そして世界は華ひらく   作:中嶋リョク

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[11]ミルキ・ゾルディックの場合(4)

 ――あ、家で使ってるシャンプーの匂いだ。

 

 ああ、懐かしい。

 胸の奥にじわりと温かいものが広がった。

 

 五感のうち、嗅覚だけは脳への伝達経路が違うという。他の四感は視床下部を経由して大脳皮質の各領域に到達するけれど、嗅覚は嗅覚神経を通って直接大脳辺縁系――いわゆる原始的な脳へ到達する。

 ここには記憶や感情を司る海馬があって、匂いと記憶は密接に結び付くのだ。ある特定の匂いをかいで、忘れていた記憶や感情を呼び起こされることがあるのはその為だ。

 

 ミルキは手近にある温もりに顔を埋めた。ふわりと鼻腔を擽るのはロータスの香り。凛としているけれど、ほんのりとした甘さと爽やかさがある。

 

 何だか、とても幸せな夢を見てた気がする。胎児のように丸まって、温もりに身を寄せた。

 

 そこで、はた、と気が付く。

 

 どうして私は寝てるんだ。

 

 

 私。

 ジンさんが。

 窓。

 街、海、空。――モロークの街。

 風が。

 ――泣いて。

 泣いて。

 

 

 言語野を言葉の羅列が渦巻いて、私はぱちりと覚醒した。

 

 

「いたっ……」

 

 頭、痛い。うう……、あれだけ泣いたのだ。そりゃ頭痛くらい残るよね。

 ああ、それより。私、あれからどうしたんだっけ。頬にあたるのは少しごわついたシーツの感触。この皮膚感覚は、肌が慣れ始めた国立精神医療センターのベッドだ。

 この状況――うわ、寝てしまったのか。寝ちゃったのか!

 

 激しい羞恥と後悔の念に打ちのめされそうになる。泣き疲れて眠るとか、赤ん坊じゃあるまいし。いや、問題は今そこじゃない。

 この、私が顔を埋めてる人物は? こ、怖くて確認できません。

 

 

「――起きたのか?」

 

 そろりと頭を動かした瞬間だった。頭上から小さく降ってきた声に、ぎくりと身体が硬直する。

 

「そのままでいい。余り動くな。流石にイルミが起きる」

 

「――とう、さま……?」

 

 声のする方向にそっと視線だけ動かす。父シルバがワイシャツ姿でベッド際のソファーに座っていた。

 じゃあ、この温もりは――イルミ兄さま?

 

 なんで、どうして。

 

 状況の余りな変化についていけない。思いが募り過ぎて、脳が見せる幻覚かと疑う。あんなに会いたかった兄さまと父さまが側にいる。現実感がまるでない。

 

「混乱してるな」

 

 父さまの声に苦笑が混じる。

 

「寝てしまったお前をジンから受けとったんだが、今度はイルミがお前を離さなくて参った。――俺が見張りをしてるからと、一緒に横になるよう命じたんだ」

 

 分かるけど、分からない。

 自分に都合のいいように解釈してしまいそうで、私はぎゅっと目を瞑った。

 

「イルミはお前を探してろくに寝てない。……10日近く寝てない計算になるか。精神的に消耗しながらだったから流石に疲れたんだろう。もう少しだけ寝かせてやれ」

 

 瞑っていた目を開いて、出来るだけゆっくりと頭を巡らす。すぐ近くにイルミ兄さまの寝顔があった。小さい頃ならいざ知らず、最近は一緒に眠ることもない。

 こんなに無防備に眠る兄さまが珍しくて唖然とした。10日近く寝てない? 成る程、目の下にはうっすら隈も出来ている。

 

「……探してくれてたの?」

 

 父さまの大きな手がぽん、と私の頭に置かれる。ごつごつとして乾いていて、温かい。

 

「遅くなって悪かった。怖かったろう」

 

