プルルルルル……プルルルルルルルル
携帯がなり響く。きっとまたあいつだ。
ピッ
「アァ!?んだよ昨日から!オレはやらねぇ!てかできねぇっつってんだろーが!」
「頼むよぉ新悟。なんつったってこちとらジョゼップにもマヌエルにもロベルトにも断られちまってんだからよぉ。このままじゃオレのアーセナルのGMとしての権限が失われかねないんだよ!」
「だからって未経験のオレなんて取締役が許さねぇだろ!あのテオ・アンダートンの後任だぞ?」
テオ・アンダートンってのは、かの有名なアーセン・ベンゲルの後任でこれまた24年間アーセナルの監督を勤めている。今シーズン限りでの退任を明言している。
まぁつまりその後任っていうのは大役どころの話ではない。
こいつはその後任が見つからずもうすぐシーズンも終わるためなんとしてでもそれを監督経験皆無のオレにやってもらおうとしているのだ。
「いやいや助監督やってたじゃんお前。」
「助監督と監督は違うだろ!オレがやったのはたったの3ヵ月。それもJ2のクラブだぞ?環境がちがうの!」
「…………………」
「おい。聞いてんのか?」
「……」
「オイ!」
「ん?わりぃわりぃ。今会長と話してたんだけど会長がお前にするって!」
「ハァ?」
「いや会長が『アーセンもJリーグからきた無名監督だったが今では名監督だ。よし、そいつに今すぐロンドンに飛ぶようにいってくれ。』だってさ。」
「……まさかビッグクラブがそんな適当に監督決めてんなんてはじめて知ったよ。」
「じゃあ明日朝一の飛行機でロンドンに飛んできてくれ。もちろん交通費はこっちが負担するさ。取り合えず幹部と会談してそれが終わり次第ビザの発行に向かう。ライセンスはこっちでなんとかしておくわ。じゃっ!監督さん♪」
「明日!?無理無理!バイトあるし!そうだ!バイトどうすんだよ?親には何て言えば?てかオレまだ25だぞ?」
「…………ガチャ。」
「……世の中腐ってんな。」
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取り合えずオレはこのスクランブルを母さんに報告することにした。
……プルルル ピッ
「どうしたの新悟?」
「ああ。母さん?明日早いから手短にすますけどロンドンでも頑張るから応援よろしくな!(シャキーン)」
「今の会話から何一つ収穫がないわ。」
え?オレの伝え方悪かった?
「…(ツー)」
「ええ!?アーセナルに就任する?何バカなこと言ってるのアンタ!ゲームならほどほどにね。」
「いやそれがサカつくでもウイイレでもないんだよ。ガチのほうだ。」
「だってバイトはどうするの?お金は?今住んでるアパートは?向こうでの生活は?それになによりなんであなたが?」
「取り合えず向こうでの衣食住は当面啓多がもってくれる。バイトとアパートはそれぞれ今から契約を破棄してくる。」
「ちょっと状況が飲み込めないけど本当ならそれは親として認められないわ。不確定要素が多すぎる。監督なんて。世界中から注目を浴びることになるわ。プレッシャーも入社試験とは比べ物にもならない。それにあなたはまだ25よ?知識もないのに無理に決まっているわ!」
「……わかった。じゃあちょっと一回啓多と直接話をしてくれ。」
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「あっおばさん久しぶりです。話はききましたか?」
「啓ちゃん。新悟に監督なんて無理を言わないで。まだなにも準備できてないわ。」
「おばさん。無茶をいってすみません。しかし今日本は深刻な就職難。一生懸命勉強して一流大学に入ったって就職できない人だって山ほどいるわけです。新悟だってもう大学を出てから2年です。このままでは就職難の波に飲まれてしまいますよ。おばさんだって新悟の職が見つからないことを気にしているんでしょう?」
「だからって監督なんて急すぎるし不安定すぎるわ。」
「おばさん。ここはアーセナルのため。そして新悟の未来のためにも。ご決断して頂けないでしょうか?」
「だめ!許可できないわ!」
……
そしてこの口論は三時間続き時計は午後7時を指していた。
「お願いします!僕が責任を持ちますから!」
「じゃあ新悟に何かあったら啓ちゃんがしっかり責任をとってちょうだいね。」
「はい!勿論です!」
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「おい!新悟か?」
「おお。母さんはなんて?」
「いいってよ。じゃあ荷物まとめて明日こっちこい!」
「あいよ。……じゃあこれからよろしくな!」
「こちらこそよろしくな!メチャクチャなこと頼んじまって悪かったな。」
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翌朝
「じゃあ、いってくる!」
「向こうで足りないものがあったら電話してね。すぐ送るわ。」
「ああ。ありがとう。」
「嫌になったらすぐ戻ってきなさいよ?」
「大丈夫。なんとかしてくるよ。」
そうして飛行機に乗り込んだ。
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機内にて
取り合えずアーセナルの試合をタブレットで見るか。
…っとその前にニュースを。
【アーセナル。アンダートンの後任は現インテル監督のロベルト・ピスタ?】
【地元紙がアーセナルが前バルサ監督、ヨエル・マテフに接触と報道。】
【次期アーセナル監督はクラブOBのロビン・ファン・ペルシー氏に決定か!?】
ったく。どこもいい加減な記事を載せてるな。
こういう立場になると改めて記事がでたらめだということにきづく。
適当に騒いだ挙げ句オレの就任を非難するんだろうけど…
まぁ急に未経験者が監督になるとなるとファンも選手も不安だろう。…オレが一番不安だけどね。
選手はしっかりついてきてくれるだろうか?いや。絶対不信感を露にするだろう。主力の退団が相次ぐかもしれないな。
