君に気持ちを伝えたい   作:世嗣

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何というかあれだ。
キャラを同時に3人以上喋らせるのは難しいでござる。

はい、待たれたかどうかは知りませんがお食事編です。

ワー、らぶこめミターイ。


五月十日 後編

女の子の自宅へ訪問。

リア充も非リア充も歓喜し心を躍らせるイベントだろう。

まあ、もちろん初めての訪問でその家族に全て引き合わせられればそんな気持ちも一気に萎えるだろうが。

 

「紹介しよう。此奴は雉咲禊(きじさきけい)。我のクラスメートだ」

 

「ドーモミナサンキジサキケイデス」

 

委員長がグランツ研究所の机で大集合している家族に紹介するとその後僕も喋った。

緊張のあまりに全てがカタコトになったが。

 

そして訪れる沈黙。

おかしいなぁ、これじゃあ変な奴だと思われてしまう。

よし、言い直そう。

 

「どうも皆さんいつもニコニコ委員長の背後に這い寄る混沌雉咲禊です!」

 

びしっとポーズのおまけつき。だが空気が凍った。

 

うん、なんとなくわかってた。

 

「戯けか貴様!」

 

ぽかと頭を委員長にたたかれる。

 

「痛い!これ以上馬鹿になったらどうするの?!」

 

「うるさい!貴様のような戯けは、一、二度叩いた方が調子いいだろう」

 

「僕は壊れたテレビか!」

 

「そうだ。業者に見せるときだけ治ったふりをするたちの悪いテレビだ」

 

「なんだとぅ!」

 

そうやって僕と委員長でいつもとさしたる変わらない掛け合いを始めるとみなさんが顔を見合わせて驚く。

そして、なにか物珍しいものを見た、という感で笑い始めた。

 

「へー、君がディアーチェの彼氏くんなのね、意外」

 

「うんうん、もっと真面目かと思ってました」

 

ん?なんだって。

 

「そうですね王が選んだ相手なら文句は言いませんが、少し心配です」

 

「ボクはおもしろそうだからいいけどね〜」

 

「は、はぁ?!わ、我がこここ、此奴とだと?!」

 

「「「「違うの?」」」」

 

「違う!」

 

委員長が顔を真っ赤にして歯をむいた。そして、僕の方をギロリと睨んでくる。

ふむ、どうやら何か言えという事らしい。

 

「委員長と僕って付き合ってたの?」

 

「そんな戯けた事があるかぁ!」

 

綺麗な右ストレートだった。たぶん世界狙える。

委員長はなおをも赤い顔で息を荒くテーブルに座る全員を睨みつけて高らかに宣言した。

 

「此奴と我は委員長と副委員長!上司と部下!それ以外の関係はない!そうだな雉咲!」

 

「え〜、でもさぁ」

 

「あ"?」

 

「ハイジョーシトブカデス」

 

怖い。無駄に怖い。委員長目座ってるよ。アレは絶対二、三人殺してる。

 

「よいな、貴様ら此奴らあまりに食生活がずさんだったから夕餉に招待しただけだ。それをか、彼氏とかふ、巫山戯るのも大概にしろこの戯け!」

 

顔を真っ赤にしてそう言い切ると僕を憎々しげに睨んで拳骨を一発。

ーーそろそろ理不尽じゃなかろうか。

 

「我は夕餉の支度に行く。貴様らは勝手に親交でも温めろ」

 

そう言うと委員長は脇目も振らず僕の元から去っていった。

え?委員長?僕を一人にして行っちゃうの?僕寂しくて死んじゃうぞ?

 

「みなさんこんばんは。僕は委員長と同じクラスの雉咲禊です。委員長にはお世話になってます」

 

とりあえず自己紹介のやり直し。これで3回目だけど誰も気にしないよね!

