シンデレラガールズ短編集   作:ですてに

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リハビリ。
間隔が空きすぎたのとバレンタインなので、UPしてみます。

※Pixivにも掲載しています。
※実はこの二人の組み合わせが大好きです。


楓さんと美優さん

 巷ではバレンタイン等といい、若い男性連中はどことなく落ち着きが無く、決意を秘めた女性達は勇気を高めつつその日を待つ風習がある。今年の暦でいけば、決戦は金曜日。……とにもかくにも、事務所の中もどこか皆そわそわしている、そんな雰囲気であった。

 

「プロデューサーさん、チョコはちょこっとがいいですか?」

 

 ……この人の平常運転がありがたいとすら思えてくる。行事に紐づけてはいるが、彼女の様子は普段通りといって差し支えない。

 

「他の連中にはとても言えたもんじゃないですが。あまり甘いのが得意ではないので、助かりますね」

 

「……普通の返しで面白くないです」

 

「何を期待してるんですか、貴女は」

 

「だってチョコを用意するんですから、それぐらい楽しんでもいいと思うんです」

 

 おちょくるの間違いだと思う。このつかめない独特の雰囲気に、それを強調するオッドアイに代表されるような容姿が、不思議さ加減を加速させる。ファンの皆はそんな彼女の神秘性を称賛するが、毎日、不思議属性の会話に付き合う同僚としては、時に疲れる相手になってしまう。

 それでも何故か憎めないのが彼女であり、今日も彼女はソファーに三角座りしながら、ファッション雑誌に目を通しながら、俺の仕事が終わるのを待っていた。

 時計の針は既に22時を回って、特別な仕事でもない限り、皆、自宅なり寮に既に帰っている時間だ。落ち着きなく、いつも以上に賑やかだった事務所もこうなれば静かなもので。事務員の千川さんも少し前に退勤して、事務所に残るのは僅かな面子だけになっている。

 

「楓さん、プロデューサーさんが困ってますから……」

 

「でも、美優さん。折角、私達だけなんですから、もうちょっと洒落た反応があっていいと思いません?」

 

「もう、楓さんったら。事務所の中ですから、プロデューサーさんもそういうわけにはいかないですよ」

 

 温かいお茶が入った湯呑が、俺と楓の前にそれぞれ静かに置かれる。もう一人、俺の仕事が終わるのを待っている美優さんが淹れてくれたものだ。今は後ろで結ばずに完全に下ろしている髪が、ふわりとたなびいて鼻腔をくすぐり、心地よい匂いに誘われる錯覚を覚える。

 ただ、仕事人の俺を信用してくれている美優さんの言動に応えるためにも、衝動に身を任せることはなく、湯呑にそっと手を伸ばし、気遣いと温もりに感謝しながら、乾きを訴える喉をゆっくり潤していく。

 

「ありがとう、美優さん。お茶も、その言葉も、温かさに涙が出そうです」

 

 実際に髪に触れたとしても、彼女は恥じらうものの、嫌がりはしないだろう。プロデューサーとアイドルといえど、年の近い男と女であるのを意識して、お互いに歩み寄ってしまってからは、人目を避けつつも一緒にいることを辞めようとは思えない。ただ、彼女の立場上、人目というものには必要以上に気を使って使い過ぎということは無いのだ。

 女優として開花しつつある美優さんの才を、自分の身勝手な感情で壊してなどたまるものか。

 

「なんでしょう、この落差は。温厚な私も流石に激おこぷんぷん丸になってしまいますよ」

 

「まさしく、日頃の行いの差が出たということでしょう。反省して下さい。それと、『温厚』と『おこ』をかけるのは強引過ぎます」

 

 ぱぁあああと、子供のように瞳を輝かせる楓さん。そんなに突っ込まれたのが嬉しいのだろうか。

 出会ってかなりの時が経ち、歌い手としての地位を確立し、バラエティーにも不思議キャラとして認知された今でも、彼女らしさはそのままだ。

 ただ、こんな雰囲気を持つ彼女だからこそ、今の『三人』の関係を形作ったのだとも思えるから、楓さんがあってこその俺達三人でもある。

 

「あと10分程度で終わりますから。そうしたら、車取ってきますよ。明日は楓さんも美優さんも長丁場の仕事ですし、早めに休まないと」

 

「……晩酌」

 

