東方茶月伝   作:甘しろノノん

2 / 7
幽々子様じゃないです。


一話

「この甘酒、とっても美味しいよねぇ。」

 

妖忌はあまりの量に数える事をやめた。

 

「歌聖様、幾ら何でも飲み過ぎですぞ。」

 

歌聖は頬を膨らませ、

 

「良いじゃないか、これは僕が飲むためにあるんだろう。だったら全部飲まないと、これを作ってくれた妖忌にも、この甘酒にも失礼だ。」

 

よく分からない事を言ってきた。

 

「そう言って歌聖様は飲みたいだけでしょう」

 

歌聖が舌を出して頭を掻いていると呆れた妖忌は溜息をつき、

 

「太っても知りませんぞ、私は庭掃除をしてきます。」

と、外へと出ていった。

 

何処か遠くから、僕は太らないんですと聞こえたがきっと気の所為だ。

 

 

 

 

 

外を出ると、普通此処には中々来る事のない人間の気配がした。

 

「珍しい事もあるもんじゃの。」

 

というのも歌聖の能力、「死霊を操る程度の能力」は歌聖が死に近づくにつれ強力になり、かつて護衛をしていた者たちは次々と自殺していき、今では半人半霊の自分だけになってしまった。それに元々人が簡単に来れるような場所ではない。余程の腕の立つ者なのだろうと警戒しながら門前の階段を降りて行くと、血だらけでボサボサの銀髪頭の少年が倒れていた。

 

 

 

 

「おやおや、妖忌ったら孫が居たなら言ってくれれば良かったのに。」

 

少年を抱えた妖忌を見て、歌聖はそう言った。

 

「私の孫ではありませぬ、門前で倒れていたのです。このままではこの子は死んでしまうでしょう、この若さで死ぬのはあまりにも酷と言うものです。うちで引き取っても宜しいでしょうか。」

 

と、言うと歌聖は微笑み、

 

「良いに決まってるじゃないか、それに僕も子どもを育てて見たかったんだ。」

 

そう言うや否や妖忌は早速手当てをして寝かせた。妖忌は丁度良かったと思った。歌聖様は恐らく長くはない、少しでも彼女の楽しみが増えれば、と。

 

「どんな子なのか、楽しみだ。」

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると知らない天井だった。さっきよりはマシだが、身体が熱く痛いの感じている辺り、どうやら俺はまだ生きていたらしい。手当てされているので、誰かが俺を助けてくれたみたいだ。とにかく起き上がってみる。村にいた彼の家よりも何倍も大きさの部屋だ。こんな大きい建物は見た事が無いので、暫く唖然としていると誰かが襖を開けた。

 

「お、妖忌。起きたみたいだぞ。」

 

水色のフワフワしている服装に桜にしては暗すぎる、紫に近い桃の長めの髪、透き通った肌に整った顔。そして今にも壊れてしまいそうな細い身体。声は高いが聞くと分かる男性の声、喋らなければ女性と思い込んでいただろう。

 

「あ、ど、どうも。」

 

そんな美しすぎる彼の姿に俺は動揺を隠せないまま返事をした。

 

「おはよう、もうこのまま目を覚まさないと思ったよ。」

 

まずお礼を言わないと、

 

「あの、手当てしてくれて有難うございます。」

 

助けられる事なんて無かったから、次になんと言ったらいいのか止まっていると、彼は俺の隣に座り、ジッと俺を、いや俺の髪を眺めていた。

 

「ねえ、君って凄い綺麗な髪してるけど、何処かの人なの?」

 

そう言えばまだ俺は自分の事を何も言っていなかった事を思い出したので、今までの経緯と記憶が無い事を話した。

 

「少年よ、帰るところが無いのならここに暫く住んでいけばいい。」

 

後ろから急に声が聞こえて驚いた。話すのに夢中だったからか分からなかったのだ。振り返ると、目に強い意志を感じる綺麗な銀髪で髭が少し多めな老人が立っていた。

 

老人は俺と目が合ったのを確認すると、

 

「して、君の名を教えてもらおうか。」

 

名。名前だ。そういえば俺には名前が無かった。村では「おい。」とか、「お前。」としか言われていなかったんだった。

 

「申し訳ないのですが、俺名前も覚えていなくて。あ、そういえば貴方方の名前って…。」

 

すると嬉しそうに綺麗な彼は言った。

 

「僕は歌聖。この白玉楼の主さ。本当はもっと人がいたんだけれど、みんな死んじゃってね。今はこのお爺さんだけさ。」

 

すると老人は眉を寄せた。

 

「お爺さんとは失礼な、まだまだ私は現役ですぞ。紹介が遅れてすまないな少年。私は魂魄妖忌、歌聖様の最後の家来じゃ。」

 

驚いた事にこの広さで2人しか住んでいないのか。

 

紹介が終わって暫く2人の日常会話らしい会話が終わると突然歌聖は目が輝かせながら言った。

 

「ねえねえ、君、名前が無いんでしょう。だったら僕が考えるよ。そうだなあ、」

 

悩みながら飲み干した茶碗を見たり夜空を眺めたりして、

 

「茶…さ…、夜…うーん。月…月。茶月ってどうかな。少し可愛い名前だけど、君も可愛いし丁度いいね。」

 

すると妖忌さんが笑いながら、

 

「おお、歌聖様にしては良い名前ですな。正直驚きましたぞ。」

 

そう言うと歌聖は頬を膨らました。

 

