モモンガ様のお兄様   作:丸猫

7 / 8

めちゃくちゃ間が空いてしまいました。
リアルの方が忙しいので、ちまちまと進めていけたらいいなと思います。
でも、投稿はまだ先になると思います。


頭のいい人の思考ってどんなんだろうか。


悪魔との談笑

 

 

空鼠は九階層の廊下を歩いていた。

異世界に来てから二日目、空鼠は初めて見るナザリックの中を散歩していた。

お供には、ヴォルフ、そして案内役のナーベラルが付いている。

目を覚ました直後に、モモンガからは簡単な話し合いを行った。ともかくは、情報と自らのギルドの隠蔽が一番ということになった。

情報についてはモモンガの所のNPCが行うことになり、ギルドの隠蔽については各自で行うことになった。

といっても、空鼠のギルドは森の中にあり目立つことも無く、且つ扉さえ隠してしまえば完全に見た目は大樹になる。

空鼠のギルドへの連絡はとっくに鈴鹿御前が済ませており、緊急の連絡網はすでに出来上がっているらしい。そして、ギルドに貯蓄しているのはナザリックからすればアイテム自体も使えないものばかりだ。

ここで困ったのは空鼠だ。唐突にやることがなくなった。

ギルドの管理は小規模のせいで確認は簡単であったし、NPCも少ないせいで顔合わせもすぐにすんだ。

モモンガはギルドの管理面の確認で忙しい。手伝うという選択肢もあったが、一度は自分の目で確認したいということで却下された。そこで提案されたのが、ナザリックの面々に顔合わせを行うことだった。

鈴鹿御前は守護者との話し合い、レゴラスはナザリックの隠蔽の手伝い。そして、残ったヴォルフに空鼠の護衛の任務がやって来たわけだが。

 

「いやあ、すごいですね。」

 

空鼠は嬉しそうに周りを見回した。

空鼠がいるのは、九階層の廊下だ。先ほどまで、昼食を取りに自室をして使っている部屋に戻っていた。

食事としては大満足と言って良い出来栄えだった。満たされた腹を抱えて、空鼠は普段の数倍は機嫌よく歩いていた。

空鼠がナザリックに入ったのは、二、三度ほど遊びに来た時だった。

その時も、九階層に行った程度でその他の階層については知らないことが多いのだ。

 

「いや、先ほどの六階層はすごかったですね。」

「このギルドってめちゃくちゃ広いっすよね。」

「まあ、うちは私一人専用のギルドですから。そこら辺は仕方がないですよ。」

 

大型犬ほどの大きさになっているヴォルフの頭を空鼠は撫でた。

ちなみに、ヴォルフの大きさは課金アイテムによって成り立っている。小型犬サイズから乗れるほどの大きさまでより取り見取りである。といっても、ステータス的には変化はないのだが。

空鼠はそんな会話をしながら、ちらりと斜め後ろを見る。そこには、どこか誇らしそうな顔をしたナーベラルがいる。

その素直さに空鼠は小さく笑った。

そして、改めて周りを見回しながら、一言呟いた。

 

「にしても、見事に人間種の方がいませんね。」

 

その言葉にナーベラルが不機嫌そうに答えた。

 

「栄光あるナザリックに、あのような下等生物がいるわけがありません。」

「下等生物って。なかなか苛烈ですね。そんなに嫌いですか?」

「好きになる要素などあるのですか?」

 

心の底から不思議そうな顔を向けられ、空鼠は苦笑を浮かべた。ナザリックの面々がそういった風に設定をされているのは知っていたが、ここまで清々しい答えが返ってくるとは思っていなかった。

苦笑を浮かべている空鼠に、ヴォルフが質問をした。

 

「そういや旦那は人間が好きなんですか?」

「人間種の私にそれを聞きますか?そういうヴォルフはどうなんです?」

 

