君に気持ちを伝えたい   作:世嗣

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禊「全部対義語にしろよ!」
ク「ああ」
禊「とびだせ!どうぶつの森!」
ク「引っ込んでろ人間砂漠」
禊「月に変わってお仕置きよ!」
ク「太陽の様に君を守るよ」
禊「クロノ・ハラオウン」
ク「雉咲禊」
禊「ケンカ売ってるんだな!買ってやるよ!」
ク「上等だ、表でろ!」



七月五日 「あーん」イベントはご褒美か?

「委員長デート行こうぜ」

 

放課後、運動部は足早に部活へ向かい、文化部がそれより幾らか遅れて教室を出て、気づけば帰宅部がフェードアウトしている時間帯。

僕は家といつもの三人で帰ろうとする委員長を捕まえてそういった。

 

「は、はぁ!?」

 

委員長が喉の奥から出たような声を出し、あっという間にりんごより赤くなった。

 

そんな委員長を見て隣の二人が、一瞬のうちに目配せをする。

 

「ディアーチェ、楽しんできてね!」

 

「夕飯は私たちで何とかします。帰りは何時でも構いません」

 

そう言うや否や、一瞬で二人の影が掻き消え、ぽつん、と委員長が一人残された。

 

二人をある程度見送ると僕は隣で固まっている委員長の肩を軽く叩く。

 

「さ、行こうか委員長」

 

灰色の瞳を覗き込みそう言うと、今まで石像のように固まっていた委員長が小さく声を出した。

 

「え?なに委員長?」

 

「ーーの、ーーわけ」

 

「ほ?」

 

「こんの、戯けぇ!」

 

真っ赤な顔の委員長の綺麗なライトアッパーが僕の鳩尾に決まるまで、あと2秒。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「まったく、貴様なんてあのように茶化した言い方しかできんのだ」

 

喫茶店『翠屋』でケーキとコーヒーが出てくるのを待つしばらくの間ひたすらにお叱りの言葉を受け続ける。

 

僕の向かいに座る委員長はすっかり怒髪天をついた、といった態度である。

 

「悪かったって言ってるじゃん。そろそろ許してよ……」

 

「いーや、許さぬ。これを期に我の言いたいことをあらかた言ってしまうぞ」

 

いや、確かに僕は特に何も考えずに「デート」という単語を使ったが、そこまで怒られなければならないほどではないはずだ。

 

「お待たせしました、シュークリームと紅茶、ガトーショコラとコーヒーです」

 

そんななかで神の声が僕の耳朶を打つ。その声の主は僕の方を一瞬みて委員長に見えない角度で目配せをした。

あざーす、しろーさん。このご恩はいつか返します。

 

「おお……」

 

僕が内心で士郎さんに頭を下げていると、向かいの委員長が感嘆の声を漏らした。

その目は、獲物を前にした猫のように爛々と輝き、一刻も早く食べたいのか体がそわそわと揺れる。

 

僕はそんないつもより子供っぽい委員長が珍しくてしげしげと観察をしてしまう。

 

何時もはクールで尊大な委員長だけど、こういう嬉しい時や慌てた時なんかがたまらなく可愛いよね。

 

うんうん、と一人で納得してると、委員長が上目遣いでちらちらとこちらを伺ってくる。

 

どうしたのか?

 

「どうかした?委員長?」

 

「い、いや、その……」

 

「ーー?」

 

「雉咲が食べようとしないから……」

 

「ありゃ」

 

つまり僕を待っていてくれたということか。それでこんなご飯の前で「待て(ステイ)」を命じられた犬みたいな状態になってるのね。

 

「先に食べてたって構わなかったのに」

 

「こういうのは二人で食べるから美味しいのだろう」

 

「そういうものかな」

 

「そういうものだ」

 

ならば委員長の言葉に従い共にケーキを頂くとしようこれ以上待たせるのは可哀想だしね。

 

二人で手を合わせて「いただきます」と声をそろえる。

 

