君に気持ちを伝えたい   作:世嗣

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ちょいちょい日付はとぶ。


五月二日

 

最早僕の特等席となり始めている屋上で密かにガッツポーズ。

今日からやっとこさアルバイトの再開である。

 

「ううーん、長かったぜ」

 

まあ、中学生だからあくまでも知り合いの店でお手伝いをするだけだが。

 

荷物を取りに教室へ戻る。

その道すがらで水色の髪のすっごい元気な子とすれ違ったけどこれは華麗にスルー。関わる義理もなければ関わりたいとも思わない。

 

教室に着くとメガネをかけた茶髪の子がうちのクラスの女子と話していた。メガネの子には全く見覚えが無いのでおそらく他クラスだと思われる。

 

まあ、僕には関係無いな。

 

「じゃあ、シュテルちゃんディアーチェちゃんによろしくね〜」

 

「はい、お任せください」

 

メガネの子は一礼するとうちのクラスのを出て行った。

 

会話から察するに委員長にプリントを届けるのを頼んだらしい。

 

委員長は今日は風邪で休んでいる。あの委員長が風邪とちょっと想像つかないけど。

 

かえろかえろ。

 

僕はサクッと荷物を片付けて教室を後にする。

 

下駄箱で靴を取り出していると不意にケイタイが鳴った。

スマートフォンなんかじゃない最早骨董品と呼ばれるガラケーだ。

 

おい、みんなガラケーってガラパゴス化ケータイの略で立派な差別用語なんだぞ!

だからあれだRINEできないだけでガッカリするのやめれ。

 

それはともかく。

 

「誰だ?」

 

ケータイを探しポケットを弄りながら呟く。

悲しいことに僕のケータイには母親に幼なじみぐらいしか登録されてないはずだが。

 

僕は取り出した青いケータイを取り出して液晶を見る。

 

「なんでコイツの番号はいってんの?」

 

そこには「アリシア」と記されてあった。

 

とりあえず出た方が良いのだろうか。

恐る恐る通話ボタンを押す瞬間。

 

『やっほー、ケイくんげんきー?』

 

喧しくも懐かしい声がした。

 

「おかけに鳴った番号は現在使われておりません。ぴーとなった後にご用件をお話ください」

 

『使われてないのに用件伝えてどうするの?』

 

「あ……」

 

やっちまった。ついノリで対応したのが間違いだったぜ……。

 

「で、何か用?」

 

『今日うち来ない?』

 

「え?ヤダ」

 

『冷たいねぇ』

 

「僕とお前の間に遠慮は無用だろ?」

 

『やあん、わかってるぅ』

 

「いえーい」

 

おっと危ない。コイツと話してるとちょっと素が出てしまう。自重しよう。

 

「で、何でいきなりそんなこと聞いてきたの?」

 

ケータイ番号知っていたのに今まで電話してこなかったコイツがいきなり連絡してきたかったのだから何かそれ相応の理由がある筈だ。

 

『いやねぇ、なんかフェイトが久々にケイと戦いたい!っていうから妹思いの優しいお姉ちゃんは聞いてあげることにしたんだよ』

 

「ふむ、優しいお姉ちゃんなどという妄言は華麗にスルーするとしてそうかフェイトが……」

 

『割と事実だと思うけどなぁ、まあとにかくどう?来ない?』

 

うーん、フェイトとバトルという事はT&Hに来いということなのだろうが。

 

「ごめん、今日は久々にバイトに行くわ。最近顔出してないからおやっさんに悪いし今度顔見せる」

 

『そっかぁ、残念無念また来年』

 

「いや、もうちょい早く行くけど」

 

一ヶ月以内くらいに。

 

『うんうん、じゃあ頼むよ〜』

 

プツッと通話が切れる。

相変わらず元気で嵐のような奴だった。

 

ケータイを閉じてポケットに投げ込む。

 

よし、じゃあ行くか。

 

