むケイくんを見つけた。
ケイくんは私を見るとふわふわとした笑顔を浮かべた。彼特有のどこか不思議な雰囲気の笑顔だった。
「少し黄昏てただけだよ」
「ふーん」
ケイくんの隣まで行くと優しい手つきで頭を撫でられた。
ケイくんは頭を撫でるのが上手い。
あ、これは今流行りのナデポとか言うのじゃなくて、力加減をわきまえてるって意味だよ。
たぶん妹分が沢山いたから上手くなったんだと思う。
「ケイくん今日も大活躍だったね。フェイトが悔しがってたよ」
ふふ、とフェイトの不満そうな顔を思い出すと笑いが漏れた。ケイくんの顔を覗き込むとひどく遠い目をしていた。
「ーーケイくん?」
「僕さ、今日でT&H辞めることにしたんだ」
ぽつりと溢れでるようにケイくんが告白した。
「ーーぇ」
「リンディさんやプレシアさんにはもう言った。引き止めてくれたけど辞めることにした」
「く、クロノには」
「いの一番に言ったよ。あいついい奴だよね、なーんにも聞かなかったよ」
流石僕の友人だ、と笑う。その笑顔がどこか痛々しかった。どう見ても無理していた。
「どうしてもやめなきゃ行けないの?今までは他のバイトとも両立出来てたじゃん」
ケイくんは答えない。私に咎めるような言葉を向けられてもふわふわとした笑顔を見せるだけだった。
「アリシア、お願いがあるんだ」
ケイくんはそう言うと自分の胸ポケットから青のブレイブホルダーを取り出して私の手に握らせた。
「これを預かっておいて欲しいんだ」
「な、なんで?!T&Hを辞めてもブレイブデュエルは続けられるんだよ!」
私が驚いたように言うとケイくんはたはは、と苦笑いでこちらを向いた。
「僕さ、クロノみたいに器用じゃないんだよ」
いきなり何を言い出すのか、と思った。今の会話とクロノと何が関係があるというのか。
「だから、
ブレイブホルダーを握らせる手にぎゅっと力がこもった。
「僕は不器用だから、一度にたくさんのものを持とうしたらきっと重さでこけちゃうんだ。それが大切な物なら尚更ね」
それは納得できた。ケイくんはお世辞にも多才な方ではない。
どちらかというと人よりも何倍も頑張って頑張って頑張り続けてようやく人と並ぶような人だと思う。
「だから、捨てるわけじゃない。置いておくんだ。いつか僕が大きくなって大切なものを持ちきれるようになったら取りに来るよ」
だから、それまでダメかな。
私はケイくんの問いかけには答えずに黙ってブレイブホルダーを受け取った。
ケイくんはそれを見て満足げに微笑むと私の頭をくしゃりと撫でていった。いつもとは違って荒くて、髪型が大きく乱れた。
その時の手が震えていたのはきっと勘違いではない。
それ以来ケイくんが自分の意思でT&Hに来ることはなかった。
私がフェイトの寂しがりようを見かねて呼ぶことはあったけど、ケイくんはブレイブデュエルに触れようともしなかった。
だから、待つことに決めた。
禊が再び自らの意思で手に取ってくれるまで、私は待ち続けると誓った。
そして、それはある一人の少女がきっかけとなってなされることとなる。
「なーんて、ちょっとかっこつけ過ぎかな?」
★☆★☆★☆★☆★☆
「助けに来たよ、委員長」
にかっと腕の中の委員長にむけて笑みを見せる。
委員長は初めの方はぱくぱくと金魚のように口を動かしていたがしばらくすると細々とした言葉を口に出した。
「か、カッコつけるなこの戯け」
現在所謂お姫様抱っこの状態の委員長が赤い顔で睨む。
ははは、残念だったね委員長。お姫様抱っこの状態でいくら凄んでも可愛いだけだぜ?
「と、というか何故ここに?貴様はここが何かわかってるのか」
「バーチャルリアリティゲーム『ブレイブデュエル』の仮想空間の市街地Aのはずだけど」
「そ、その通りだが。というか早く逃げよ。彼奴ら相当の手練れだ。シュテルやレヴィがいれば状況は変わってくるが、このままではジリ貧だ」
「あー、大丈夫、かも。実は僕さ、ーーうわっと!」
委員長をお姫様抱っこしたまま空中を旋回し、背後に迫っていた魔力弾を回避した。
「こら、少年!会話の途中の攻撃はご法度だろう!」
こういうのはちゃんと待っとくのが決まりだろう!