 あ、これは不味い。こんな言い方をされると――泣く。じわりと滲んだ涙は直ぐに結実して目頭から流れ出ていく。

 父さまは何も言わない。優しい手つきで短くなった髪をすいてくれている。

 胸が詰まって苦しくなった。

 

 私はこんなに泣き虫じゃなかった筈だ――むしろ物心ついてからは、ほとんど泣かない子どもだった。一度泣いてしまってから涙腺が弛んでしまったんだろうか。

 

「イルミが起きたら、家に帰るか」

 

「……だって、私……父さまの立場を悪くした……」

 

 ゾルディック家に迷惑を掛けた――いや、家名を貶めたと言っていい。私が拐われたのはキルアの3歳の誕生日だ。後継者であるキルアの御披露目も兼ねていた大切な日に、娘である私が拐われたのだ。――しかも、ゾルディック家の使用人に。

 あの日屋敷には大勢の招待客が来ていた。ゾルディック家が衆目の面前で起こした大失態になる。現当主である父の立場は苦しかった筈だ。

 

「……色々見えすぎるのも問題だな」

 

 頭から父の温もりが離れる。父さまは困ったように私を見ていた。

 

「俺はゾルディック家の当主だ。それは捨てられんし捨てる気もない。ゾルディック家に属する身内や使用人への責任もある。家名に対する自負もある。俺はゾルディックを守らなければならん」

 

 私はこくんと頷いた。そう、分かっている。父は、父である前にゾルディック家の当主なのだから。

 

「だが、それはお前がぐちゃぐちゃ考えることじゃない。全部俺の仕事だ」

 

 父はにやりと不敵に笑った。

 

「いっ!」

 

 きゅっ、と私は鼻を摘ままれる。

 それから父さまは、ばし! と結構な強さでイルミ兄さまの頭を(はた)いた。――え?

 

「いつまで寝たふりをしている。さっさと起きろ」

 

「兄さま、いつから起きて――わっ!」

 

 むぎゅ、と兄さまの胸に抱き込まれてぎゅうぎゅうと腕に囲われる。

 

「ミルキが起きた時に目が覚めた。――起きるタイミングが掴めなかったんだよ」

 

 前半が私、後半が父さまに向けた言葉らしい。

 

「くくっ……。なにがタイミングだ。お前が空気を読むタマか」

 

 私も少し笑ってしまう。何だか、こうしていると勘違いしそうだ。何事も無かったんじゃないかと錯覚してしまう。

 

 ――でも、違う。

 指に巻かれた包帯が現実を突きつける。肌を這い回ったあいつの手の感触も、人の首を掻き切った時の虚無感も、生にしがみつく自分の浅ましさも。覚えている。――全部、覚えている。

 ちゃんと話さないと。

 

「私、父さまと兄さまに話さなくちゃいけない事があるの。大事な話」

 

 兄さまの腕の中から半身を起こし、ベッドから降りて正座する。脚が痛んだが、構っていられない。こんな面倒を掛けた上に、更にこんな告白をしなければならないとは。

 

 見上げた先で、父さまの双眸が真っ直ぐに私を射抜いた。さっきまでの優しい眼差しが消え、当主のそれに変わっている。兄さまもベッドから降りると、父さまの後ろに控えた。でも漆黒の瞳に気遣わしげな色が見えている。傍目には無表情に見えるけれど、長年一緒にいた私にはよく分かる。

 ごめんね、兄さま。イルミ兄さまはいつも私を気に掛けてくれる。でも、これからするのは酷い裏切りだ。きっと呆れて、軽蔑されるだろう。

 私はそれでも言わなきゃならない。極度の緊張でからからに乾いた喉から声を絞り出した。

 

「私、この先念を習得したとしても、暗殺のお仕事は出来ません――人を……もう、殺したくないんです」

 

 人を殺して分かった。私には無理だ。続ければ、ほどなくして自分を保てなくなる。きっと気が狂うだろう。

 

