君に気持ちを伝えたい 作:世嗣
はっきり言ってコレを書いた時のテンションはいま思い出してもカオスだ。
「買い物買い物〜、たった一人で御夕飯〜」
ふんふんと適当に鼻歌を歌いながら街を歩く。今は夕飯のために買い出しである。
僕の母上は結構忙しいので僕の食事は大抵惣菜または弁当である。
例えば、朝飯トースト×2。昼飯買いだめのカロリーメイト。夕飯その日の特売の惣菜、なければ弁当。
といった感じである。育ち盛りの中学生男子としてはカロリーメイトが昼食というのはキツイものがあるのだが、いかんせん僕は料理ができないし、母上は作るような暇は無い。
よって僕がこういう栄養価が偏りそうな食事をしているのは仕方が無いのだ。
「でも背が伸びなくなるのはヤダなぁ」
今はまだ問題なく伸びてはいるがそのうち止まるかもしれない。そういうことも考えると改善すべきなのだろうが……。
「ん?」
僕の対向車線で少し大きな声がした。この辺りは路地裏も多く道も狭いし、車も通らないため割と声は聞こえやすかったりするのだ。
「いいじゃんちょっと遊び行こうぜ」
「そうそう俺らそんな怖くないって」
「断ると言っておるだろう!」
わお、あれは噂に聞くナンパというやつか。
男二人で一人の女の子を誘っているようだ。
男の片方はじゃらじゃらとピアスをあちこちにつけている茶髪のやつ。もう片方はロン毛をさらさらと揺らしていた。
いかにも、といった風貌である。
対して女子の方は黒い私服に身を包んだ凛々しい子だ。手には大きな買い物袋を持ち、自分より頭一つでかいピアスとロン毛を睨んでいる。
あ、なんだか委員長に似てるかもしれない。
「あの古風な喋り方に灰色の髪に黒のメッシュなんてもう委員長そっくり……ん?」
女の子を再びまじまじと見る。
黒のメッシュの入った灰色の髪に前髪を止めるピン。
古風な喋り方に凛々しい態度。
「委員長!?」
え?なに?委員長今ナンパされてんの?いや、確かに委員長可愛いけど中学生だぜ?高校生らしきピアスとロン毛それじゃあロリコンだぜ?
「なぁ、いいじゃんか〜」
ピアスがにやにやと笑って委員長の肩に手をかけた。
「触るなこの下衆!」
ばちっと音が鳴るほど強く委員長がピアスの手を払う。
うん、自業自得。委員長をただの可愛い女子だと思ったら大間違いだ。
でも、あれは悪手ではないだろうか。
「イッテェ」
今までにやにやとしていたピアスが顔をしかめる。
ロン毛はその横でざまぁといって笑っている。
「テメェ優しくしてやれば調子に乗りやがって」
「ーーあっ、やめ」
委員長の姿が対向車線の路地裏に消える。
「え?」
委員長連れ去られた?
ロン毛とピアスに路地裏に引っ張られたのだろうか。
「これは流石に問題があるだろう!」
あっという間に頭に血が上り思考が真っ白になる。
数瞬前まで傍観者を気取っていた自分を殴りたい。そもそも絡まれていた子が委員長と気付いた時声をかけるなりなんなりすればよかったのだ。
しかし、今更悔やんでも覆水は盆に帰らないしアフターフェスティバルだ。
僕はカロリーメイトやら惣菜やらが入った袋を投げ捨てて車道を突っ切って委員長が消えた路地に急ぐ。
僕が駆け込むとそこには壁に背中をつけてへたり込んでいる委員長とピアスとロン毛。
ピアスはゴリラみたいに厳つい顔をして僕を威嚇し、ロン毛の方は突然現れたを
怖いし今すぐ帰りたいけど委員長は知り合いだし、世話にだってなった。
仇は10倍、恩は100倍で返せっていうのがウチの家訓なのだ。
「え、えーと、や、やあ待った?委員長」
我ながらテンパってたとしても酷すぎる。路地裏で「待ってた?」てなんだ一昔前のヤンキー漫画か。待つわけねぇだろ僕なら帰るぞ。
それでもなんとなく委員長には意思が伝わったらしく何も言わず何度もかぶりを振る。
「と、という訳で」
ぴゅーと委員長の手を引っ張って路地裏から引き抜こうとすると今度は僕の委員長の手を握る反対の手が握られる。
「やっぱだめですか」
「当たり前だボケェ」
やっぱし。
大きくため息をつくと委員長を背中に隠してピアスに向き直る。
「許してくれませんかねぇ?土下座でもなんでもしますよ?」
「テメェみたいなやつにされて何が嬉しいさっさと消えろ」
ならば委員長にされたら嬉しいのか。
「あー、この子僕のツレなんですよ。なので、ねぇ」
あははと曖昧に笑うがピアスは全く笑わない。
笑いかけられたら笑うのがマナーじゃないかしらん?
いや、しかし困った。なんか謝っても許してくれなさそうだぞ。後ろを覗けば委員長が涙目で僕にしがみついている。
ーー守らねば。
謎の使命感とともにおそらく庇護欲が芽生えた。
だって可愛いし。可愛い女の子は守るものだろ?
