京勇樹の予告短編集   作:京勇樹

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はい、最新版予告編です!


バカと千恋万花☆

「やっと、着いたぁ」

 

と言ったのは、タクシーから大きなキャリーバッグを下ろした少年

吉井明久である

 

「相変わらず、来るのに時間が掛かるなぁ……」

 

彼が来たのは、小京都とも呼ばれる街

穂織(ほおり)である

ここに来るには、一番近い駅からバスで二時間

更に、タクシーで30分は掛かるからだ

だから、朝に出たというのに、もうすぐ昼だった

 

「さてと、神社に行ってみよう」

 

明久はそう言うと、建実神社に向かった

この穂織は、山に囲まれた地形になっている

だからか、かつての大戦時も戦火を免れた

ゆえに、古い家屋がその姿が残している

だから穂織は、小京都と呼ばれているのだ

だからと言って古いだけでなく、最新技術もある

しかしどういうわけか、電車だけは通っていない

そんな穂織だが、観光地として名が知られていた

温泉地として有名で、明久が穂織に来たのもそれが理由だった

明久の母の父親

つまり、祖父が穂織で老舗旅館を営んでいるのだが、その祖父から手伝いを頼まれたのだ

自慢ではないが、明久は家事全般が得意で、特に料理が得意だ

そんな明久の腕を見込んで、祖父が明久に休み期間だけでいいから手伝ってほしいと連絡してきたのだ

それを明久は快諾し、穂織に来たのだ

 

「まあ、いい思い出になるか……」

 

明久はそう言いながら、目的地に向かった

そして、十数分後

 

「おぉ……凄い人だかり……やっぱり、GWだからか」

 

建実神社には、外国人も含めて凄まじい人数の観光客が居た

その時だった

 

「あれ……もしかして、あき坊?」

 

と女性に声を掛けられた

振り向いた先に居たのは、20歳位の女性だった

左目の下に泣き黒子がある女性だった

 

「もしかして、芦花(ろか)姉?」

 

「あは、やっぱりあき坊だ!」

 

再会したのは、馬庭芦花

昔母親に付いてきた時に、よく遊んでくれた女性だ

 

「久しぶりだね、何年ぶり?」

 

「確か、四年ぶりだよ。何時もは母さんが志那都(しなつ)荘の手伝いなんだけど、今年は母さんが先に予定組んでたから、僕が代わりにね」

 

芦花の問い掛けに、明久はそう答えた

すると、芦花は

 

「ああ、なるほどね……玲さんは元気?」

 

と明久に問い掛けた

 

「元気過ぎて、嫌になるよ」

 

明久が呆れた表情でそう言うと、芦花は苦笑いを浮かべて

 

「その様子じゃあ、相変わらずか」

 

と言った

そして、明久は

 

「にしてもさ、いくらGWとは言え観光客が多いね?」

 

と強引に話題を変えた

すると、芦花もそれに乗って

 

「ああ、今日は春祭りだからね」

 

と言った

すると、明久は手を叩きながら

 

「そっか、春祭りか……何年ぶりだろう」

 

と呟いた

春祭り

それは、今から数百年前

戦乱の世に起源があった

当時、人を惑わす妖怪が穂織の隣国の大名達をたぶらかして、攻めさせたのだ

度重なる侵攻に絶望しかけた当時の当主は、当時の建実神社の巫女

通称、巫女姫に頼った

そして、巫女姫が舞を踊ると神が一振りの刀を授けた

その刀の名前は、叢雨丸

その刀で妖怪を切ったら、攻めてきた隣国はあっという間に壊走

穂織の地は守られた

それが起源に始まったのが、春祭りだ

 

「それにしては、外国人が増えたね」

 

「ネットのクチコミを見たんだって」

 

明久の言葉に、芦花はそう答えた

そして、明久は

 

「回りの人達は、相変わらず?」

 

と問い掛けた

すると芦花は、苦笑いで首を振った

何故、電車やバスが来ていないのか

それは、穂織に入れば呪われると言われているからだ

事実、明久が乗ったタクシーの運転手も

 

『イヌガミ憑きの土地に観光だなんて、不心得者が増えたな……まったく』

 

と漏らしていた

過去に切ったのが、犬神憑きの美女だったらしい

その妖怪を切ったために、穂織は呪われたと考えられて、中々交通の便の交渉が上手く行かないらしい

それは、芦花の服装にも出ていた

和服と洋服の文化が混じった、独特の意匠だった

つまり、民族衣装になる

人が中々寄り付かない穂織は、多少独自の文化が出来たのだった

今となっては、その文化を利用して外国人観光客を呼び寄せてるのだが

 

「それで、芦花姉は何してるの?」

 

「ん? 実家の手伝いだよ。経営のね」

 

