君に気持ちを伝えたい   作:世嗣

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食事描写むずいいいいいい!


五月十一日

狂ったように咲いていた校庭の桜も散った今日この頃。

僕は生物の授業をBGMにすっかり緑に変わった木を眺めていた。

 

生物の単語というのは何故にどれも同じような名前なのだろうか。

シアニンだかシトシンだとかアントシトシトシン?アントシアニンとかグルカゴンやらグルコース、パラトルモンエトセトラエトセトラ。

 

そもパラトルモンってなんかアニメに出てきそうだ。

進化、パラトルモン!的な?

 

そんなどうでも良いことを考えていると校庭でサッカーをしている生徒たちが目に映る。

行われているのは女子の方のサッカーらしい。これといって極端に上手い奴もいなければ極端に足を引っ張るような奴もいない平凡に下手な人もいる。

まあ、そこら辺の学校の生徒たちと変わることなどない。

 

ーーーーと、言えたらよかったのになぁ。

 

平凡だ。至って平凡なサッカーだ。

ただ一人の女子(脳筋)を除いて。

 

その女子は自陣からドリブルで駆け上がると次々に相手をぬいてゴールへシュート。僕の見ているうちで通算五回目、もうハットトリックどころの騒ぎではない。

 

「相変わらずやってんなぁ」

 

あれこそは僕の愛しくない方の幼なじみ中島ギンガ。

一つ後輩であるチンクの実の姉であり僕と腐った縁をもつ幼なじみである。

 

そんな事を考えながらギンガを見ているとギンガのしている試合が終了したのかイレブンが散り散りとなっていた。

ギンガのチームの勝利……というかギンガの一人勝ちだろう。

 

相変わらずの脳筋女だ。

 

心の中でため息とともにひっそりと呟くと、グラウンドのギンガがいきなり僕に目を向けた。

背中が急速に冷える。まるで氷水でもかけられたかのようだ。

 

因みに僕のいる場所は二階である。ギンガまでの直線距離約200とすこし。

髪とプレイでギンガだとわかった僕が言うのは何だが、この距離からの視線に気づいてピンポイントで見つめてくるこいつは化け物か何かでは無いだろうか。

 

そのままじーっと僕を見ていたギンガはすこし小走りで僕に近づいてきた。そして僅かに目を細めると僕へパクパクと口を動かして他の友達の方へ走っていった。

 

近づいたおかげで視認できたギンガの口が何を言ったかわからない。あいにく僕は読心術は心得ていない。でも、何と言ったかは何故か伝わってきた。

 

大方「脳筋?」というところだろうか。あとはわからなかったが僕にとって愉快な言葉ではあるまい。

 

ギンガの視線を思い出して背中にじっとりと冷や汗が浮かぶのがわかる。背中に張り付くシャツが気持ち悪い。

 

「憂鬱だ」

 

僕がこれからに待ち受ける苦難に対しての怨嗟の声をあげて視線をグラウンドから教室内に戻して、暑さにやられた犬のように机に寝そべる。

 

「じゃー、雉咲答えてみろ」

日下達丸先生、通称ヒゲダルマの声で意識を戻す。

ヒゲダルマはにこにこいや、にたにたと笑いながら僕を見ていた。

 

あんちくしょう、僕が外を見ていることに気づいて僕にはピンポイントで当てたな。

 

「ん?雉咲?こたえんのか?」

 

ヒゲダルマはたぷたぷと顎の肉を揺らしながら笑う。

なんだ安西先生の真似なのか?ならさっさとその真っ黒のヒゲを染めて禿げ散らかした頭をなんとかしやがれ。

 

さっと一通り黒板に目を通して問題と教科書、ノートの該当部分を発見する。

聞いてなくてもこれくらいならなんとなくの感覚で答えられるものだ。

 

椅子を引いて簡潔に一言で答えると仕事は終わったとばかりにそそくさと座る。

 

ヒゲダルマは少し物足りなさそうな顔をしていたが僕の知ったことでは無いのでガンスルー。

 

そこで古びたスピーカーから聞き慣れた授業の終了を告げる電子音声が流れ出した。

ヒゲダルマは小さくため息を吐くと「次の時間で小テストをする」というと挨拶をして出て行った。

 

