モモンガ様のお兄様   作:丸猫

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空の宝箱

 

 

「・・・・・つまり、アルベドの設定を書き換えちゃったってことですか?」

「・・・・・はい。」

 

人払いをかけた寝室にて、モモンガはどこか一回り小さくなって空鼠の質問に答えた。

 

「まあ、設定を書き換えたのは最後のノリというか、そんな感覚でしょうけど。でも、自分を愛してるって・・・・」

「あああああああああああ!わかってるから!イッタイことしたって自分でも思うから!何であの時、あんなことをしちゃったんだろ。タブラさんになんて言えば。」

 

弟の、騒いでから落ち着き、騒いでから落ち着き、という何とも騒がしい挙動を見ながら、そこまで気にすることだろうか、なんて考える。

ナザリックのメンバーはすでにほとんどが抜けている状態だ。というか、自分の装備をほとんど置いていってしまっている時点で帰ってくる意志はない。

すでに設定した本人もアルベドのそれを覚えているかどうかも分からない。

恐らく彼も、モモンガに謝られても困惑するだけだろう。彼にとって、ここは過去なのだろうから。

 

(ここに執着しているのは、モモンガだけなんだと思いますけど。)

 

もしかしたら、そんなことはないのかもしれないが。空鼠としてはそんな予想がある。けれど、空鼠もモモンガにそんなことを言う気はない。それは、モモンガを傷つけるだけのものだ。空鼠はモモンガに笑いかけた。

 

「まあ、仕方がないですよ。そういうその時のノリで失敗することってありますし。今更、書き換えることは出来ませんから。というか、タブラさんは大丈夫だと思いますけど。アルベドについてはちゃんと対応しないといけませんよ。」

「・・・・責任、取るべきだよな。」

「ええ。タブラさんについては土下座だろうが何とかして一緒に謝ってあげられますけど。彼女の中にある恋心については、君自身が責任を取らなくちゃいけませんよ。変えてしまった自負があるならね。」

 

空鼠の言葉にモモンガは、肉のない骸骨だったが明らかに何とも言えない表情を浮かべた。

そんな表情をしたくなる気持ちも分かる。話したのはさほど長くはないが、そんな顔をしたくなる気持ちは察せられた

 

「でも、アルベドの恋心は俺が植え付けたものだし。」

「そんなことを言えば、NPC全員の性格から価値観まで私たちが植え付けたものにすぎませんよ。」

 

空鼠の切り捨てるような言葉に、モモンガは言葉を失った。空鼠はそれを察していても、言葉を続けた。

 

「別にね、アルベドからすればそんなことはどうだっていいんだと思いますよ。彼らからすれば、植え付けられた感情だって最初から自分の中にあったものでしょうし、真実のはずだ。もう設定を治すことが出来ないなら君がすべきなのは、彼女の感情を認め、誠実な対応をすることだと思いますよ。」

「誠実、な対応。」

 

明らかにどうしていいか分からずに困惑していることを察して、空鼠は目の前に置いてある紅茶を啜った。

紅茶の美味しい入れ方なんぞよく知らないが、十分においしいと感じた。

カップを目の前のテーブルに置き、言葉を続けた。

 

「その気持ちを受け入れられないって事と、好きって感情自体を否定されるのは別さ。誰かが誰かを好きだと思っていることと、好きって感情自体が嘘だって切り捨てるのは違うでしょう。」

「それは、アルベドの気持ちを受け入れろって事?」

「まさか。私は、アルベドよりも君の方が大事ですからね。君がアルベドを好きになれないなら、私はアルベドの恋を否定しますよ。でも、受け入れられないなら、ちゃんときっちり振ってあげなさいということです。このまま優柔不断に受け入れもせず、否定もせずはあまりにもむごい気がしますけど。さっきも言ったでしょ、誠実な対応をすることって。」

「・・・・・受け入れろって言われてもなあ。誠実、誠実って。」

「誠実な対応って言ってもただ単に相手に対して有利なことをするってことじゃないですよ。今回のことは明らかに不可抗力ですし、好きでもないのに無理やりそういった関係になっても両方不幸になるだけだと思いますよ。だから、ちゃんと考えてあげてください。真剣に、必死に。このまま、彼女とどうなるかについて。」

 

モモンガはそれにどうしようかと唸り声さえ上げて悩んでいる。空鼠はそれに苦笑した。この自分に対しては少々我儘も言う弟が、嫌がっていない所を見ると憎からず思っていないわけではないのだろう。

 

「アルベドのことって、嫌いですか?あんなに美人で。おっぱいだって大きいですけど。」

「いや、確かに美人だし、おっぱいだって大きいけどさ。その、なんというか。受け入れたら、なんかもっと恐ろしいことになりそうというか。」

「あー。まあ、確かに数度話した限りでも、あれですよね。怖いというのか、一度ゴ―サイン出したら骨の髄まで食い尽くされそうというか。」

 

