カンピオーネは覇者である。
天上の神々を殺戮し、神を神たらしめる至高の力を奪い取るがゆえに。
カンピオーネは王者である。
神より簒奪した権能を振りかざし、地上の何人からも支配されえないがゆえに。
カンピオーネは魔王である。
地上に生きる全ての人類が、彼らに抗うほどの力を所持できないがゆえに。
破壊の権化の神がいた。
その驚異的な剛力を持って世界に光を取り戻した神。天手力男神。
彼は憎むべき神殺しと戦っている。
いや、神殺しである前にこの男だけは殴殺しなければならない。
我らが最高神の神力を内に潜めた神殺し。
不敬である。故に地上に顕現し、この男の元へ駆けだした。
だが、これは一体なんだ?
たかが神殺しであるはずなのに、神を殺した大罪人のはずなのに、何故、わしが勝てない。
「ああああああああああああッ!!!」
4メートル近い男神の拳が振り下ろされる。
大地は抉られ、岩石が飛び散る。されど神殺しは傷つかない。
空を飛び、炎熱を操る。神殺し。神村武。
縦横無尽に飛び回り、天手力男神を翻弄する。
「ええい、ちょこまかと」
腕を振り回し、どうにか撃墜しようとするが武は華麗に避けていく。
「貴様の五体を引き裂き、世界から聖なる光を取り戻してくれるわ!」
捕えた。
天手力男神は蠅を殺すように両手を合わせて叩きつけた。
だが、手応えがなかった。
武は叩き潰される前に前方へ飛んだ。
天手力男神の眼前には武がいる。
「これで終わりだ。天手力男神!」
手の甲には紅い円の文様。手の平には圧縮された炎熱の太陽。その光を天手力男神の口の中へ放り込んだ。
「ぐ……あああああああああああああああああッ!!!」
内部から太陽が弾けた。
天手力男神はよろけて、後ろへ後ずさる。
「おのれ! 神殺し! 貴様には呪いを与えよう。聖なる光を弄び、世を乱す羅刹の王にはいつしか天罰が下る。そのことを努々忘れるな!」
天手力男神の身体は耐え切れず、内部から爆発した。
肉を持った生物のようにではなく、土と光の粒子が飛び散った。
武の肩には一瞬だけ重みを感じたがすぐに慣れた。
「……神殺しか」
天照大御神から頂いた権能を手にしてから数か月、神道武の生活は大きく変化していた。
日本の呪術界は緊張に包まれていた。
日本でのカンピオーネの誕生。この事実は何よりも勝る重大事項だった。しかし、日本の呪術界は愚かであった。
カンピオーネの抹殺計画である。子供故にどんなわがままをするか、わかったものではない。
呪術界はある意味現実的である。
カンピオーネの存在がどれだけはた迷惑で、災厄の存在であるかを知っていた。
世界中にいる六人のカンピオーネの悪行だけは響き渡っていた。
日本は彼らに救われたことはなかった。国を破壊するだけ破壊して、神を逃がしたこともあれば、利用されることもある。最近では最凶のカンピオーネに生贄を差し出せと言われる始末である。
逆に日本は長年、古老と呼ばれる存在に救われてきた。以前、竜蛇の神を退けるときはある封じられし猿神を使った例がある。
ある意味では日本は異端で神々に救われてきた。
だからだろう。
災厄の種である羅刹。カンピオーネの抹殺を考える派閥が生まれた。
西洋ほどにはカンピオーネの存在を学ばないからこそ、そう考えた。
「正気の沙汰とは思えないね」
沙耶宮馨は心底そう思った。
カンピオーネを殺すこと事態は物理的には可能だとは思う。しかし、貴重なカンピオーネを殺すには反対だし、まだ、少年である。あまりにも酷い。
幸い、カンピオーネ抹殺の派閥は少数であることからすぐに消滅させることができるだろう。だが、一番重要なのは神道武を補佐し、護ることである。
そして携帯が鳴り響き、耳元に寄せる。
「え? まつろわぬ神!」