「…………なぁにこれ?」
目の前の光景と自身の姿に、吉井明久はそんな言葉が口から漏れた。
「えっと……待て待て……ここが何処だかわからないけど、この姿は知ってる……」
明久はそう言いながら、自身の姿を見下ろした。蒼い騎士鎧を。
「この姿は、僕がやり込んでたVRMMOの自キャラクターのライトの物に間違いない……」
明久はそう呟いて、背負っていた片手直剣。神話級武器の
「剣の重さまでリアルだ……」
と呟いた。
「まあ、まさかとは思うけど……
明久は技名を言いながら、剣を横凪ぎに振るった。すると光の刃が飛んで、直線上にあった数本の大木が切られた。
「本当に、なぁにこれぇ……」
もはや明久の理解力を越えた事態に、明久は間抜けな声しか出なかった。
「何が起きたのやら……」
明久は頭を掻きながら剣を背負い直して、手を見て
「もしかして……
と自分が斬った木に焔を放った。それを見て、明久は
「……やっぱりか……だけど、なんでだろう……」
と首を傾げた。明久がプレイしていたVRMMOは、メイン職業の技とサブ職業の技しか使えない筈なのだ。しかし、最初に使ったのは戦士職の技で、次に使ったのは魔法士職の技だった。今のメイン職業は天騎士でサブ職業は教皇となっているので、本来ならば使えないのだ。
そう考えていた明久は、ある一つの結論に至ったのだ。
「もしかして……天騎士になるまでに経験した職業の技が、全部使えるのかな?」
最上位職業、天騎士。この職業は諸々のパラメーターは全職業の中でも最上位だが、技が全部で四つしかない。はっきり言ってしまえば、運営のロマンが此でもかと詰め込まれた職業だ。しかしその天騎士になるには、先に挙げた戦士、魔法士の二つを含めて、約10になる職業を経験しないとなれない職業なのだ。
「うーん……まあ、今考えても仕方ない……おいおい検証するしかないか」
そう結論着けた明久は、少し考えてから
「この魔法を試すか……
ゲームだった時は、行ったことのある街を選択して発動すれば、一瞬にしてその場所に行けるというものだった。しかし、今はその選択が出ない。
「さて、どうなるかな」
と呟いた直後、気付けば自分が居た崖っぷちから1m先だった空中に出た。
「おおぉぉぉぉぉ!?」
流石に危なかった明久は、落ち始めた直後に何とか崖っぷちを掴んで落ちるのを未然に防いだ。
「あ、危なかったぁ……! 流石に、この高さから落ちたら死ぬっ!!」
今明久が居る崖から、下の地面までは優に数10mはある。幾ら天騎士が高いスペックを有しているとは言っても、限界はある。
「今のところ、転位は使えない……じゃあ……あ!
次元歩行というのは、転位と同じ移動系の魔法だ。ただし転位と違うのは、次元歩行は非戦闘時だけでなく戦闘時も使えるのだ。転位よりかは移動距離は短いが、その分リキャストタイムが短く連続使用が出来る。
非戦闘時は短時間で次の街まで移動するのに使ったり、戦闘時は緊急離脱等に使うのだ。
「さてと……次元歩行」
魔法名を呟いた直後、明久の姿は消えた。次の瞬間には、明久は空中に姿があった。しかし、明久は慌てず
「次元歩行」
とまた呟き、また約10数m先に跳んでいた。
「なるほど……次元歩行は、視線が肝なんだ」
次元歩行の感覚を掴んだ明久は、次々と跳んでいった。そして数十分後、眼下に大きな湖を見つけた明久は
「お、湖だ……丁度いいから、少し休憩しよう」
とその湖の淵に着地し、着ていた鎧の甲を外して顔を洗おうと湖面を覗いた。そして見えたのは、骸骨の頭だった。
「……………………なんでさ」
たっぷり30秒程間を置いてから、明久は思わず呟いた。なぜ骸骨の姿なのか。ゲームの時、課金要素で骸骨になれるというコンテンツがあったのだ。
「アークさんは課金して骸骨になってたけど、僕はなってなかった筈なのに……」
アークというのは明久と同じ天騎士になった熟練プレイヤーで、よくパーティを組んでいた人物だ。そのアークは、面白半分で見た目を骸骨にしていた。しかし、天騎士は
「うーん……こうなったら、
そう決めた明久は、しばらく黙考してから
「よし……僕は、聖騎士の資格を有しているけど、ある任務で敵の呪いを受けて骸骨の見た目になっちゃって、その解き方を探してる流浪の騎士ってことで!」
と決めた。そうして明久、否ライトは立ち上がり
「さっき跳んでた時、向こうに道が見えたから……そっちに向かってみよう」
とまた次元歩行を発動し、移動を始めた。
これが、骸骨になったおバカの無自覚の世直し旅の始まりだった。