君に気持ちを伝えたい   作:世嗣

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ケイの戦闘後日談はいろんなところで小出しにしていくのでゆっくり待っててください。

あ、あと前話でお気に入りが100件を超えさらにUAが10,000を超えました。
読者の方々に多大な感謝を。


閑話

俺はなんであんなことをしたのか。

 

そんなのわからない。

 

でも、あの人は俺の行動を肯定してくれた。

正しい、とはっきり言ってくれた。

 

だからあの日の出来事は決して間違ってなんかいなかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

俺の通う学校は変哲もない何処にでもあるようなものだ。

 

制服なんてなくて、お弁当じゃなくて給食で、お嬢様なんかいなくて、不思議な人も可笑しな人もいない。

そんな普通の学校だ。

 

いや、学校()()()

 

「は、はジめマシて。ゆ、ユーリ・エーベルヴァイン、デス。まだ、ムズカシイ言葉、ハ、わからないケドよろしくおねがいしまス」

 

ユーリ・エーベルヴァイン。

 

国は忘れたけどヨーロッパの方からの留学生らしくて姉妹みたいな人たちと来てるらしい。

 

日本ではなかなかお目にかかれない綺麗な金髪が少し気になった。

でも、俺はあんまり人と話すような性格ではなかったし友達も結構いるみたいだった。

 

だから、俺とエーベルヴァインさんとの関わりができたのは一ヶ月後の席替えで隣同士になった時だった。

 

「よろしクおねがいしまス」

 

「……よろしく」

 

「わたしユーリ・エーベルヴァインていいます」

 

「知ってる」

 

俺がそういうとエーベルヴァインさんは緑の瞳をゆらゆらと揺らして俺を見つめる。

 

「何?」

 

「エト、あなたのナマエなんていうんでスか?」

 

エーベルヴァインさんはおずおずと俺に尋ねてきた。

 

「シキ。緋芽シキ」

 

 

◆◇◆◇

 

「そっちのクラスのエーベルヴァインさんってどんな感じ?よっ!」

 

「別に普通の女の子だ。そら」

 

「え?仲良いの。おわっと!」

 

「悪い。いや、別に普通だ」

 

エーベルヴァインさんと隣になってからしばらくしてからの昼休み。僕は友人のエリオ・モンディアルとボールパスをしていた。

 

黒と白のサッカーボールが僕の足に蹴り出されてエリオの足元へ転がっていく。

 

「また無愛想にしてるんじゃないの?」

 

エリオは転がってきたボールをリフティングの要領で胸の高さまで上げると両手で掴んだ。

 

「そんな事はない。挨拶はするし自己紹介だってしたぞ」

 

「どうせ「緋芽シキ」とか名前しか名乗らなかったんだろ?」

 

「よくわかるな」

 

「そりゃ長い付き合いだしね」

 

エリオが近くにあったベンチに腰掛ける。俺もそれに習って腰を下ろした。

 

「エーベルヴァインさんって体弱いらしいけど」

 

「ああ。体育なんかはいっつも見学しているな」

 

「日本語あんまり喋れないとか」

 

「最近はそうでもない。次第に難しい言葉もわかるようになっている」

 

そこでエリオが一息つく。

遠くでは他の男子がキックベースをして遊んでいた。

バッターの蹴ったボールがぽーんと内野を超えて外野の方へ飛んでいく。

 

「今日は随分突っかかるな。エーベルヴァインさんが気になるのか?」

 

エリオがここまで突っかかるのは珍しい。基本的にコイツはあまり話す方ではないので、聞きに徹することが多い。

 

「いや、ちょっとおもしろい話を聞いたからね」

 

エリオが含みのあるニヤといった感じのいやらしい笑みを浮かべた。

 

なんだこいつ。

 

「留学生のエーベルヴァインさんが、校内一の不良、緋芽シキに脅されている」

 

「ーーは?」

 

驚きのあまり目を丸くしてエリオを見つめた。

 