特定の設定をしていないヴォルフからどんな答えが返ってくるか気になり、空鼠は良いこととは思えないが質問を質問で返した。

ヴォルフは、その質問にナーベラル同様、清々しいまでに簡潔な答えを返した。

 

「旦那が好きなら好きですし、嫌いなら嫌いですね。」

「思う以上に単純すぎる答えに、私びっくりです。まあ、いいですけどね。でも、人間が好きかどうかかあ。」

 

空鼠は腕を組んで頭をひねった。ヴォルフとナーベラルの視線を感じる。

人が好きか嫌いと言われても、そこまで明確な答えは出せない。というか、元々人間であり、いまでも似たような価値観を持った空鼠からすれば、人間なんぞ空気と同じであって当たり前のものにそこまではっきりとした感情は持てていない。

空鼠は少しだけ悩んだ後に、応えた。

 

「うーん。強いて言うなら、良い人や面白い人は好きですし。悪い人やつまらない人は嫌い?なんですかね。」

「良い人や悪い人ってどんなののことですか?」

「え?そうですね。誰かを愛せる人、不幸の中でも足掻ける人、誰かのために何かできる人、弱い人を守ろうとする人、自分に誇りの持てる人、家族を、大事にできる人、かな?」

 

適当に自分にとって美点だと感じるものを述べるが、何となくしっくりこないような気もする。

曖昧すぎる例に、ナーベラルが呟いた。

 

「申し訳ありません。理解が出来ずに。」

「まあ、私でもよく分からなくなってきましたからね。でも、そうですね。その人がどんなふうに生きていくか、見ていたくなる人、が好きなんですかね。」

 

無理矢理一言にまとめるなら。

空鼠の言葉に、ナーベラルは表情には出さなかったものの、理解できないという雰囲気を発した。

それを察した空鼠は肩を竦めた。ヴォルフも不思議そうに首を傾げる。

 

「うーん。取りあえず、人間には何もしない方がいいってことっすか?」

「まあ、当分はそれでいいですかね。ナーベラルさんも、そこまで深く考えなくてもいいですよ。私は、あくまで客人ですし。あなたが私の発言をあまり重く受け止める必要はありませんから。」

「はい、分かりました。ところで、空鼠様、何度も申し上げましたが、私のことをさん付けで呼ぶ必要はございません。」

「いや、これは癖のようなものなので。ああ、でも。好きか、嫌いかは置いておいても。人間から学ぶことはあるとは思いますよ。」

 

空鼠の発言に、ナーベラルの眉間に皺が寄った。すぐにいつも通りの無表情に戻ったが、空鼠はしっかりとそれを見ていた。

空鼠は意味が分からないと言っているようなそれに、素直な子だなあ、とまた笑みを浮かべる。

 

「人は弱いですよね?」

「はい、惰弱な種族です。大体、一度仕えた主人を裏切る程度の存在ですので。」

(ある種、自分の命を度外視して何かを優先させる方が、変なんですが。でも、これも簡単に死んでしまう人間らしい考え方なのか。)

 

空鼠は、ばっさりいいますねと頷いた。

 

「弱いからこそ、人というのは自分の弱さを補う方法を知っているということですよ。向上を続けない存在は、いつか滅ぶものですよ。停滞こそが何よりも恐ろしいものですし。そういった意味では人間は、種族的な意味では向上を続けるものだと思うんですが。ナーベラルさんは、モモンガの役に立ちたいと思っていますか?」

「はい、それこそが何よりもの喜びだと存じています。」

「即答ですか、慕われてますね。」

「旦那、旦那!俺も、思ってますよ!」

「そうですか、良い子です。」

 

尻尾を千切れんばかりに振りながら自分の足元をうろつくヴォルフの頭を、空鼠はかき回した。ヴォルフはそれに、くーんと甘えた声を出した。

それを見つめるナーベラルの目は、心なしか羨ましそうにヴォルフに向けられる。

 