「もう、ずっと前から分かっていました。それなのに黙っていました。私は人を殺したくない。ゾルディックの人間としては欠陥品なんです」

 

 私はリノリウム貼りの床に手を付いて頭を下げる。父と兄は、今どんなに落胆しているか。私が言っている事は、暗殺を生業としている二人を否定する言葉だ。こんな失礼な事もない。更に言えば、私は人を殺した報酬で育てて貰ってきた人間だ。どの口が言うのかと呆れていることだろう。

 私が今までしてきた機器の開発も、間接的に殺人を幇助する行為なのに。直接手を汚したくないだなんて、綺麗事で上っ面でしかない。

 

「勝手な事を言ってるのは分かっています。でも、人を殺せないゾルディックは……ゾルディックじゃいられない。私はただのミルキとして生きていきます。ゾルディック家から籍を抜いて下さい」

 

 室内に沈黙が降りる。

 私は頭を下げたまま、父の言葉を待った。言った――言ってしまった。心臓がどきどきと拍動するのを止められない。額に滲んだ汗が伝い下りた時、父さまの溜め息が聞こえた。

 

「駄目だ。――ゾルディック家から籍は抜かない」

 

 死刑宣告にも等しい父の言葉に、さあっと血の気が引く。指先が冷たくなって、私はきつく目を閉じた。

 

「今はな」

 

 続いた言葉に顔を上げる。

 今、何て……?

 

「やっと自分から言ったか。いつ言うだろうと思っていた。よりによってこのタイミングか――まあ、このタイミングしかないか……」

 

「え?」

 

「そんなこと、とっくに知ってる。なあ、イルミ?」

 

「そうだね」

 

 事も無げに言う二人に、私はただ呆然とした。知っていた? いつから?

 なんで、どうして。

 

「ミルキは、頭が良いのに馬鹿だよね」

 

「そこが可愛いんじゃないか」

 

「違うよ。そこも可愛いんだよ」

 

 二人の遣り取りは、完全に私を置いてきぼりにしていた。呆然自失から無理矢理浮上した私は、慌てて二人の会話に割り込む。

 

「わ、私、家業を手伝えないんだよ?」

 

「ミルキ。殺しだけが手伝いじゃない。以前から気になっていたんだが……どうもうちの情報部門は弱い。ミルキにはそこのテコ入れをして貰いたい――お前、執事の仕事だからと口出しするのを我慢していたんじゃないか?」

 

 ぐ、と言葉に詰まる。それは、そうだけれども。

 

「特に情報戦は死活問題だからね。以前、誤情報で死にかけたし。ミルキがサポートしてくれるなら助かるよ」

 

 兄さまも父さまの意見に異論がないらしい。ただし、と父さまは真剣な声で言葉を続けた。

 

「うちの情報部門が軌道に乗れば、お前には独立して貰う。ミルキが懸念している通り、暗殺をゾルディック家の人間が自ら行うのがうちのルールだ。例外的なお前をいつまでも家には置いておけない」

 

 私が頷くと、急速にシルバの顔から険しさが削げ落ちる。

 

「本当はお前を手放したい訳じゃない……俺は、情けない父親だな。――すまない」

 

「あ……」

 

 父が、頭を下げていた。

 

 あの、父さまが。イルミ兄さまも予想外だったのか目を見開いて父を見る。

 私は床に直接座っているのに、身の置き所が無い感覚に襲われた。何て事、ゾルディック家の当主である父に謝らせるなんて。やめて、違う。なんで父さまが謝るの。

 立ち上がろうとしたが身体から力が抜けて、私はリノリウムの床にへたりこむ。俯いた顔が上げられない。

 

「すまない、ミルキ。俺はこんなやり方しか知らん」

 

「違う」と私は首を左右に振る。渇き始めていた頬に新しい涙がボロボロと零れた。

 

「ごめんなさい……っ」

 

 ごめんなさい、ごめんなさい。

 いくら繰り返しても足りない。

 悪いのは私だ。こんな娘でごめんなさい。

 