言ってしまえばがつがつしているアルベドに引いていることを察して、空鼠は何とも言えないような顔をした。

そして、モモンガはぼそりと呟いた。

 

「それに、実戦使用しないで、なくなっちゃったし。」

 

空鼠は一瞬その言葉の意味が分からなかった。が、モモンガの視線は下半身に向いていることから何が言いたいのかを察した。

 

「あー・・・・・えっと。」

 

空鼠は何を言って良いのか分からずに思いっきり目線を逸らした。

 

「兄さん、今視線逸らしたよな!?」

「い、いや、その・・・・・」

「兄さんは恋人いたこともあるもんな。」

「ああ、もう。すみませんよ、どう言って良いかわかんなくて。まあ、恋人がいたって言っても、婚約までして別れちゃいましたけど。」

 

少しだけひがみの籠ったモモンガに、空鼠は宥める様に弁解をした。モモンガは感情自体はすぐに消えてしまったが、そんな様子の空鼠が面白く、少しだけ怒ったふりをした。

モモンガの脳裏に当時のことを思い出し、不愉快な感情が胸に広がった。

別れを切り出した相手側に怒りと、そんな女と兄が結婚しなくてよかったとモモンガは鼻を鳴らした。

感じていた感情が消えていくのを感じて、モモンガは肩を竦めた。

 

「大体、なくなっちゃった時点で手を出す出さないってレベルじゃないし。」

「そうですね、手が出せませんもんね。」

 

段々下くなっていく会話の中で、空鼠は目の前の弟がもう性欲はおろか、眠ることも食べることも無くなってしまったことにようやく気付いた。

そして、ナザリックで食べた口からビームが出そうなほどおいしかった食事を思い出した

 

(彼らも、私にじゃなくってモモンガにも食べてほしいだろうなあ。)

 

「モモンガ、私は決めました。」

「え、何を?」

「どうにかして、モモンガに生身の体を戻そうと思います。」

「え、何で?」

「モモンガ、ご飯、食べたくないですか?」

 

モモンガは、それに空鼠が食べていたナザリックの食事を思い出した。正直言えば、リアルの食事との落差に忘れそうになっていた微かな食欲が刺激された。

 

「ここのご飯、めちゃくちゃおいしいんです!是非とも、食べてほしいんです!」

「・・・・本音は?」

「君とご飯を食べれば、おまけがついてきそうなので。」

「正直だなあ。」

「あと、君とご飯が食べたいんですよ。」

 

正直な空鼠の言葉に、モモンガは苦笑した。そして、考えれば毎日とはいかないが兄と共に食事を取っていたという習慣を忘れていたことに気づく。

それに気づくと、どこか落ち着かないような気分になるのだから不思議だ。

 

「そうだな。まあ、頑張ってよ。」

「ええ、頑張ります。そしたら、みんなでご飯を食べましょう。」

 

空鼠の、へらりとした笑みにモモンガは薄れてはいくものの力が抜けるような安堵を感じた。

頭の中には、自分の友人たちが残していった忘れ形見ともいえる彼らのことが思い浮かんだ。

 

(あいつらの、好物はなんなんだろうか。)

 

今度、そんなことを交えて雑談にでも興じてみようかと、モモンガは浮かべることも出来ない微笑みを浮かべた。

 

 

「兄さん、ところで少し外に出てみないか。」

「え?いいんですか。」

 

答弁の申し出に空鼠は困惑したように首を傾げた。けれど、その瞳には明らかな期待が浮かんでいる。

気分転換だ、と言えば顔をキラキラとさせながら行きましょうと頷いた。

外の様子を聞くたびに、瞳を輝かせて語る様はモモンガの心をくすぐった。前に地上まで行きはしたものの、兄の事で頭がいっぱいだったせいでまったく覚えていないのだ。

そして、何よりも自分を気遣う兄に何かお返してしたかったのだ。

空鼠は数時間に一度、モモンガの元を訪れた。そして、相談だとか適当な理由を付けて二人っきりになる。

彼は、それにナザリックの話だとか、挨拶をしてきた守護者だとか、メイドだとかの土産話を持参した。

今まで、大好きだった友人たちと創り上げた彼らに命が吹き込まれた様は、面白いし、興味深かった。

そして、モモンガは空鼠がそうやって足繁く通うのは、自分の気分を紛らわせるためだということを知っていた。

休むことの叶わない自分を気遣っているのか、素で居られる場所を作ろうと必死なようだった。証拠に、空鼠は自分から話すくせにモモンガが何かを話し出すと黙り込み、その話を優先する。

事実、モモンガも幾つかの愚痴も吐き、上位者として振る舞わなくてもいい時間を設けられるのはありがたかった。

 

「いきましょ、早く。」

「ああ、分かったから。服を引っ張らないでくれ。」

 

空鼠は外に出られるということで相当はしゃいでいるのか、聞いていないようだった。それに、モモンガは小さく笑った。

 

 

 

ナーベラルを何とか丸め込み、二人はモモンガの持つリング・オブ・アインズ・ウールゴウンの力で大きな広間に転移した。

左右には細長い石の台が幾つも置かれ、床は磨かれたような白亜の石。自分たちの後ろには下り階段がありその先には大きな両開きの扉が見える。

 

(ここは?)