言うや否や、委員長が目の前のシュークリームにゆっくりと手を伸ばした。そして、目の輝きを一層強めると、静かにシュークリームを口に頬張った。

 

「ん〜〜〜〜!」

 

その瞬間に、委員長の表情が喜色一面となる。

 

「美味しい?」

 

「当たり前だ!」

 

僕の質問を喜びの表情を浮かべたまま一蹴すると、再びシュークリームを小さくかじり、その美味しさを噛みしめるように頬を押さえた。

その仕草が、なんというか、その……すごく等身大で可愛い。

 

もしかしたら、こういうふとした時に覗く委員長の可愛いとこっていうのが、普段は隠している委員長の素なのかもしれない。

 

それを知っているのが、自分だけだとすると、なんかここに居る委員長が自分だけのもののような気がしてきて、たまらなく嬉しくなる。

 

そんなことを考えていると、委員長がこちらをちらちらとこちらを見ているのが目に入った。

 

どうかしたのだろうか。もしかして、考えたことがバレたのか?あるいは口に出してた?

もしそうだったら、恥ずか死ぬんだけど。

 

「その、なんだ……。そう熱く見つめられると食べにくいのだが……」

 

「あ、ゴメンね」

 

どうやら今まで無意識で委員長の事を見つめていたらしかった。

あは、と笑って目を逸らした。

 

とりあえず気恥ずかしさを誤魔化すために目の前にあるコーヒーに砂糖を一つだけ入れて、口に含んだ。

相も変わらず、翠屋のコーヒーは美味しい。

ああ、コーヒーの事だが僕は基本的に微糖派だ。まだ、ブラックを飲めるほど大人では無いからね。

ただ、アイツとケーキを食いに来た時なんかは胸やけがするからブラックの方が好ましいというだけだ。

 

コーヒーのよい香りを楽しむと、次にフォークを右手に目の前のガトーショコラに手を伸ばす。

 

チョコ特有の甘さと滑らかな舌触りがたまらなく美味しい。更に、ガトーショコラとの対比のように上に乗せられた生クリームがよいコントラストで視覚的に美しいとも言える。

 

「美味しいな」

 

「ほう……」

 

僕が呟くと委員長が面白いものをみた、とでも言うように目を細める。

 

「なにかな?」

 

「いや、いつもぽわぽわ笑う貴様がそこまでの笑みを浮かべるのは珍しいと思ってな」

 

ぽわぽわ笑うとはなんぞや?僕は普通にしてるだけなんだけどなぁ。

 

「雉咲、それは美味しいか?」

 

「うん?まあ、普通に美味しいけど?何で」

 

「そうか、では、我に一口分けてくれ」

 

「いいけど」

 

フォークと一緒に皿を委員長の方へ差し出そうとした瞬間、驚愕のことが起きた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それはまるで、いわゆる()()()を求めているかのようで。

 

それを頭で理解した瞬間、感情のスイッチをおとし、瞬時に無我の境地へと至る。

これぞソウヤさん直伝「煩悩撤退」。自分の中のできるだけ怖いエピソードを思い出し今の楽しい気持ちを霧散させるという荒技だ。

 

今回使わせてもらったのはクロノとの初めてのガチギレそしてガチ喧嘩。

 

さくっとガトーショコラにフォークを入れて生クリームの少しついたをすくった。

 

「あーん」

 

なるべく目を瞑った委員長を見ないようにしてガトーショコラを口に運んだ。

 

くそっ、焦るな!フォークが揺れる!無心だ。無心で手を動かせ。

 

カタカタとフォークが僕の心の焦りを映し出したかのように揺れるが、それを左手を添えることで極力押さえた。

 

そうだ、左手は添えるだけだと何かにも書いてあった。

 

「はむ、……んぅ」

 

委員長の口の中にフォークを入れる。するとまるで鳥が啄むように、桃色の唇が閉じてフォークをくわえた。

僕はそれを確認するとゆっくりとそれを委員長のナカから引き抜くと、銀色の橋が一筋かかり、そして、切れた。

 

