東方茶月伝   作:甘しろノノん

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二人称と一人称がコロコロと変わります。


四話

 

サツキ、とかいう奴は村がある方向へ突然走りだしていった。思わず手を伸ばしてしまったが、何故止めようとしたのか自分でも分からない。兎に角もう邪魔者は来ないのだ、早く創りあげてしまおう。

 

 

 

それから本当にすぐの出来事だった。サツキが戻ってきたのだ。

 

「なんで戻って来たのよ、もう洞穴は作ってあげたでしょ。」

 

サツキは苦笑いしながら言った。

 

「実は俺、魔法に凄い興味が湧いたんだ。神綺に魔法を教えて欲しくてさ。」

 

驚いた、魔法に興味あるなんて。私が誰かに魔法を見せた時、いつも怯えるか戦おうとする者だけで、歩み寄ろうなんて間抜けは中々いない。余りに予想外なので、笑ってしまった。

 

「ふふ、ごめんなさい、あんまりに可笑しくって。分かってるのかしら、陰陽師のような霊力は人から尊敬され羨まれるけれど、魔法は誰も知らない不可解な力、皆に恐れられる者なのよ。第一貴方の魔力だって…」

 

そういえば彼の中に魔力を感じられない、いや、感じられないのでは無かった、感じているけど見えないのだ。私の目が衰えた訳ではない。彼の魔力が私では感じきれない程大きかったのだ。比べる者はいなかったが、私の魔力が小さい訳ではないはず。もしかしたらサツキは天性の魔法の才能があるかもしれない。

 

「俺はそれでも魔法を学びたいな、何でか分からないけど、身近に感じるんだよね。…あの、聞いてる?」

 

ハッとした。私は固まってたらしい。慌てて正直に言おうとしたが、負けるのが悔しいので嘘をついた。

 

「聞いてるわよ!あ、貴方があんまりに少ない魔力だから可哀想だなって思っただけよ。」

 

サツキはがっかりと肩を落とした後、眼の力を強くして此方へ近づいてきた。慌てて一歩下がるとサツキはどんどん詰めて、私の手を掴んだ。

 

「それでも、頼みたい。神綺しかいないんだ。」

 

近い、近いのよ!

 

「わ、分かったから手を離して!だ、ダメダメな貴方に教えてあげるわ。」

 

男の子、どころか誰にも手を握られた事なんて無かったから恥ずかしくて、恥ずかしかった。

 

「本当か!恩にきるよ、ありがとう神綺。」

 

きっと急に手を握られて驚いたからだ、サツキの眩しい笑顔を見て、胸の鼓動が激しくなっていた。

 

こうしてサツキに魔法を教える事になった。この洞穴は魔力が発生してるのでサツキが自分の魔力を使いづらいだろうと思い、場所を変えて森の中にした。

 

「いい?まずサツキが自分の魔力をハッキリと認識しなければ何も始まらないの。これは私の方法だったけど、目の前の火に私が手の位置を合わせて、手を握ることで火が消え、それでこの不可思議な力を認識したわ。貴方も自分の魔力を流す事を現実に現象としてなる様にしなさい。揺れやすいものを使いなさい。」

 

これでも私は魔法の研究ばかりしていたのだ、魔法は私の証明だから。

 

「なるほど、認識か。」

 

サツキは考え込んでいた。私が魔法で炎を出してもいいけど、それではサツキの為にはならない。って、何でこいつに気を使ってるのよ!

自分で自分に突っ込んでいると、サツキはもう思いついたのか手を叩いた。

 

「そうだ、木に付いてる葉っぱを吹き飛ばすってのはどうだ?」

 

いい線いってる、だがいってるだけだ。やっぱりまだまだね。

 

「付いてる葉っぱだと強い魔力じゃないと飛ばすのは難しいのよ。水の表面を揺らしたりしてみればいいじゃな、」

 

しまった、助言してしまった。思わず口を止めた。しかし、彼は揺るがなかった。

 

「いや葉っぱ飛ばしたい。」

 

「ぷっ、アハハっ。」

 

その真剣な表情は葉っぱを飛ばす為に人生を捧げてる様で笑ってしまった。サツキのせいだ。

 

「酷いな、神綺。」

 

「だって、そんな真剣な眼差しで葉っぱ飛ばしたいなんて言われると、ぷふっ」

 