「随分楽しそうな会話だったな」

 

「おひょっ」

 

いきなり声をかけられたせいで変な声が出た。

この声にこの喋り方は。

 

「やっほー、おひさ〜チンク」

 

我が愛しの幼馴染中島チンクに相違あるまい。

 

チンクは長く煌めく銀髪を払いながら僕を見据える。

 

「おひさー、じゃないだろう。全く幼馴染なのだからもう少し顔を見せろ」

 

「いや、悪いね新学期になってからは色々忙しかったんだよね」

 

主に副委員長関係で。

畜生今思い出しても腹がたつあのヒゲダルマめ。最近ニヤニヤして僕を見るが僕はまだ怒ってるんだぞ。

 

むう、と言って唸っているチンクの頭を軽く撫でてやると機嫌が少し治ったようでチンクは引き続き話を始めた。

 

「さっきの電話は誰からだったんだ?」

 

「ん、いやちょっと地底人の友達とな」

 

「へぇ、ケイに友達いたんだ」

 

「待て、先に地底人の存在に疑問もて」

 

チンクはごめんごめんと言いながらおかしそうに肩を震わせる。

 

「ちょっとアリシアとな」

 

「アリシアの番号聞いてたのか?」

 

「いんにゃなんか勝手に入ってた」

 

「アオハのケータイのセキュリティには問題があるね」

 

「それは僕も思う」

 

何でだろうなぁパスワードはかけてるのになぁ。

 

「というか話がなかなか進まんね。何故かしら?」

 

「お前の生き方が緩すぎるのだ。いちいち私に突っ込ませるな」

 

「そりゃすまんね」

 

また怒りそうな気配がしたので頭を撫でてなだめる。

 

「今日久々におやっさんのとこにバイトに行くけどチンクも来る?」

 

「おじさんの所か、そうだな私も行こう。久々に挨拶でもしたい」

 

「よっしゃじゃあ2ケツで行くか。荷台乗れよ」

 

「わかった。自転車はいつものところだな」

 

「うんいつものところだ」

 

久々のバイトだおやっさん元気にしていると幸いだ。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

カランコロンと入店を知らせる音を鳴らしながらドアを開けた。

 

「お久しぶりおやっさん元気だった?」

 

「お久しぶりだおじさん」

 

チンクと連れ立って訪れたここは町の外れにあるカフェバー「Charlotte 」。ここは僕みたいな中学生を雇ってくれてさらにこれる時だけで給料は即日払いという破格の待遇である。

 

まあ、これもマスターである宍戸さんが半分ここを趣味でやっているおかげだろう。

 

なんでも、本業は小説家らしい。

しかもそれなりに有名な。本人は恥ずかしがってペンネームは教えてくれないが。

 

「おう、久しぶりだな少年、それにチンクの嬢ちゃん」

 

おやっさんはガラスのグラスを乾いた布で拭く手を止めずにバリトンボイスでそういった。

 

「最近こっちに顔を見せなかったのはコレか?」

 

「いや、普通に学校の仕事だよ」

 

唇を釣り上げながら小指をたてたおやっさんに呆れたように返す。

この人はいい年した大人のはずなのだがやたらと恋愛脳だったりする。

 

チンクと僕も最初の頃はやたらと色々言われたものだが、ある時を境にピタリとやんだ。理由はわからないが多分飽きたのだろう。

 

「そうか儂はてっきり少年にもついにいい人が出来たのかと思っていたんだがなぁ」

 

「僕みたいな冴えないぼっちと付き合ってくれる人なんて愛しのチンクくらいのもんだろうさ」

「お前はまたそういうことを……」

 

呆れたようにチンクがため息をつく。

別に僕だって誰にでも言ってるわけではない。

 

「こんなこと言うのはチンクだけなんだけど?」

 

「え……?」

 

チンクが面食らったように硬直した。心なしかその頬は赤くなっているような気もする。

 