ゲームはリセットできるしセーブもできるけどこの挑戦はリセットもセーブもできない。
だけどなんだかゲームの世界に入った感じだ。
それもそうか、昨日までただの一般人だったのが今はアーセナルの監督だもんな。正直脳が処理落ちしかけている。オファーを受けたのも8割が勢いだw。
不安を頭にめぐらせてアーセナルの試合を見ていく。
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15時間後
「ふーーー。やっとついたーー!」
入国審査を終えてロビーにでる。
一応一流大学出てるし語学留学として学校負担の交換留学にも何回かいっているから英語はバッチリ。審査もスムーズに通った。
「おーい。新悟!」
「おお。啓多!久し振りだな。」
「長旅ごくろうさん。今回はマジで助かった。」
「正直まだ事態の把握ができていないな。頭だけ取り残されてるぜ。」
「そうだろうな。まぁまだ幹部の人しかこの話は知らないから批判はでてない安心しろ。まぁそうはいえどもすぐここから出よう。」
「なんでだよ?」
「マスコミが空港には潜んでる。アーセナルのGMがこの時期に誰かと空港で喋っているっていったら怪しいだろ?」
「それもそうか。で、どこいくの?」
「そうそう。幹部と会談しに貸しきってあるレストランにいくぞ。」
日本の5時の飛行機で15時間かけて来たから今は日本時間で20時。で、ここはイギリスのロンドンだから時差は9時間。よって11時。今日は2044年5月8日(日)だからサマータイムで+1時間。ゆえに12時。ランチってことだろうか。
「いいね。ちょうどお腹が空いていてたんだよな。」
そうして啓多の車に乗り込み店に移動していった。
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「おいそろそろか?腹がへってしょーがねぇよ。I'm hungry.」
「まぁまてって。もうすぐ…あっ見えた見えた。」
そして駐車する。
「ここかぁ。いい臭いがしてきたな。」
「まて。裏からはいるぞ。」
「そこまですんのか?貸しきってあんじゃねえの?」
「普通はしないがお前は特別だからな。」
いかにも高級そうなレストランだ。日本にいた時にはとてもこられなさそう。
奥に進むと偉そうな方々か座っていた。
メチャクチャオーラあんなこの人たち。この時点ですでに入社面接より緊張するぜ。
びっしょり汗をかいていると、四角いテーブルの正面に座っていた一番オーラを放っているおじさんがこちらに歩いてきて手をさしのべてきた。
「こんにちは。はじめまして。わたしが有限会社アーセナル会長である。ジェンクス・ポンドといいます。」
自己紹介か、ここはしっかり英語で。
「初めまして。私は王俚 新悟と申します。お会いできて光栄です。」
すると、ポンドさんが幹部の説明をしだした。
「そちらが取締役会のブライジスト・キット、その隣が同じくケビン・アラフォード、その隣が同じくエジノン・ランバース。」
僕の隣に座っていた人を指してそう言った。
「初めまして。王俚 新悟です。」
「そしてこちら側に座っているのが手前から最高責任者のマイケル・ボブリング総務部長のエドウィン・ウッド」
キットさんじゃないほうの隣を指して説明してくれた。
「初めまして。よろしくお願いします。」
そしてさらに続く。
「続いてその隣が有限会社アーセナルフットボールクラブ会長アーロン・クリス。同取締役会のマイケル・ジェイソン、ボブ・ファスト。現監督のテオ・アンダートン。」
この人がテオ・アンダートンか。
昨日までは雲の上の人だったのにこうして同じ席に座っているのがまるで夢のようだ。
「君が次期監督のシンゴかい?」
アンダートンさんが話す。
「はい。次期アーセナル監督の王俚 新悟です。」
「君はアーセンと同じ日本のナゴヤで監督をやっていたのかい?」
「いえ。やっていませんでしたが。」
「おや?ケイタ。話が違うぞ?」
幹部の方々がざわつく。
「(てめぇいってなかったのかよ!)」
「(しょーがねぇだろ?会長の名誉のためだ。)」
「みなさんお静かに。」
ポンドさんが黙らせる。
「いくら若くて監督経験がなかったとしても我がGMのケイタがつれてきた監督です。実力は確かでしょう。」
ポンドさんが思いっきり啓多を睨み付ける。
「は、はい。勿論彼はアーセナルをより一層上のレベルに引き上げてくれるでしょう。」
「ならいいのだが、いつも君は仕事を先延ばしにして期限ギリギリで結局一番簡単な方法をとるからね。危なっかしくてならないよ。」
啓多のクラブからの信頼は低そうだw
「では今日はクラブの掟や歴史や勝手を学んでいってほしい。これからの仕事のためにも有意義な時間にしよう。」
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「ぐへぇ。疲れたぁ。」
あのあとものすごい長々と話されて時差ぼけの上緊張で疲れきったオレは寝落ち寸前であの場を乗りきった。
その後ビザの確認。
人生でもっとも疲れた日だ。
「よし、じゃあ取り合えずオレの家いくぞ。」
クラブが家の準備をしてくれるまでは啓多の家にすむことになっている。
「あぁ。もうくたくただよ。とばしてくれ。」
「…てかお前すげぇな。」
「ん?何が?」
「だって昨日まで普通の人だっただろ?」
「そうだな。24時間前は明日のバイトの準備してゲームしてたもんな。さっきは正直緊張してたけど思ったより落ち着けたな。」
「普通の人間だったらビビって口も開けないぞ。」
「ハハ。大一番にはつえーんだよ。昔から。」
「人生本当になにがあるかわかんねーな。」
「ZZZ…」
「んだよ。寝ちまったのか。…まぁ仕方ねぇか。取り合えず明日は契約書にサインしてもらわなきゃな。」
こうしてオレはロンドンでの1日目を終えた。
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