「そんなの俺が知るわけないだろ。アンタはこのデュエルに乱入したってことはぶちのめされる覚悟があるってことだろ」
黒髪の少年はそう言うと、更に赤の直射弾を撃ってきた。
「おっとっと」
ひょいひょいと空中を旋回、降下、上昇を繰り返して全部避けてしまう。
「あっはっは、ざーんねーん賞」
「オラッ」
「ああ、君もね」
避けきって高笑いした僕を背後から片手剣で斬りつけようとしていた青い髪のソバカス少年を蹴飛ばす。
空中を加速して委員長と共にボコられていた男の子の下へと向かう。
「はい、邪魔だよー」
男の子を虐めていた氷の槍をもった奴を視覚の外側から蹴飛ばす。
うわーい、今のライダーキックみたいだ。
「やあ、大丈夫かな少年」
ナイフを片手にポカンとした顔で僕を見る赤目の少年に尋ねる。
「はい、一応」
赤目の少年はすぐに表情を引き締め直すと控えめに頷いた。
よし、なかなか強い子だね。
「はっ、き、雉咲降ろせ!我は自分で飛べる!」
「恥ずかしがらなくていいんだぜ?それに委員長スタン判定あるからたぶんまだ動けないよ?」
「ーーくっ」
赤い顔で黙り込む委員長。
相変わらず凄く可愛いよ?
「おっと、危ない」
赤目の少年と僕に向かっていた魔力弾を避けるために、赤目の少年を片手で引き寄せ、魔力弾を蹴り返した。
「しつこいぞー、少年。ちょっと待っとけって言ってるでしょうがー」
「うるさいぞ、邪魔すんな!」
そう言って上下と正面から打ち出された色とりどりの魔力弾。
ふむ、回り込まれてたっぽい。
ならば、と片手に赤目の少年を脇に抱え、もう片方に委員長を変則抱っこで持つと、最も近いビルの中に逃げ込んだ。
「よーし、これで一旦は大丈夫」
少年を床に降ろして委員長をお姫様抱っこし直す。
「いや、待て我も床に降ろせばよかろう」
「ちぇー」
文句を言われたので細心の注意を払って委員長を床に座らせた。
「とりあえず現状説明を求む。僕イマイチ状況理解してないんだよね」
「むう、なんと説明したものか。事情が混み合っておってな」
委員長がこめかみを抑えて考え込む。僕の予想だとユーリちゃんの態度からユーリちゃんに纏わる何か、といった感じはするんだけど。
「俺が、悪いんです」
委員長が驚いたように少年を見た。少年は手に持ったナイフを腰にしまう
「俺があいつらにケンカ売ったんです。それだけです」
そう言うと黙り込んでしまう。委員長に本当かどうか目で問うと委員長は静かに首を振った。
「それホント?」
少年は静かに頷く。
「じゃあ、そう言うことにするからさ、僕を手伝ってくれない?」
「え?どういう……」
「一緒にあいつらにやり返そうぜ」
にっと笑いかけて、手を伸ばした。
少年はしばし迷うような素振りをみせたが、しばらくするとおずおずと僕に手を握ってくる。
僕はその手を強く握り返すと引っ張り上げて立ち上がらせた。
「僕は雉咲禊ね。ケイでいいよ」
「俺は
よし、反撃の準備は完了、と。
あとは
「シキ、ちょっとホルダー見せてくれない?」
本来ならこんなことせずに丁寧に説明したいところだが、今はいかんせん時間がない。
シキが頷き、ポケットからホルダーをとり出し、僕に渡そうとした瞬間ほど近い場所で鈍い音が響いた。
「わっ」
「むぅ……」
シキの驚く声と委員長の不機嫌そうな声が重なる。その後、音は止まることなく至る所から響き始めた。
「やっこさん、ビルごと破壊する気かな?」
これはいよいよ時間的猶予がなくなったうっかりしてたらビルごと破壊されてデッドエンドになってしまう。
ごめんね、と断ってホルダー手に取り中のカードを確認する。
「あった、これだ……!」
取り出したのはN+のカード二枚。その二枚とホルダーをシキに押し付ける。
「いい?この二枚を使うと『ストラーカーチェンジ』ってのが出来るんだけど、ーーうわっと」
話している最中に壁にヒビが入った。そろそろこの建物もやばいのかもしれない。
「詳しい説明はこのデュエルが終わったら!とにかくそれを使ったらパワーアップできるから、後はデバイスに任せる!オーケーシキのデバイスくん」
『了解』
シキのナイフから男性の人工音声が聞こえた。よし、これでひとまずは安心だ。
「じゃあ、このビルでるよ!急がなきゃ崩れそうだ」
ひらりと未だスタン判定で動けない委員長をお姫様抱っこしてビルを飛び出す。後ろからはシキが少し遅れてついてくる。
「お、お姫様抱っこでなくてはダメだったのか」
委員長が腕の中で文句を言う。
「なに王様抱っこが良かったの?あだ名が王様だから?」
「も、もっと別の持ち方があるだろう、と言っておるのだ。この戯け!」
いや、だっておんぶだと委員長の胸あたっちゃうし、抱っことか論外だし、荷物担ぎするわけにもいかないし。
もちろんそんなことは言わない。委員長は案外
