シンデレラガールズ短編集   作:ですてに

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誕生日から1週間もかかってしまった……。

美優さん、ちひゃー、誕生日おめでとう!


同じ誕生日だけど当然性格は違うわけで(後編)

 「あ、見て下さい、プロデューサー! マントヒヒですよ、可愛いですよね…!」

 

「お、おう……」

 

 フリルがふんだんに使われたゴシックロリータ要素の強い白地のワンピースの裾を靡かせながら、ツインテールに髪をまとめている千早が俺の手を引きながら、動物園の中を駆け出していく。その感性はいまいち、ピンと来ないものの。

 ……今日の服装を見た時、正直彼女のイメージと違い過ぎて戸惑いが先に立ってしまったが、屈託なく楽しげに笑う姿を見ていると千早が年相応の少女に感じられて、嗚呼可愛いな、と素直に見蕩れてしまったのは、とても彼女には言えないでいた。

 

「如月さんは顔が売れていますからね、変装を兼ねて、世間の印象とは真逆に近い格好をしてもらいました。あの服装、天海さんが用意してくれたんですよ」

 

 俺のもう一方の手は、このデート場所を提案した美優さんと繋がっていて、釣られて俺達は一緒に駆け出していた。いつもは後ろで一つに結んでいる髪を下ろしていて、風が吹いたり、こうして駆けている勢いのある時に、髪がふわっと靡く度、彼女の香りが鼻をくすぐって、年甲斐もなく鼓動が早まるのを感じている。

 

 俺はプロデューサーで。珍しく年相応にはしゃぎ、笑顔が溢れている千早は前の事務所で担当だった娘、そして、今はトップアイドルで。隣には、今の担当アイドルの美優さんが穏やかに微笑んでいる。

 

「プロデューサー失格だ、ほんとに」

 

 美優さんや楓さんの情に絆され、担当アイドルと男女の関係になりながら、今度は望まれた褒美にかこつけて、かつて二人三脚で歩んでいた少女も含めて、明らかなグループデートを楽しんでいる自分。一度、タブーを外してしまっている俺は、彼女達の好意に気づかない鈍感を演じる振りを熱心に演じなくなっていた。

 

「プロデューサーも楽しんでくれていて、私、すごく嬉しいです。以前なら、私が距離を近づけようとすると、その分自然と離れていってしまって。立場として、適切な距離感を取るのが当然だと分かっていても、どうしようもなくモヤモヤしてしまって」

 

 ふと、千早が立ち止まり、笑顔のまま、過去の俺と自分を回想し始める。

 

「貴方がプロダクションを移籍すると聞いた時、どうしようもない寂しさと同時に、どこかホッとした自分もいました。叶わない想いをすぐ近くで持ち続けるのは、とても辛かった」

 

 少し俯きながら、瞳を閉じて、片手を胸に当てるようにして、千早は振り返る。もう一方の手は、俺と繋がったまま。

 

「結局、その気持ちはずっと抱えたままで今まで過ごしてきて、やっと、私が想いを前面に出しても、プロデューサーは陰りの無い笑顔で受け止めてくれる。それが嬉しいんです」

 

「ん……立場としては、逆にアウト以外の何物でもないんだけどな」

 

 苦笑い。千早も、美優さんも。アイドルとプロデューサー、恋愛は一番の御法度。そんなことは分かりきっている。それでこの世界を追われていった者達を実際、幾人も見てきている。ただ、俺は、どうしようもなくふしだらで多情で、向けられる好意に抗い切れず、別の覚悟を決めていた。

 

「一つ、決めていたことがあります。頂を極めたら、貴方に伝えたい想いがあると。2年かかりましたけれど、私は……トップになりました」

 

「俺は中堅プロの総合プロデューサーだ。お前と比べれば、見劣りするな」

 

「私や貴方を慕う人達が、肩書きで判断するとでも?」

 

 くすくす……と笑みをこぼしながら、千早は俺の返しをあっさり言葉の刃で鮮やかに斬り捨てる。美優さんも笑っているのを見やり、自分の詰まらない失言を自覚した。

 

「はは、余分な言葉だったか」

 