ざわざわと一気に教室が騒がしくなる。クラスメート達は財布を持つ購買、食堂組と弁当組に分けられ各々笑い声をあげて動き始めた。

 

ーーはやく、屋上に行こう。

こうしたクラスメートの青春を謳歌している感じは苦手だ。

 

だって僕友達いないし。

彼女いないし。

弁当無いし。

加えて金だって無い。

 

もう悲しくなるくらいないない尽くしだ。

 

「雉咲、ここで問題ないな」

 

でている教材をしまっていると、委員長が大きな包みを持って僕の目の前に立っていた。

 

「ん?問題ってなんのこと?」

 

「昨日貴様が頼んだことだろうに。まさか、忘れたとは言わんよな?」

 

「昨日?」

 

そういえば今日は委員長にお弁当をお願いしていたのだったか。ギンガのせいで少し記憶が飛んでしまっていた。

 

「てことは、作ってきてくれたの」

 

「うむ、心して食せよ」

 

委員長は重そうな包みを僕の机に置くと結びを解いて弁当箱をあらわにさせた。

 

そこにあったのは弁当箱、と言うよりはむしろ重箱。正月なんかに使うのよりは一回りばかり小さいし二段しかないが一人には少々荷が重そうな量だ。

 

「えと、これ僕のために」

 

「ああ、そうだ。男子に作るのは初めてだったからすこし分量がわからなかったものでな」

 

「これは、ちょっと荷が重いかも……」

 

あはは、と乾いたように笑うと委員長は僅かに顔をしかめて手を顎に持って行って考えるような仕草をとった。

 

うん、かわいい。

 

やっぱり委員長は何をしても画になるね。

 

「昨日の食事を見る限りこのくらいは大丈夫であろう、と判断したのだがな」

 

「まあ、男子だから食べようと思えば結構食べられるけど、流石にこれを一人では……」

 

流石の僕でも重箱を一人で、というのは無理だろう。たぶん。

でも、頑張れば食べれちゃったりするのかしらん?

 

「一人?」

 

委員長が不思議に思ったように首を傾げた。

その目はまるで、こやつは何をいっているのだ?とでも言いたげである。

 

「言ってなかったか?これは我と貴様で一つだぞ」

 

ーーーーほ?

 

「いや、だから二人で一つ、と言っているのだ」

 

「つまり、二人で一つの弁当をつついて昼食ってコト」

 

「何か問題が?」

 

「ありまくる!」

 

二人で一つの弁当をつつくって、そんなの体を掻き毟りたくなるほど仲のいいカップル、所謂バのつくカップルだってなかなかしないだろ!

 

え?夫婦なの?

なに、僕と委員長はもうゴールインしてる感じなの?

昨日の「僕のご飯作ってよ」で本当に僕と委員長ゴールインしちゃってたの?

それなら無理ですごめんなさい。昨日のはただの出来心だったんです。

 

「そも、いつも一緒に食べているシュテルンや雷刃ちゃんはどうしたの」

 

「今日は貴様と昼食だから別々になっておる」

 

「じゃあ、何故に二人で一つ?!」

 

「洗い物がかさばるからだ。ただでさえ普通より多めに作るのだから、洗い物が少ないに越したことはない」

 

主婦か!

発想が完璧に主婦!

ディアーチェサンはいいお嫁さんになるね!

 

ここが教室じゃなかったら絶対に口に出して突っ込んでいただろう。

 

「僕に弁当箱だけ放り投げておく、という考えはなかったですか」

 

半分悲鳴のようにして僕が聞くと委員長は頬を僅かに染めてすっ、と僕から目をずらした。

 

「……それでは貴様の感想が直に聞けんだろう」

 

「おう……」

 

反則ですぜ。その顔でその言い方は反則だね。

 

「貴様は我と共に昼餉を食べるのが嫌だというのか」

 

「嫌、じゃないけど」

 

「けど?」

 

「友達にみられたらちょっと」

 

「貴様に友達はおらんだろう」

 

うん。そうだけど!なにも間違っていないけど。

この胸の中を占拠するなんとも言えない寂しさをどうするつもり?