 

「それ三回目ですよ」

 

いた。気にする人いた。

半ば呆れたように指摘したのは茶髪のメガネの子。どこかで見たような気もしない事もない。

 

「はは、なかなか愉快な子だね」

 

テーブルや奥に座るおじさんが肩を揺らして言うと僕ににっこりと笑いかけた。

 

「初めまして雉咲君。私はグランツ・フローリアン。この研究所の博士だよ。気軽に博士と呼んでくれ」

 

「了解です博士」

 

僕が博士、と呼ぶとグランツさんは子供のように嬉しそうに笑う。

 

「うんうん、男の子はいいなぁ。こういうロマンをわかってる!」

 

グランツさん、めんどくさいし博士でいいか。

博士をみてまわりの方々は深くため息をつく。よくあることなのかもしれない。

 

「よろしく雉咲くん。私はキリエ・フローリアン、そこのハカセの娘よ」

 

「私はアミティエ・フローリアン。アミタってよんでくださいね!因みに私がおねぇちゃんです!」

 

桃色の髪のおねーさんと赤髪のおねーさんが挨拶してくれる。

外見からは桃色の方がお姉さんみたいだが、人は見かけによらないものだ。

 

「初めましてシュテル・スタークスと申します。私のことはシュテルンと」

 

「ボクはレヴィ・ラッセル。レヴィでいいよ!」

 

続いて柔らかな笑みを湛えた茶髪のメガネっ子、水色の髪の女の子。やっぱりどちらも見たことあるような気がする。

 

「えーと、博士にアミタの姉君にキリエの妹君。それにシュテルンにレヴィでいいのかな?」

 

「うんうん、それでオッケー!」

 

確認が終わると一旦みなさんの顔を眺めていく。

奥から人の良さそうな博士、元気そうに爛々と瞳を輝かせるレヴィ、からかうような笑みを浮かべるキリエさん、優しそうに笑うアミタさん、茶髪のクールなメガネっ子、シュテルン。そしてその後ろに隠れる金髪の可愛いちっちゃい子。

 

よし、みんなわかるな。

あれ、みんなわかるか?

 

「そこの金髪の可愛い子は?」

 

するとシュテルンの後ろから覗いていた金髪がびくっと揺れてシュテルンの背中に更にくっつく。

しかし、頭隠して尻隠さずならぬ、体隠して金髪隠さず。

 

どんなにかくれんぼがうまくてもその長くて綺麗な金髪は隠しきれなかったようだな!

 

「みーっけ!」

 

「きゃっ」

 

僕が回り込んでやると金髪の子は今度はレヴィの背中に隠れた。

 

「僕はそんなに怖いかなぁ」

 

ちょっとショックかもしれない。僕はわりと年下には好かれやすい体質なのだが……。

 

「気にしないでください、ユーリは非常に人見知りなので」

 

「そっか」

 

ならば納得だ。ちょっと人見知りが過ぎるようだが僕以外にもこうならば気にする必要はないだろう。

 

「よろしくね、ユーリちゃん」

 

僕が笑うとユーリちゃんは口がΛ(ラムダ)になるくらい歪ませると僕をじっと見つめてきた。

 

「どうしたの?」

 

「ディアーチェとどんな関係なんですか?」

 

「ディア……?だれだって?」

 

「ディアーチェです!」

 

ふむ、ディアーチェ。

ディエチは似てるけど違うな。ディアーチェねぇ。どっかで聞いたことのあるような。

 

「あ、委員長のこと?」

 

「そうです!」

 

成る程納得だ。

そういえば委員長はディアーチェって名前だったな。

 

「ディアーチェとどんな関係なんですか!」

 

ユーリが若干涙目で聞いてくると周りの皆さんも興味津々といった目を向けてくる。

 

「どんな、と言われても……」

 

僕と委員長は何か深い関係がある訳でもないのだが。

それにそれは、さっき委員長が答えていた気もする。

 

「強いて言えば上司と部下かな?委員長もそう言ってたでしょ」

 

僕がそう言うとユーリちゃんはお目目を半眼にしてじっと見てくる。

その道の方にはご褒美ありがとうござい!といった感じ。

因みに僕は違う。

僕は大人っぽい可愛い子が好きです。

 

「でも、ディアーチェ、楽しそうでした」

 

「ーーへ?楽しそう?アレが?めっちゃ怒ってたよ」

 

「楽しそうでした」

 

ユーリちゃんはそう言うと僕を睨んでレヴィの背中に隠れてしまった。

相変わらず長い髪が背中からはみ出している。

 

ユーリちゃんが黙ってしまったので「そうなの?」という意味を込めてシュテルンを見ればシュテルンはため息をついて答えてくれた。

 

