ベルが異世界の自分を知ってチートなのは間違いだろうか。 作:暇人
50階層。そこは迷宮都市オラリオのダンジョン内にて現時点で最前線の安全階層だ。地面には大型の魔灯製品が多数設置されており、以前の天井からの僅かな灯りをしか存在しなかった時と比べると凄まじい変化だった。
その階層には迷宮都市オラリオが誇る大手の探索系ファミリア『ロキ・ファミリア』が滞在していた。彼等の目的は未開拓階層に到達する為の下準備だった。ここまでの道程の障害になる迷宮の孤王達を撃破し、それと同時に多数のクエストの依頼を成功させ、次の未開拓階層に到達する為の大規模な準備。そしてその下準備は最終段階に入っていた。
「僕達の最終目的は59階層に到達する事。その為には資金が必要だ。そして今は時間も惜しい。あくまで『カドモスの泉』だ。クエスト成功を優先する為、そして時間効率重視の為に平等にパーティーを二つに分けた。異論は無いね? 」
大半の幹部達は頷くが、一人の狼男は異議を唱えた。
「何で俺がフィン達の方なんだよ!」
彼の名前はベート・ローガ。『ロキ・ファミリア』のレベル5の上位冒険者にしてツンデレ狼である。彼は片想いの相手であるアイズ・ヴァレンシュタインと同じパーティーじゃないことに不満を抱いていた。
「おい糞ベート。団長が平等にって言ったのが聞こえなかったの? 団長に文句があるってことは私に喧嘩売ってる事でいいの?」
「ベートがアイズとパーティー組めなくて拗ねてる〜。気持ちが悪い!」
その光景は『ロキ・ファミリア』の一種の予定調和だった。ベートがアイズに惚れてることを本人以外の団員には知られている。
アイズ・ヴァレンシュタインは天然である。何故、同じファミリアの仲間が自分のパーティーに参加出来ないことに不満を言っている理由が、見当もつかなかった。
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その後、リヴェリアの仲裁を経て『ロキ・ファミリア』の二手に分かれた幹部達は51階層を目指した。
その一組で彼女達は進んでいた。前衛は金髪金眼の天然剣姫アイズ・ヴァレンシュタイン、貧相な体型の妹に比べて豊満な体型のアマゾネスのティオネ・ヒリュテ、姉に比べて決定的に体型が劣っているティオネの妹 ティオナ・ヒリュテ。後衛は魔法職でレベル3のエルフ。アイズに恋い焦がれているレフィーア・ウィリディス。
彼女達は道を阻む、モンスター達を蹴散らしながら問題無くカドモスの泉に到達したが、そこには強竜の死骸が横たわっていた。しかし冒険者が倒した風には見えず、強竜の素材は残されており冒険者以外の何者かが強竜を屠ったと彼女達は推測した。その何者かはまだこの階層にいるかもしれないと。
そして彼女達の不安が的中する事になる。
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ベル・クラネルは無害そうに見えて、実は腹黒むっつりスケベを拗らせており、禁欲の為にミスリル製の家の中でSM漫画をひたすら書き続けていた。すると外から悲鳴が聞こえた。
( 家の外から悲鳴が聞こえる。この声は可愛い女の子に違い無い! これは『ロキ・ファミリア』の可愛い女の子達と交流出来るチャンスだ!)
ベルは内側の扉の鍵を開けて、家の外に出た。そしてその光景に目を疑った。巨大な芋虫の大群が一心不乱に『ロキ・ファミリア』の野営地に前進しており、その数はゆうに50体は超えるだろう。
「まるでジブリの王蟲じゃないか! あっ、僕が作った魔石灯が! 」
ベルはインベントリからキリトの愛剣を取り出して装備する。そしてその瞳には芋虫に対する憎しみがあった。芋虫が魔石灯を押し倒していたからだ。
「許さないぞ! ロキ・ファミリアの女性を傷付けるだけじゃ飽き足らず、僕の作品を壊して! 絶対に駆逐してやる!」
ベルは走り出し、芋虫の大群の先頭に向かっていく。距離はそこまで離れておらず、ベルの脚をもってすれば数秒だった。
「この糞蟲がぁ!」
ベルは蟲の大群と『ロキ・ファミリア』との間に飛び込み、向かってくる蟲達に斬りかかった。
ベルは蟲の顔を斬りつけたが、嫌な予感がしたので直ぐに後退する。ベルが先程まで立っていた場所に、蟲の体液が降りかかりダンジョンの地面が溶けていた。
「大型の蟲で僕の剣は問題無いけど、酸性の体液が面倒だなぁ。それにキモいし」
ベルは突然、獰猛な笑みを浮かべた。その笑顔の裏には殺意が込められていた。
「傲慢スペルビアの書庫アーカイブに接続。テーマを実行する!」
ベルの服装がキリトのコートからアラタの服装に変わる。その状態はメイガスモード。春日アラタだった時の使えたもので、この世界には存在しない力。
「認識権限リアライズからの降臨顕現コンセプション」