その無駄に艶かしい現象に一気に頬に熱が集まったのがわかった。

 

あ、ダメだわ。さすがにこれはソウヤさんの「煩悩撤退」も役立たないわ。

 

「うむ、確かに美味だな。ーーん?雉咲何をしている」

 

「ベツニナニモ」

 

「嘘をつくな。何故にそのような赤い顔で下を向いている、こちらに顔を向けんか」

 

「ごめん委員長今はホントに勘弁して。あとならいいからさ」

 

今は恥ずかしすぎて委員長を直視できない。だから、頼むから許して。

 

いいか雉咲禊?

アレは食事だやましい気持ちは無いし、恋愛的な要素は無い。だから、期待するな。アレは違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。

 

自分のピンクに染まった脳内をリセットするために頬をぼかぼかと殴る。

 

「よし、何かな委員長」

 

「何で貴様は態度がそんなに可笑しいのだ……」

 

「委員長は気にしなくて良いよ……。僕がバカなだけだからさぁ」

 

はぁ、と溜息をつく。僕らはただケーキ食いに来ただけなのに何でこんなに疲れなきゃいけないんだろう。

 

「雉咲」

 

委員長が唐突に僕を呼んだ。

 

「なにーーんぅへぇ?!」

 

僕が返事すると同時にテーブルに手をつき向かいから僕の方にグイッと身を乗り出した。

 

「頬に……」

 

委員長の手が伸びて僕の頬に手が触れた。表面をなぞるように当てられた指の感触が生々しくて、一気に体の中心に熱が集まる。

顔が近い。宝石のような委員長の瞳が僕を見つめる。

 

とりあえず委員長の美しいご尊顔から避けるために視線を下にずらす。

 

「ーーぁ」

 

しかし、それは失敗だったと言える。委員長は今はテーブルに手をついて身を乗り出している。つまり、いつぞやの時のように前傾姿勢なわけで。

それは制服の襟元から、委員長の鎖骨をはじめとするいわゆるらっきーですけべなモノがチラチラと覗くということで。

 

「うわぁっ!」

 

全力で体を引く。同時に座席に頭をしたたかに打ち付けたが気にしない。

 

「え?!何かなァ委員長ぉ?!」

 

「いや、頬にクリームが付いていたのでな……」

 

委員長が指になにやら白いものをつけたままこてん?と首を傾けた。

 

「そ、そっかぁ。あ、ありがと」

 

「ああ、構わぬ」

 

そこで委員長が乗り出した体をようやく元に戻してくれた。

 

ふう、これでひと安心だ。ああいうイベントは嬉しいケド、ドキがムネムネしちゃうからね。

 

そこで委員長に目を戻すと、自分の考えが甘かったことを思い知る。それはもうたっぷりと。

 

「んぅっ……」

 

委員長が艶かしい声で指の白いもの(勘違いするなクリームだ)を舐めとっていた。

 

何アレエロい。

 

全力で頬を殴った。そうしなきゃそろそろ委員長の無意識の攻撃にヤラれてしまいそうだった。

 

「何をしているバカップル」

 

「あ、ソウヤさん」

 

頭の上の方から呆れたようなセリフが聞こえた。染めたような見事な白髪、変わらない表情、高い身長、整った顔立ち。僕の尊敬する先輩、八神蒼也さん、通称ソウヤさんだった。

 

「久しぶりだねケイ」

 

「あ、お久しぶりです」

 

横には銀髪赤目のナイスバディの美人さん。リィンフォース・アインスさん、彼女が件のソウヤさんの彼女さんである。

 

「それと、久しぶりだなディーー」

 

「ば、バカップルとは何だ八神兄!」

 

委員長が突然立ち上がって僕の傍にたっていたソウヤさんへと詰め寄って問い詰めた。

 

「ありゃ?二人は委員長とお知り合いなんすか?」

 