「ただ、プロデューサーは移籍したことで、私にとっていい方向に変わってくれました。別の悩みが増えたのはたまに傷ですが。そう言う意味では、高垣さんや三船さんに感謝と嫉妬が混じる複雑な気持ちがありますね」

 

 ……千早は、知っているのか。俺が複数のアイドルと不適切な関係にあることを。犯人はまぁ、言うまでもないな。秘蔵の一本、後で取り上げておくとしようか。

 

「私もたいがい盲目のようですね。いっそ、幻滅できれば良かったんですが。悔しいですけれど、私は……如月千早は、プロデューサー、貴方を好きで仕方ないんです。隣にいて欲しいのは、貴方だけなんです」

 

「……高校生らしい純愛なんて、させてやれないぞ?」

 

「わかっています」

 

「頂の座を失うことになるかもしれない」

 

「頂から落ちて、地面に這い蹲っても、私は歌い続けます。私が自分を体現できるのは歌しかないし、歌を捨てる自分など想像もつかないですから。私は、貴方が傍で見ていてくれさえすれば、どこでだって歌える……!」

 

「如月さん……」

 

「『千早』でいいですよ、『美優』さん。私が翼をもらったように、貴方は光をもらった人。他の誰も選べないんです、それに、多情であってもちゃんと誠実ですから、私達のプロデューサーは」

 

「……ええ、では、これから宜しく……ですね。ね、青羽根さん」

 

 そっと両腕を左右から包まれて、見上げる四つの瞳に、俺の答えは決まっていた。

 

「千早……隣で一緒に歩いていってくれ。お前達が望んでくれる限り、俺は勝手に離れていったりしないし、俺が多分……もう耐えられない」

 

 微笑みと共に、絡む腕の力が強められる。それは千早の答え。

 

「……はい。これからは近くにいますから。プロデューサーって、実は寂しがり屋ですしね、ふふ」

 

「私達もそれを望んでいますから、ちょうどいいんですけど。ただ、これ以上は増やされても、困ります……公的な場ではちゃんとケジメをつけている分、近くで素直になれる時間って意外にありませんから……」

 

「別事務所の私はもっと少ないってことじゃないですか……! いくらユニットを組むといっても、常にというわけにも」

 

「プロダクションが違いますから、なかなかその辺りは難しいですよね」

 

 早速、この先の展望を考え始める二人の口から、何やら聞き捨てならない言葉が聞こえる気がする。ユニットを組む? 俺は何も聞いていないんだが、臨時ユニットを恒常的に組むのか? プロダクション間の調整はどうする。トレーニング、レコーディング、マーケティング……多忙の千早にどう合わせるべきか。美優さんだって最近はレギュラーの仕事も増えてきている。ラジオで自分の番組だって……いや、むしろ有効に使うべきだな。そして……。

 

「……もう、プロデュースの方法を考え始めているんでしょうね。完全に自分の思考に入ってしまって。ふふ、プロデューサーはこういう所は全然変わらないから。なんだか安心しますね」

 

「デート中なのに、ですよね。ふふっ……。あ、そうそう、千早さん。青羽根さんの部屋近くの女性向けマンション、確か空室がありますよ。私もクローゼットに近い感覚で使ってますから……千早さん、一人暮らしでしたよね? 雑誌のインタビューでそう答えていたことのを読んだことがありますから」

 

「半同棲、というわけですか、ふ、ふふふ……ええ、今日この後すぐに手続きに行きます」

 

「保証人もここに二人いますし、大丈夫ですね。あ、ただ、楓さんに一報入れた方が良さそうかな」

 

「じゃあ、私はその不動産屋に連絡を入れてみます。連絡先、教えてもらっても?」

 

 思考に耽る間に、俺はまた一つ外堀を埋められていて、とんとん拍子で生活圏の移動を決めた千早の勢いのままに、動物園デートを堪能したのち、不動産屋へ移動。即契約の手続を進めつつ、フェス限定ユニットだった千早と美優さんは、新しい部屋を実際に見ながら、楽しげに必要なインテリアやら生活用品の洗い出しに余念が無い。

 

「色々言いたいことはあるけど、まず、前もって春香たちに言わなくて大丈夫なのか?」

 

