というわけで、約3か月ぶりの投稿です。
今回は暑苦しいあの人の回……。とにかく頑張ります。
ではどうぞ
ある日の放課後、僕はまだ解き終わってないナンプレを解き、雪姉ちゃんと比企谷先輩は本を読み、由比ヶ浜先輩は携帯をいじっている。そこで比企谷先輩が今までとは違うことに気付いて顔を上げた。
「ん? っつーかお前なんでいんの」
奉仕部の部員ではない由比ヶ浜先輩が普通にここにいることが不思議で仕方ないのだろう。
「え? あーほら、あたし今日暇じゃん?」
「じゃん? とか言われても知らねーよ。広島弁かよ」
「はぁ、広島? あたし千葉生まれなんだけど」
そういえば男の人の広島弁ってちょっとカッコイイと思う。昔少し憧れていた。
「かっ。千葉に生まれた程度で千葉産まれを名乗られてたまるか」
「ねぇ、比企谷君。あなたが何を言ってるのか全然分からないのだけど」
雪姉ちゃんが心底蔑むように比企谷先輩を見る。
「比企谷先輩がなに言っとるか分からんのは、今に始まったことじゃないと思うんじゃ」
「お前絶対千葉生まれじゃないだろ」
「失礼な。ぼぐはれっきっちしたばい千葉生まれたい」
「お前はどこ出身なんだよ」
「ば、ばい? ばい?」
それより由比ヶ浜先輩が混乱しているので助けてあげてください。博多弁の「ばい」というところだけ繰り返してる。それだと色々誤解を生むのでちゃんと訂正させてください。
ちなみにその前は広島弁。
「由比ヶ浜さん。今のは博多弁よ」
ありがとう、雪姉ちゃん。
「それで、比企谷君は結局何が言いたいの?」
「待て、話すよりもっとわかりやすいのがある」
そういって、比企谷先輩は本を置いて由比ヶ浜先輩を向く。
「いくぞ由比ヶ浜。……第一問、打ち身で出来てしまう内出血のことを何という?」
「青なじみ!」
「くっ! 正解だ。では、第二問。給食のお供といえば?」
「みそピー!」
「ほう、どうやら本当に千葉生まれのようだな」
「だからそう言ってんじゃん」
この人は一体何がしたいんだ。僕の横ではわけが分からないと言いたげに、雪姉ちゃんが肘をついて額を押さえてため息をついていた。
「……ねぇ、いきなり何なの? 今のやり取りに意味はあるの?」
「ただの千葉県横断ウルトラクイズだ。具体的には松戸‐銚子間を横断する」
「距離みじかっ!」
「んだよ、じゃあ佐原‐館山間にすればいいのか」
「縦断してるじゃない」
「じゃあ、野田‐勝浦間でいいんじゃないですか?」
「それ斜断してるだろ」
みんな千葉好きですねぇ。
「では、第三問。外房線に乗って土気方面に行くとなぜかいきなり現れるちょっと珍しい動物といえば?」
「あ、松戸って言えばさー、ゆきのん、つきのん。なんかあの辺ラーメン屋さんがたくさんあるんだって。今度行こーよ」
「僕は全然大丈夫ですよ」
「ラーメン……。あまり食べたことないからちょっとよくわからないのだけれど」
「あたしもよくわからないから大丈夫だよ!」
「それはなにが大丈夫なのかしら?」
由比ヶ浜先輩の興味は千葉県横断ウルトラクイズからラーメンへと逸れていく。それに伴い、雪姉ちゃんと僕もそっちの話題に移るわけで、一人ポツンと答を待っている比企谷先輩のその姿はとても様になっていた。さすがプロのぼっちを名乗るだけはある。
だけどなにも答えないというのは少し気の毒かもしれない。
「ダチョウですよね。先輩」
「お、おう。そう、ダチョウ」
比企谷先輩の初めて見る表情はどこか嬉しそうだった。
× × ×
翌日。日直のためいつもより遅れた僕は廊下でばったりと比企谷先輩と出会った。
「あ、先輩。こんにちは」
「おう、今日は遅いんだな」
「日直だったんです」
そんなことを話しながら部室まで行くと、なぜか雪姉ちゃんと由比ヶ浜先輩が扉の前で立ち尽くしていた。どうしたのだろう、比企谷先輩と顔を合わせて揃って首を傾ける。
