アドルの一行は黄巾賊討伐のため朱儁がこれから向かうという穎川郡へと足を進めていた。しかし、彼らはただ黄巾賊討伐を行うのではなく、その道中で臣下…仲間となる人材を見つけなくてはならなかった。そんな中、冥琳は一人の男の名をアドルに告げた。
「司馬仲達?」
「はい。名門司馬家の生まれで秀才揃いの八兄弟の中でも特に優れた人物のようです。彼を仲間に出来れば大きな力になってくれるはずです。」
司馬懿、字を仲達といい河内郡温県孝敬里出身の司馬防の次男である。秀才揃いの八兄弟はそれぞれ字に“達”という文字が入っており司馬の八達と賛美されていた。
「しかし…そのような男を諸侯が放っておくものだろうか?」
「アドル様の仰る通りで、彼は今まで多くの諸侯から出仕を求められているのです。ですが司馬仲達は気難しい性格としても知られていて、その全てを断り汝南郡の邸宅に引きこもっているとか。」
「(私ならばその司馬仲達を出仕させることが出来ると…貴方は信じているのかな。) では汝南郡に寄ってから穎川郡に向かうとしよう。」
「御意。」
それから数刻が経過した。アドルはふと前方にフォースの乱れを感じた。誰かが襲われているのだ。アドルはその方角へ斥候を放ち、改めて状況を確認した。
小さい村が100人近い賊に囲まれているとのことであった。今は二人の武人が何とか抑えているものの、人質を取られ思うように動けずに苦戦しているようだった。いずれは村が蹂躙されてしまうことは言うまでもない…
「やはりこの漢は乱れている…村が賊の攻撃にあっているとは…。」
「アドル様…。」
「冥琳、私は村の救出に向かうべきだと考えている。貴方の意見も聞かせてくれないか?」
「私も同じ意見です。世の平和と安寧のためという大義の下我らは戦うことを決意しました。その大義のために黄巾賊との戦では功を挙げる必要があり、そのために兵や物資は節約するべきです。…ですが、目に見える民を見捨ててはその大義を為すことは出来ないでしょう。」
アドルと冥琳は言葉を交わすことでその意思をお互いに確認した。そして部下に指示を出し、賊を倒すための準備を整え始めた。
……
…
~とある村~
元々この村は200人程の集落で豊かではないものの、平和に日々の生活を営み過ごしていた。しかし、現在はその面影はなく賊に包囲され村人は怯え子供たちは泣き叫んでいた。一時は偶々村を訪れていた二人の武人が賊に立ち向かい、賊側が押されていた。だが賊たちは状況を知らずに村の外から帰ってきた幼い娘を人質にとると一気に強くでた。
「おい、コラ!この人質が見えねぇのか!?お前らがこれ以上無駄な抵抗をするならばコイツがどうなるか…わかってるよな?」
賊の頭とおぼしき男は汚い顔にニヤニヤした笑みを浮かべながら二人の武人を脅した。人質だけでなく、後ろの村人も守りながら賊と戦うことはいかにこの武人と言えど厳しかった。
「人質を取るとは…何て卑怯な!あのような賊、私が一太刀で首を落としてくれる!!」
「愛紗、落ち着け!人質を取られては我らも簡単には動けない。短絡的な行動は慎まなくては…。」
黒く長い髪を横に束ね薙刀を携えた女性は憤り、隣の後ろに蒼い髪を束ね露出の多い服装で槍を持つ女性がそれを宥めていた。二人とも美しい女性であり、その彼女らがこの村を守っていた武人であった。賊に襲われた村を助け賊を討つ行動を取るような正義感の強い二人は村の男衆に指示を出しながら自身も戦い終始賊を圧倒していた。だが、人質を取られその状況は一変してしまった。
「早く武器を捨てて両手を上に上げな!それから…そうだな服でも脱いで貰うか。ヒヒヒヒ…お前ら二人とも良く見ると俺好みのツラじゃねぇか!そうするか、おい早くしろよ、何だったらこの場でこっちのガキをぶっ殺してやってもいいんだぜ…?」