「まあ、確かに我が王は貴方との会話をそれなりに楽しんでいるようでした」

 

「ボクたちの前じゃあそこまで言わないしね」

 

そりゃ、誰にでも彼にでもあの態度だったら驚くけど、それはただ僕のふざけた態度がいけないのではないかと思う。

ーーーー解せぬ。

 

「ディアーチェは君には思ったことをなんでも言えるということだよ。それは、とてもいいことじゃないかい?」

 

「いいか、悪いかならいいですが……」

 

「ならそれでいいじゃないか」

 

「はぁ……」

 

にこにこと笑う博士。

それはとてもいいことかもしれないけど、いまいち腑に落ちないところがあるんだよなぁ。

 

何度も言うが僕と委員長は言ってもただの知り合いなのだ。

友達だと言うほど仲は良くないがただのクラスメートと言うにはいささか踏み込み過ぎている。

結果、上司と部下というよくわからない関係に落ち着いている。

それが互いにとって一番楽で、そうすることが正解な気もする。

 

そこまで考えたところで頭を数度ふって今までの考えを振り払う。

 

これはやめよう。

この考えはよくない。

嫌な事ばかり考えてしまう。

 

「おーい、シュテル、夕餉の支度が出来た。加勢を頼む」

 

委員長の声で思考の渦から引っ張り出された。

見ればがシュテルンが返事をして台所の方へ向かっていた。食器でも運ぶのだろうか。

 

「よーしボクもいくかー」

 

続いてレヴィが小走りでシュテルンの後を追っていった。

ひらひらとたなびくスカートが非常にあぶなっかしいね。

 

「わ、わたしも行きます!」

 

隠れる相手が誰も気づいたユーリちゃんもそのあとに続く。

ちらと博士を見れば尚もにこにこと笑って僕を見ていた。

嫌な目じゃないけどなんとなく居心地が悪い。

 

「僕も手伝ってきますね。女の子だけにやらせるのは主義に反します」

 

「いってらっしゃーい」

 

アミタさんの声を背中に受け、台所のシュテルンが向かったあたりに歩き始めた。

 

「でも、する事ないかもよ?」

 

その際にキリエさんがからかう様に言った事が耳に入った。

後ろを振り向けばキリエさんはにやにやと笑うだけで何も言わない。

 

この人マジでいい性格してるな。

 

キリエさんの事は諦めて歩みを進める。

台所に近づくにつれて香る芳香。自宅ではなかなか感じない出来立ての食べ物の匂い。

 

「こら、レヴィ飯をよそいすぎだここは日本昔話か」

 

「えー、でも多い方がケーも喜ぶよ?」

 

「そんなのおかわりさせればよかろう。もし残しでもしたら問題だ」

 

「ちぇー」

 

「王よ、ハンバーグの器はどの様に?」

 

「あー、確か下から三段目に少し大きめの深皿があった筈だ。それに全て入れてしまってくれ」

 

「心得ました」

 

「ディアーチェコップはいくつですか」

 

「我ら4人に博士たち3人あとは彼奴で8こだ」

 

「ーーすげぇ」

 

台所はさながら戦場だった。委員長が作った料理を四人で分担してもりつける。委員長はみんなに指示しながら常に手を動かし料理をよそっていた。

 

「これは、かえって邪魔かな?」

 

ここにいてもチームワークを乱すだけで邪魔にしかならない様な気もする。

というかここじゃ僕なんかやらかしそう。

 

「む、雉咲よ手伝ってくれるか?」

 

「いや、かえって邪魔かなーって思うんだけど」

 

「そんな事はない。少々重い物を運ぶ貴様に運んでもらえると助かる」

 

そう言ってさっきシュテルンがハンバーグを入れてた器を指差す。

確かに器自体が重そうだし女子ではあぶなっかしい。

 

「心得たよ委員長」

 

よっと掛け声とともに器を持ち上げる。思ったよりも重くてびっくりしたのは内緒だ。

女の子の前なのだ少しぐらいカッコつけたって罰は当たるまい。

 

「流石だな」

 

「いやいや、こんくらいならみんな出来るって」

 

カッコつけて罰が当たってもいいかもしれない。だって委員長の賞賛を浴びるのはなかなか悪い気はしないし、充分収支は釣り合ってる。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

