京勇樹の予告短編集   作:京勇樹

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グリザイア物語

ねえ、麻子さん……

僕、あれから五人助けたよ……

だからさ……もう、いいよね……

全部終わって、倒れてもいいよね……

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「吉井明久……家族は全員死亡……親戚は不明……ねえ……そんな奴が、なんでこの街に居るんだ?」

 

と問い掛けたのは、免許証をうろん気に見ていた30代後半の男性警察官だった

その前に座っていた青年

吉井明久は、背筋を伸ばし

 

「ですから、10分前に言った通り、引っ越してきたんです」

 

と答えた

その直後、その警察官は机に拳を叩きつけて

 

「警察舐めるのも、大概にしろよ!? じゃあ、なんで住所欄が不明になっているんだ!?」

 

と怒鳴って、身を乗り出した

それを見た別の警察官が、その警察官を止めようとした

そのタイミングで、ドアが開き

 

「おい! その方は釈放だ!」

 

と白髪が特徴の制服を着た男性警察官が、慌てた様子で入ってきた

 

「署長!? どうしてですか!? あのデカイ荷物と身のこなし、あいつがただの学生で無いのは、一目瞭然です!!」

 

入ってきた署長に、その男性警察官は食ってかかった

しかし署長は、明久の手錠を外しながら

 

「市ヶ谷から連絡があった! 彼は、Sだ!」

 

と言った

そして、平謝りしてきた署長と一緒に外に出ると

 

「お勤め御苦労様です」

 

と一人の女性が、一台の車の横で敬礼してきた

そして、女性が車を進ませた

 

「まったく……春寺さんから連絡来た時、驚いたわよ……貴方を警察まで迎えに行ってあげてって」

 

「手間を取らせて、すいません。千鶴さん」

 

女性

橘千鶴(たちばなちづる)の言葉に、明久は頭を下げた

見た目幼く、下手すれば明久と同年代に間違われる彼女だが、歴とした社会人であり、これから明久が御世話になる学校の校長でもある

 

「それにしても、貴方。どんな受け答えをしたのかしら? 後ろに居た警察官。相当睨んでたわよ?」

 

「事実を言ったまでです。引っ越してきた、ただの学生だって」

 

千鶴の問い掛けに、明久は淡々と答えた

すると千鶴は、クスクスと笑い

 

「貴方の雰囲気とそのケースで、ただの学生は無理が有ると思いますよ?」

 

とミラーで、後部座席に置いてある大きなケースを見た

すると、明久は

 

「アレだけは、僕が直接運びたかったので……」

 

と言った

そうこうしている内に、車は広大な敷地に入った

そして、千鶴の案内である部屋に入り

 

「さて、改めて……」

 

と千鶴は、その部屋の奥の窓際にある机の前に立った

そして、明久を見ながら

 

「当学園は、貴方を生徒として迎え入れます。ようこそ、美浜学園へ」

 

と言った

これが、一人の少年と少女達が経験する、グリザイア(波瀾に満ちた)物語の始まりだった


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