(指輪の力で転移できる一番地表に近い場所だよ。)

 

体を動かすと、モモンガの着ている溝付鎧(フリューデットアーマー)が騒がしく音を鳴らした。空鼠は黒いローブと白い鼠を模した面を被っている。

正面入り口から漏れ出る青白い月光が当たりを照らしていた。

二人は早速外に出ようとしたが、同時にその足は止まった。

二人の視線の先には幾多の影がある。

異形は全部で三種類、格四体ずつの十二体。

一つ目はは正に悪魔のごとき恐ろしい顔つきで、牙を生やし、鱗に覆われた肉体を持っている。

二つ目はボンテージファッションの女性の体とカラスの頭をしている。

そして、三種類目は前の大きく開いた鎧を着込んでいる。見事な腹筋を外に出している悪魔。整った顔立ちをしているが、その目は異様にぎらついている。

憤怒の魔将、嫉妬の魔将、強欲の魔将の三人だ。

 

(悪魔?確か、第七階層に配置されているはずだが。)

(でも、守りのレベルを上げてるならおかしくないのかも。ん?)

 

じっと観察していると、影の間から鈴鹿御前が姿を現した。そして、その視線が二人に向けられた。

 

(あ、ばれた?)

(い、いや、一応かくして。)

「主に、モモンガ様、どうしたので?」

(はいー、ばれてますね!)

(ばれてるな!)

 

二人はばれたことに諦めを覚え、鈴鹿御前たちに歩み寄っていく。

鈴鹿御前は真っ先に空鼠のもとに向かう。

 

「こんなところにわざわざどうされたので?」

(どうする?)

(いや、気分転換に外に出たいっていうのもなあ。)

(私が駄々こねたことにします?)

(さすがにそれは。)

 

モモンガと空鼠がどうしようかと悩んでいると、モモンガたちに近寄る影が一つ。

やってきた悪魔が片膝を付き、頭を下げれば申し合わせたように他の悪魔も同じ行動をとった。

 

「これはモモンガ様に空鼠様。近衛もお連れにならずここにいらっしゃるとは、一体何事でしょうか?それにそのお召し物。」

「少々事情があってな。私達がが何故このような格好をしているかか。それはデミウルゴスであれば分かるはず。」

(口から出まかせが過ぎません?)

(でも、他にどうしようもないだろ!?)

(そうですけどね。これ、どうなるんだろ。)

 

正直、鈴鹿御前の目線が痛い。

 

「大変申し訳ありません。私ではモモンガさまの深遠なる思慮ーーー」

「ダークウォリアーと呼べ」

「ダークウォリアー様ですか・・・」

「えっと、じゃあ私はダークラットで。」

(いや、兄さん、俺も人の事いえないけどさ。)

(まあ、この場しのぎですし。)

 

ナーベラルにお忍びだからとごり押しで出てきた手前、素直に名前を名乗れずに二人は偽名を名乗った。

そこでデミウルゴスの顔に悟った、という表情を浮かべた。

 

「なるほど。そういうことですか。」

 

え、何が?

二人が同時にそう思っていると、デミウルゴスは鈴鹿御前の方に視線を向けた。

 

「どう思う?」

「おそらく、そちらと予想は同じだと。」

 

二人で頷き合っている中、モモンガと空鼠は互いに困惑し合っていた。そこで、デミウルゴスと鈴鹿御前は二人で頭を下げた

 

「ダークウォリア-様の深遠たるご意向の一端は把握できました。正にこの地の支配者たるお方に相応しいご配慮かと考えます。」

「けれど、供を連れずにとなると私たちとしては見過ごす訳にはいきません。仮に、モモンガ様については大丈夫でしょうが、我が主に関しては護衛は必須と考えます。」

「ご迷惑とは重々承知しておりますが、何卒この哀れなものたちに寛大な御慈悲を賜りますようお願い申し上げます。」

(・・・・・えらいことになったね。)

(もう完全に連れてかなきゃ収まらないぞこれ。でも、確かに兄さんに関しては護衛はいるか。)

(自分の信頼される弱さに泣きそうですよ。)

