君に気持ちを伝えたい   作:世嗣

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「ねーねー、スカさーん」

「ふはははははっ、よく来たね!待ってたよゼロ!」

「ぼくはゼロじゃないけどなぁ……。いいか。ねぇ、いまはなにしてるの」

「いい質問だ!今は我が友と共に世界征服に向けての第一歩を踏み出そうとしてるところさ!」

「せかいせいふく!」

「そうさ!素晴らしいだろう?」

「すげー、スカさんすごいよ!かっこいいなぁせかいせいふく!」

「ほう、なら私が困った時は君が私を助けてくれるかね?」

「うん!ぼくスカさんを助けるよ!」

「なら君は私の最後の切り札、ゼロ・ザ・ジョーカーとでも呼ぼうか」

「なにそれかっこいい!」

「だろう?よしじゃあもう遊びにお行き。一緒に四菜も連れて行ってやってくれ」

「うん、わかった!ばいばいスカさん!」




七月十日

 

最近本格的に夏を感じさせる様になった太陽が容赦なく僕の肌を虐める中、僕は淡々と自転車を走らせる。

時折自転車の中に入ったタッパーがガタガタと跳ねる。

 

「あっついなぁ……」

 

そうどうにもなるわけでもない文句を呟くとあくびが出た。

昨夜すこし夜更かししたのがよくなかったかもしれない。

 

そうこうしているうちにお目当の場所、中島家にたどり着いた。

 

「……いつ見ても壮観だなぁ」

 

僕がそう言ったのは中島家ではなく、その横にそびえるゴツゴツしたいかにも『悪の組織』という感じの建物。

そんなものがごく普通の住宅街にあるのだから違和感がハンパない。

というかご近所から苦情はこないのか。

 

「後で顔だしてみよかな」

 

あの人の事も気になるが娘たちのことも気にかかるし、すこしお邪魔してみようかな。

 

まあ、取り敢えずタッパーだ。

 

自転車をレッカー移動されない様に中島家の敷地の端に入れさせてもらいカゴからタッパーを取り出した。

 

「すいませーん」

 

チャイムを押して玄関に向けて叫ぶ。すると家の中からせわしない足音が聞こえて扉が開いた。

 

「あら、禊くんお久しぶりね」

 

「ご無沙汰してます」

 

ぺこりと家の中から出てきた中島家のお母さん、クイントさんに頭をさげる。

ギンガと二人目の妹であるスバルによく似た容姿を持つ麗しい女性だ。

 

「今日はどういった要件で来てくれたのかな?」

 

「えと、アイツはいますか……?」

 

うふふと楽しげに笑うクイントさんは「アイツ」という単語に首を傾げたが、僕の手の中のタッパーを見つけると、きらーんと目を輝かせる。

 

「ははーん。この前ギンガがいきなりおはぎを作ろうとか言い出したのは禊くんにあげるためだったんだ。いやー、やけに気合入ってると……」

 

「ストーップ!」

 

クイントさんのニヤニヤしたまま続けられていた話は唐突な乱入者の拳によって物理的に止められた。

 

「ふっ、なかなかいい拳ね。でも母さんにあてるにはまだまだね」

 

「が、がんばるもん!」

 

「どこのターミネーターの会話してんすか」

 

呆れた様に僕が呟くと中島親娘はそろって舌を出しておどけて見せた。

 

「ほら、この前はありがと。また暇があったら作ってくれ。母上も喜んでたし」

 

その時に「もう、ギンガちゃんがお嫁に来てくれたら言うことなしよね〜」と言われて微妙な思いをしたことは黙っておこう。

 

「えと、足りた?」

 

「ああ、今のウチは人がいないからな。しかもオマエの家ほど大食いでもないし」

 

「べ、別に大食いじゃないし」

 

ふん、と顔を背けすこし怒った様に家の中に入っていくギンガ。後でちゃんと謝ろう。根に持たれると厄介だし。

 

「うふ」

 

隣でなんかクイントさんがニヤつく様に僕を見ていた。

 

なんか怖い。

 

「なんすかクイントさん」

 

「いや、()()()とか()()()とか強情に()()()って呼ぼうとしないあたり拗らせてるなぁと思って」

 

何かに突き刺さる音がした。

 

「僕帰りますね」

 

「え?もう帰るの?今日はチビ達がいないから一緒に昼ごはんでもどう?」

 

「嬉しい誘いですけど、遠慮します。アイツには……よろしく言っておいてください」

 

「あ、ちょっと」

 

制止の言葉も聞かず中島家を後にする。

 

ダメだ。今日はダメだ。

 

クイントさんの何でもないその言葉が胸に突き刺さった。

 

痛い。

 

痛い。

 

何かの壊れる音がする。

 

付けてた仮面がひび割れる。

 

これ以上は、いつもの僕じゃいられない。

 

ひび割れる。

 

ひび割れーー

 

「おや、ゼロ久しぶりじゃないか」

 