 こんなに近くにいるのに、家族として愛しいのに。なんて私は二人から遠いんだろう。どうして共に歩めないんだろうか。それなのに、私は与えられてばかりだ。許して貰ってばかり。

 

「――ねぇ」

 

 項垂れた私の周りで空気が動く。ロータスの薫りがして、イルミ兄さまが私の側で跪いているのが分かった。

 

「ミルキはさ、考えすぎ。父さんが今は良いって言ってるんだから甘えときなよ。ボクも父さんもミルキひとりを甘やかす甲斐性くらいあるよ」

 

 イルミ兄さまの言葉に、新しい涙が零れ落ちる。

 

「もう、いい加減顔を上げなよ。脚も痛いでしょ」

 

 私は首を振る。ぐちゃぐちゃに泣いている顔なんて情けなさ過ぎて見せられない。申し訳なくて切なくて前を向けない。

 

「泣いてブサイクだから、いい」

 

「そんなのアイツ――ジンからミルキを受け取った時からそうだよ。目が腫れてたし」

 

「鼻水も出てるから」

 

「出てないって」

 

「出てる」

 

 兄さまは、ぽんぽんと頭を叩く。

 

「もう、ブサイクでも鼻水出ててもいいから顔上げてよ。ミルキはどっちでもそんな変わんないよ」

 

 なんだそれ。

 あんまりな物言いに泣きながら笑った。

 

「ミルキ、帰ろうか。――ボクらの家に一緒に帰ろう」

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 ヒュインヒュインと飛行船の音が遠くで鳴る中、私は一般病棟側のエントランスホールに居た。ここにいるのは、私とイルミ兄さまと、執事が二人だ。ゴトーも来ていたようだが、暫くはエギナさんのサポートでこちらに残るという。

 父さまは携帯電話の鬼のような着信履歴を確認した瞬間、「キキョウに電話をしてくる」とぼやいて、随分前に飛行船の中に消えた。母さまは話が長い。きっと今頃捕まっている。

 

 兄さまは私の傍らで出発準備の打ち合わせ中だ。今回の事件の事後処理もだが、私を探している間に滞ってしまった仕事の調整をしているのが、会話で分かってしまった。

 ここは、然り気無く離れて心おきなくスケジュール調整をして貰おう。

 

「いないなあ……」

 

 呟いて、電動の車椅子を走らせる。気付いた兄さまに、「あまり遠くに行くな。船に入れ」と注意されたが、「ごめん、ちょっと」と返す。

 

 エントランスホールは平日のためか人でごったがえしていた。入退院の手続きや、支払いを待つ人々が待合席に溢れている。併設されたカフェは殆ど満席状態で、ザワザワとした喧騒に珈琲の香りと微かな音楽を提供していた。時々ストレッチャーがミルキの前を横切り、医師や病院スタッフも忙しない。

 全フロア吹き抜けの1階で、ミルキはぐるりを見渡した。

 

 ジンさんが見当たらない。

 多忙な人だから、私を兄さまに託した時点で居なくなってしまったのだろうか。パドキア共和国には、そもそも別件の遺跡調査が目的で入国したのだと言っていた。一言、お礼が言いたかったのだけれど。

 

「――ルキ、ミルキ!」

 

 頭上からの声に、吹き抜けを見上げる。

 

 ――あ。

 

「ジンさん!」

 

 2階の手摺に両腕を預けて、ジンさんが立っていた。私はぺこりと頭を下げる。ジンさんはにっと笑うと、何か思い出したかのように懐を探り出した。

 

「ミルキ、これやるわ」

 

 懐から取り出したものを、ジンさんは無造作に投げて寄越した。距離を感じさせない正確さでミルキの元に飛んできたそれを、ぱしんと受けとる。

 四角い小さな紙だ。――名刺?

