京勇樹の予告短編集   作:京勇樹

33 / 58
艦隊これくしょん・桜舞う島の提督

「さってと……初めて入るな、鎮守府」

 

と言ったのは、トラックを運転していた青年

桜内義之(さくらいよしゆき)

彼は今日、鎮守府に艦娘の艤装用部品の納入に来ていた

本当は違う人物が運転する筈だったが、その運転手が怪我をしてしまい、急遽トラックの運転が出来る彼が納入役になったのだ

艦娘というのは、今から数年前に現れた未知の敵たる深海悽艦に対抗出来る唯一の存在だ

深海悽艦

それは、突如として現れて、人類に牙を剥いた

その深海悽艦により、人類は制海権とシーレーンの全てを喪失

もはや、終わりかと思われた

そこに現れたのが、かつての世界大戦の艦艇の魂と名前を受け継いだ存在

艦娘だった

艦娘はそれまで太刀打ち出来なかった深海悽艦に対して、唯一大損害を与えることに成功

特に、日本に数多く現れた

その後、日本は国連の命令により自衛隊を軍として再編成

まず、日本の制海権を奪取に成功

そこを足掛かりに、世界中に艦娘艦隊とその運用を行う提督を派遣を開始した

しかし、艦娘の指揮というのは誰でも行える訳ではない

艦娘に選ばれる必要があった

その選定条件は一切不明で、元自衛隊隊員だけでなく民間人からも選ばれることもあった

そして義之が向かったのは、そう言った民間人から選ばれた提督が運用する鎮守府

初音島鎮守府だった

しかし、はっきり言ってあまり良い話は聞かない

何かと傲慢で、漁船の護衛料金もかなり高いと漁師が愚痴っていたのを義之は覚えている

 

「……何時までも、立ち止まってる訳にはいかないか」

 

義之はそう呟くと、トラックをゆっくりと門の守衛所近くに進ませた

 

「すいません! 頼まれた部品を持ってきました!」

 

「ん、ご苦労……って、何時もの奴はどうした?」

 

義之が声を掛けると、守衛所の警備員はそう問い掛けてきた

その問い掛けに、義之は

 

「それが、怪我してしまいまして……代わりに、俺が運んできたんです」

 

と言いながら、許可証を警備員に手渡した

それを受け取った警備員は、その許可証を見ながら

 

「そうか……ん、大丈夫だ。入っていいぞ。奥に搬入用の入口が有って、そこで判子を貰ってくれ」

 

と奥を指差した

 

「はい、分かりました」

 

義之はそう言って、トラックを奥に進ませた

それを見送った警備員は、懐から端末を取り出して

 

「……各員、用意」

 

と呟いた

そして数分後、義之は言われた搬入場にトラックを止めると

 

「すいませーん! 部品の納入に来ましたぁ!」

 

と声を上げた

すると、ピンク色の髪が特徴の若い女性が振り向いて

 

「はーい、ありがとうございます……」

 

と近寄ってきた

義之はその女性の目元に、酷い隈が出来ていることに気づいて

 

「あの……大丈夫ですか?」

 

と問い掛けた

 

「ああ……少し、疲れてるだけです……っ」

 

義之の問い掛けに、その女性は膝から崩れ落ちそうになった

 

「危ないっ」

 

それを義之は、間一髪で抱き抱えた

その直後、その女性

工作艦娘の明石(あかし)は、あることで驚いた

 

(えっ!? 出力が、上がった!?)

 

艦娘の出力

それは、提督の質で決まる

確かに、今の初音島鎮守府の提督も提督の質を有している

これは余り知られてないことだが、提督の質は三段階存在する

一番高い質の甲

これは理論上でしかなく、今まで見つかったことは無い

次に、乙

このランクの提督は、今や日本の防衛の要衝たる横須賀、大湊、単冠湾に就いていて、更には攻略の要衝たるトラック、ラバウルと言った外国の泊地の提督となっている

最後に、丙

これが、最も多く居る提督で、主に遠征艦隊や警備府の提督となる

そして、この初音島鎮守府の提督は丙だった

 

(この感覚……間違いなく、乙は有る……!)