「弱いからこそ、どうすれば自分がより優れたものになりえるかを考えている面があるということですよ。そういった面は見習うべきだと思いますし。それに、モモンガが言ってしたが。この世界ではそこらにいる農夫がレベル百を超えてる可能性もあるそうです。この世界に人間種がいるという前提ですが、ある程度は人と関わっていくことになるでしょう。なら、ある程度は態度を考えなくちゃいけないってことですよ。」

「人間と仲良くしろと?」

「そういう意味じゃないですから。取り繕うことと演じることも考えるってことです。まあ、あなたは素直な子の様ですから無理ですかね。」

「・・・・・モモンガ様も、望まれることでしょうか?」

「うーん、でも現状どんな戦力やら派閥というのか、そういったものが不明瞭な現状ですから。敵対にならないってことは望むと思いますよ?」

 

ナーベラルは空鼠の発言に、何か思うところがあるらしく考え込んでいる。空鼠はそんなナーベラルを見ながら、このよく言えば素直、悪く言えば直情的な娘には表面上取り繕うのは無理だろうな、と考える。

 

「・・・・・何か、楽しそうなことを話されていますね。」

 

背後から聞こえてきた声に、空鼠たちは振り向いた。そこには、空鼠からすると胡散臭い、という印象を抱いてしまう笑みを浮かべたデミウルゴスが立っていた。

いつの間にか廊下で話し込んでいた三人にデミウルゴスが近づいてくる。

 

「ああ、デミウルゴス君。どうかしましたか?」

 

その言葉にデミウルゴスの眉が一瞬だけ動いた。そして、眼鏡のブリッジを押し上げた。

 

「空鼠様、私のことは呼び捨てで構いませんよ。」

「デミウルゴス、ですか?うーん、デミウルゴス君の方がしっくりくるので、そう呼ばせてください。」

 

デミウルゴスは何とも言えない表情をした後に、わかりました、とだけ頷いた。

 

「モモンガ様に報告をしてきたのですが。空鼠様が個人的に守護者などに会いに行っておられると聞きまして。丁度お姿を発見し、声を掛けました。」

「ああ、なるほど。私もこれからお世話になるので、よければ個人的に挨拶だけでもと思いまして。改めまして、初めましてデミウルゴス君。君の存在自体は、ウルベルトさんから聞いていましたが、直接会うのは初めてですね。」

「ウルベルト様と、お知り合いですか?」

「はい。まあ、彼からは森の引きこもりなんて呼ばれていましたが。」

「・・・・もしや、隠形の賢者ですか?」

 

デミウルゴスの言葉に空鼠は内心で顔をひきつらせた。

ウルベルトは、中二病であった。そんな彼からすれば、お助けNPC扱いされる空鼠は格好の対象だったのか、へんなあだ名を付けられた。

それが、隠形の賢者、などというあだ名の発端である。

 

(いつの間にか、ほんとに広まってるんですからびっくりですよね。)

 

面白がったらしい運営からも、含む様な発言をされたおかげで一時期は考察することが流行ったらしいのだから、一人の人間の中二病やら、組織の悪ふざけというのも侮れない。

 

「そんな大層なものではないですが。まあ、そう呼ばれていたのは確かですね。」

「なるほど、あなた様が。」

「なあ、デミウルゴスの旦那は人間って好きか?」

 

デミウルゴスが何かを考えているところに、ヴォルフが割り込むように彼に聞いた。デミウルゴスは一瞬だけ、瞬きをした後ににっこりと笑みを浮かべた。

 

「彼らの苦悶に歪む顔ほど楽しいものはありませんね。」

 

予想を上回る発言に、空鼠は心内で血を吐いた。

 

(どぎつい、どぎつすぎますよウルベルトさん!いや、まあこういった清々しいまでの悪党というのか非道なキャラクター好きですけど。いや、でも実際目の前にすると、また感想が違ってくるな。)

「ふーん、あんたは人間が嫌いなのか。ん?いや、ある意味屈折した意味では好き?旦那は、人間が好きなんだと。」

「・・・・・そうなのですか。」

 