ベルの両手に大型の銃が錬成された。その銃にベルが魔力や呪力等を込め、芋虫に銃口を向けて引き金を引いた。
凄まじい爆音と共に、銃口から放たれた力は一撃で芋虫を蒸発させた。そしてベルは両手に持っている銃の引き金を再び引く。
「ベル・クラネル! 乱れ撃つぜぇ!」
そこからは一方的な蹂躙劇だった。ベルが引き金を引く度に、芋虫は腐食液をばら撒く事すら出来ずに蒸発する。50を超える蟲の大群は、1分足らずでベル・クラネルによって殲滅された。
その光景をロキ・ファミリアの面々は口を開けて見ていた。ベルは襲われていた『ロキ・ファミリア』に近づき、エルフの女性に声を掛けた。
「皆さん大丈夫でしたか? 僕が来たからには安心してください 」
「君のお陰で何人か負傷者が居るが無事だ。それよりも何なんだあの魔法は? 詠唱を短文で済ませ、連射が効き、そして何より威力が可笑しい。魔法なのか? 」
「お、落ち着いてください。顔が近いですよ!」
エルフの女性は思わず、ベルの肩を握ってしまっていた。そして顔の距離は鼻が当たりそうで当たらない距離だった。
「すまない。恥ずかしい所を見せてしまったな」
「いえいえ。ご馳走様でした」
エルフの女性が軽く謝ると、ベルは両手を合わせて笑いながら頭を下げた。そんな事をしている内に、51階層の方から『ロキ・ファミリア』の精鋭達が帰還した。
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ベルは51階層から帰還した『ロキ・ファミリア』の団長であるフィン・ディムナにロキ・ファミリアの本営に招かれた。
「ベル・クラネル君。仲間を助けてくれて感謝するよ」
「いえいえ。困った時は助け合いが基本ですから! そちらの皆さんも無事で何よりです」
「僕達は無事だけど、手持ちの武器があの腐食液で何個か使い物にならなくなったけどね」
フィンは肩を竦め、やれやれと笑いながらベルも御愁傷様ですと微笑む。しかし、そんな時間は直ぐに終わる事になる。
「親指が疼く。これはマズイな」
「何か来ますね」
直後、奇妙な音が聞こえた。まるでダンジョンの壁が削られているような感じ。その場にいた全員が振り向く。そしてその正体に驚く事になる。
「あれも下の階層から来たっていうの? 」
「迷路を壊して進めば...なんとか? 」
「冗談じゃないわよ」
モンスターを視認し、呆れたアマゾネスの姉妹の会話が『ロキ・ファミリア』の本営に響く。
大きはおよそ6M。先程戦っていた芋虫の大型個体よりも更に一回り大きく、顔はノーフェイスで黄緑かかった全身に二対四枚の扁平状の腕。上半身が女性の様な身体つきをしている割には、下半身は芋虫の形状を引き継いでおり、その腹部は醜悪で黒く淀み痛々しいその胎内にナニカを蓄えている様で、その姿はまるで妊婦の様だった。
「あれはヤバイな」
「ヤバイですね」
(あのボテ腹は無いな。やっぱり、ヘスティアのボテ腹の方が...)
ロキ・ファミリアの面々が思った事を呟く中で、新米冒険者ベル・クラネルは自らが愛する主神の妊婦姿を思い浮かべ、下半身がバベルになっていた。
冒険者達がじっくり観察していると、モンスターが動いた。四枚の腕を、まるで母親が我が子を胸の中に誘う様に、優しく広げた。
舞う微粒子。七色に輝く鱗粉。七色に彩られた鱗粉が冒険者達を包み込む。その瞬間に冒険者達の第六感が危険信号を出し、彼等はその場から離脱した。途端に鱗粉が大爆発を起こした。
「きゃああああ」
「糞がっ! 」
エルフの少女の美声が悲鳴を上げ、狼男は毒を吐く。大爆発は地面ごと巻き込み、凄まじい熱気が冒険者達を撫でた。
(巻かれた鱗粉の一粒全てが爆弾か。まるでモンハンのテオみたいだな。また白とモンハンしてぇ! )
辺り一面に砂煙が舞い、吹き飛ばされた冒険者達は態勢を立て直す。
「総員、撤退だ」
ロキ・ファミリア団長のフィンは団員に告げる。その言葉を聞き、動揺する者がいる中で彼は目の前のモンスターを見る。
「速やかにキャンプを放棄、最低限の物資を持って迅速に、この階層から撤退する。異論は認めない」
「フィン!? 逃げんのかよ! 」
「団長、あのモンスターを野放しには! 」
狼男とアマゾネスは団長に再考を求める。ロキ・ファミリアとしても、一流の冒険者としてのプライドと責任、目の前のモンスターを野放しにする事を許さなかった。あのモンスターが更に上層に上がって来た場合、多くの冒険者達が死ぬからだ。しかし、フィンは首を横には振らなかった。
「僕も大いに不本意だが、あのモンスターを排除して被害を最小限に抑えるの方法が一つしかない」
フィンは矛盾しているなと心の中で呟き、金髪金眼の少女に近づく。
「アイズ、あのモンスターを討て」
他の団員達が、異論を唱える中でフィンは団員達を一喝し黙らせた。しかし、馬鹿な冒険者が声を上げた。