「酷いなあ妖忌。これから一緒に暮らすんだ、素敵な名前にしないとね。」

 

何か言う前にトントンと話が進んで俺の名前が決まった。茶月。よく分からないけどいい響きだと思う。

 

「茶月、それが君の名前だ。これからは自信を持って名乗るんだ。」

 

 

 

初めて自分を認識したようでなんだか見える景色がハッキリしてきた気がする。白黒から色が付いたような、それ程にもハッキリと。

 

 

 

「茶月…ですね。俺は茶月、よろしくお願いします。」

 

歌聖さんは宝石のように綺麗に微笑んだ。

 

「うん、よろしくね。」

 

すると今度は妖忌さんは食いつく様に言いだしてきた。

 

「ふふ、良かったですな茶月。突然ですまないのだが、お主は剣術に興味は無いか?」

 

予想もしなかった言葉が出たので少し思考停止した。そういえば妖忌さんは腰に短い刀と長い刀を付けている。年齢も相当上だろうし恐らくかなり剣術に長けているのだろう。

 

「剣術、ですか?」

 

妖忌は嬉しいそうに言った。

 

「そう、剣術じゃ。剣はお主がお主と証明する為の証なのだ、自分を見つける為にやってみないかね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「動きが鈍いぞ茶月。」

 

重い鉛の棒を二本振り回してるのだ、鈍くなるの当たり前だ。しかしそれを言い訳には出来ない。剣の戦いは本当の命の奪い合いだ。剣に重さを感じているようでは誰にも勝つ事は叶わないらしい。重い一撃を与えようと二本まとめて真横から振りかざした。しかし妖忌はそれを片手で弾き返した、その反動で俺は足をよろめかせながら後ろに下がる。剣を両手で広げ構えていると妖忌は大きな声で言った。

 

「いいか、茶月。戦う時、相手の目を見てはいけない、目に心を奪われるからだ。そして相手の剣を見てはいけない、剣に気が囚われるからだ、そして相手を見てはいけない、相手の気に吸収されてしまうからだ。」

 

言ってる意味が分からなかった。相手を見ずにどうやって戦えというのだ。

 

「その答えが分かるまで、お前はその鉛を使え。」

 

答えの兆しが見える訳もなく、歌聖さんの方を少し見ると、

 

「茶月、負けないでね。」

 

言葉だけ聞くととても心強く感じるのだが、動かしているその口にはあり得ない量の饅頭を頬張っている。呆れていると、

 

「お前によそ見をしている余裕があるとはのぉ。」

 

血管をピクピクさせてる妖忌さんが目の前にいた。今日は眠れそうにないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数ヶ月経って茶月に外で1人で修行させていると歌聖は横に立っている妖忌に話しかけた。

 

「ねぇ、実際のところ茶月って剣術の才能あるの?」

 

妖忌は満面の笑みで言った。

 

「剣術の才能は並ですが、手先が器用でしてね、持ち方コロコロと変えて予想外の動きをしてくるのがとても新鮮ですな。」

 

歌聖は驚いているとそこから妖忌は表情を変えて言った。

 

「しかし、一番驚かされたのは私の攻撃を避ける時ですな。初めこそ攻撃を耐えていたのですが、慣れてきたのか攻撃を避けるようになったのです。」

 

歌聖は声を平坦にして、

 

「避ける時に驚かされるってどういう事なのさ、しゃがむとか横に移動する事がそんなに驚かされるの?」

 

と言うと、妖忌は難しい顔をして

 

「確かにそれだけでは剣士なら出来なければならない事ですが、実は彼が避け初めてからフラフラになる前までの間は私の剣は彼に一度も当たった事はないのです。細かな動きもそうなのですが、確実に当てたはず攻撃も当たらないのです。足を動かさずまるで身体がズレているような…。恐らくは彼は能力を持っているのではないでしょうか、例えば避ける程度の能力のような。」

 

すると今度は歌聖も難しい顔をした。

 

「妖忌の攻撃を全て避けられる程なら確かにそれは能力なのかも知れないね。ふふ、茶月に剣術を教えた事は妖忌にも良かったかも知れないね。もしそれが本当に能力なら妖忌も能力を超えるくらい剣に強くならないとね。」

 

「はい、私もまだまだ修行が足りませぬ。」

 

歌聖は目を上に向けて人差し指を立てながら言った。

 

「そういえば僕も気になってた事があったんだ。恐らく妖忌も気になってたと思うんだけどね。ほら、茶月ってなんで白玉楼に居たんだろうね。聞いてた辺りだとその元神社のところで倒れたらしいし、僕は誰かが運んでいったと考えているんだが、妖忌はどう思う?」

 

妖忌は思い出しかのような顔をすると言いにくそうな顔をした。

 

「私はそれは茶月が死に近づいた為だと思いますな。あなたの死霊を操る程度の能力は日に日に強くなり死を招くようになってきてるのは貴方自身が分かっていることでしょうが、彼に近づいた死を歌聖様が彼と一緒に招いたのではないでしょうか。」

 

「なるほど、それは確かに筋が通っているね。でもそれだと何故彼自身に死が降り掛かる事が無いのだろうか。彼は死に対する抵抗が強いのかな。なんだか考えていたらお腹が空いてきちゃったよ。妖忌、御飯が食べたいな。」

 

「流石ですな歌聖様。すぐにたくさん用意しますよ。」

 

そう言って妖忌は部屋の奥へ行った。

 

 

茶月が白玉楼に戻った時には、居間には米粒一つない沢山のお椀が重ねてあった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。