 前事務所とはいえ、俺が関わっていた頃にいたのは、春香、律子、千早ぐらい。まして律子はアイドルではなくてまだ事務員だった頃だ。ただ、人づてに聞く話だけでも、765プロダクションの結束力というのは固く、事務所を跨いだユニット結成やら、突如の引越しとか、内部的に問題になるのではと懸念する。

 

「春香と赤羽根プロデューサーにはもうメールしました。すぐに飛んでくると言っていますよ」

 

「ちぃ~はぁ~やぁ~?」

 

 既に爆弾を投げ込んでいた愛しのお嬢様に思わず凄んでしまって俺は悪くないと思う。俺の胃が馴染みになったあの痛みを訴え始める。この痛みの原因は楓さんだけでもう十分に間に合っているというのに!

 

「……ふふふふふ~。既に遅かったですね、プロデューサーさん。到着ですよ、と・う・ちゃ・く♪」

 

「oh……」

 

 振り返れば、懐かしい満面の笑みの春香さんが既にいらっしゃった。額や頬から大粒の汗が伝っている辺り、はてさてどれだけ急いできたというのか。

 

「やっと千早ちゃんの想いが成就すると同時に、前プロデューサーさんは鬼畜ということが分かったので、もう全力で飛ばしてきました! 躓いたりもしませんでしたよ!」

 

 親指を立てて、拳を突き出したポーズで何故か得意気な彼女。躓かなかったのは、普段の彼女から考えれば、ちょっとした奇跡の類だ。それは素直に感心した。

 

「そりゃ、相当集中して急いできたんだな。ただ、大きい声で『鬼畜』とか叫ぶの勘弁してくれよ、頼むからさ……千早や美優さんまで悪く思われる」

 

 俺はいいよ、俺は。そんな男と付き合いのある千早や美優さんが悪く言われるのが嫌なのだ。節操無い俺でも、自分の女が悪く言われるのは我慢ならないのだから。……あー、これも独占欲の一種なんだろうけど。

 

「そうだぞ、春香。青羽根さんがどれだけ男として最低でも、彼の立場にあるまじきことをしているとしても、千早と三船さんが本気で思う相手を貶すような言葉は言わない」

 

 765の敏腕プロデューサー、赤羽根殿。彼も到着していたようだ。トップアイドルとそのアイドルを導くプロデューサー。ワンルームに少し広さを加えたような、そんな場所に、眩いばかりのカリスマ性を持つ人達が揃っていた。

 ……それに気づき、ぶるっと身震いする。俺は、既にその頂にいる千早をそのまま輝かせ続けられるのか? 楓さんを、美優さんをその頂まで導けるのか? その力は、あるのか?

 

「また、難しい顔をしていますね、青羽根さん。俺、罵ってやるつもりで来たのに、なんか言いにくいじゃないですか。うちのアイドルに手を出してただで済むと思うなって」

 

 あえて軽い口調。彼は本当は怒りを前面に出して叫びたいだろうに。あぁ、こんな時まで彼は人格者だ。

 

「赤羽根プロデューサー。彼を選ぶのは私です。頂から落ちるつもりはありませんし、居続けるための努力を惜しむつもりも毛頭ありませんが、落ちても構わない、それでも歌い続ける覚悟はもう出来ています。それに……彼は貴方と違うタイプだけれど、間違いなく一流のプロデューサーですから、心配もいりません。私を通して、トップへの道筋もより鮮明に見てもらえますから、プロデュース能力にも磨きがかかることでしょうし」

 

 だから、心配してませんよ。信頼していますから。

 赤羽根プロデューサーに言い切った千早は、俺と瞳を合わせると、軽く微笑んでいた。声にしない声がハッキリと聞こえる。ぐらつきかけた俺を立て直すには、それで十分だった。トップアイドルが信頼してくれる俺の力を信じ、より伸ばしていく。今までやってきたやり方を、もっと精練させていくだけ。

 

「……ユニットの件も含めて、俺は認めるつもりだよ。なんというか、それだけ『いい顔』をされると、もう言えることも無いんだよ。悔しいけど、千早が歌姫としてさらに一歩上に登るには、青羽根さんが必要だったって、思い知らされている。……まぁ、切替だけはしっかり頼むぞ、千早」