「缶2本まで。おつまみは美優さんが朝出る前に作ってくれてますよ」

 

「美優さん愛してます」

 

「あ、あはは……」

 

 真剣な表情と声で愛を語る楓さんだが、その理由がおつまみを作ってくれるからなので、とんと締まらない。美優さんも苦笑いになっている。カッコいいのに残念臭が漂う。ただ、これも『楓さん』らしさ。

 

「なので、楓さん。そろそろ帰り支度始めておいて下さいね。その間に美優さんに戸締り進めてもらいますから」

 

 既に事務所で一缶空けているために、その始末をいそいそと楓さんは始めつつ、美優さんは帰り支度や戸締りを進めて、そして、車を取ってきた俺は二人を乗せる。『いつものように』遠回りをしたり、後続の車につけられていないか確認しながら、たっぷり時間をかけてから、マンションの地下駐車場へ車を滑り込ませていった。

 真っ直ぐ帰れば30分というところだが、いつも1時間弱はかかるけれど、安全料を払うようなものだ。三人で相談の上、警備員常駐・セキュリティー完備のマンションを借りたのもそういう点だった。

 元がワンルームのアパートだった俺からすれば財布には優しくないものの、敷地内にゴジップ記者等、住人の関係者以外はシャットアウトされるマンションを借り、情けなくも三人で出し合う形で住んでいる。稼ぎでいえば二人の方が上だから、その二人が主となれば、俺に拒否する権利も無い。

 

 ……慣れは怖い。気づけば、この二人と同じ空間で暮らすことが、当たり前になっている。身体を重ねることも、一緒のベッドで並んで眠ることも、目が覚めればおはようを言い合うことも。

 

「どうかしましたか、プロデューサーさん」

 

「いや、この暮らしに自分が馴染んだなぁ、って振り返っていた所です」

 

 互いに2本目の缶を口にしながら、楓さんの問いかけにそう答える。今日も美優さんの作ってくれたおつまみは、優しくまろやかな味付けだ。

 

「ふふっ、私の駄洒落にも反応できるようになって嬉しい限りです。美優さんはもうちょっと頑張って下さいね」

 

「美優さんをツッコミ要員にしないで下さい。私の癒しを奪わないでもらいましょうか」

 

「えっ、い、癒し?」

 

「美優さんはマイナスイオンみたいなリラックス効果を常に発しているのです」

 

「そうそう。草原のような爽やかな感じです。だから、膝枕ー」

 

 あ、美優さんの膝枕を無理やり確保したな。確かに無茶苦茶癒されるから、癖になるのは仕方ない。というか、毎日取り合いするぐらいには極上の空間だからなぁ。

 

「え、えっと……二人とも、結構酔われてます?」

 

「大丈夫だよ、素面だよー白子の塩だれオイル焼き美味しいですよー」

 

「美優さんの膝枕マジ羨ましいパルパルパルパル」

 

「……珍しく、お二人とも酔われてますね。えっと、プロデューサーさん、どうぞお傍に」

 

 癒しの女神の仰せのままに、そそくさとすぐ隣に移動する。すると、温もりと共に、ふんわりと彼女の香りに包まれていく。ああ、抱き締めてくれている……。

 

「膝は今、楓さんにお貸ししていますから。じ、事務所だとこうすることは出来ませんし……今日もお疲れ様でした」

 

「仁奈ちゃんには渡せないのでごぜーます、ですね、ふふふ」

 

 あと10分程度で、日付が変わる。明日はバレンタイン。恋心を秘めた女の子達の決戦の日。既にパートナーがいる人達には、お互いへの感謝を示す、ちょっとした記念日になる。

 

「あ、そうそう。プロデューサー、明日は頑張って下さいね。結構、手造りで頑張ってるとか報告たくさん受けてますから」

 

「私は、帰ってからお渡ししますね。ビターチョコケーキなので、三人で食べるのもいいと思います」

 

「楽しみです」

 

「楓さんが即答するところなんですか」

 

「そうですよ。あ、それと私は明日仕事場に詰めっきりですから、ちゃんと迎えに来て、取りに来てくださいね? 遅いと先に摘んじゃいますから」

 

「遅くなるかもしれませんが、必ず」

 

 三人での共同生活は、当面続きそうだ……。




年度末ってやだやだ。バレンタイン? 知らない子ですね……。
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