「だーって、こんなこと怒られること心配しないで言えるのチンクぐらいだもん」

 

「……そうだろうな。期待なんてしてなかったさ」

 

アリシアなら殴られるし委員長は畏れ多いしフェイトは罪悪感でいっぱいになるし。

 

「あ、でも八神ちゃんなら言えるかも

 

あいつは子狸で僕と妙にウマが合うから多分大丈夫だ。ついでにガキだし。

 

「……それはそれで腹がたつな」

 

「ーー?なしたの?」

 

「少年はとりあえず女心を学ぼうな」

 

心底おかしそうに笑ったおやっさんはパンパンと手を鳴らす。

 

「そろそろ仕事だ。いくら客がこないからと言っていつまでも学生服でいられても困る。さっさと制服に着替えてこい」

 

「了解」

 

「では私もお手伝いするとしよう」

 

おやっさんに一発敬礼をしてチンクと一緒にバックヤードに引っ込む。

 

ようし、お仕事開始だ。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

僅かに見える星空のなかチンクを荷台に乗っけて自転車を走らせる。

 

チンクは委員長より小さいためか漕ぐペダルはそれ程重くない。

別に委員長を太ってると言っているわけではないのでそこのところは勘違いしないでほしい。

 

「ケイは2年になってどうだ?何か変わったか?」

 

「いんにゃ。何も変わらんさ」

 

いつも通り友達はいないし、クラスでは浮いてるし、運動だって人並みをでない。頭はそれなりだが特筆すべきことでもない。

 

「けど、委員長と出会ったのはなかなかに鮮烈だったかな?」

 

「委員長?」

 

チンクの長い髪が僕の体をくすぐる。大方首を傾げたときに髪が揺れたのだろう。

 

「いや、大したことじゃない」

 

「ーーならいいが」

 

ぜんぜん良くなさそうな不機嫌な声色でチンクは黙り込む。

 

「いじけんなよ」

 

「別にいじけてなんかない」

 

「いや、いじけてるでしょ」

 

「いじけてない!」

 

更に不機嫌さを増したような声でチンクはぽかぽかと僕の背中をグーで殴ってきた。

 

「痛い痛い。こけたらどうすんだよ!お前も道連れなんだぞ!」

 

「うるさい!」

 

やばいマジでコケそう。かなり気をつけて運転しなければチンクもろとも道路とキスするとこになる。それだけはごめんだ。

 

僕が四苦八苦して自転車の態勢を整えているとふいに背中のパンチが終わった。

 

「チ、チンク?」

 

止んだ、止んだのはいいが今度はなんかぎゅうぎゅうと両手で体を絞められるんだけど。

なんだ鯖折りか?

 

「なあ、ケイ」

 

「なに?」

 

コツンと背中に何かがあたる。それはしばらく僕の背中をぐりぐりと痛めつけて動きを止めた。

 

「私はいつでもケイの一番だよな」

 

先ほどの不機嫌さとは一転してこれはひどく不安げだった。

何を持ってチンクがこのようなことを言っているかわからない。 でも、これはひどく大切なことで、間違えてはいけないものなのではないか、そんな気がする。

 

「うん、チンクはいつでも一番の()()()()だよ」

 

「そう、か……」

 

チンクは一つため息をつくと僕の体を絞めていた手を緩めた。

 

「突然すまなかったな」

 

「気にすんな」

 

さっきのが正しかったのか間違ったのかそれは僕にはわからないしおそらくわかるはずもない。

ただ一つわかるのはチンクとの関係を僕は停滞させたままの方が好ましいということぐらいだろうか。

 

なぜか先ほどよりも重さを増した気がするペダルを踏みしめ僕らは家へと急いだ。

 

 




作中の原作キャラは筆者のテンションと好みによって選ばれる。

え?ヒロイン?
そんなのまだわかんないでござる。


チンクは諸事情によって一歳年が上がってマス。
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