「シキ!」
「は、はい」
「僕は委員長を避難させたら戦闘に入るんだけど、シキに一人任せていいかな?」
「俺に、ですか……」
不安そうに表情を
気持ちはわかる。
さっきあんなにされたんだ率先して戦いたいとは思わないだろう。
でも、やらなきゃいけない。
さっきシキは「俺がケンカを売った」といった。
ならば彼には何かしか貫きたい何かがあったんだろう。
僕はそれを踏みにじるようなことはしたくない。
それに、たぶんシキはそんなに弱くない。むしろ強いはず。
それはアバターの面でなくて、
身のこなしや歩き方などがソウヤさんや姉上みたいな、
だから、さっきのは恐らくアバターでの性能の差のはず。
その程度ならきちんとストラーカーチェンジをすれば補えるレベルのはずだ。
「ーーやらせてください」
「よし、頼むよ」
後は委員長を避難させるだけ、と。
手頃な頑丈そうなビルに降りて、委員長を下ろした。
「じゃ、ちょっと行ってくるね」
「わ、我も……」
「そんな、フラフラな状態で来られても邪魔だから。ちゃーんとスタンなくなってから手伝いに来てね」
手の中に現れた杖をついて立ち上がろうとする委員長を半ば強引に座らせる。
委員長は不満そうに僕を睨んだが、自分が行っても足手まといだということは理解していたようで特に文句を言うことはなかった。
「シキ、軽いミーティングね」
手招きしてシキを近くに呼び寄せる。
「とりあえず、今のままだと勝ち目がないから相手を分断させます。具体的に言うと今の五対二の状況から
ぴっと左手で四、右手で一を表す。
シキは少し目を見開いたようだったが直ぐにもとの仏頂面に戻った。
どうやら、感情が顔に出にくいたちらしい。
まあ、そんなのは七緒で慣れてるんだけどさ。
「だからシキには
なるべくシキが安心して戦えるように周りの援護はない状況で戦わせる。
たぶん、それなら負けない、かも。
シキが頷いたのを見て、頭をワシワシと撫でた。女子にはしないような少々荒っぽいものになったが、男子としてはこのくらいが丁度いいはずだ。
「よーし、じゃあ行きますかね」
シキが僕の前をかけていく。僕もそのあとに続こうと足を踏み出す。
「ほ、本当にやるのか?四対一など正気の沙汰でない!初心者ならともかく奴らはかなりの熟練者だ!貴様がどれ程の実力かはしらぬが、それでも……んっ」
「お喋りなお口は閉じちゃうぜ」
委員長に歩み寄って人差し指を口に当てて、無理やり黙らせた。
委員長の顔はリンゴのように真っ赤になり、目は焦点が合ってない気もする。
「心配してくれてありがとね。でも、お姫様は大人しく戦いが終わるのを待ってなきゃね」
委員長の唇から指を離すとシキを追いかける。
最後に後ろを振り返ると心配そうな表情でこちらを見ていた。
「大丈夫、任せといてよ委員長。僕どうやら『強い人』らしいからさ」
唇の端を吊り上げて不敵な笑みを浮かべた。委員長に向けて突き出した右手はサムズアップで答える。
委員長は僕を見ると諦めたようにため息を吐いた。
しかし、その顔はどこか楽しそうでもある。
「貴様はそういう奴だったな。ならば我ももう反対すべきではないのだろう」
だから、と前置き。
「行ってこい、雉咲」
「オーケー、勝ってくる」
今度こそ委員長に背を向けてシキを追った。
一歩一歩が薄汚れたコンクリートを蹴ってその度に砂利と靴底とが擦れる音がする。
「遅かったですね」
「ごめんね、待った?」
「いえ、SSー01に『ストラーカーチェンジ』についての説明を受けていました」
SSー01、というのは恐らくシキの
初心者だし愛称はまだつけていないだけにちがいない。
「それで、行けそう?」
「それなりに」
「というか、さっきの会話なんかデートみたいだね」
僕に男とデートする趣味はないけどね。するなら、委員長やチンクとか可愛い女の子がいいよね。
「じゃあ、二人で
「おっ、そのノリ嫌いじゃないよ」
シキに右拳を向ける。
こういうカッコつけた雰囲気ならではの男のロマンという奴だ。
「行こうぜ、シキ」
「合点」
シキは僕より一回り小さい拳を突き出して僕の拳と突き合わせた。
当たりどころが悪かったのか、肘の方までじんわりとした痺れが走るが、それが何処か心地よい。
屋上に出て空を見上げるといるのは五人の男子。
それぞれ小学生の高学年から中学生ぐらいか。まあ、少なくとも僕より年下のは間違いない。たぶん。
「じゃあ、シキはあの左端にいる赤髪君をお願い」
「はい、任せてください」
よし、と二人揃って二枚のカードを手に『ストライカーチェンジ』をしようとすると、頭上から魔力弾の雨が降ってきた。
「おわっわっわっ、当たる、当たる」
ひょいひょいと魔力弾をギリギリで避ける。
あー、もうビルを攻撃すんなよ!委員長が中にいるんだぞ!