「驚いてるってことは嘘みたいだね」

 

「……当たり前だ。なんだ、校内一の不良って」

 

「シキは鉄仮面すぎるんだよ。もう少し笑えばいいのにさ」

 

あははと笑うエリオ。

 

「うわっ、怖っ!何してるの?!」

 

「笑おうとしてた」

 

「それは笑顔じゃない。もっとおぞましい何かだよ」

 

「むぅ」

 

頑張って上げていた口角に手を持っていくとぴくぴくと引きつっていた。

 

「笑顔は難しいな」

 

ぼそりと呟くとエリオが励ますように背中を叩いた。

 

「それで?その話はホントなの?」

 

エリオが手の中でサッカーボールを弄びながら尋ねてきた。

くるくると回るサッカーボールは黒と白とが混ざり合って幾何学的な模様を作り出していた。

 

「そんなわけあるか」

 

このアホ、と隣のエリオの脇腹を小突く。その拍子でエリオの手の中のサッカーボールが溢れた。

ていんていんと転がっていったボールはあっという間に俺らの手の届かないところへと去っていった。

 

「じゃあ、ちょっと噂の検証をさせてもらうけどいい?」

 

好きにしろ、と鼻を鳴らす。

 

「一週間くらい前エーベルヴァインさんからハンカチを奪い取っていた」

 

「エーベルヴァインさんが俺の落としたハンカチを拾ってくれた」

 

「エーベルヴァインさんの給食を無理やり奪った」

 

「エーベルヴァインさんが食べきれなかった分を俺が食べた」

 

「ふらつくエーベルヴァインさんを保健室に連れ込んでいた」

 

「移動教室の時貧血気味になったエーベルヴァインさんを保健室に連れて行った」

 

「放課後の教室でエーベルヴァインさんにキスを迫っていた」

 

「……目にゴミの入ったエーベルヴァインさんに目を擦らないように、といって顔を覗き込んでいた」

 

「エーベルヴァインさんの自宅まで尾行した」

 

「エーベルヴァインさんの家にプリントを届けた」

 

一通り俺の訂正が終わるとエリオは少しがっかりしたような、安心したような表情をした。

 

「よかった、全部ウソかぁ……」

 

安心したようにため息をついたエリオを尻目に先ほどの噂の内容を思い出す。

 

ーー校内一の不良。

 

その名に俺の態度が関係してない、とは言えない。

だって俺は表情筋は凍ったようにぴくりとも動かないし、態度も話し方も無愛想だ。

俺だって感情が無いわけじゃない。

 

俺はそんな小説の中みたいな変な奴じゃない。

 

ただ感情表現が人より下手くそなのだ。

 

「でもシキにボクやキャロ、ルールー以外にも友だちが出来たのは嬉しいよ」

 

「……友だち」

 

「あれ違った?」

 

じゃあ、シキにとってエーベルヴァインさんはどんな人?

 

エリオが純粋に疑問に思ったのかそんな事を聞いてきた。

 

ともだち?

 

俺とエーベルヴァインさんが?

 

「たぶんそんなんじゃないと思う。俺とエーベルヴァインさんは、たぶん」

 

「ーーたぶん?」

 

「たぶん……」

 

たぶん、何だ?

 

金色の瞳が俺を覗き込む。次の言葉を紡ごうとするが口からはなかなか言葉は出ず、静かに呼気が吐き出されるだけだった。

 

「あ、予鈴だ」

 

キーンコーンと昼休みの終了を告げる鐘が鳴った。

エリオが勢いよく立ち上がり転がっていったサッカーボールを追いかけて歩き出す。

その途中一度だけ振り向く。

 

「続きはキャロたちと合流した後の放課後に聞くよ」

 

手を振ってエリオが離れていく。

その様子を見つめると頭をぽりぽりと掻く。

 

「帰るか」

 