「「!!!!」」
「ヒュー!頭、そいつは名案ですぜ!俺たちは一生アンタに付いてくぜ~」
賊たちは頭の提案に歓声を上げ、二人の女性に下品で汚い言葉を浴びせ騒ぎ立てた。女性たちの綺麗な額には青筋が立ち、武器を持つ手は悔しさと憤りからかプルプルと震えていた。人質の幼い娘は助けたい、しかし薄汚い賊の言うことを聞くわけにもいかない。そもそも言うこと聞いても幼い娘を賊が解放してくれる保障もなかった。と言っても二人には名案は浮かばなかった。せめて誰かが賊の注意を逸らしてくれれば…。
「オイオイ!まだかよ!そっちがその気なら…おい、そのガキの顔に傷でも付けてやれ。」
「へい、喜んで!…ガキンチョ、恨むならあの女どもを恨むんだな。我が身可愛さでお前を助けないんだからな…ギャハハハハ!!」
人質の幼い娘は目尻に涙を一杯にして泣き、村長はその姿をみて憔悴していた。もう時間はない…二人の女性はイチかバチかで賊に攻撃を仕掛けようと心に決め、全身に気を巡らせ戦闘準備に入ったその時…!
「な、何だ!?首が絞まって…く、苦しい!息が出来ない…誰かたすk…。」
人質の幼い娘を傷つけるために羽交締めにしていた賊の一人が急に苦しみ出したと思ったら…地に倒れ伏せた。見る限り既に事切れていることは明らかであった。この事態に賊たちは浮き足立ち、二人の女性も戸惑った。一体何が起きたのか…。更に続けて…
「今だ!全軍かかれ!!人質の娘は私が救出する!村を守っていた御二方は賊の討伐をお願い致す!」
若い男の合図と同時に300人程の軍勢が現れ、賊を追い立て始めた。そして男は人質となっていた幼い娘の側に駆け寄り背に抱えようとした。
「な、なんなんだよ、お前ら!!もう少しだったってぇのによ…!!そこの指揮官っぽい男!お前は許さねぇ!!死ねぇや、糞が!!」
男の呼び掛けに我に返った二人の女性が見たのは幼い娘に気を取られ、背中ががら空きになっている男に襲いかかる賊の頭の姿だった。しかし、この距離では援護は間に合わない!しかし、次に見た光景は後ろを見ながら青い光で賊の首を切り飛ばす男の姿であった。信じられないような手並みであった。
「貴様らの頭は私が切った。投降しろ、一度しか言わん。これ以上抵抗するならば…貴様ら全てがこうなるぞ…。」
短い言葉であった。だがその言葉には計り知れない重みがあった。賊だけでなく、二人の女性もその男の胆に圧倒された。賊たちが武器を投げ出し投降したことは自明の理であった。
……
…
アドルと冥琳は軍の被害確認と賊の連行、村の改修作業の手伝いをしていた。相手が賊とはいえアドルの軍もまだまだ精度は高くないため多少の被害が出ていた。賊は県令に処罰を委ねた。賊などは全員打首にするべきだという意見が村や軍からも出たが、アドルは村から大きな人的被害が出なかったことを理由に挙げ、人の命を例え賊とは言え無碍にすることには否定的である旨を皆に伝えたところほぼ全員が納得した。決して連行される前に散々アドルが行った説教や威圧をみて賊に同情したからではない…。
人質となっていた幼い娘は命の危機に遭ったことでかなり疲労していたが怪我はなかった。彼女は母親と村を訪れていたが、武人である母親が急に上官に呼ばれたため娘を村に預けて上官の下に向かったようだ。村長が使いを出したので直ぐに飛んで帰ってくるとのことだ。
そしてその夜、ささやかながら宴が開かれた。村を代表して村長からは何度も感謝の言葉をかけられ、料理や酒が用意された。それらは皆で公平に分配し、冥琳の音頭で乾杯した。そうしたこともあり、小さな戦いではあったがみんなが充実した顔をしていた。村人との話に花が咲き盛り上がっているグループもあった。