「うん、うち(八神堂)も研究所もブレイブデュエルのオーナーショップだからね。それ関連で多少面識はあるんだよ」

 

最も、とアインスさんが言葉を区切って無感動な表情で委員長を宥めるソウヤさんに目を移した。

 

「彼はテストプレイヤー時代から研究所の面々とは知り合いらしいけどね」

 

「ほー」

 

何となく委員長の「八神兄」という呼び名と口調がよそ行き用の敬語じゃなかったことから、知り合いかもとは思っていたが、案の定か。

 

「だ、だからバカップルとは何だと問うておる!」

 

「それは、なあ?」

 

そこでソウヤさんはようやく唇の端をニヒルに吊り上げて表情を変える。

相変わらずやな人だな。人をいじってる時が一番イキイキしてる。

 

というかこっちを見ないでソウヤさん。委員長が真っ赤な顔でこっち睨むじゃんか。

 

「そもそも!我と雉咲は上司と部下の関係なのだから!その様な事がありうるか!」

 

「それを言えば俺とアインスも店主と店員なんだから上司と部下だぞ」

 

「秘密のオフィスラブ……」

 

「黙っとけ禊」

 

「うぃっす」

 

一蹴され静かに口を閉じた。

 

「しかし、でもなあ?アインス」

 

「うん、まあ、そうだね……」

 

二人が目を合わせて微笑ましいものを見たかの様な慈愛に満ちた目を僕に向けて、委員長に向けた。

 

「こんな人目のあるところで見せつけるかの様に『あーん』」

 

「そしてその流れで頬のクリームを舐めとるとは……流石だなディアーチェ」

 

「はっ?『あーん』、だと……」

 

「さっき禊にガトーショコラ分けてもらってただろう?」

 

ソウヤさんがそう言うと委員長の顔が赤を通り越して真紅に染まった。

もう、比喩なんかじゃなくてゆでだこの様に紅く、耳からは少し湯気が出ているのだ。

 

「ふふ、ウブだねぇ」

 

「全くだ」

 

隣のソウヤさんとアインスさんがしみじみと呟く。

 

横座るぞ、とソウヤさんが断りを入れて僕の隣へ腰掛けた。アインスさんの方も委員長に断りを入れてソウヤさんの向かい側に座る。

 

「恭也、コーヒーとモンブラン頼む」

 

「私も同じものを」

 

ソウヤさんたちが通りがかったウェイターに注文する。

 

「えと、委員長?」

 

真っ赤になってフリーズしてしまった委員長へ声を掛けるが、委員長は頭から湯気を出すだけで返答してくれることない。

 

「ディアーチェ元気出して終わったことを気にしちゃダメだよ。それに『あーん』くらいなら私と蒼也もやってるよ」

 

「大抵お前がオレにせびるだけだろう」

 

「何か言った」

 

「何も」

 

ぽんぽんと励ます様に背中を叩くアインスさん。なんだか髪の色が似ていることもあってお姉さんが妹を励ましてる様にも見えるね。

 

「つ、つい、いつもシュテルやレヴィ、ユーリと同じ感覚で……。そんなつもりはなかったのだ……」

 

真っ赤な顔の委員長がひとりごちる。ふーん、なるほど。妙にナチュラルだと思ったら普段三人娘たちとしてることだったんだ。

 

「おっと」

 

唐突に僕のケータイが甲高い音を店内に響かせた。あの骨董品の様な、ガラケーである。

ポケットから取り出して液晶の表示を見て、驚愕する。

 

「も、もしもし」

 

向こう側から久々に聞く、恐怖の声が僕の耳に響いた。

 

通話が終了すると、パタンとケータイを閉じ、生気のこもらない瞳でソウヤさんにぼんやりと呟く。

 

「ソウヤさん」

 

「ん?」

 

「姉が、僕の姉上が帰ってきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ごめんね展開が唐突で。

次回投稿も少し遅れるかも。
最近リアルの方が立て込んでまして……。
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