 

「クラスメートに噂されたら面倒じゃない?」

 

「言いたい奴に言わせておけばよかろう」

 

漢らしいね。僕もいつかはこうありたいものだ。

 

「だいたいそういう事を言う輩は総じて暇を持て余した愚か者だ。そんな輩が流した噂などそのうちに霧散しよう」

 

委員長は先ほどから文句ばかりの僕にあきあきしたようでため息をこぼして、それに、と続ける。

 

「我がしっかりと否定すればいいだけの話だろう。人の噂も七百五日という奴だ」

 

もちろん正しくは七十五日だ。七百五日、約二年である。なかなか粘着質な噂が流れているようだ。

というか、二年も流れ続けた噂はほとんど真実だと思う。

 

あえてツッコミはせずに生暖かい目で委員長を見ておくことにする。

こういう間違いをしちゃってる委員長もなかなか可愛いし。

 

「……じゃあ、委員長はその……羞恥心、と呼ばれる感情に縁があったりする?」

 

遠回しに「恥ずかしいからちょっと」と言ってみる。

けれど委員長は全く表情を変えることなく言葉を繋ぐ。

 

「貴様はただ昼餉を共にするのが恥ずかしいのか?」

 

「いや、その女子と一緒ってのがちょっと……」

 

「……ならば誰も見てなければ良いのだな?」

 

「まあ、そうだけど」

 

渋々うなづく。

 

「ならば、彼処に行くぞ」

 

委員長が弁当箱を持ち上げて反対の手で僕の左手を引っ張り上げた。

 

「どこに」

 

「そんなの決まっておろう」

 

ふい、と僕に向き直る。きらきらと光るブラウンが僕を見据えてきた。

 

「自称、貴様の特等席、だ」

 

あくまでも自称だがな、と小悪魔めいた笑顔つけてそう言い切る。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

「ほら、これも食べておけ」

 

委員長が箸で僕の口におかずを詰め込む。

僕はもごもごいうことで不満をあらわにするがいい委員長はまるで気にする様子も見せない。

 

いや、美味いから良いんだけどね。

 

こらそこ、あーんしてもらってるとか言うな。これはそういう甘ったるいイベントでは無い。

 

あくまでも委員長の慈悲で哀れな子羊が餌を与えられているにすぎない。

 

そうだ。全然役得だとか思ってない。別に全然嬉しく無い。

嬉しくなんか……ない。

 

弁当のおかずをひょいぱくと口に入れていく。

 

こんないい天気のもと美少女の作った弁当を二人でつつくなんて世界中の非リアたちが泣いて羨ましがりそうである。

 

そんな僕にとっての幸せを遮る甲高い電子音。

聞き覚えがありすぎる人工的な電子音は、僕の記憶が間違っていなければ僕のケータイのメールの着信音である。

 

委員長に断りを入れてポケットからケータイを取り出すと表示されるのは今僕がトップレベルに見たくない三文字。

 

「おうふ……」

 

「どうしたのだ?」

 

箸で丁寧に卵焼きを摘んだまま委員長が小首を傾げた。

 

「いや、ちょっとまあ、些事だよ」

 

苦々しい顔で委員長に言葉を返す。

 

はあ、一瞬で僕の気持ちを萎えさせてくれるなぁ。

 

僕がため息とともに目を向けたケータイの液晶には『ギンガ』と記されてあった。

 

「誰からのメールだったのだ?」

 

「いや、その……」

 

言葉に詰まる。

友達、ではないし幼なじみ、というには余りにも仲が悪い。クラスメイトでもなければ家族でもない。

ギンガと僕の関係はなんと表せば良いのだろうか……。

 

「腐れ縁、かな……?」

 

「ーーは?」

 

委員長の困ったような表情のまま首を傾げた姿が何故か頭に残った。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「ん〜〜、美味しい〜〜」

 

「しろーさんコーヒーもう一杯」

 

ケーキは好きだろうか。

 

スポンジに生クリームなどが嫌になる程塗りたくられ果物やらチョコが盛り付けられているアレだ。

別に僕もケーキは嫌いじゃない。むしろ好ましい部類に入る。

しかし、しかし、だ。目の前で20個以上のケーキをノンタイムでパクつく奴が目の前にいると食べたいと思えるだろうか?