「じゃあ、いただきます」

 

博士の声とともにみんながあちこちでいただきますといって料理に手を伸ばした。

 

みんなが感想を言いながら次々と手をのばす。その度に委員長は嬉しそうに顔を綻ばせながら感謝の言葉を述べる。

 

暖かい、家族の団欒。

この家族はいつもこうして団欒を楽しむのだろう。

それはとても眩しくて羨ましい。

だってそれは……。

 

「雉咲?」

 

「ーーん?どうしたの?」

 

「いや、食べぬのか?」

 

ああ、そうか今は食事なのだった。くだらない回想などしている場合ではなかった。

 

「僕も頂くよ」

 

目の前に置いてあった箸を手に取りテーブルに並ぶ豪華な料理に目を配る。そのどれもが湯気を立てていかにも美味しそうだった。

口の中に唾液がたまる。

 

チラリと委員長に目をやった。

委員長は早く食え、と言わんばかりに僕を見つめていた。僕はその気持ちに甘えまずは一口味噌汁を啜った。

 

「ーーっ」

 

「美味であろう?」

 

委員長は僕の顔を見ると満足そうに唇を釣り上げる。

あまりいい態度ではないが、そんな姿も様になっていてすこし見惚れてしまうのだけど。

 

「うん、美味い。とても……美味しい」

 

「ーーーーそうか。ならばいくらでも食べるがいい。おかわりは気にするな」

 

次はハンバーグに箸を伸ばした。甘すぎもせず辛すぎもしない具合に煮込まれたハンバーグは食べるだけで白米が欲しくなった。

サラダはユーリちゃんなんかでも食べやすい様にかサイズも味も工夫が施されていた。それは主にユーリちゃんだけでなくてレヴィにも当てはまっていた様だったけど。

出し巻き卵はうちのものとは違い砂糖で味付けされていてとても新鮮だった。

 

温かかった。

料理の温度的なものでなくてそこに心がこもっていた気がした。

コンビニなんかの弁当や惣菜なんかとは違う。人の温かさ。

 

何故かは知らないが油断すると涙が零れ出そうになる。

 

「美味いな。これまで食べてきた中でトップレベルだ」

 

あまりの充足感にため息がこぼれる。するとそれを耳聡く聞いていたレヴィが箸で僕を指差した。

 

「おーさまの料理はいっつもすごくおいしいんだよ!」

 

「そっか、それはうらやましいね」

 

いつもこんな料理が食べられるという事は純粋にうらやましい。栄養価の面でも美味しさの面でも文句なしだし。

 

「でもね」

 

レヴィがごはんを口に運びながら首を傾げた。なんだか喉に詰まりそうであぶなっかしい。お茶でも用意しとこうか。

 

「なんか今日はいつもより豪華だよ」

 

「そうなの?」

 

「うん。なんかいつもよりたくさん料理がある。ねーシュテルン?」

 

レヴィが隣のシュテルンに声をかけた。シュテルンは丁寧な動作で料理を口に運びながらレヴィの問いに首肯で答えた。

 

「それに少々肉料理が多い様にも思われます」

 

料理を一通り眺めてみる。

まあ、確かに動物性たんぱくが多い様だが充分誤差の範囲だと思う。

 

「いえ、普段の王は、私たちの健康に気を使いあまり脂質をとりすぎない様にしています。ですからこれはとても珍しいことですね」

 

チラリと委員長に目を向ける。委員長はこちらに気付きもせずユーリちゃんの口の周りを拭っていた。なんか姉妹というより親娘のような姿だった。

 

「ハンバーグもーらいっ!」

 

目の前から消えていくハンバーグ。犯人はにやりと笑って口に含む。

 

「あっ、レヴィそれは僕のだよ!」

 

「早い者勝ち〜」

 

「てめ、ならもらいっ!」

 

「あっ、ボクのお肉が〜」

 

そして先ほどの会話などなかったかのように騒がしく互いの料理を取り合うレヴィと僕に委員長の雷が落ちるのはこれから1分後のことである。

 

 

◇◆◇◆

 

 

食事の後賑やかな団欒が終わると僕はお礼も兼ねて委員長と二人で皿を洗っていた。

本来はアミタさん、キリエさん、シュテルン、レヴィ、ユーリちゃん、委員長の誰かの二人組のローテーションらしいのだけど今日の担当キリエさんは「馬に蹴られたくないわ」とか言って僕と変わった。

