灰に塗れた道の先へ   作:ヴィリバルド

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原作読んで勢い任せに書いたのでプロット大分適当ですが頑張って書いていきたいです。


目覚め

〝──目覚めよ(アウェイク)。〟

 

 声を聞いたような気がした。

 けれどそんな些細な感覚は目の前を埋め尽くす暗闇に呑まれてすぐに消えてしまう。

 

「え?」

 

 あまりにも目の前の光景が唐突過ぎて、そんな間抜けた声が口を衝いて出る。

 寝そべっていた身を起こしぐるりと周囲を見回すと蝋燭の灯りがどこかへ続いていることに気づいた。

 背中に残る鈍い感触、洞窟のような場所らしく岩肌の感触が足裏に感じられる。

 

「ちょっと……何よここ?」

 

「誰かいるのか?」

 

 周囲で声が上がってようやく気づいたがこの場には自分以外の人間が居るらしかった。

 まだ暗闇に目は慣れないが身を起こす人の気配、衣擦れの音は少なくは無いが多くも無い。

 知っている人は居るだろうかと思考したところでハッと気づく――そんな人間が存在する記憶が全くないという事に。

 友人、家族、当たり前にいるはず、()()()()のそんな人達の記憶すら思い出すことができない、どころか何故自分がこのような場所に居るのかすら分からない。

 明らかに異常な記憶の欠落に全身が総毛立つようだった。

 そんな中で暗闇を歩き出す気配がして目を向けると、一人の少年が蝋燭の灯りが続く道へ踏み出していた。

 見た目は自分と同じ年頃ぐらいに見える、顔立ちはすっきりと整っていて異性から好まれそうな爽やかさが滲み出ているが、彼もまた俺と同じ心境なのかその顔色は不安に翳っているようにも見える。

 

「ど、どこに行くの?」

 

「こっちに道あるみたいだし、とりあえず外に出れないかと思ってさ」

 

「待ってよ、あたしも行く!」

 

 動き出した少年の後に不安に急かされるような声を上げた少年と少女が続く。

 まだ混乱は収まっていなかったが、取り残されてしまうような感じが嫌で三人が向かった方へ足を向けてしまう。

 

「っと、ごめん」

 

「……悪い」

 

 上へと続く階段のある狭い通路に入ろうとした時、同じように続こうとしていたらしい背の高い少年とぶつかりそうになって互いに謝り交わす。

 蝋燭の灯りに照らされた顔はぶすっとした仏頂面をしているように見えたが表情の動きの無さを見ると不機嫌というより元々そういう顔立ちをしているらしい。

 そう身長が低いわけではない、と思う自分がその顔を見上げていることで本当に相手の背が高いらしいとこんな時に少し羨ましくなってしまう。

 けれど自分と同じように道を空けるように一歩引いてしまっているせいか威圧感は感じない。

 

「――あ」

 

 僅かな間だが道を譲り合って固まってしまっていた二人の間をするりと一人の女の子が抜けて行った。

 すれ違う瞬間、その大きな瞳に視線を吸い寄せられるが少女の方はちらりとこちらを見ただけで通路を進んで行ってしまう。

 

「……俺達も行く?」

 

「……そっすね」

 

 残っている人の気配は無い。

 最後になってしまったらしいお仲間と気まずそうに言葉を交わしてようやく階段を登り始めた。

 そのまましばらく登り続けた先、星の煌めく夜空――外の風景が目に入り思わず足が速まる。

 そよ風に肌を撫でられる、外に出て振り返って目に入ったのは天へ伸びる大きく長い石造建築、それまで洞窟だと思っていた場所はその大きな塔の内部だったらしい。

 出てすぐのその場には先に出た二人の少年、二人の少女が手持ち無沙汰な様子で周囲を見回している。

 出てきた塔は小高い丘の上に建っているらしく一帯は草原、見下ろす風景の先にある周囲を城壁に囲まれ石造りと木造の建築が混在している都市に目を引かれた。

 

「なんか、ファンタジーって感じだな」

 

 始めに行動を起こした少年の呟きに胸の内で同意し、次いで疑問が湧く。

 何が幻想的(ファンタジー)なのだろうかと。

 目の前にあるのは紛れも無い現実であるはずなのに、ごく自然にその感想を受け入れてしまったことに違和感を覚えてしまう。

 奇妙なリズムを口ずさむ人影が現れたのはそんな時だった。

 

「ちゃららららーん、ちゃららららーん、どうも皆さまお元気ですか~?」

 

 塔の裏手から現れた髪を二結びにした女性は場にそぐわない陽気さでそんなことを問い掛けてくる。

 わけが分からず顔を見合わせてしまう俺達にその女性は続けた。

 