~アドル サイド~
夜が更けてから私は冥琳の酔いを覚ますために外へ出た。冥琳はかなりの酒好きで皆の中でも特に沢山飲んだが…酒癖が悪かった。誰構わずに絡んでいたため気を利かせて外へ連れ出したのだ。冥琳の意外な一面が知れたな…と思うと少し嬉しくなった。当の冥琳は既に夢の世界へ旅立っていた…
「ここにいましたか、アドル殿。」
村を守っていた二人の武人が揃って私の前に現れた。二人はそれ程酔っているようには見えなかった。蒼い髪の女性は何故かメンマの壺を大事に抱えていたが。
「今日は御二方ともお疲れ様でした。貴方がたが村を守っていなかったら、村は間違いなく賊の手に落ちていたでしょう。」
「それはこちらの台詞だ。貴殿が助太刀してくださらなかったらどうなっていたか…。私は姓を関、名を羽、字を雲長という。旅をしながら長き戦乱に苦しむ民草のため、賊の討伐などを行なっている。」
「私からもお礼を言わせてくだされ…本当に助かりました。私は姓を趙、名を雲、字を子竜と申す。士官先を見出すべく諸国を巡っている。」
「関羽殿、趙雲殿か。私は名をアドル、姓をカナリスと言います。字はありませんし、名前の音もかなり独特ですが。」
私は二人と互いに自己紹介を済ませ、互いに今回の戦いの労を労った。関羽殿と趙雲殿の二人は共に旅をしている訳ではなく、この村で偶々会って意気投合した結果真名も交換したとのことだった。二人は自分たちのことを話すよりも私に大きな関心を寄せているようだった。
「始めに倒れた賊は貴殿がやったことなのではないか、アドル殿?」
「ふむ…何故そのように考えたのかを聞かせて頂けますか?」
「アドル殿があの軍の中で一番武術に秀でると思ったからと…勘です。」
趙雲殿が言うにはこの地の女性の武人の多くは“気”というものを扱っているとのことで、それに似た何かを感じたようだ。関羽殿も同じことを思っていたようだった。冥琳から多少気については聞いていたものの改めて気とこの地で戦う女性について確認した。さて…フォースのことをどういったものか…
「確かにアレは私がやりました。ただ気とはまた別のモノを使ったのですけどね。」
私は明言を避けつつそう答えた。冥琳に言われたこともあるが、私自身異質な自分のことを誰構わず言い触らすべきではないと考えたからだ。趙雲殿と関羽殿もなんとなく私が言いたがらないことを察知してそれ以上その件には触れなかった。気遣いの出来る女性たちだ。少し隠し事をしている気がして心が痛いな…。
「そういえば…アドル殿は何のために軍を率いているのです?私の見た限り…貴殿らは官軍ではなく義勇軍のように思えるが…」
と関羽殿に尋ねられた。趙雲殿も私の返答をかなり聴きたそうにしている。フォースのことではなく、私と冥琳のいや私たち義勇軍の志は言っても構わないだろう。
「私は世の平和と安寧のため義勇軍として立ち上がりました。」
二人に漢打倒についてのみ濁した表現をし、冥琳に語ったことと同じことを話して聴かせた。二人はじっと聴き、何やら難しい顔している。全軍1000人の小規模な義勇軍がこんな大事を成し遂げられる訳はないと考えているのかもしれないな…。すると関羽殿は何かを決心した顔で私に告げた。
「アドル殿!貴殿の武術の腕前と器量、何よりその志に感銘を受けました!私をアドル殿の臣下にしてくださいませんか?後悔はさせません!私の真名は愛紗です。」
「むっ!愛紗、それは私が先に言おうとしたことだぞ。…アドル殿、是非私も貴殿の臣下にお加えくだされ!貴殿の志にこの趙子竜、感銘を受けました。私の真名は星です。」