 紙面には、手書きと思われる神字がびっしりだ。

 

 上を見上げると、ジンさんは「裏を読め」とジェスチャーする。くるりとひっくり返してミルキは固まった。

 

「!? これって……!」

 

 そこには、ダブルハンターであるジン・フリークスのホームコードが載っていた。この連絡先ひとつで、何十億、何百億Jの価値があるか分からない。

 

「覚えたかー?」

 

 動揺するミルキに構わずジンは暢気なものだ。

 

「お、覚えましたけど、これ――きゃっ!」

 

 ミルキの手の中で一瞬にして名刺が燃えて無くなる。片面は神字で埋まっていた。多分、そういう仕様なんだろう。キーワードを言うと、あるいはジンさんの手から離れて何秒後かに隠滅される仕掛け、とかだろうか。

 

 原作でゴンに残した肉声のテープといい、ジンさんの身近に証拠隠滅に長けた念能力者か、神字に精通した人間がいるのかもしれない。あるいはジンさん自身がその能力者の可能性もある。

 

「お前が本当に困った時、連絡しろ。一度だけ助けてやる」

 

 ジンさんは少し考える素振りをしてから、「一回しか連絡するな、って意味じゃねーぞ」と訂正した。

 

「まあ、愚痴や近況報告くらいだったら随時受け付けるぜ?」

 

 私は笑って、もう一度頭を下げた。

 

「ジンさん! ありがとうございました。私、家に帰ります!」

 

 ジンさんは片手を上げる。ちゃんとお礼もお別れも言えた。良かった。

 

「――ミルキ! 出発だ!」

 

 遠くでイルミ兄さまの声がする。車椅子を反転させて兄さまの元に向かおうとした時、背筋にぞわりと悪寒が走った。

 

 私の左手側……放射線受付の横、特別病棟へ続く通路の奥からエギナさんが歩いて来た。

 

「あ……」

 

 般若の顔で銃口を向けている。

 銃口は真っ直ぐ私に向いていた。

 窪んだ目は涙と、明確な殺意でギラつく。

 

 それで、全て理解した。この人は知ってしまったのだ。私が彼女の娘を殺したことを。

 

 周囲が銃に気付いて悲鳴を上げる。

 

 私とエギナさんの間で人々が分かれ、通路が開かれた。

 

 私はただ硬直していた。全てがスローモーションに見える中で、エギナさんの憎しみに濡れた瞳に身体が縫い留められてしまっていた。

 

 引き金が、引かれる。

 

 

「よせ! エギナ!!」

「ミルキ!」

 

 ジンさんと兄さまの声は同時だった。

 

 パン、と乾いた音がして頬に熱が走る。

 

 ――外れた?

 

 エギナさんの手首には、白くて角張った物が刺さって――あれは……ジンさんの名刺?

 

 反動を殺し切れなかった銃が、手から弾かれ地面に落ちた。

 

 後方から膨れ上がった殺気に、私は我に還る。車椅子から立ち上がってエギナさんの前に踊り出た。

 

 駄目、兄さま。殺さないで!

 

「イルミ! 止めろ!!」

 

 目の前で、エギナさんの頭部と喉に鋲が刺さる。

 手首を引かれてバランスを崩した私の肩に、信じられない程の衝撃が走った。肩を中心に上半身が弾けたのかと思う。

 

 

 熱い、熱い!

 肩が。

 身体が燃えてるみたいだ。

 

 

 抱き込まれた耳元で、ジンさんの声がする。

 「息をしろ」とか「オーラを留めろ」という声が、水の中で聞いてるみたいに遠かった。

 

 体の中から急速に何かが抜け落ちて、代わりに鉛を詰め込まれるみたいに重くなる。熱いのに、指先は氷みたいに冷たくて重い。動かせない。二重三重にぶれる視界の中で、兄さまを見た気がする。ごめんね、と口を動かしたつもりだったけど、声に出来ただろうか。

 

 私の意識は急激に沈み込み――そしてぷつんと途切れた。




ロータスは、蓮のことです。

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