「案内役を務めさせていただくひよむーです、グリムガルへようこそ皆さま、よろしくお願いしますー」

 

()()()?」

 

 その単語を聞きつけた少女、先に外へ出たショートカットの女子の声にひよむーと名乗った女性は大仰に頷くとにっこりと笑い肯定を示した。

 

「はい、とりあえず私の後をついてきてくださいねー、このままここに居ると死んじゃうこともありますから、はぐれないように気を付けて下さーい」

 

「死ん……!?」

 

 陽気な口調から飛び出した物騒な物言いに驚くこちらを尻目に案内役を自称したひよむーは背を向けてスキップを踏むような足取りで丘を下り始めていく。

 よく見れば黒い土を踏み固めた道が眼下の都市の方へと続いていた。

 突然現れた案内人とやらが信用できるのか分からなかったが、彼女以外に当てに出来るものは無い。

 それは他の五人も同じことらしくやがて誰からともなくひよむーの後を追いかけることとなる。

 不安が燻る中、夜が明けようとしているのか白み始めている夜空を見上げてハッと気づく。

 浮かぶ()()()

 月が赤いというその事実に耐え難い違和感を感じるのだった。

 まるで――異世界に来たような、そんな気にさせられるぐらいに。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

「オルタナ辺境軍義勇兵団レッドムーン事務所へようこそ、子猫ちゃん達。アタシは所長兼ホストのブリトニーよ、所長って呼んでもいいし、ブリちゃんでもいいわ、ただしその場合は親愛の情をたっぷり込めて呼ぶこと、いいわね?」

 

 丘の上で見下ろした都市、その中で案内されたある建物の中でカウンターの向こうに腰かけた男がそう口にした。

 女口調であるが間違い様が無くブリトニーと名乗ったそいつは男性、それも顎は割れがっしりとした体格のいい男だ。

 気にはなるものの染めているのか緑色の髪に口紅まで引いている男の纏う怪しげな雰囲気に口に出すのは躊躇われる。

 ひよむーの方は俺達をここまで案内するなりさっさとどこかへ消えてしまった。

 

「今回は六人、キリのいい人数ね、まあそうなるかはあなた達次第なんだけど」

 

 言いながらこちらを値踏みするようなブリトニーの目つきが居心地悪い。

 それに六人という半端な数にキリがいいというのはどういうことなのだろうか。

 

「あのー……俺、ていうか俺達だと思うんだけど、気づいたらあそこに居て、右も左も分かんない状態で、何か知ってるなら教えてもらえません?」

 

 塔でも真っ先に行動を起こした少年がブリトニーに尋ねている。

 だがやはり彼も記憶が抜け落ちているのか、その問いかけは要領を得ていない。

 

「さあ、あなた達についてアタシは知らないし、知ってる人間はこのオルタナに誰も居ないわ、おそらくね」

 

「え……?」

 

「そんなあなた達に今この場で出来ることは二つだけ、アタシのオファーを受けるか、受けないかよ」

 

 そう言うとブリトニーは目の前のカウンターに置いていた六つの革袋の一つから銀色の丸い硬貨を摘み出した。

 

「内容はアタシ達オルタナ辺境軍義勇兵団レッドムーンに加入するか、しないかってこと。入団するのなら銀貨十枚、十シルバーを支給してあげるわ、それで当面は過ごせるはずよ」

 

 銀貨、お金、そこでまたハッと気づきポケットをまさぐる。

 そこには財布など何も入ってはいない空だ、ここに至って自分が無一文であるということに気づかされた。

 

「義勇兵団っていうのは」

 

「この辺りにはアタシ達人間と敵対してる種族やモンスターが一杯いるわ、でも正規の辺境軍はこのオルタナの前線基地を維持するので手一杯、その穴埋めに敵対種族やモンスターと戦い、駆逐するのが義勇兵よ、まずは見習いから始めてもらうけどね」

 

 革袋の傍に置かれていた首飾りのようなものをブリトニーが掲げて見せる。

 それには三日月が浮き彫りにされた茶色い銅色の硬貨のようなものが繋がれていた。

 

「これが見習い義勇兵身分証明章、通称見習い章ね。正式な団章は二十シルバーで売ってあげる、一人前の義勇兵になれば色々と特典も受けられるわ」

 

「……ようするに戦ってお金を稼げってことか」

 

「そういうこと、アンタ達みたいなのはたまに来るけど、一々仕事を回してあげられる余裕なんてこの街には無いのよ、せいぜいこの義勇兵ぐらいなものよ。まあ下手を打てば逆に死んじゃったりもするけどね」