「何してんの?」
「ひゃうっ!」
比企谷先輩が声をかけると可愛らしい悲鳴を上げた。
「ひゃう!」って言った! 雪姉ちゃんが「ひゃうっ!」って言った! 可愛いっ! 可愛すぎるっ!! 今の録画しておかなかったのを僕はずっと悔やむことになりそうだ。
でも、一体雪姉ちゃんたちはなにをしていたのだろう。
「あのね。部室に不審人物がいんの」
「不審人物ですか?」
そっと部室の扉を開けて中を見てみると、確かに中には不審人物がいた。もうすぐ初夏なのにロングコートを羽織っている太った人だ。
「確かに不審人物だね。分かった、僕と比企谷先輩で様子を見てくるよ」
「お願いね」
「姉さんたちは念のためにここで待ってて。比企谷先輩は僕の後ろから着いてきてください」
「え? あ、おう」
ゆっくりと扉を開ける。と、いきなり潮風が吹き抜けた。海辺にあるこの学校特有の風向きで教室内にプリントが散らばる。
「クククッ、まさかこんなところで出会うとは驚いたな。―――待ちわびたぞ。比企谷八幡」
「な、なんだとっ!?」
後ろで比企谷先輩が驚く。まあ確かに文脈おかしいからね。
汗まみれでロングコートを着て、さっきは後ろ姿で分からなかったが、指ぬきグローブもはめている。比企谷先輩はとても嫌そうな顔をしていた。そして思い出した。この人はこの学校の生徒だ。二年C組所属、材木座義輝先輩。その特徴的な外見と性格だけは聞いていた。名前は知っていたけれど会うのはこれが初めてだ。どうやら比企谷先輩とは知り合いみたいだし、雪姉ちゃんたちを呼んでも大丈夫そうだ。
雪姉ちゃんたちは教室に入ってみたはいいものの、まだ材木座先輩を警戒しているのか僕と比企谷先輩の背中に隠れている。とにかく話を進めよう。
「それで、なにか依頼ですか? 材木座先輩?」
「ひゃ、ひゃい!?」
「あの、驚かないでもらえますか?」
ただ話しかけただけなんだけどな。困惑している僕に比企谷先輩がこそっと教えてくれた。
「自分のことをお前みたいな有名人に知ってもらえてるのにビックリしてんだよ」
「え、いくらなんでも自虐的すぎません?」
「そういうもんなんだよ」
「ぼっちはですか?」
「おい、もっとオブラート包め」
すると材木座先輩から視線を感じた。いや、僕じゃなくてこれは比企谷先輩に対するものだ。比企谷先輩が僕から離れたのを見ると、ハッと大げさに肩を竦めてゆっくりもったいつけて首を振った。
「まさかこの相棒の顔を忘れたとはな……見下げ果てたぞ、八幡」
「比企谷君、あちらはあなたのことを知っているようだけど」
雪姉ちゃんが僕の背中の後ろから比企谷先輩と材木座先輩を怪訝な顔で見比べる。
「知らない、あんなやつ知ってても知らない」
「でも相棒って言ってるよ……」
比企谷先輩の後ろで由比ヶ浜先輩はとても冷たい目で比企谷先輩を見る。
「そうだ相棒。覚えているだろう、あの地獄のような時間をともに駆け抜けた日々を……」
「体育でペア組まされただけじゃねぇか……」
ああ、余り者どうしで組まされたのか。しかしそれで相棒とまで呼ばれるとは、比企谷先輩ドンマイです。
「ふん、あのような悪しき風習、地獄以外の何物でもない。好きな奴と組めだと? 我はいつ果つるともわからぬ身、好ましく思うものなど、作らぬっ!」
「作れないの間違いでは? それにいつ果てる身ってそれはあれですか? 不摂生によることで起こる病気とかでのことですか?」
思わず言ってしまったことに慌てて口を塞ぐ。しかししっかり聞こえていたらしく、材木座先輩はひくくっと頬を引きつらせた。
「だからもっとオブラートに包めって」
「いや、だって仕方ないじゃないですか。なんかイラッとするんですもん」
「そうね。月乃は悪くないわ」