教室につくと隣の席のエーベルヴァインさんの席が空いていた。

気になってエーベルヴァインさんの前の席の前田さんに訊いてみるが何も知らないようだ。

 

どうしたんだろうと首をかしげながら机の中から教科書とノートを取り出す。

 

そこでちょうどぱたぱたとスリッパの足音を響かせてパタ子先生が入って来た。

 

「みんな待った〜?」

 

えへへ、と頭を掻きながら教室に入ってくるとぺろっと舌を出した。

 

やいのやいのとクラスメイトが先生に文句を言っていたが俺は隣の席の空席が気になっていた。

 

「エーベルヴァインさんなら早退したからみんなお見知り置きを〜」

 

先生がみんなを見た後に一瞬だけ俺に目を合わせ目配せをした。

どうやら俺の態度が露骨すぎたみたいだった。

 

なんだか俺がエーベルヴァインさんを気にしてるみたいで居心地が悪い。

 

「じゃー、教科書は77ページ、中島さんにお願いしちゃおうかな」

 

先生の掛け声で生徒が立ち上がって教科書を読み始める。

 

授業が始まったが早退したエーベルヴァインさんの事が気にかかっていた。

 

ーーシキにとってエーベルヴァインさんはどんな人?

 

その答えは、俺にだってわからなかった。

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

「許してやってくれないか」

 

目の前の赤い髪の上級生らしい男子の腕を握って止める。

 

「緋芽さん……」

 

エーベルヴァインさんの家に様子を見に来るとエーベルヴァインが五人ほどの男子のグループにぶつかった所だった。

 

床にはなにやら段ボールが転がっていた。おそらくエーベルヴァインさんはこれを運んでいたため前が見えなくて、男子グループの一人にぶつかった様だった。

 

エーベルヴァインさんはぺこぺこと頭をさげるが赤い髪の男子はイラついたかのように声を荒げた。

 

エーベルヴァインさんの肩がぴくりと震える。

 

それを見ると気づいたら体が動いていた。

 

そして赤い髪の男子を止めると気づいたらブレイブデュエルをする事になっていた。

 

途中エーベルヴァインさんのお姉さんらしき人が助けに入ってくれた。

 

エーベルヴァインさんのお姉さんはとても強かったけど俺を守りながらかつ相手の攻撃を防ぎながら相手に攻撃もしなきゃならなかった。

申し訳ないことに俺の攻撃も所々お姉さんに当たりそうになっていた。

 

旗色は最悪に近かった。

 

そんな中でまるでヒーローのように現れた青い瞳の人。

髪の先の方は僅かに緑を帯びていて着ているブレザーから中学生なのだと予想できた。

 

雉咲禊。

 

それがその人の名前。

 

どうやら俺を助けに来たのではなくてエーベルヴァインさんのお姉さんを助けに来たみたいだった。

 

その人は恐ろしく強かった。

 

追い詰められていたお姉さんと俺をあっという間に救い出し、瞬時に反撃の算段を立てた。

 

ーー相手を一人やってくれるか?

 

ーー変わっちまえ、シキ!

 

デュエルの事は無我夢中でよく覚えてない。

ただ『リライズアップ』した後にはあんなに強かった敵と互角に渡り合えたのに驚いたのだけは覚えている。

 

現実に戻ると先ほど助けてくれたケイさんがたくさんの女子に問い詰められて汗をかいていた。

 

特に強烈だったのはエーベルヴァインさんのお姉さんで、ケイさんに噛み付かんばかりだった。

 

「あの、緋芽さん……」

 

「エーベルヴァインさん」

 

ホルダーを握ってケイさんの様子を眺めているとエーベルヴァインさんが俺の方に走ってきた。

 

「えと、お疲れ様でした……!」

 

ぺこり、と頭を深くさげる。その動きに追随して柔らかな色彩の金髪がふわりと揺れた。

 

「ああ、感謝する」

 

「それと、初勝利もおめでとうございます」

 

