君に気持ちを伝えたい   作:世嗣

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禊「ふむふむ、もぐもぐ」
デ「どうだ新作のスイートポテトの味は」
禊「甘い」
デ「役に立たん感想を言うでない」
禊「でも、委員長が作ってくれた者はなんでも美味しいよ」
デ「こ、この戯け!」





私 は 死 ん で な い !



フライング七夕。




七月七日 七夕は研究所で

 

 

本日は七月七日。

いわゆる世に言う七夕である。僕は例年この日は家族で過ごしている。すごく小さい頃は中島家にお預かりされてたこともあったが、それも今では昔の話だ。

 

そんな日に僕は、数少ない私服を選りすぐり、駅前でそわそわと人を待っていた。

ちら、と時計を確認すると集合時間の5分前。

 

こうなった経緯は話は昨日まで遡る。

 

発端は委員長がバイト帰りの僕にくれた電話であった。

その時のことは鮮明に覚えてるけど、それを思い出してたら長くなるので割愛。簡単に言うと、「明日は七夕だから、研究所で一緒にご飯食べない?」ということだった。

 

やや恥ずかしながら提案してくれたそれを僕は二つ返事でオーケーした。今年は姉上もいないし、母上も仕事で忙しいそうだからちょうど良かった。

 

「おーい、けー!」

 

「おー、レヴィ」

 

そんなことを考えてると遠くから僕の名を呼びかける声が聞こえた。それと共に近寄ってくるのは、水色の髪をツインテールにした元気な女の子。

リングネーム雷刃(レヴィ・)()襲撃者(・スラッシャー)ことレヴィ・ラッセルである。

 

「本日はお招きに預かりまして、ってやつかな?」

 

「いやいや、くるしゅーない」

 

レヴィに連れられて研究所への道を向かう。

 

「でも、わざわざ案内する必要なんてなかったのに」

 

これでも研究所へは2回ほど行ったことあるし、うち一回は自分の足で歩いて行った。だから、僕は自分で歩いて行くと言ったのだが……。

 

「いやー、それについてはもうディアーチェのワガママだよね」

 

レヴィがポケットからアメを取り出しながら口にポーンと放り込む。

 

「確か『彼奴は目を離すと何処かへ行ってしまいかねん。レヴィ案内を頼むぞ』だってさ」

 

「あははは、似てる似てる。レヴィ上手いよ、あはははっ」

 

「でしょー?伊達に長い付き合いじゃないよ」

 

レヴィが眉を僅かに寄せて、声を少し変えて、委員長の真似をする。それの完成度の高さに笑いが止まらない。

 

「はー、おなか痛い」

 

おなかを押さえてこぼれた涙を拭う。

 

「けー、シュテルンが返すってさ。ありがとうって言ってたよ」

 

「お、了解」

 

未だ笑の余韻が収まらないなかレヴィから青いブレイブホルダーを受け取り、ポケットに滑り込ませた。久しく感じていなかった重さを感じる。

是が非でもなきゃいけない、というものではなかったけど、やっぱ今まであったものが無いのはどこか居心地が悪かった。

 

「返してもらえるのは良いんだけどさ、シュテルンの調べたいことはわかったのかねぇ?」

 

「まあ、一部はわかったみたいだけどさ、それで疑問の全部が解消されたわけじゃ無いって言ってたよ」

 

「ほーん」

 

まあ、僕はホルダーさえ帰って来れば別にシュテルンが煮ろうが焼こうが食おうが何しても良いのだが。

 

いや、それはダメだ。煮たり焼いたりされたら僕のホルダーが昇天するね。

というかそもそもホルダーを食べるってどんな奴だ。ホルダーをナイフとフォークで器用に食べるシュテルン。なかなかシュールな絵面である。

 

「そういえばけーはさ、シュテルンたちのデートどうだったか知ってる?」

 

「えーと、そうだね……」

 