「そうだよ。つきのん間違ってないもん!」
雪姉ちゃんと由比ヶ浜先輩の弁護に材木座先輩はついに崩れ落ちた。そんな材木座先輩を見かねた比企谷先輩が声をかけた。
「で? 何の用だ、材木座」
「むっ、我が魂に刻まれし名を口にしたか。いかにも我が剣豪将軍、材木座義輝だ」
素早く立ち上がりばさっとコートを力強く靡かせる。そして顔は無駄にかっこよくみせようとしていた。
立ち直りが早い。そこだけに感心してしまう。
「ねぇ、……ソレ何なの?」
平気で人をソレと呼べる由比ヶ浜先輩は加減を知らないと思う。
そして今この場で材木座先輩を知らない雪姉ちゃんたちに比企谷先輩が紹介した。
「こいつは材木座義輝。……体育の時間、俺とペア組んでる奴だよ」
とても簡潔なその紹介を受け、雪姉ちゃんは比企谷先輩と材木座先輩を見比べる。
「類は友を呼ぶというやつね」
ああ、何だか納得してしまう。
「ばっかお前いっしょくたにすんな。俺はあんなに痛くない。それに友じゃないし。お前もしきりに頷いてんじゃねぇよ」
「なんでもいいのだけれど、そのお友達、あなたに用があるんじゃないの?」
『お友達』という言い方にわざとらしさがあるけれど、まあそこは雪姉ちゃんに同意だ。
「ムハハハ、とんと失念しておった。時に八幡よ。奉仕部とはここでいいのか?」
変な笑い方だ。絶対にわざとやっている。
「ええ、ここが奉仕部よ」
その問いに比企谷先輩の代わりに雪姉ちゃんが答えると、一瞬だけそちらに視線をやりそしてすぐに比企谷先輩へと向ける。いや、なんでそっちむくのさ。
「そ、そうであったか。平塚教諭に助言いただいた通りならば八幡、お主は我の願いを叶える義務があるわけだな? 幾百の時を超えてなお主従の関係にあるとは……これも八幡大菩薩の導きか」
ということは、平塚先生は材木座先輩とちゃんとした会話ができたということで。それは平塚先生が根気よく聞いたのか、先生の前だとこういうイタイ発言はしないのか。もし後者ならここでもそうしていただきたい。
「別に奉仕部はあなたのお願いを叶えるわけではないわ。ただそのお手伝いをするだけよ」
律儀にしっかりと答えてくれた雪姉ちゃんに材木座先輩はやはり一瞬だけ視線を向けるとすぐに比企谷先輩へと向き直る。この人は常に比企谷先輩の方を向いてないと落ち着けないのかな。それなんてサ○スバード?
「……。ふ、ふむ。八幡よ、ならば我に手を貸せ。ふふふ、思えば我とお主は対等な関係、かつてのように天下を再び握らんとしようではないか」
「主従の関係どこいったんだよ」
なんか、話が全然前に進まない。少々かったるくなってきた。
「別に天下取るとかゲームの中でだけやってもらえれば結構です。材木座先輩、ここに来たのには依頼があるんですよね?」
「………。う、うむ。しからば八幡よ」
今度は僕をチラッと見た後、やはり比企谷先輩の元へと戻ってしまう。でも、これ以上長続きさせたくなかった。
「そのキャラ設定もう飽きたんで。さっさと依頼言ってもらいます?」
「げひぃっ!」
いきなり叫んだと思ったら膝から崩れ落ちた。
「おい、お前っ! なんてこと言うんだよ!!」
「え、だって全然話進まないんですもの」
「だからって中二病患者にキャラ設定とか飽きたとかいってやるなよ!」
「なんで比企谷先輩が材木座先輩の肩を持つんですか? まさか同類ですか?」
「なわけねぇだろ」
すごい簡単に材木座先輩を見捨てた。まあ仕方ない。
「それで、結局彼はなんなの?」
未知の物を見るように警戒心全開で白くなっている材木座先輩を見る雪姉ちゃん。
「あいつは中二病だ」
「ちゅーに病?」
初めて聞く言葉に雪姉ちゃんは首を傾げる。横で聞いていた由比ヶ浜先輩も会話に加わった。
「病気なの?」