「あ、警察!」
「あ?」
ピアスが後ろを見た!今だ食らえ、おやっさん及び姉上仕込みの股間への蹴り上げ。別名ーー。
「一夫多妻去勢拳!」
「ぐほぉ」
かーらーのー。
「掌底!」
「がっ」
蹴りなのに一夫多妻去勢
ピアスは顎と股間を抑えて悶絶する。本家ほどの威力はないがそれなりに痛いはずである。
本家はこれの数倍エグいからね。
「お、おい!」
ロン毛が慌てたようにピアスへと駆け寄った。
「えと、やる?」
ロン毛にとりあえず意思確認。ピアスにはちょっと卑怯だったけど手を合わせた感じ普通にやっても勝てそうな気がする。
「いい、いい、そいつ連れてどっか行けよ!」
ロン毛は若干ビビったようにそう言うとピアスを揺すり始めた。
「帰ろっか委員長」
「あ、ああ」
委員長の手を引っ張って路地裏から出た。
委員長の手を引きながらしばらく歩く。
「いやー、相手が大したことなくてよかったねぇ」
ヤンキーなら返り討ちにされてただろう。
「き、雉咲?」
「はいはい、いつでもニコニコ委員長の背後に這い寄る混沌。雉咲禊とは僕のことだけど?」
「嘘であろうな」
「もち」
あははと二人でわずかに笑う。
委員長はまだ若干涙目だけど笑うとやっぱり可愛い。
「ごめんね委員長」
「ーー?何がだ?」
「いやね、僕結構最初の方から委員長が絡まれてたの見てたんだけど、なんか他人事みたいに考えててさ、助けに行くの遅れちゃった」
ま、助けると言うのはカッコつけてるかもしれないけどね、と言って肩をすくめてみせる。
「いや、そんな事はない。我にとってはその……、助けてくれただけで、とても、う、嬉しかった」
顔を赤くしてそう言うと委員長が俯いた。なんだよその反応罪悪感が結構あるのにそれを差し引いても嬉しくなるじゃないか。
「あ、忘れてた」
そういや、委員長追いかける時に買い出しの袋投げ捨てたんだった。
「委員長ごめんよ、本当は家まで送ってあげたいけど僕買い物ぶくろ置いたままだから拾いに行かなきゃ」
「買い物ぶくろ……買い物の途中だったのか?」
「うん。夕飯とか昼ごはんの買い出しとか」
「ならば我も赴こう。なに、気にするなそう遠くはないのだろう?」
「まあ200メートルくらいかな?」
「ならば問題はない。貴様がどのようなものを買うのかにも興味があるしな」
「あー、見ても多分楽しくないけどな」
買い物ぶくろを取りに来た道を戻る。
「お、あった」
落ちてた荷物を拾い上げる。
歩道の端でゴミ同然で転がっていたが中身は惣菜にカロリーメイト、水くらいなので多分大丈夫だ。
「いこうか、い、いんちょ……?」
振り向くと何故か完璧に表情がない委員長がいた。なんか、無表情なのに圧力が半端ない。目を凝らせばぼんやりとしたオーラも見えるような見えないような……。
「それはなんだ雉咲」
「へ?それ」
委員長が指差す先は僕の買い物ぶくろである。投げ捨てた拍子に少し破れて穴から中が覗いている。
「カロリーメイトと惣菜だけど?」
「いや、それは見ればわかる。我が言っているのは何故買っているのか、ということだ」
「夕飯とか昼飯とか朝飯で食うから」
「それは毎日か?」
「ん〜、いや、時々ウィダーとかカップ麺とかも食うよ?」
「なっーーーー」
委員長が絶句する。二、三歩あとずさった気さえする。
「どったの、委員長?」
首をかしげて聞けば絶句したままフリーズしていた委員長は今度は烈火のような勢いで僕に詰め寄った。
「こんな物を毎日食べていると?」
「い、委員長顔近い!」
委員長の可愛い顔に詰め寄られたせいで顔に熱が集まるのがわかる。
怒りに染まった灰色の瞳が僕を覗き込む。
「そんな事はどうでも良い!質問に答えよ!」
「え、えーと。さっきも言った通り一応ローテーションですが……」
「あんなものは全部同じだ!」
「……ういっす」
委員長が過去史上最高に怒っている。もうそれこそ大噴火、と言った感じだ。まあ、委員長は怒っても可愛いが。
「っ〜〜〜〜、決定だ!雉咲!」
「は、はい!」
「貴様にはウチで夕餉を食べてもらう!」
胸を張り委員長がぎらりと僕を睨んだ。何故だろうおかしいな。僕は今女子から食事に誘われるという心躍るイベントが発生してるはずなんだが何故か冷や汗しか出ないぞ。
「う、ウチ……」
「そうだ、グランツ研究所だ!」
「えと、拒否権は……」
あ?という感じで委員長が睨んだ。
ないよね、うんわかってた。
「急いで帰るぞ雉咲!貴様に食事とはなんたるかを教えてやる!」
……おかしいなぁ途中までめっちゃラブコメってたのになぁ。
ばれないように小さくため息をつくと、僕は委員長の背中を追い始めた。
密かにこれからの夕食にひそかに心を躍らせて。
彼にラブコメれるほどの主人公力はない。
あるのは能天気さにほんの少しの羞恥心だけ。