随分笑ったからか、サツキは仏頂面のまま背中を向けた。

 

「絶対やってやるからな、見てろ。」

 

「ええ、見てるわ。」

 

何だかこの返事が信頼し合ってる様に感じた。そんな訳ないと自分で自分に必死に否定していると、

 

生暖かい突風が吹いた。これは空気ではない、濃い魔力だ、肌で感じられるほどの濃い魔力だ。サツキの方を見ると、数え切れない葉が彼の周りを渦巻きの様に回っていた。

 

「え、嘘でしょ?」

 

思わず口に出ていた。暫く呆然としていると魔力の突風は治った。そしてサツキが又もや満面の笑みで私の手を握る。

 

「ほら、出来ただろう!少しは見直したか?」

 

「え、えぇ。全く、貴方には驚かされる事をばかりだわ。これで貴方は魔力を扱える様になった筈よ。次は発現した魔力の扱い方を…っていつまで握ってるのよ!」

 

サツキもずっと手を握っていたことに気がつくと、手を離した。離れた瞬間身体が寒く感じた、顔はこんなにも暑いのに。私だけ照れて馬鹿みたいじゃない。兎に角、深呼吸して落ち着いてみた。

 

「ごめんごめん、嬉しくってさ。でも、確かに自分に魔力を感じるよ。不思議な感覚だ。」

 

正直、私としてはこんなすぐに発現されると立場が無いのだが。まあ手間が省けるしそれでもいいか。

 

「それじゃ、次は魔力を抑えたり、大きくしたりするわよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は魔力操作の基本をサツキに教えた。彼は兎に角飲み込みが早い。言われた事に一つ二つ加えた事をやってのける、何で今まで魔法を知らなかったのか不思議なくらいだ。そして私も教えるのに夢中なっていて、世界を創るのをすっかり忘れていた。彼は狩りが得意らしく、2人で猪の肉を食べていた。それに彼は本当に魔法に興味があるらしく、さっきからずっと魔法について話し合ってる。

 

「なあ、魔力って何処から湧くんだ?身体にある魔力を全部出しても休めば戻ってるよな。」

 

「私もずっと考えたりしていたんだけれど、魔力は生きる力なんだと思う、休めば生きる力は蘇る、だから身体の中から湧いてるんじゃないかな。魔力だけじゃなくて、妖怪が自分の強さを証明する力の妖力も。」

 

サツキは感心したように頷きながら言った。

 

「なるほどなあ、生きる力か。あれ、それじゃあ霊力は?」

 

「霊力は魔力と対になってるんじゃないかしら。陰陽師って老人が1番力があったりするのよね、経験の差も無くは無いけど、決定的な差は霊力が死の力だからだと思う。そう考えると、死に近い人が使う程霊力は大きくなる。」

 

サツキは少し考えてから、語った。

 

「それじゃあ魔力は若い時が1番強いって事なのか。いつかは失う日が来るのかあ。」

 

「普通はね、でも魔法使いは老いを止める事だってできるのよ。現に私、こう見えて結構お姉さんなんだからね。」

 

老いを止めるのは私の中で1番難しい魔法だった。まあそれよりも難しい魔法を完成させようとしてる途中なのだけれど。

 

「へぇ、神綺って年上だったのか。道理で魔法に詳しい訳だ。」

 

「凄いでしょう。ま、教えてあげないけど。」

 

 

 

時間を忘れる程楽しかった。好きな事を好きなだけ語り合える日が来るなんて思いもしなかった。けど、夜が明けそうだったので流石に寝ることにした。

 

「ねえ、サツキ。どうやって寝るつもりなの。」

 

見れば分かるのに何故か聞いてしまった。

 

「床で寝るよ、布団とか持ってないし。」

 

「じ、じゃあ私の布団に入りなさいよ。」

 

あれ、何言ってるんだろう、私。

 

「え、いいのか?それじゃあ遠慮なく。」

 

サツキは本当に遠慮なく布団に入ってきた。言った私も私だが、私はもう彼の方を向いてられなくなって逆に向いた。身体が凄く熱い、これはきっと2人で入ってるからだ。2人でくっつけば暑くなるからだ、それ以外はない、はず。

 

「おやすみ、神綺。」

 