えへへ、笑うエーベルヴァインさんに背中がむず痒くなる。

 

「あれはケイさんが居なきゃ俺はなす術もなく敗北していた。だから、あれはケイさんのおかけだ」

 

頭を掻きながらそう言う。しかしエーベルヴァインさんはそれを認めることなく、小さく首を振った。

 

「確かに勝ったのはケイさんのおかげかも知れません」

 

緑の瞳が俺を見つめてゆらゆらと揺れる。

 

「でも緋芽さんは私のために戦ってくれました。だから、ありがとうです」

 

エーベルヴァインさんの微笑みに心の奥の方がふわりと浮く。

胸の中に陽だまりのように温かいものが広がった。

 

「エーベルヴァインさん一つ聞いてもいいか」

 

ーーどうして俺と仲良くしてくれる。

 

「俺は愛想は良くないし、面白い話だってできない。おまけに校内一の不良だとも言われている」

 

気持ちを落ち着けるために小さな深呼吸。

 

「エーベルヴァインさんにとっては俺と仲良くして良いことなんて無いはずだ」

 

言うべきことを言った。

 

「緋芽さんはかんちがいしてます」

 

エーベルヴァインさんが柔らかく微笑んだまま口を開く。

 

「私が緋芽さんといたいから一緒にいるんです」

 

「でも、そのせいで良く無い噂がたってる」

 

エーベルヴァインさんは困ったように眉を寄せて俺の隣にならんだ。

 

「あなたは優しいです」

 

目線は遠くの方でがやがやと喋り続けているお姉さんに合わせて言葉を続ける。

 

「緋芽さんは私が具合が悪くなっても一度も嫌な顔をしませんでした」

 

「日本語がうまくしゃべれない私にゆっくり話しかけてくれました」

 

「いつでも体のことを気にしてくれました」

 

「だから私はあなたといるんです」

 

エーベルヴァインさんはそこで俺に向き直った。その緑の瞳には珍しく強い意志を感じる光が宿っていた。

 

「他の人なんか知りません。私があなたといたいんです」

 

バカだな、俺は。

 

「エーベルヴァインさんやっぱりもう一つ聞いて良いか」

 

エーベルヴァインさんがこてんと首を傾げる。

 

「ユーリ、とよんでも良いだろうか」

 

俺がそう言うとエーベルヴァインさんは、ぱあっとひまわりが咲いたように笑うと大きく頷いた。

 

「じゃあ、私もシキさんって呼んでいいですか」

 

「ああ、構わないよ」

 

互いに呼び名を変えることに気恥ずかしさを感じる。

エーベルヴァインさん……ユーリの頬もどこか赤いようだ。

 

「シキさん私も一つお願いしてもいいですか?」

 

ユーリが顔を足元に落とし、不安そうな調子で口を開く。

それに対して俺は一言了承の意を伝えると、ユーリがゆっくりと顔を上げた。

 

「あ、あの!わ、私とーー」

 

 

◇◆◇◆

 

 

『ねえシキ聞いてるの?!』

 

「ああ、聞いてるぞ」

 

グランツ研究所からの帰り道で、俺は唐突になった着信に応答していた。

 

聞き馴染みのあるその声は明確に不機嫌な調子を漂わせていた。

 

『今日何で来なかったのよ。エリオもキャロも待ってたのに』

 

「そう怒るな、ルー。俺も忙しかった」

 

『忙しいくて来れないなら、メールでも何でも送ればいいじゃないのよ』

 

「だから、怒るな。その代わりと言っては何だけど明日を楽しみにしてるといい」

 

『え、何かあるの?』

 

「ああ、楽しみにしておくといい」

 

ーー友達を、連れて行くからさ。

 

 

 

 




これで一章はおしまい。
次からは二章が始まります。

あと次回投稿は五日後ではなく五月二十五日の予定です。
いまからプロットの見直しをしようと思ってますので。

最近なんかvividと無印が描きたくなってきたんだよなぁ。
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