 

だから、そういうんじゃないのに。

 

「今日はありがとね。夕飯美味しかった」

 

取り敢えずお礼。

今日はとてもお世話になったしいうのが筋だ。

 

「礼を言われるようなことではない。ただ貴様の夕飯が見ていられなかったから招待しただけだ」

 

委員長は手を止めることなくそう返してきた。

 

「いや、それでも嬉しかった。やっば自分のために作ってもらう料理ってのはいいね」

 

「じ、自分のため?」

 

「だって、今日の料理って肉が多かったんでしょ?それって僕を気遣ってくれたのかなって思ったんだけど、自惚れだった?」

 

「う、自惚れるな!我が貴様のために作ったというのか……!そ、そんなことあるか」

 

委員長は顔をあわあわさせると僕の頭をぱかぱかと殴ってきた。

 

「委員長!泡、泡!て、手にスポンジ握ったままだから!」

 

僕が指摘すると「す、すまぬ」といって手を下ろした。

 

「貴様が変なことをいうのが悪い」

 

「そう?割と妥当な予測だったと思うけど」

 

「そんな事はない」

 

委員長は手を止めることなくいじけた様に頬を膨らました。

あ、可愛い。ほっぺ突きたいな。

 

委員長がいじけてしまったのでしばらく黙って皿を洗い続ける。

 

こんな風に皿を洗うのも久々だ。なんかこうして泡を触っていると楽しくなってくるな。あわあわ〜。

 

「ーー雉咲」

 

委員長の呼ぶ声に皿をあわあわしたまま顔を向ける。

 

「先ほどは少し嘘をついた。少し、ほんの少しだけ貴様に食べてもらうために作った」

 

「ーーえ?」

 

「それだけだ!」

 

プイッとそっぽを向く委員長。

なんか随分とツンデレさんな反応だね。

ここまでいくと逆に素直な気もするね。

 

「ねえ委員長」

 

「…………なんだ」

 

長い沈黙の後に委員長が返事をしてくれた。顔はそっぽを向いたままだ。

 

「皿、洗い終わったよ」

 

「……え?」

 

先ほどからそっぽを向いたまま皿を探して彷徨っていた右手を握って止める。

 

すると委員長が驚いてこっちに顔を向けた。その頬にはほんのり朱がさしている気もする。

 

「気遣ってくれてありがとね」

 

感謝の言葉とともに微笑む。なんとなくたくさんの言葉を重ねるよりこうしたほうか気持ちが伝わりやすい気がした。

 

「礼を言いたいのは我の方だ。買い物の途中の我を助けてくれたのは貴様であろう?」

 

委員長はしばらく僕を見つめて唸ったあと、不機嫌そうにそう続けた。

 

「あー、まあそうだけど」

 

でもあれはぶっちゃけ偶然だし、僕のエゴでしかない。礼をもらうような権利はないと思うが。

 

その旨を伝えると委員長は不機嫌そうな顔を継続させたまま唇を歪めた。それでも可愛いのが委員長の困ったところだよね!

 

「それでは我の気が済まん。何かないのか?我が出来ることならなんでもしてやるぞ」

 

「な、なんでも……?」

 

なんと甘美な響きなのか。

それはつまりあんな事やこんな事も許されるというのか。

 

「今の言葉は撤回だ目がやらしい」

 

「ごめん、冗談だって!」

 

委員長が汚いものを見るかのように侮蔑の眼差しを向けてきたので慌てて手を合わせて謝る。

 

「倫理に反しない健全なお願いにしときます」

 

「そうしろ」

 

さて、お願いねぇ……。

貰えるものは嬉しいが今特に欲しいものはない。強いて言えば彼女くらいだが(僕も男の子だからね!)それを委員長に頼むわけにもいかないだろう。

たぶん倫理観に反するのではなかろーか。

 

「決まったか?」

 

「あーちょっとまってあと少し」

 

委員長が急かすようにきいてきたからサクッと決めなければならないが、なかなかいいアイデアが浮かばない。

 

加速しろ僕の灰色の脳細胞!