「別にマジで病気ってわけじゃない。スラングみたいなものだと思ってくれたらいい」
その後、比企谷先輩の中二病講座を受けた。
そして思い出すことが一つ。僕が中学生だったころ、クラスの中では比較的物静かな男の子がいた。日曜日、僕が気分転換に散歩をしていた時のことだ。たまたま通りかかった公園でその男の子が木の棒を振り回して、なにやら横文字の長ったらしい技を叫んでいるのを見てしまった。当時はあのおとなしい子の新しい一面に少々面食らっていたが、そうか、あれが中二病か。
「意味わかんない……」
由比ヶ浜先輩が嫌そうに顔を歪めて呟く。
「つまり、自分で作った設定に基づいてお芝居をしているということね」
対照的に雪姉ちゃんは比企谷先輩の説明で理解したようだ。
「だいたい合ってる。あいつの場合、室町幕府の十三代将軍・足利義輝を下敷きにしてるみたいだな。名前が一緒だからベースにしやすかったんだろ」
「先輩を仲間みたいに思っているのはなぜです?」
「八幡っつー名前から清和源氏が武神として熱く信奉した八幡大菩薩を引っ張ってきているんじゃないか」
思わず比企谷先輩をビックリして見てしまった。
「なんだよ?」
「いえ、詳しいんですね」
「……まぁ、な」
気まずそうに顔を逸らす比企谷先輩になんだか察してしまった。
「元、同類だと」
僕の呟きに雪姉ちゃんと由比ヶ浜先輩の冷たい視線が比企谷先輩を射抜いた。
「……まあなんだ。昔は同じだったかもしれない。けど今は違う」
「ふうん」
雪姉ちゃんは悪戯っぽく笑って、僕は材木座先輩の方へと歩いていく。
「じゃあ、今回の材木座先輩の依頼はその中二病とかいう病気を治すということでしょうか?」
ようやく立ち上がったは良いものの、こちらを見て少々びくびくと怯えている材木座先輩に聞く。
「……あ、別に病気じゃない、ですけど」
なんだか困り果てているようだ。チラチラと比企谷先輩にヘルプを頼んでいる。比企谷先輩もなにか言うためにこちらに一歩進んだところで、その足元でなにかがかさりと音を立てた。比企谷先輩がそれを拾い上げる。僕も脇から覗いてみると、そこにはびっしりとやたらめったら難しい漢字が羅列されていた。おそらく小説の原稿だろうか、だけどそのジャンルはまったく分からない。
「これって……」
比企谷先輩はさらに部屋中に散らばる紙を拾い集めていく。
「ふむ、言わずとも通じるとはさすがだな。伊達にあの地獄の時間を共に過ごしていない、というわけか」
感慨深げに呟く材木座先輩を無視して由比ヶ浜先輩が比企谷先輩の手の中にあるものを見る。
「それ何?」
無言で由比ヶ浜先輩に手渡し、由比ヶ浜先輩はペラペラと捲って中身を改める。しかし途中で理解が及ばなかったのか、多くの疑問符をため息で吐き出し比企谷先輩に返した。
「これ何?」
「小説の原稿、だと思うけどな」
やはりそこは当たっていた。比企谷先輩の言葉に反応した材木座先輩は仕切り直すように一つ咳払いをした。
「ご賢察傷み入る。如何にもそれはライトノベルの原稿だ。とある新人賞に応募しようと思っているが、友達がいないので感想が聞けぬ。読んでくれ」
「何か今とても悲しいことをさらりと言われた気がするわ……」
いや、まったく気のせいじゃないよ雪姉ちゃん。
しかしこれで材木座先輩の依頼は分かった。この原稿を読んで感想を言うだけでいいらしい。依頼の内容を確認している僕と雪姉ちゃんに比企谷先輩はチラッと視線を向けてきた。
「お前の依頼は分かった。だが、覚悟はしておけよ」
というわけで、もう一話ぐらい続きますね。
月乃君が少しイライラしてましたね。まあ、実際に目の前に材木座がいたらこうなると思います。
次回は材木座のラノベを酷評しまくる回です。しっかり書けるように頑張ります。
ではでは、第8話ありがとうございました。