声を出すのも、何故か恥ずかしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

神綺に魔法を教えてもらって、もう1ヶ月も経った。俺は魔力操作をみっちりと教えてもらい、自分が思う通りに動かせるようになっていた。俺が自分の周りで魔力をぐるぐると回していると、神綺が頷いた。

 

「うん、流石ね。魔力操作に関しては完璧に近いと思うわ。次は魔力変換よ。自分の魔力で本物を物質や仮想の物質を作り出すの、これは魔法の基本よ。多分今のサツキなら簡単にできると思うけどね、しっかりと形にしたいものをイメージするのよ。」

 

何を創造しようか考えた。神綺の魔法を見る限り炎も森に燃え移ったりしなかったから、恐らく魔法で造られたものには何か法則があるのだろう。何かないものかと考えついたのが、白玉楼でいつも飲んでいたお茶の茶碗だった。5年も見ていたのだ、イメージはしっかり持てたはず。出現させる場所に魔力を集中させると、それは容易にできた。

 

「茶碗、かしら。よく分からないけど、でこぼことしてる難しいものを出すなんて、な、なかなかやるじゃない。でも、調子に乗っちゃダメよ!」

 

神綺はきっと面倒で嫌な筈なのに、世界創造を中止してまでやってくれている。凄く感謝していると同時に申し訳なく思う。この恩はいくら返しても返しきれないかもしれない。

 

「ああ、これからも精進するよ。いつもありがとうな、神綺。」

 

神綺は顔を真っ赤にして怒った。

 

「き、急にどうしたのよ!か、感謝されたって嬉しくなんてないわよ!」

 

矢張り迷惑が掛かっているのだ。だからちゃんと言おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サツキが何を言っているのか、一瞬分からなかった。

 

「実は俺、此処を出て都へ向かおうと思うんだ。」

 

「…どうしてよ。なんで!」

 

身体が熱くなって、頭が回らなくなる。

 

「神綺はさ、俺のせいで世界創造が進まなくなってるだろ?だから、後は自分で魔法を磨くよ。それでさ、俺が…」

 

サツキが何を言ってるのか全然分からなくなった。けど、1番分からないのは自分自身だ。しょうがないから彼に魔法を教えてるって、何がしょうがないんだ。何で自分がやりたかった世界創造を投げだしてまで彼に協力していたんだ。兎に角、今の私を彼に見られたくなかった。

 

「神綺、どうしたんだ?」

 

何も分かってないサツキが悪意なき悪意で話しかけてくる。

 

「出てってよ!!もう二度と此処に現れないでよ!何も分かってない癖に、知ったかぶってるんじゃないわよ!」

 

私も分かってなかった。気がついたら泣いていた。ただよく分からない感情に振り回されるまま、力が入らない拳で彼の胸を何回も叩いた。

 

「神綺、ごめんな。今までありがとう。」

 

彼は辛そうな顔で、走り去っていった。その後も暫く泣いて泣いて泣いた。

 

 

 

 

泣き疲れた後、胸がぽっかりと空いた感じで世界を創る気なんて全く起こらなかった。

 

ボーッとしながら地面を見回していると、彼が作った茶碗が置いてあった。それを広い眺めていると、僅かに感じる彼の魔力がとても暖かく感じた。それだけで空いた胸が満たされた。そして、自分の訳が分からなかった感情も同時に理解できた。

 

 

 

認めたくないけれど、私は彼の事を好きになっていたみたいだ、異性として。

 

「私は、サツキが、好き。」

 

口にすると、胸が張り裂けそうな想いと全身に力が湧き上がってきた。彼に会いたい想いが強くなってきた。よく考えると私が彼に会う希望はあった。私には寿命が無い。そして、これは話していなかったが彼にも寿命が無いのだ。彼からは霊力、つまり死の力が欠片も感じなかったのだ。死が無いという事は、成長はしても老う事が無いのだ。時間は有り余る程ある事を考えたら、落ち着いてきた。私は再び世界を創ることにした。世界が創り終えたら、彼をこの世界に迎え入れて、一緒に暮らすのだ。焦る事はない、ゆっくり時間を掛けてより素晴らしい世界を創って、彼に褒めてもらおう。

 

「サツキ、待っててね。いつの日か絶対貴方を迎えにいくわ。」

 

私は彼の茶碗を家宝のように大切に保管して、また世界を創り始めた。




正直魔法の設定を考えるのが1番楽しかったです。
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