唐突に懐かしい声がした。

 

「スカさん……」

 

「そんなにしけた顔をしてどうしたのかね?そんなに悲しいことでもあったのかい?」

 

そこに居たのは、昔僕にユメを見せてくれた人だった。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「かくかくしかじか」

 

「成る程スカさんは今から研究所に行くから宣戦布告を手伝って欲しいと」

 

「その通りだ!流石は私の切り札だ!理解が早くて助かるよ!」

 

ふーはっはっはっはっは、と高笑いを始めたスカさんを尻目に密かにため息をつく。

 

このラスボス臭が漂う紫髪に金色の瞳のおじさんはジェイル・スカリエッティ。中島家の隣に佇む『悪の組織』みたいな家に住むスカリエッティ一家のお父さんである。

 

内面は、子供と男のロマンを忘れずにでっかくなったといえばわかっていただけるだろうか。

 

「どうぞ」

 

コト、と目の前に暖かいお茶が置かれた。

 

「ありがとう一架さん」

 

「あら、随分と他人行儀ですね。昔の様に呼んでくれていいんですが」

 

「いや、ちょっとさすがに……」

 

「はあ、仕方ないです。それなら禊が幼い頃から撮り溜めた恥ずかしい写真を知り合いに配りまくるしかありません」

 

しゅばっとどこからか写真を取り出した一架さんは物憂げなため息。

 

「……ごめんチカ姉」

 

「それでいいんです」

 

マジでこの人は変わらないな。姉上の次くらいに頭が上がらない人物だ。

 

「ふっ、一架とゼロは相変わらず仲がいいね」

 

「ええ、女所帯の中島、スカリエッティに珍しい男の子でしたから。みんなで可愛がっていましたし」

 

「僕は中島家の子供でもなければスカリエッティ一家の子供でもないけど。あと頭撫でないで」

 

まあ、昔の話だ。

小学生かもっと小さい頃の僕がぼくであったくらい幼いころの話だ。

 

「で、だ」

 

パチン、とスカさんが虚空で指を鳴らすとあたりの電気が落ちて、ぼわっとしたから薄ぼんやりとした光が机から投射された。

 

相変わらずこういう男心をくすぐるポイントをわきまえてるなぁ。

 

「どうだね、ゼロ。やってくれるかい」

 

「えー、研究所って委員長(クローディア)がいるとこでしょ。後で怒られそうなんだよね……」

 

僕がほおをかきながらやんわりと断るとスカさんは大げさに頭を押さえてため息をついた。

 

「はぁ、そうか。残念だよゼロ。君ならわかってくれると信じてたのに」

 

「ごめんね」

 

「だから私もこういう手を使わざるを得なくなった」

 

「ーーえ?」

 

スカさんがポケットから端末を取り出すと幾つか操作をした。

 

『すげーよ、スカさん!』

 

『せかいせいふく!』

 

『ぼくはゼロだぁー!』

 

「ちょっとまてぇ!」

 

垂れ流される幼き日々(黒歴史)

 

「ふふっ、どうだね?手伝う気になったかね?」

 

「くっ、で、でも……」

 

「一架、ゼロの幼いころの写真と音声データをショップ共有ネットワーク『チヴィッター』にアップしておいてくれたまえ」

 

「はい。すこしハッキングに手間がかかりますが」

 

「構わないよ。リソースはそちらに回そう」

 

「構うか!」

 

さーっと退室していこうとするチカ姉の袖を握って必死に引き止める。

 

「やるよ!やればいいんでしょ!」

 

半ばヤケクソ気味に叫ぶ。

 

「ふ、ふはは、ふーはっはっはっはっは!流石ゼロ!それでこそ我が切り札!一架、彼のデッキの調節を」

 

「了解しました、博士」

 

クソッタレ!もうなる様になれよ!

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

『あー、テステス。聞こえてるかい?ゼロ』

 

「はいはい聞こえてますよ」

 

スカさんのラボの一室に備え付けられているシュミレーターでスカさんの声を聞きながらぼんやり待機。

 

何でも中島家の末っ子二人で僕の妹分中島ウェンディ、ノーヴェ姉妹にスカさん特製のカードを渡してるそうなのでそれが使われた時が合図なのだとか。

 

「あら、アンタ久しぶりね」

 

「お、シーナじゃん」

 

「相変わらず能天気な顔してんのね」

 

「そういうシーナも相変わらず友達できなさそうな性格悪い顔してるよね」

 

「余計な御世話よ」

 

ふん、と眼鏡の奥から僕を睨みつけたのは四菜・スカリエッティ。僕とギンガと同い年であだ名はシーナ。

 

「今回の件アンタも手伝うって聞いたけど」

 

「うん、スカさんから頼み込まれてさ」

 

「アンタは昔から博士のお気に入りだったしね」

 

「なに妬いてんの?」

 

「ば、バカ言うんじゃないわよ」

 