先日、クロノとシュテルンは勉強会を行う過程で発生した、図書館デートの約束を実行している。

その事について僕は面白半分で内容を聞いたのだが『君の想像するような甘いイベントはない。ただ、少し互いの疑問を解消しただけだ』としか教えてくれなかった。

ケチな奴である。

 

「なーんにも教えてくれなかったよ。冷たいことだよ」

 

「そっかぁ、そっちもか」

 

「てことはそっちも?」

 

「うん。シュテルンも『特筆すべきことはありませんでしたよ』てしか言わないんだよ」

 

レヴィが唇を尖らせて、シュテルンはケチだ、と呟く。

 

「あ、じゃあさ、じゃあさ!一昨日の王様とけーのデートはどうだったの?」

 

おっと、今度はこちらに矢が向いたな。だが、慌てることはない。なぜなら、僕と委員長の間には何もやましい事など……。

 

『あーん』

 

やましい事など……。

 

『頬にクリームが……』

 

ストップ僕!もういいよ!思い出さなくていい!

 

はっきり何もなかったと口に出そうとしたところで、委員長とのアレコレを思い出し、言い淀む。

それを感じ取ったレヴィがきらーんという擬音が聞こえてきそうな感じで目を輝かせる。

 

「さてはお主ら何かあったな〜。はけはくのだ〜」

 

「勘弁してくださいお代官様ー」

 

「ふはは、良いではないか良いではないか〜」

 

しばらく「良いではないか」「やだよ」というやりとりでじゃれ合っていたが、周りの目が痛くなってきたので軽いチョップで黙らせる。

 

「いでっ」

 

叩かれたレヴィが頭を押さえてこちらを睨んでくる。そこは僕の培われたスルースキルで受け流す。姉上によって磨かれた秘技の一つである。

 

僕がこの前の事についてはく気がないことを理解したレヴィは大きなため息をついた。

口の端からころっと飴玉が飛び出しそうな大きいため息だった。

 

「つまんなーい」

 

「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られてなんとやらってね」

 

僕が冗談めかして言うと、唐突にレヴィの表情が真面目なものへと変わった。

 

「恋路なの?」

 

「……さあね」

 

最初は「大好きさ愛してる」と冗談でもいってかわそうとしていたのだが、レヴィの真摯な瞳が僕にその選択肢を選ばせなかった。

 

委員長のことをどう思ってるのか、と聞かれたら雉咲禊は「わからない」と答えるしかない。

例えば喉元にナイフを突きつけられ『好き』か『嫌い』どちらか選べ、とでも言われたら選ぶこともできるだろう。

しかし、今の僕にはそれを判断する材料が不足しすぎているのだ。

 

それに()()()の事もある。だから、今の僕には何も判断することができない。

それが例え、自分の気持ちなのだとしても。

 

「ボクはさ、ケイに感謝してるんだ」

 

レヴィがふっと綻ぶような笑みを浮かべる。それはどこか儚げで、『いつも元気なレヴィ』には似つかわしくないものでも、『レヴィ・ラッセル』という少女には似合った笑みで。

 

「ディアーチェはボクらのリーダーでお姉さんだ。いつも肩肘はって人のことばかりしてた。そしてボクらもずっとそれに甘えてた」

 

レヴィが足元の小石に軽く蹴りを入れる。レヴィの蹴りが当たった小石は道路を二転三転し、電柱にぶつかると止まった。

 

「でも、ケイと会ってからさディアーチェすごく自然に笑うんだ。ほんの少しだけど自分のしたいことをするようになったんだ」

 

レヴィは笑う。まるでそれが自分のことであるかのように。

 

「ディアーチェはいい意味でワガママになったよ」

 

「それは……僕のおかげじゃないでしょ、それは委員長が……」

 

僕が反論しようとするとレヴィは首を振る。

 

「確かにその全てがケイのおかげとは言わないよ。でも、きっかけの一つはやっぱりケイなんだ」

 

レヴィの水色の髪がさらりとゆれて、髪と同色の瞳が僕を見据えた。

 

「だから、ありがとう」

 