明久の問い掛けに、芦花はそう答えた

芦花の実家は、甘味処を経営している

どうやら、外国人観光客が増えたのを気に両親がその対応策を芦花に丸投げしたらしい

 

「母さんは体弱いし、父さんは昔堅気気質だからね。私がするしかないのさ」

 

「あぁ……」

 

芦花の両親を思い出し、明久は納得した

実質、男手一つで育てた芦花の父親は菓子職人だ

しかし、その職人気質が災いし、中々外国の文化や外国人の対応が上手く行かなかった

そこで、成績優秀だった芦花に父親は対応を丸投げ

その結果、店の評判が上がったそうな

 

「お父さん……もう少し、頭を柔らかくしてほしいよ」

 

芦花が愚痴っぽく言うと、明久は

 

「まあまあ、お菓子造りは凄いんでしょ?」

 

「まあね。確か、日本三大職人に選ばれたかな?」

 

明久の問い掛けに、芦花はそう答えた

そして、明久は

 

「お爺ちゃん、元気?」

 

と問い掛けた

すると、芦花は

 

「玄十郎さん? そりゃもう、元気だよ。足腰バッチリだし、背筋も伸びてる。毎朝、竹刀と木刀振ってるよ」

 

と言った

そして、芦花は

 

「あき坊は? 竹刀、振ってる?」

 

と明久に問い掛けた

実は、祖父

玄十郎は、明久の剣の師匠だった

今は旅館を経営しているが、昔は相当な剣術使いだったらしい

 

「……三年前から、振ってないかな」

 

明久はそう言いながら、左目の眼帯を触った

すると、芦花は

 

「あ、ごめん……明恵さんから聞いてたのに」

 

と気まずそうに言った

すると明久は

 

「いいよ、大丈夫」

 

と返した

そして、芦花が周囲を見回して

 

「あ、ちょうど今、巫女姫樣が舞を奉納してるみたいだね」

 

と話題を変えた

それを聞いて明久は、舞台に視線を向けた

そして明久は、目を奪われた

舞っているのは、明久と同い年位の少女だった

綺麗な姿勢と、優雅な手の振り

そして、所作の全てに明久は美しさを感じた

気付けば、回りは静かになっていた

どうやら、その舞に全員が目を奪われているようだ

 

「なるほど……これは、凄いね」

 

「でしょ?」

 

明久の言葉に、芦花が自慢気にそう言った

その時

 

「!?」

 

明久は一瞬、その少女の頭に犬耳が見えた

 

「疲れてるのかな……」

 

「どうしたの?」

 

明久が目元を揉んでいると、芦花が顔を向けていた

 

「何でもないよ」

 

明久はそう言うと、芦花に視線を向けて

 

「お爺ちゃんは、志那都荘かな?」

 

と問い掛けた

しかし、芦花は首を振って

 

「玄十郎さんなら、ここに居る筈だよ。今年の春祭りの実行委員会の委員長になったから」

 

と言った

そして、周囲を見回して

 

「廉太郎! 小春ちゃーん!」

 

と声をあげた

すると、少し離れた所から二人の少年と少女が来て

 

「なんだ、芦花姉」

 

「どうかした、お姉ちゃん?」

 

と芦花に問い掛けた

すると、二人は

 

「って、お前……明久か?」

 

「あ、本当だ! お兄ちゃん!」

 

と明久に気付いた

明久に気付いたのは、鞍馬廉太郎と鞍馬小春

明久の従兄妹だ

 

「久しぶり、二人とも」

 

明久がそう問い掛けると、廉太郎が

 

「本当に久しぶりだな! 珍しいな。最近は全然顔を見なかったが、どうした?」

 

と明久に問い掛けた

それに対して、明久は

 

「宿が人手不足で、手伝いにね」

 

と答えた

すると、小春が

 

「お兄ちゃんが? てっきり、何時もみたいに叔母さんが来るんだって思ってた」

 

と言った

 

「まあ、何年も来てなかったからね。顔見せと、母さんが先に予定組んでたからね」

 

明久がそう言うと、小春が

 

「本当に久しぶりだもんね。全然帰って来ないんだもん」

 

と不満げに言った

そして

 

「背が伸びてたから、最初は分からなかった」

 

と言った

すると、明久は

 

「小春ちゃんだって、成長したね」

 

と言った

すると、廉太郎が

 

「こいつが? 全然だぜ。胸なんて、まな板のまんまだ」

 

と言った

そこから、小春と喧嘩が始まったが

 

「はい、ヤメヤメー! 兄妹のじゃれ合いはそこまで」

 

と芦花が二人の頭を掴んで止めた

 

「そこは変わらないね、二人は」

 

と明久は、懐かしさを覚えながら言った

すると、芦花が

 

「それで、玄十郎さんは何処かな?」

 

と問い掛けた

すると、廉太郎が

 