 

と明石が思っていると、義之が

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

と問い掛けてきた

その問い掛けに、明石が答えようとした

その時

 

「おい、何をやっている!」

 

と怒鳴り声が聞こえた

明石と義之が見た先には、白い軍服を着た肥え太った男が居た

その姿から、男が提督なのだと義之には分かった

その後ろには、数名の艦娘が居る

 

「この人の体調が悪そうなんだ、休ませないと」

 

義之はそう言って、明石をお姫様抱っこで抱え上げた

しかし、提督はそんな義之に銃口を突きつけて

 

「余計なことをするな。今すぐ下ろせ」

 

と命令口調で言った

 

「……なんのつもりですか?」

 

「なに、身分を弁えぬ愚かな民間人に教育をとな」

 

義之の問い掛けに、提督は見下した表情でそう言った

まるで、自分が選ばれた人間だとでも言うように

そんな時、明石は提督の背後に居た数人を手招きしていた

呼ばれた数人

金剛、霧島、長門、瑞鶴、翔鶴、時雨、夕立は近寄り

 

「ヘイ、何でスカー?」

 

「どうされました?」

 

「何だ?」

 

「どうしたの?」

 

「大丈夫ですか?」

 

「また徹夜かい?」

 

「大丈夫っぽい?」

 

と問い掛けてきた

しかし明石は、それに返答せずに

 

「早く、彼に触ってください!」

 

と言った

言葉の意図が分からず、全員は首を傾げながらも、義之に触った

その直後、驚きの表情を浮かべた

 

「こ、これは!?」

 

「体が、軽いデース!?」

 

と彼女達が驚いている間

 

「彼女の体調が悪いから、医務室に連れていきます。場所は何処ですか?」

 

と義之は、近くの別の人物に問い掛けた

しかし、それが気にくわなかったのか、提督は

 

「そんな兵器共のことなど、気にするだけ無駄だ。さて……貴様は、私の言葉を無視した……鎮守府内では、私がルールだ……よって貴様は、死罪だ」

 

と言って、引き金を引いた

響き渡る炸裂音

放たれた弾丸は、間違いなく義之の頭を穿つ

その筈だった

 

「なっ!? どういうつもりだ、貴様!?」

 

そんな義之を助けたのは、金剛だった

金剛は義之に向かっていた9mm弾を素手で掴んでいた

すると金剛は、ゆっくりと手を開いた

その中には、ひしゃげた弾丸が有った

 

「ワオ……こんなことが出来るように、なりましたカー……」

 

「私の計算では、以前より最低で倍近く出力が上がっています……間違いなく、彼の適性は高いです」

 

金剛の呟きの後、霧島は眼鏡を指で押し上げながら言った

すると、明石が

 

「間違いなく、彼は乙並かそれ以上……つまり、甲適性の持ち主です」

 

と言った

 

「あ、あの……大丈夫なんですか? 今、弾を……」

 

「大丈夫デース! 前までなら分かりませんでしたが、今の私なら問題ナッシングデース!」

 

義之の問い掛けに、金剛はそう言って義之の前に布陣

その両側に、霧島、長門、瑞鶴、翔鶴、時雨、夕立が布陣した

それを見た義之は、驚いた様子で

 

「あ、あの!?」

 

と問い掛けるが、長門が

 

「なに、気にするな。君は、そこに居ろ」

 

と言った

すると提督は、そんな一同を睨み

 

「貴様ら!! 何をしているのか分かっているのか!? これは、明確な反逆だぞ!?」

 

と怒鳴った

しかし、瑞鶴が

 

「はっきり言って、もうあんたの命令は聞きたくないのよ!」

 

と言って、弓を構えた

それに追随するように、夕立が

 

「ぽい! もう夕立の提督は、彼っぽい!」

 

と言って、唸り始めた

それを聞いた提督は、怒りの表情で

 

「もういい! ならば貴様らを、廃棄処分だ!」

 

と言って、近くの他の艦娘達に

 

「あいつらに全力砲撃しろ! 民間人諸ともで構わん!!」

 

と命令した

すると、命令を受けた艦娘達は艤装を展開した

しかしよく見れば、必死に抵抗しているのが伺える

それを見たからか

 

「夕立」

 

と時雨が、姉妹艦娘の名前を短く呼んだ

 

「っぽい!」

 

夕立が吠えた直後、蹂躙が始まった

時雨と夕立は目にも止まらない速度で動き回り、その艦娘達をこどごとく無力化していく

しかし、一人の艦娘

扶桑型一番艦娘の扶桑の艤装の照準が、義之達に向けられて、放たれた

響き渡る轟音

それと共に、迫る砲弾

戦艦の主砲の一撃

それが当たれば、義之は即死

艦娘とて、よくて中破は免れない

だが、次の瞬間

光の障壁により、砲弾は防がれた

 

「なっ!? クラインフィールドだと!?」

 

その障壁を見て、提督は驚いた

クラインフィールド

それは、高い提督適性を持つ者の指揮下の艦娘しか使えないとされる障壁で、理論上ならば、数百発の砲弾すら防げるとされている

しかし、今まで使えた艦娘は居なかった

 

「あははは……間違いないです……彼は、甲適性……世界初の、甲適性提督だ」

 

と明石は、力なく笑った

これは、一年中桜が咲く島に現れた、一人の提督の物語

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。