「なら、デミウルゴスと鈴鹿御前の護衛を赦そう。」

「そうですね。鈴鹿とデミウルゴス君なら安心ですね。」

 

空鼠の言葉に、鈴鹿御前は少しだけ得意そうな顔をした。デミウルゴスに関しては、表情を変えなかったが喜んでいるんじゃないだろうかと感じられた。

 

「じゃ、行きましょうか。」

 

一段落ついた後、空鼠は外へと歩き出した。その後に、モモンガが続く。

そして、その後を鈴鹿御前とデミウルゴスが続いた。

 

 

 

自分の視界に広がる宝石をぶちまけた様な夜空に、モモンガは感嘆のため息を吐いた。

空鼠は前から考えていたことを実行に移すことにした。

取り出した小さな翼を象ったネックレスを取り出した。そして、モモンガにそのネックレスを見せ、上を指さした。モモンガはそれに何もかもを察したのか、頷いた。

空鼠は一足先にと、ふわりと空へと舞い上がった。それに続いてモモンガも浮かび上がった。

 

「ふふふふふふ、あははははははは、楽しいなあ!なあ、見てごらんよ。」

 

空を飛ぶという未知の体験に、空鼠は吹っ切れた様に笑いながら手を大きく広げた。

モモンガはそれに、ああと頷いた。

青白い光が、緑色の海にも見える草原を照らしている。夜の匂いを孕んだ風が、草原を撫でるたびにまるで本当に波が経っているように見えた。

 

「ああ、本当に素晴らしい。いや、素晴らしいなんて言葉では収まらないな。」

「私が、はしゃぐ理由も分かるでしょう?」

「ああ、分かるよ。ブルー・プラネットさんも見せてあげたい。」

 

その時、どこからかばさりという羽音が聞こえて来る。音源の方に視線を向けると形態を変化させたデミウルゴスがいた。

空鼠は久しぶりに見た見慣れない‘異形‘の姿に体をびくりと揺らした。

 

「星と月明かりだけでものが見えるなんて・・・・・ほんとに現実の世界とはおもえない・・・」

「そうなのかもしれません。この世界が美しいのはモモ、ダークウォリアー様の身を飾る為の宝石を宿しているからかと。」

「おや、モモンガ、口説かれてますよ。」

「からかわないでくれ、兄さん。」

「ふふふ、すいません。はしゃいじゃって。ところで、鈴鹿、君、何してるんですか?」

 

空鼠の目線は、デミウルゴスの片足に捕まり、ぶら下がっている鈴鹿御前に注がれている。鈴鹿御前は疲れた様にため息を吐いた。

 

「私は飛ぶ手段が無いので、急遽彼にしがみ付いたんですよ。」

「あー、そうでしたね。すいません、デミウルゴス君。」

「・・・・・いえ。」

 

デミウルゴスとしてもやはり不本意だったのか、その返事に元気はない。

その顔がどこか面白く、空鼠はくすくすと笑った。

そして、モモンガの隣りまで進み、どこかうっとりとした声で言った。

 

「でも、本当にすごいですよね。なんだか、独り占めにしている気分になるなあ。」

「本当に独り占めでもするか?」

「おや、どうやって?」

「この世界にどのような存在がいるかも不明な段階で、この発言は愚かなんだがな・・・。そうだな、まずは世界征服でもなして見せればいいだろうさ。」

「ふふふ、それは素敵ですね。」

 

(厨二が爆誕しちゃいます!)

(止めて、やっちゃったなあって思ってるから!デミウルゴスが乗せるのが悪いんだ!というか、兄さんも乗っかってるじゃん。)

(いや、こういうのは乗っとくべきかなあって。)

「お望みであり、ご許可さえいただけるのであれば、ナザリック全軍をもってこの宝石箱を手に入れてまいります。」

「それを主が望むのなら。何を持っても捧げてみましょう。」

(ほら、鈴鹿御前も乗って来たぞ!)

(デミウルゴス君なら分かるけど、鈴鹿まで!?私が思ってる以上にノリがいいのかな?)

 

二人が思わずどこぞの悪役のような台詞を口にしていると、視界の端に何かが写った。

範囲にして百メートルを超える大地が、まるで海原のようにうねりだした。平原から次々と生み出された小さな隆起たちがゆっくり一方へ進みだすと、互いに飲み込みながら徐々に一塊に集い、最終的にはナザリックの強硬な壁にぶつかり砕け散った。

 

「おおおおおお!すごい!」

「《大地の大波》スキルで範囲拡大しているな。流石はマーレ。」

「・・・・その隣にいるのは、レゴラス?ちょっとすいません。あの子に声かけて来ますね!」

 

頑張っているレゴラスに何かを話してやろうと、空鼠は一気にそちらへと下降した。それにモモンガも続いた。

 

 

 

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