そんな真っ直ぐな目に見つめられることに居心地が悪くて、目線を下に下ろした。

 

「まあ、素直に受け取っとくよ」

 

するとレヴィが僕を見て困ったように笑う。

 

「ケイは本当に人との距離のはかり方が上手いね。仲良くもすれば、弱みも出すし、相手の弱みも受け入れる」

 

でも、と前置きをして今まで隣にいたレヴィが回り込んで僕の真正面に立つ。

 

「でも、()()()()()()()()()()()()。どんなに仲が良くても、信頼してても」

 

「……レヴィはアホっぽいけど人をよく見てるよね」

 

「アホとはしっけいなーー!」

 

「つまり、バカじゃない」

 

ほおを緩めてレヴィに優しく微笑む。自分では微笑んでいるつもりだけど果たしてどんな顔をしてるのか。

 

「僕は頭の良い子は嫌いじゃないし、聡明な子は好ましい」

 

ーーでも、察しがよすぎる奴は嫌いだよ?

 

「ボクを脅してる?」

 

「まさか?ただ、言いふらさないで欲しいだけだよ。危険の芽は摘んでおきたいんだ」

 

互いの瞳が交差する。互いが互い、ある程度譲れない思いを秘めて相対する。

しばらくそのまま互いを見つめ合っていたが、やがて諦めたようにレヴィがため息をついた。

 

「わかった言わないでおいてあげる」

 

「はは、ありがと」

 

再び二人で並んで研究所へと向かう。しばらく二人で歩いていたが、レヴィが静かに言葉を放った。

 

「ボクはきちんと向き合って逃げることが悪いことだとはおもわない。だけど、今のケイは逃げてるだけだよ。それじゃあディアーチェが可哀想だ」

 

少し長めに喋ったからか、それに、と一息おく。

 

「なによりケイ自身が可哀想だ」

 

そう言ってしまうとレヴィは普段の彼女のようにひまわりのように笑う。

 

「さっ、けー研究所へ行くよ〜!帰ったら王様の手作りご飯だ!」

 

れっつらごー!と跳ねて駆け出していくレヴィの背中を見つめる。

 

「……ほんとにいい奴だよねレヴィ」

 

零すように呟いてほおをぱちん、と叩いた。

 

「待ってよレヴィ!足の速さで女子が男子に勝てると思わないでよ!」

 

「へっへーん、それはどうかな?何たってボクはさいきょーだからね!」

 

足に力を入れてレヴィの背中を追いかける。

 

委員長たちの待つ研究所への道のりはあと少しだった。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

空を包む満点の星々へと手を伸ばす。

 

最近は梅雨入りが不定期になっていてなかなか彦星と織姫は会えていないようだったが、今日は嬉しい事に雲ひとつない快晴であった。

 

「綺麗なものだな」

 

「委員長……」

 

「横構わぬか?」

 

特に言葉は返さず、座っていた場所を少しだけずらして委員長の座る場所を確保する。

 

すとん、と委員長が僕の横に腰掛ける。今日は休日な事もありいつもの制服姿ではなく、綺麗なおみ足をみせつけるホットパンツに丈の長い黒のシャツで髪は後ろでひとつに縛ってある。

 

いつもとは少し違った印象にドキがムネムネするね。

 

「おひょっ」

 

そんな邪なことを考えていると唐突に僕の頬に冷たい何かが当たった。

 

「何するの……」

 

「はは、怒るな。ほらくれてやる」

 

委員長が片目を瞑って僕の頬からはなした缶ジュースを僕の方へと放った。

 

「とと」

 

すこし取りこぼしそうになったがしっかり右手で握って受け取った。

ありがとー、と委員長に断ってプルタブを開ける。カシュッというこ気味いい音が耳朶に響く。

 

「今年は無事に織姫と彦星は会えただろうか」

 

委員長が空を見上げながらぽつりとつぶやいた。

その横顔が、僕の見てきた委員長の中でトップクラスに綺麗で、まるで一枚の絵のような美しさを放っていた。

 