「僕はロキ・ファミリアじゃないから、アイズさんを手伝いますね」
ロキ・ファミリアの面々は驚きを隠せずにいた。フィンもその一人だ。
「君も避難するんだ。あのモンスターは彼女に任せればいい」
そう言ってフィンはベルを止めようと腕を出すが、振りほどかれてしまった。
「フィンさんは優秀な指揮官かつ冒険者だ。でも僕は冒険しますね」
「勇敢さと無謀は違うものだよ、ベル・クラネル君。まぁ、君の人生だ。好きにするといい」
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「自分の身は自分で守ってね」
「大丈夫大丈夫! 僕、強いですから! 」
『ロキ・ファミリア』の主戦力で金眼金眼の少女アイズ・ヴァレンシュタインと『ヘスティア・ファミリア』の白髪赤眼の少年ベル・クラネルが目の前のモンスターと相対していた。
アイズはこの瞬間まで隣の少年の事を、ただの死にたがりと思っていたが、直ぐに考えを改める事になる。
巨体を支える多脚に揺れ動く複腕。黄緑色を基本とし、七色に彩られた嫌悪感を抱かせる容姿。そのモンスターにアイズが先に仕掛けた。
「【】」
アイズが呟くと風が彼女を包み込んだ。モンスターは横の少年を気にも止めずにアイズだけを標的とみなして、その何もない顔から横に亀裂が現れ、巨大な口を開いた。鉄砲水のような勢いで撃ち出される腐食液。そのを難なくアイズは躱す。
ベルは少女とモンスターの戦闘を少し下がったところで観察していた。
「イーリアス断章。解析」
『短文の詠唱による付与魔法と確認』
「
ベルは再び、メイガスモードになった。そして解析した魔法を唱えた。
「【
そしてベルも戦闘に介入することにした。
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ロキ・ファミリアが安全な所まで退避し、アイズの戦闘を見守っていた。
「ベル・クラネルか... 実に興味深いね 」
「先程の魔法といい、デタラメだな」
「私のスキルと似ている...」
ロキ・ファミリアの冒険者達はそれぞれの感想を漏らした。
「それ、私の魔法」
「いいや、僕達の魔法だよ! 」
アイズは顔には出てないが、内心驚きを隠せないでいた。自分と同じファミリアのレフィーヤはエルフの魔法だけを全て覚える事が出来る。目の前の少年も彼女も同じでレアスキル持ちだと思った。
ベルはアイズとモンスターの戦闘に介入し、モンスターの気を引く為にワザと超至近距離で動き回っていた。モンスターは敵が増えた事により、次第に攻撃が雑になっていく。そしてアイズが切り落とせなかった四本の腕を難なく切り落とす。
アイズとベルの視線が交わる。その瞳からベルは彼女が勝負に出るのを察した。彼女の瞳は右脚を見ていた。
「じゃあ僕は左にGO!」
二人の変則的な動きに翻弄され、モンスターの攻撃パターンが雑になり、隙が出来た瞬間に二人は脚に突撃した。
それは一瞬だった。二人同時に巨体を支える左右の多脚を切断した。支える脚を失ったモンスターは地面に倒れる。
大きく膨張した腹部が巨体に押し潰され、ノーフェイスだった顔に再び亀裂が走りモンスターの悲鳴が木霊する。
アイズはダンジョンの壁に張り付き、風を更に纏わせた。ベルも彼女に合わせて風を纏わせ、二人はモンスターを目掛けて突撃する。
アイズは主神に技名を言うと威力が上がる。などと嘘を信じている為、技名を言う。ベルも彼女を真似て技名を叫ぶ。
「リル・ラファーガ」
「ヴォーパル・ストライク!」
風を纏わせ、更に加速した二人の攻撃が見事に命中した。二人がモンスターに致命傷を与えた結果、モンスターは全身を膨張させ、大爆発が起きた。
「アイズっ!」
ベートは想い人の名を呼ぶ。瞳の先には辺り一面が火の海に染まり、大爆発の余波でダンジョンの地面まで抉られており、焦げ臭い匂いが安全な所まで退避していたロキ・ファミリアの所にまで運ばれた。
しかし彼は信じていた。可憐で強いアイズが生きていることを。自分が惚れた女がこんな所でくたばる訳がないと。
「あれはっ! 」
レフィーヤが叫び、指差す。『ロキ・ファミリア』の面々が指された方を見ると、燃え盛る炎が割れた。歓声が上がる。金髪金眼の少女と白髪赤眼の少年がゆっくりと手を繋いでこちらに歩いてくる。
「あの糞野郎! 手を握ってやがる!」
「アイズさんの手が穢された...」
ベートとレフィーヤの悲痛な叫びは、『ロキ・ファミリア』団員達の歓声により揉み消された。
地の文増やして文字数も5000程度になりました。
そして前話を投稿した時にお気に入りが一気に増えたのがびっくりしました。
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