 

 さらりとブリトニーが口にした言葉にショートカットの少女が肩を震わせる。

 俺にしてもそれを聞いて心中穏やかというわけにはいかず心臓が一瞬跳ねたような錯覚を覚えていた。

 

「死んじゃうって……何よそれ」

 

「あら珍しい話じゃないわよ、向こうだって黙って殺されてくれるわけじゃないもの。この間はあなた達の同類がまとめて十二人ぐらい来たけど、一人はもう死んじゃったらしいわ」

 

 言い様からすると俺達のように記憶が無い人間が来るのはここでは珍しいことじゃ無いらしい。

 けど語られた内容ははいそうですかと頷けるものじゃなかった。

 死――記憶が無かろうがそんな最も遠ざけたいリスクのある仕事を誰がやりたいと思うだろうか。

 

「あの、質問いいですか?」

 

「ん? 何かしら」

 

 手を少し上げて言うとブリトニーだけじゃなく他のメンバーの視線まで集めてしまったのが少し気まずくて胃袋が少し縮まったような錯覚を覚える。

 それでもこれだけは聞いておきたかった。

 

「そのオファーを受けなかった場合は、どうなるんですか? これだけ大きな街なら他の仕事だってありそうな気がするんですけど」

 

 目の前のブリトニーが適当なことを言ってこちらをその義勇兵になるよう誘導していないとは限らない。

 こんな考えが浮かぶあたり俺って性格が悪いんだろうか。

 

「入団しないって言うならそれまでよ、ここから出て行ってさようなら、後は好きにしなさい。まあ親切心で教えてあげるけどここはあくまで最前線なのよ、物騒だし食い詰めて何をしでかすか分からない連中も少なからず居る、何の身の保証も立てられない人間をすんなり雇うどころか泊めてくれる宿を見つけるのも難しいでしょうね。

 ――まあ塩を齧って生きていく覚悟があるのなら止めはしないわ」

 

 ブリトニーはあくまで淡々としていて引きとめるようなことを口にはしてこない。

 それに身の保証――その言葉に掲げられている見習い章へ目を向けるとブリトニーがうっすらと不気味に微笑んでいた。

 あくまでブリトニーの言葉が全て正しいとすればだが、身寄りのない俺達にとって身分を担保してくれるものとして手に入れられそうなものはあれしかない。

 義勇兵になることのリスクは大きい、けどそれだけのメリットがある。

 

「物分かりはいいみたいね、そういう子は嫌いじゃないわ。さ、入団する者はこの袋を取りなさい、嫌ならさっさと出ていくこと、アタシも暇じゃなくてね、部外者に一々構ってる時間は無いのよ」

 

 否応なく選択を迫られつい他のメンバーの様子を見てみると互いに顔色を窺うような形になってしまう。

 義勇兵となる道を選ばなければ先行きは間違いなく暗いものになる、けれど賭けることになるのは命というあまりにも大きな代物だ。

 すんなりとブリトニーの話を受けることが出来るはずもない――そう俺は思っていたけれど。

 

「じゃあ俺、やってみようかな」

 

 またしても行動を起こしたのは爽やかさを感じさせる面立ちのその少年だった。

 驚きに目を瞠る俺達の前に悠々と踏み出しブリトニーの前に立つとカウンターへ置かれた革袋を掴み取る。

 

「なかなか思い切りがいいじゃない、一応名前ぐらい聞いておこうかしら?」

 

「俺は――ユウトっすね、まあ義勇兵っていうのも結構面白そうだし一文無しよりはいいかなって」

 

 さりげなくユウトというらしい彼が口にした言葉が胸に刺さる。

 記憶がない、身寄りもない、そんな俺達が見知らぬ土地で先立つものも無しに果たしてやっていけるのかどうか。

 流されるようでいい気はしない、けれど何も持たない俺が生きていくためにはそんな風に我を張っても何の役にも立たないんだ。

 深呼吸を一つして、決心を決める。

 足を踏み出しカウンターの前に立つとブリトニーの水色の瞳がこちらを見据えてきた。

 

「大分疑ってくれたみたいね、でもその慎重さを今は買ってあげる――アンタは?」

 

 考えていることを見透かされていたらしいことに怯みそうになってしまったが辛うじて目線は外さず、名前を聞かれたということに一瞬遅れて気づく。

 思えば目覚めてからそれを頭に思い浮かべたことすらなかったのが意外だ。

 

「俺は――アラタ、よろしくお願いします、所長」

 

 こうして俺はこのグリムガルで、義勇兵としての一歩を踏み出した。

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