 

ーー今日の夕飯は美味しかったなぁ。

 

チガウ。

そういう回想のために加速させたわけではないんだ灰色の脳細胞。

その時僕の頭に天啓が宿った。捨てたもんじゃないね灰色の脳細胞。

 

「委員長」

 

「なんだ?」

 

「僕のご飯作ってよ」

 

あ、なんかこれ求婚してるみたい。僕の味噌汁を作ってください、的な?

 

「先ほど食べたばかりであろう?足りなかったか?」

 

こてんと首をかしげてそう聞いてくる委員長に首を振ってみせる。

委員長はそんな事感じなかったようで何より。

 

「今じゃなくて明日のお昼」

 

「……ひる?」

 

「うん。僕にお弁当作ってよ」

 

つまるところそういうことだ。

せっかくのお礼だしくだらないことでは使いたくない。でもあんまり大きな事は頼みにくい。だからお弁当。

僕の知る限り委員長は学食やコンビニ勢ではなくてお弁当勢だ。

今日の夕飯を見る限りそれはアミタさんやキリエさんでは無くて委員長が作ってるっぽい。

それに委員長の事だしレヴィやシュテルンのも作ってるだろう。

じゃあたぶん三人分も四人分もさして変わるまい。

 

委員長は楽に僕にお礼ができて僕はお腹が膨れる。うぃんうぃんだろう。

 

「そんな事でいいのか?」

 

委員長は少し物足りないような険しい顔をしている。

 

返事の代わりに目配せとサムズアップ。僕にとっては最上レベルのご褒美だぜ。

 

「じゃあ、そろそろ帰るよ」

 

僅かに泡の付着した手を洗って捲っていた袖を元に戻す。

 

「ならば送っていこう。我もまえここまで乗せてもらったしな」

 

「女の子にそんな事させられないかな。ただでさえ暗くて危ないんだし」

 

「しかしだな……」

「じゃあ間をとって玄関までお願いするよ。それならいい?」

 

「まあ、それならよい」

 

「ありがとう王様!」

 

「貴様はその名で呼ぶな!」

 

「へいへーい、いいじゃん王様〜」

 

「貴様ァ!」

 

 

 

○●○●○●

 

 

「じゃあお世話になりました!」

 

「うんまたおいで」

 

「はい!」

 

博士は嬉しそうに奴の手をブンブンとふる。そしてそれに奴も嬉しそうに答えた。

短い時間の間に仲良くなったものだ、と感心してしまう。

男同士というのもあるだろうが奴の方に理由がありそうだ。

 

普段はふざけた態度だがアレはアレで割と真面目だし、何より人懐っこいからな。

 

「またね委員長」

 

「ああ、またな」

 

にしっと笑って我に別れを言う。それに対して我も少しだけ手を上げて返答した。

それを見ると奴は嬉しそうに笑って買い物袋を揺らしながら帰って行った。

 

奴はしばらく走っていたが途中で何かに気づいたようにこちらを向くと手をメガホンの形にする。

 

「いーんちょー、明日楽しみにしてるよー」

 

そう言って今度こそ手をぶんぶん振って走って帰って行った。

奴の姿が夜闇に消えると少しの充足感と徒労感からため息がこぼれた。

 

「騒がしい奴だ」

 

すると隣の博士がくすくすと笑い声をあげる。まるで、とても面白いものを見た、とでも言うように。

 

「何か?」

 

「いいや、いい子じゃないか。明るくて気が利いて、何より優しい」

 

「でも騒がしいだろう」

 

「男の子はあれくらいが良いんじゃないのかい?」

 

「我は知らんよ」

 

視線は奴の消えていった夜闇からそらさない。何故かはわからんが今は博士の顔は見ないほうが良い気がする。

 

「大切にするといい」

 

博士は小さく笑って我の頭を撫でると中に戻っていった。

 

「……一体何なのだ」

 

我は撫でられて僅かに乱れた髪を整えると中に戻るため踵を返した。

 

そんな中で何故かあの博士の全てを見通したかのような意味深長な言葉が頭に残っていた。

 

 

 

 

 

 




初めての委員長視点。
これが一番難しかった。

私の印象としてはグランツ博士はすごい達観した感じがある。
たぶん主人公の考えてることとか抱えてるモンとか全部お見通しだと思う。
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