 

「うんっ。千早ちゃん、なんていうか、すごく綺麗になった! 今日なんかすごく可愛い格好しているはずなのに、先に感じるのは『綺麗』なんだよ。これってすごいことですよね、ねっ、プロデューサーさん、だから私達も我慢する必要は無いんですよ!」

 

「ありがとうございます、赤羽根プロデューサー。そして、春香。えっと、褒めてくれているのは嬉しいのだけど……最後にすごく台無しになることを言っているわ。それに、抜け駆けは美希が承知しないと思うけど」

 

「甘いよ千早ちゃん、これは戦いだよ。せっかく、プロデューサーが千早ちゃん達のお陰で、私をアイドルだけでなく、女として意識してくれているところなんだから! ここで畳み掛けないで、チャンスは無いよっ!」

 

 ……分かりやすい、いや、もうここまでくれば露骨というべき、春香のアプローチ。向けられる相手の赤羽根プロデューサーは……ああ、引いているな。押せ押せで来るタイプは、彼の恋愛対象となりうる女性像とは重ならないんだな。アイドルとしては勝利を収めたと言えるが、こと恋愛となると、春香の勝利はほど遠いようだ。

 

「……後ほど、連絡します。では」

 

「あっ、プロデューサーさん、逃げないで下さいっ! 千早ちゃん、またねっ!」

 

 そう言い残すと、颯爽と脱走態勢に入った彼を、何か闘志に火のついた様子の春香が追っていく。春香は、本当に何をしに来たんだ?

 

「春香は私を祝うと同時に、自分の恋も力尽くで進めるつもりだったのね……逞しいですね、本当」

 

「……765の赤羽根さんは、認めてくれた、ということでしょうか?」

 

「はい、美優さん。公私もきっちり使い分けろということですし、こなしてみせるだけです。そして、今は、プライベート、ですから」

 

 すっと、二人が左右から寄り添い、当然のように腕を絡めてくる。思えば、今日は手や腕が触れたり組んでいる時間の方が長いと感じるぐらいに。

 

「今日は、二人に触れてる時間がとても長い気がするよ。……嬉しいんだけどな」

 

「部屋の中だと、こうして堂々と出来ますけど、外ではなかなか難しいですから」

 

「プロデューサーの部屋に行く時も、極力、美優さんとかと一緒に行く方が変に勘ぐられないで済むでしょうから、お互いに協力するということで」

 

「ええ、楓さん……あ、高垣さんのことですが、やはり同じやり方をしていますから、その辺りは密に連絡を取るようにしましょうね」

 

 これから、の過ごし方を俺を間に挟んだまま、少しはしゃいだ声で話し合う二人は、好意の贔屓目を含めて考えても、幸せそうな様子で。来年も、再来年も、こうして過ごしていけるのか。俺はそんな恵まれた未来をふと夢想して、心が温まるのを感じた。

 

「来年も、再来年も、しっかり祝ってもらいますから。二年も我慢したんです、そう簡単に私がプロデューサーの隣を離れると思わないで下さいね?」

 

「来年も、なんて言わずに、ずっと青羽根さんが望む限り、仕事でもプライベートでも、貴方を支えさせて下さい。私に光をくれた貴方に、私はずっと返していきたい。そして、側で笑っていたいんです」

 

「口に、出てた?」

 

 頷く二人。側にいることで、思った以上に俺は気が緩んでいるらしい。

 

「二人といると、リラックスしてるというか、気が抜けてるな。仕事の時は気をつけよう」

 

「スイッチが入れば、プロデューサーは大丈夫です。……幸せになりましょうね、プロデューサー」

 

「歪な形であっても、私は貴方がいれば幸せです。私も千早さんも……愛して下さい、ね?」

 

 男一人に、寄り添う二人の女性。傍から見れば、おかしな関係。

 ただ、俺は幸せを感じていて、彼女達を全力で愛して、二人の誕生日をずっと祝ってあげたいと思う。




いずれ加筆や修正を入れるかもしれませんが、あまり遅れても、ということで。

とりあえずPは爆ぜればいいと思……え? 千早や美優さんが悲しむから止めろ?
……うぎぎぎぎぎg(ry
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