「コラー、変身中は攻撃するんじゃなーい!」
僕の叫びも虚しく弾丸の雨は激しさを増していく。
「シキ僕が君を守ってやるからさっさと
そう言ってシキの前にたって飛んでくる魔力弾を弾いていく。
魔力弾は僕の拳や足に当たるたび、色とりどりの火花を散らす。
「カードリリース、ノーマル二枚」
シキの落ち着いた声色の詠唱が聞こえる。
「カードフュージョン、ストライカーチェンジ……!」
その懐かしい言葉はかつて自分が大切にして、途中に置いてきてしまったもの。
「ドライブレディ!」
背後のシキが何処か羨ましい。
きっと彼にはこれから何度もこれを言う機会があるのだろう。
「リライズアップ!」
背中から真っ赤というより緋色の光が溢れる。
「終わった?」
「一応」
耳元で一言だけ声が聞こえた。シキはそれ以上何かを語ることはなく僕の傍から抜けていく。
シキは黒の外套をはためかせてそのまま空を翔けた。
指示した通りに赤い髪に向かっていくと左拳を振りかぶり思い切り殴り飛ばした。
「なかなかに武闘派だな」
はは、と笑う。服は既に魔力弾によってボロボロで見せられたものではない。
「いくぞ、
久々に自らのデバイスに呼びかける。すると、青の光が僕の上腕部に巻きついていき、騎士のつけるような籠手を形作る。
「よう、お久」
『壮健そうで何より』
「お前こそね」
コキ、と首を曲げて一息。
とりあえず目線を合わせるために空に浮かぶことにする。
「やあやあ、少年方。できれば赤目の彼は邪魔しないでいただきたい」
「じゃあ、お前はどうするんだ?お前も一対一がいいのか」
「ん、いやいや、
「……上等ッ!」
黒髪の少年は周りのお仲間に指示を出すと僕を囲うように弾丸を放ってきた。
「諸々は省略!サクッといくぞコンステラシオン」
『心得た』
二枚のカードを籠手のカード挿入口にぶち込んで準備は完了。
あとは、一言の魔法の言葉を紡ぐだけ。
万感の思いで、紡ぐだけ……!
「
身を包むのは濃紺の光。変わる服装。体に満ちるは先程とは段違いの万能感。
光が体からはれると同時に
「アーマーナイトタイプか」
「ご名答」
僕のアバターはアーマーナイトタイプという。
細かい性能はあるが簡単に言うと『すごく硬くて攻撃力がバカみたい』と言うぐらいだ。
なんか万能に聞こえるかもしれないがこのアバターは結構致命的な弱点があったりするのだ。
「それで俺たち四人に勝つ、と」
「いやいや、さっきも言ったでしょ。
安い挑発だ。
頭のいい連中にはすぐばれそうなものだけど、こういうプライドが先走ってるようなガキにはよく
「舐めんなよっ!」
背後から剣を振りかぶる男子。
コース、狙う場所からなかなかの腕ようだ。
ーーまあ、僕を倒すにはちょっと足りないかな。
「
右腕に力を込める。
「フレイムーー」
「そらよっ!」
振り返って一閃。
いや、拳だから……まあ、一閃だ。
僕の拳が当たった剣の子は白目を向いてビルに突っ込んでいった。
「あら、一撃か。あっけない」
ライトニングタイプだったのだろうか。それにしてもあっけなさ過ぎる。
ま、大した問題ではないだろう。
「ああ、そうだ。『舐めんな』だっけ?」
飛んで行った仲間を追いかけることもなく呆気にとられたように僕を見つめる少年たちに目を向けた。
「
ギロリと目を鋭くする。
「僕の委員長を傷つけやがって」
胸を占拠するもやもやとしたもの。
今相対して気付いたがどうやら僕は珍しく。
「だから、トラウマになる程度に遊んでやる」
怒ってるらしい。
それもかなり激しく、重度のレベルで。
信じられないだろこれ気づいたら一万字超えてて慌てて3話に分割したんだぜ?