空鼠は、デミウルゴスの雰囲気が変わったのを何となく察した。先ほどの発言の後に、わざわざ自分の考えをデミウルゴスに行ったヴォルフに頭を抱えたくなる。

が、いまさら偽れないと思い、苦笑を浮かべて応えた。

 

「ええ、良い人や面白い人は好きですし、仲良くしたいと思いますよ。人間にも色んな存在がいますから。愚かである、と一括りにしてみるのは簡単ですが。どんな事にもイレギュラーはあります。鼠を追い詰めた猫の気分を味わって、噛み付かれるなんて御免でしょう?」

「窮鼠猫を噛む、ですか?」

「お、物知りですね。まあ、そんな感じです。人間だろうが何だろうが、それ自体に美点や優れている点があるなら、それを受け入れるというか、認めることって大事なんだと思いますけど。」

 

どこか言い訳じみている気がしないでもない発言に、デミウルゴスは何かを考えるような仕草をした。

 

(うーん、なんかまずいこと言っちゃったかな。でもなあ、ウルベルトさんから聞いた設定からして、相いれないのかな。)

 

空鼠の考えとは大きく違い、デミウルゴスは深々と空鼠に礼をした。その表情は、どこか喜の感情が浮かんでいるように見えた。

と言っても、知恵者として創られた彼が本気で偽ろうとすれば自分には何も察することは出来ないだろうが。

 

「非常に興味深いお話をお聞きしました。ありがとうございます。」

「いえ、そんな大層な話ではないですよ。」

「いえ、そのようなことはありません。私は、そろそろ失礼させていただきます。またの機会に、お話させてください。」

「はい、仕事の最中に引き留めてすみません。」

 

空鼠はデミウルゴスの背中を見送りながら、一番癖の強そうな人物が終わったと肩の力を抜いた。

 

(いや、でもシャルティアとアルベドが残ってるんですよね。)

 

作り出した存在の濃さと、チラリと聞いた設定の内容を考えて首を振った。

 

(いえ、まだ残ってますね。そういえば、アルベドってあんな子でしたっけ?ヴォルフから聞いた通りなら、あの子のことが好きなようだけど。あとで、聞いてみましょうかね。)

 

 

デミウルゴスは廊下を歩きながら、先ほどまで話していた空鼠のことを考えていた。

 

(人とは、油断できない。美点があるなら、受け入れるべき。)

 

デミウルゴスの脳裏には自分の創造主たるウルベルト・アレイン・オードルのことを思い出していた。

彼は時折、自分の所に来ては嬉々として話していたことを思い出した。

ウルベルトは、面白い奴に会ったと言っていた。彼曰く、その隠形の賢者とはどこまでも公平な男なのだという。ある種、何にも平等であるからこそその考え方が面白いのだと言っていた。

デミウルゴスは、今回のナザリックの移転に関してこの世界に対する警戒はあったと思う。だが、心の奥底では外の世界の存在を、ナザリックの以外の存在を軽んじているのも事実だった。

窮鼠猫を噛む。この言葉に冷や水を浴びせられたような感覚を覚えた。

前にも、このナザリックに攻め込んできたものたちに自分は敗れた。その中にはもちろん、人間種はいた。

至高の御方々に匹敵する敵対者は存在する。種族など度外視し、その存在がどの程度か知ることは大事なはずだ。

もちろん、こんなことは当たり前のことだ。だが、自分以外の存在はどうだろうか。

これからある程度外の世界に出る上で、しもべや守護者ももしかしたら駆り出されるだろう。その中で、その軽んじる心が恐ろしい失敗を生むかもしれない。

もしも、それで唯一残ってくださったモモンガ様に失望されたなら。

デミウルゴスはその考えに背筋を震わせた。

先入観は持つものではない。

デミウルゴスは、他の存在にどう言い含めておくか。頭の中で考え始めた。

 

 

 





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。