チッ、と舌打ちをするシーナ。相変わらず素直じゃないやつだった。

 

「というかアンタこそ友達の一人でもできたわけ?」

 

「まあ、親友はいるよ」

 

「どうせクロノ・ハラオウンでしょ」

 

ほお、よくわかったな。最近こいつとは会ってなかったし、クロノのことは話題に出した覚えはないのに。

 

「アンタが思ってるよりもチンクは家でアンタの話をしてるってことよ」

 

僕の不思議そうな顔を読み取ったからかシーナは不機嫌そうにそう続ける。

 

「何でそんなに怒ってるんだよ。いっつも四人で遊んでたじゃん」

 

口を尖らせて、ぶーぶーと文句を言うとシーナは今まで寄せていた眉を僅かに緩めた。

 

「アンタ昔と変わってない様で変わってるわよ」

 

そっぽを向いたまま、メガネを外すとポケットからメガネ拭きを取り出すとレンズを丁寧に拭き始める。

 

「相変わらずぽわぽわ笑ってるけど、最近アンタワガママ言わないらしいじゃない」

 

「……昔からそんなに言ってた覚えはないけど」

 

「はぁ?寝言は寝て言うもんよ。私とギンガが何回『いっしょうのおねがい』使われたと思ってんのよ」

 

シーナは再びメガネをかけ直すと不機嫌な面持ちに戻って僕を見据えた。

 

「騙し切れると思うんじゃないわよ。とっくに気付いてるっつーの、私も、ギンガも」

 

それだけ言うとシーナは僕に背を向けてシュミレーターから去っていく。

 

「お前は襲撃でないの?」

 

「私は優秀だからシステム制御なんかも残ってんのよ。準備が出来たら連絡入れるから黙って待っときなさい」

 

シーナの背中がとおざかっていく。

上背は伸びているがおさげの茶髪は昔からちっとも変わっていなくて、それがどうしようもなく懐かしい。

 

「ばかだねシーナ。僕がお前らとのことを忘れるわけないだろ」

 

背中をシュミレーターの壁に預けて目を閉じた。

 

「ただお前らに使う様な『いっしょうのおねがい』がなくなっただけだよ」

 

僕のつぶやきを打ち消す様に遠くの方で低いアラームが鳴り響いた。

 

僕の耳がそれを捉えた次の瞬間には、シュミレーターの中に半透明の液晶が現れ、スカさんの姿を映し出す。

 

『聞こえたかいゼロ』

 

「うん、さっきのが……」

 

『そうだ。私のカードが使われた。今研究所のネットワークには私謹製のネットワーク占拠ウイルス『ネットワークうばうくん』が送り込まれている」

 

「うわ、ださ……」

 

つい思ったことをそのまま口に出してしまった。

しまった浅はかだった……。

 

『ほう?ならばゼロ、君とは後で作品のなのつけ方について深く話し合わなければならんな』

 

「やだよスカさんのロマンはわかるけど、もう少しひねればいいのにさぁ……」

 

『わかってないなゼロ!名称とはその性質を端的に伝えるべきだ!』

 

「その心は」

 

『その方がかっこいい!』

 

そんな事を迷いなく断言出来てしまうあたり、スカさんはなかなかこじらせてるとおもう。もう完治は不可能じゃないかな。

 

『ドクター、無駄話は其処までに。他のメンバーはもうとっくに【八神堂】と【T&H】へと向かいました』

 

スカさんの隣からひょこっとチカ姉が出てくる。スカさんはチカ姉の言葉を受けるとぽん、と手を打ち「そうだったな」と呟くと僕に向き直った。

 

『さてゼロ。君のそのアバター、()()()使い方はわかったかい?』

 

スカさんのその質問に、僕は……

 

「うん、何となくだけど。わかった、かな?」

 

頷いて、答えた。

その僕の仕草を見てスカさんは満足気に微笑む。

 

『さあ、ウーノ準備を始めてくれ給え。早くしないと私の可愛い姪二人が心配だからね』

 

スカさんがその白衣をはためかせて天を仰いだ。

 

『さあ行け!始まりの切り札(ゼロ・ザ・ジョーカー)!私の力を知らしめてくれ!』

 

唇の端が歪んで、いびつな笑みを形作った。金色の瞳が炎を宿した様に爛々と輝く。

 

「おーけー、承った」

 

そんなスカさんに僕は一言だけ返し、ポケットから青いホルダーを取り出した。

 

「さあトコトン悪者(ヒール)を演じきろう」

 

 

心の中で密かに委員長を始めとする研究所の面々に謝罪する。

 

今日は、今日だけは僕はーーーー

 

 

 

「君たちの敵だよ、委員長」

 

 

 

スカさんのそれのように歪に唇を吊り上げて、叫ぶ。

 

「ブレイブデュエル、スタンバイ!」

 

 

 

 

 





さて、ここが原作のどこかわかるかな?


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