 

答えは否。

そんなものを見せられた暁には甘ったるさが胸の中で渦巻き、一つも食べていないにもかかわらず胸焼けが止まらない。

 

喫茶店「翠屋」の店主の士郎さんがにこやかな表情で運んでくれたコーヒーをブラックのまま啜る。

少し舌に刺激のある苦さが今は心地よい。

 

「太るぞ」

 

目の前でケーキを食べ続けるギンガに向けて怨みがましい視線と精一杯の皮肉を投げかける。

 

「その分動いてるから大丈夫」

 

「じゃあ、太れ」

 

「ただの呪詛じゃん」

 

23個目のケーキを食べ終わったところでギンガが微笑みフォークを置いた。

 

「腹1分目ってところかな」

 

「まだ食べると申すか人間ブラックホール」

 

「こんなうら若き乙女を捕まえてブラックホールなんて正気を疑うんだけど」

 

「サッカーでアシストなしのハットトリックを決めるようなキチガイ性能を乙女とは呼ばねーよ」

 

乙女というのは委員長とかチンクとかフェイトのことを言うのだ。

断じてギンガのような奴のことを指す言葉ではない。

 

「やっぱり見てたんだ」

 

うふ、とにこやかに笑う。がその目は全く笑っておらず僕の背に冷や汗を生むだけである。

 

「何が望みだ!言え!」

 

「私を悪役みたいにするのはやめてもらえる?」

 

僕にとっては大魔王と書いてギンガと読むんだが。

 

「本当に禊は相変わらずだなぁ」

 

「オマエにとっての相変わらずは一体いつが基準なのか興味が尽きないよ。あ、しろーさんコーヒーもう一杯」

 

「いつって……何時だろう?あ、私もケーキお任せであと3個お願いします」

 

届いたケーキを満足げに頬張るギンガ。その姿にふと懐かしいものを感じる。

実はこうして二人で喫茶店に訪れるのは結構久しぶりだったりする。小学生のころはなけなしのお小遣いをはたいて時々訪れていたが、いつからかそんなこともなくなってしまった。

 

そうだ、アレは確か小学、三、四年の頃だったか。

 

「禊?」

 

「なに」

 

「いや、ずいぶん落ち込んだ顔してるな、と思って」

 

目の焦点を手元のカップに合わせる。飲みかけの黒い鏡はずいぶんしけたツラをした冴えない男子を映し出していた。そんな男子を見るのが嫌で手を揺らして水面を歪めた。

 

そんな一連の動作を見ていたのかギンガも表情を曇らせた。

 

「まだ気にしてるの」

 

「何のことだよ」

 

歪みが次第に小さくなって再び男子の顔を映し出した。情けないことに今度はずいぶんと辛そうな顔をしている。

 

それでも男か笑ってみせろよ。

 

男子が唇を釣り上げて引きつったような笑みを浮かべた。ひどい顔だが先ほどまでに比べるとわりかしましな気もする。

 

「そっか、覚えてないならいいかな」

 

ひどく悲しそうな声だった。

さっきまで僕とバカな話をしていた人間ブラックホールとは思えないような、彼女の言葉を借りるなら、乙女のように落ち込んだ声。

 

「覚えてないよ」

 

自分の意思を固めるためにも声に出した。

 

だけど視線は上げない。今ギンガの顔を見るととてもひどい気分になるだろう。

それにギンガだって僕の顔を見ていい気分にはならないだろう。

そのくらい今の僕の顔はひどかったんだ。

 

「だから、オマエが気にする事なんて何もないんだ」

 

今まで鏡として活躍していたコーヒーを一気に飲み干した。時間が経過しすっかり冷たくなってしまったそれはいつもより心なしか苦味が強いような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あー、真面目な話はマジでヤダ。

なんだよ後半の鬱さ。

いっちょまえに悩んでんじゃねぇ!

因みに主人公初めてディアーチェ=サンを名前で呼ぶ。
心の中でだけど。
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