…まさか私に士官したいと告げるとは。それもこのような美しく強く義を重んじる武人が二人も同時に…。今すぐ了承したいところだが、少なくとも冥琳には相談しなくてはな…。
「非常に嬉しい申し入れです。…ですが暫し時間を頂いても宜しいですか?私の臣下…仲間に相談しなくてはいけませんし、御二方ももう少しじっくり考える時間があったほうがいいのではないですか?」
「それは構いません。ですが、私の意思は変わりません。」
「私としても異存はありませぬ。…臣下ではなく、仲間と仰いましたか…フフ、ますます貴殿に興味が湧きましたよ。」
この会談はここで幕引きとして今日はもう睡眠を取ることになった。冥琳はしっかり寝床に運んだ…寝ぼけて中々私から離れてくれず心拍数がかなり早くなったことは誠不覚であった…。
~アドル サイド終了~
◆
「私が居ない間にそのようなことになっていたのですね…。私の記憶は宴会会場からサッパリ無くなっているので驚きました。ですが…私と相談するまで返事を保留してくださるなんて少し嬉しいです。」
「仲間と相談せずに勝手に物事を決めることは独裁になりかねない。それに私一人でいつも考え、実行していたら皆が考えることを放棄してしまうと思ってね。」
アドルは当然のように語ったが冥琳は感動していた。そしてこの人を主として仰いだ自分の判断は間違っていなかったと再確認した。
「では副官クラスの者を集め、会議を開きましょう。この際ですから人材集めについて皆と意思の共有も一緒に。きっとこれからはもっと多くの人材がアドル様の下に集まりますから、早めにルールを作ってしまいましょう。」
こうして関羽と趙雲の加入についての議論が行われた…結果的に即全会一致となったが。今回の件はアドルの軍の一人一人が日々考えながら行動するという風土の下地をつくることとなった。アドル一人に任せないで主体的に動き考える人材が育成されていくことになる。軍事作戦中はひたすら上官の命令を聞かなくてはいけないが、平時や軍議ではこうした風土が活かされ他の軍以上の進化を果たすこととなるがそれはまだ少し先の話である。
……
…
「趙子竜と申す。これから宜しく頼む。主のため、アドル軍の大義のためこの槍を振るわん。」
「関雲長だ。先の戦いでは世話になった。これからは貴殿らの同僚として戦わせて頂く。」
二人は歓声とともに迎えられた。アドルの下に軍師として冥琳、武将として愛紗と星が加わったことでアドル軍は更に厚みを増した。そしてさらに翌日村人に見送られながら村を出立した。こうして新たな仲間を加えアドル義勇軍は司馬仲達に会うべく汝南郡へと軍を進めた。
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<人物紹介>
関羽 雲長 真名は愛紗 (真・恋姫†無双より)
司州河東郡解県出身の文武に秀でた義に篤い勇敢な女性。重さ82斤の青龍偃月刀を振るう自身の武力だけでなく、指揮能力にも長けている。美しい黒髪をなびかせている姿から美髪公の二つ名で呼ばれることもある。規律に厳格である反面やや融通が利かず、また戦いになると周りが見えなくなってしまうことも。星は気の合う友人。
基本的には真・恋姫†無双で描写されているキャラと変わらない。
趙雲 子竜 真名は星 (真・恋姫†無双より)
冀州常山郡真定県出身の常山の龍とも評される勇将。槍を取らせれば敵なしとも言われ、龍牙の前に多くの敵を倒れた。冷静で義に篤く正義感に溢れた人物だがそれは真剣な場面においてのこと。普段は軽いノリでお茶目な女性である。皮肉屋な一面もあり、他の武将と折り合いが悪くなることもある。
基本的には真・恋姫†無双で描写されているキャラと変わらない。三國志演義等で一時的に仕えた公孫瓚とはあくまで友人関係。