「こ、こんな快晴なんだ。会えなきゃ可哀想だし、是が非でも会うでしょ」

 

ほおに集まった熱を隠すために顔を背けながら言う。

 

「そうだな……」

 

「うん、きっとそうだ」

 

空を見上げる。隣からふわりと委員長の香りが伝わってくる。女の子特有の男子にはないものだった。

シャンプーだろうか。爽やかさを感じさせるミントのような匂い。

 

なんか変態みたいなので匂いの話はやめとこ。

 

僕が隣を伺うように覗き見ると委員長は僅かに目を細め星と同時に輝く月へと目を向けているようだった。

 

「月が、綺麗だな……」

 

委員長がゆっくりと紡いだ言葉に一気に心拍数が上がる。

 

「委員長、それどういう意味で……」

 

まさか、知ってるのか?

その言葉が持つ()()()()()()()を。

 

「いや、ただ綺麗だと思ってな」

 

「……おけ、了解」

 

「どうしたのだ?」

 

「別にどうもしないよ」

 

あー、びびったぁ……。全く委員長のナチュラル発言には肝が冷えるぜ。

 

「なあ、雉咲。貴様は織姫と彦星の話をどう思う」

 

「そういう委員長はどう思うのさ」

 

「我か?我はな……」

 

すっと委員長が星へと手を伸ばす。届かないのがわかっているだろうに、それでも、掴もうとするように。

 

「美しい話だと思う。離れ離れになった男女が一年にたった一度だけ鳥たちの助けを借りて愛を確かめるのだ。これを美しいと言わずしてなんという」

 

「あはは、委員長らしいや」

 

そもそも二人が一年に一度しか会えなくなったのは本人たちが働かなくなったのが悪いのだが今は何も言うまい。

 

どうせ「無粋だこの戯け!」とか言われちゃうんだから。

 

「で、話を戻すが、貴様はどうなのだ」

 

「僕は、悲しい話だと思う。それも、かなり」

 

僕がそういうと委員長がほおと興味深そうに唸った。

 

「そりゃ確かに美しくはあるけどさ。僕なら好きな相手の側にいたい。そして、嬉しいことは分かち合いたいし、悲しいことは一緒に乗り越えたい」

 

僕としてはそれが出来ないなら、好きになりがいがない、というものだ。

ただ、奪うだけ、与えるだけ、と言うのは正しい形ではない。

二人で分かち合うことこそが尊いのではないかと、僕は思うのだ。

 

僕がそう言うと委員長が堪えきれなくなったようにふっと笑った。

 

「む、なんだよ」

 

「ふふっ、いや、すまぬ。くくっ、貴様はなかなかロマンチストだな」

 

委員長がおかしそうに肩を震わせる。

なんだよ聞かれたからせーっかく人が答えたっていうのにさ。

 

ふんっといじけた様に僕が顔を背けるのと肩にすこしの重さと左半身に柔らかな温かさが伝わるのは殆ど同時だった。

 

「だが、嫌いではない」

 

さっきよりより近くで声が聞こえる。首をなでるさらさらとした感触のものは委員長の髪だろうか。

 

つまり、今僕の肩に伝わる重さという奴は、委員長の頭なのだろう。

 

「ーーっ」

 

きっと普段なら慌てて委員長と離れただろう。でも、今の僕は織姫と彦星の話ですこしばかりセンチメンタルな気分だった。

 

だから、今日は、今日だけはいいんじゃないのか?

 

だって……。

 

「確かに月が綺麗だね……」

 

 

今はきっと星しか僕らを見ていないだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





長らくお待たせいたしました。
やっとこさリアルがひと段落し、書き溜めも幾つかできたのでぼちぼち投稿していきたいと思います。


まあ、今回の話はアレですね。
最近すこし出遅れ気味だったディアーチェと、この話では影がうすい青いイナズマさんが書きたかったんす。

作中の時間が現実を追い越しそうな件について。

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