「祖父ちゃんなら、今は中に居るよ」

 

と親指で示した

すると、小春が

 

「ほら、例のイベントが行われてるから」

 

と言った

それを聞いて、芦花が

 

「あー、アレね」

 

と納得していた

すると明久は

 

「あ、もしかして、アレ? 岩から抜くってやつ」

 

と言った

別名、伝説の勇者イベント

神社の御神刀

叢雨丸が、岩に刺さっているのだ

それを抜いたら、穂織の地に平穏が訪れるとされているのだ

 

「確か、アレって抽選式じゃなかった?」

 

「無関係な観光客ならな。明久なら、挨拶する位平気だ」

 

廉太郎はそう言って、明久を案内した

まず見えたのは、一列に並んだ人々

そして、奥に鎮座している岩

 

「本当に刺さってる……」

 

実物を見るのが初めてだった明久は、そう呟いた

すると廉太郎が

 

「祖父ちゃん! 明久が来たぞ!」

 

と声をあげた

すると、その列を見ていた一人の老人が近寄り

 

「わざわざ済まんな。来てもらって」

 

と明久に声を掛けた

それに対して、明久は

 

「こちらこそ。慣れないので、迷惑を掛けると思いますが」

 

と頭を下げた

すると、玄十郎は

 

「手伝いは、明日からで構わん。今日は、ゆっくり休め」

 

と言った

そして、明久を見て

 

「それで、元気にしていたか? 体は?」

 

と問い掛けた

威圧感が凄いが、明久はキチンと目線を合わせて

 

「はい、大丈夫です」

 

と答えた

 

「アレから、剣は持たなくなったと聞いたが……」

 

「はい……持ったら、思い出しそうになるので……」

 

明久がそう言うと、玄十郎は

 

「壮健ならばいい。元々は、健康のために始めさせたことだ」

 

と気遣うように言った

そして

 

「ともかく、よろしく頼む。何かあったら、遠慮なく言え。無理だけはせんようにな」

 

と言った

 

「はい、ありがとうございます」

 

そして明久は頭を下げた

玄十郎は70を過ぎている筈だが、気迫は劣っていなかった

そして明久は、岩の方を見て

 

「あれって、本当に抜けないの?」

 

と問い掛けた

すると、玄十郎は

 

「明久は、やったことなかったか?」

 

と問い掛けた

 

「ないね……」

 

「お前が疑う気持ちも分からんでもないが、ペテンではない……神から授かった刀だからな。抜く人物を選ぶのだ」

 

明久の言葉に、玄十郎はそう言った

すると、玄十郎は

 

「ふむ……」

 

と明久を見た

そして

 

「明久、試してみるか?」

 

と問い掛けた

 

「え、いいの?」

 

と明久が驚いた表情で聞くと

 

「どうせ、あれで最後だ。構わんだろう」

 

と今チャレンジしている外国人を見た

外国人は相当筋肉質で、腕の太さが明久の太もも位あった

しかし、そんな外国人が顔を真っ赤にして引いてもビクともしない

 

「少し、神主に掛け合ってくる」

 

玄十郎はそう言って、神主らしい男性の方に向かった

すると、廉太郎が

 

「お、なんだ。明久もチャレンジか?」

 

と言った

 

「試しにやれ、だって」

 

「そんなに、気構えなくていいよ。私達もやったから」

 

明久の言葉に、芦花がそう言った

そして、少しすると

 

「明久、こっちに来い!」

 

と玄十郎が呼んだ

どうやら、出来るようだ

そして明久は、中に残っていた神主、玄十郎、芦花、小春、廉太郎の視線が向けられる中で、岩に向かった

先にキチンと挨拶し、刀の柄を掴んだ

その瞬間

 

「つっ」

 

と明久は、思わず手を離した

 

「大丈夫か、明久?」

 

と玄十郎が、心配そうに声を掛けると

 

「大丈夫、一瞬静電気みたいなのが走っただけだから」

 

と言って、改めて柄を掴んだ

そして、力を入れた

その直後、軽い金属音が響いた

 

「…………へ?」

 

そして明久の手には、途中で折れた刀が有った

 

「これは……」

 

それを見て、玄十郎は冷静に呟いた

芦花、廉太郎、小春は絶句していたが

すると、神主が何か玄十郎と軽く話し込んでから

 

「明久!」

 

と玄十郎が明久の名前を呼んだ

 

「お、お爺ちゃん!? 僕、そんなに力入れてないよ!?」

 

「大丈夫じゃ、怒りはせん。ただ、少しの間ここに残れ」

 

明久にそう言うと玄十郎は芦花達を見て

 

「お前達、今見たことは誰にも喋るな」

 

と言って、三人と一緒に本堂から出た

これが、明久の運命を変える出来事だった


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