「俺は、仮面ライバーだ!」
真心は腹の底から声を出し、相手を威圧した。
少し沈黙が続いた後、不良たちは一斉に吹き出した。
「なっ・・・なにがおかしい!」
「ぷっ、仮面ライバーとかなんだよ」
「ここはコスプレの会場じゃねーぞ!」
「うるさい!貴様等の様な悪は断じて許さん!」
絡まれていたオタクはなにが起きたか分からずキョロキョロしたあと一目散に逃げ出した。不良たちは逃さんと言わんばかりに追いかけ、それを食い止めようと真心は不良を背後から抱きついた。
「早く逃げろ!」
「テメっ・・・離せよ!」
真心はその場へ押し倒される。
「あーあ、逃げられちゃったよ」
不良は怒りにまかせ真心の腹へストンプをおみまいする。みぞおちに体重がのし掛かり、足首を持ち上げようともがいたが、不良三人にはそれに構わず蹴りを入れ始め、獲物を逃した鬱憤晴らしをし始めた。
「雑魚が粋がってんじゃねーよ!」
そう吐き捨てたあと不良の一人が襟首を掴み、ゴミ袋が溜まっているところへ投げ捨てた。一人は真心へ距離を詰め、唾を吐きかけたあとその場を去った。
真心は一方的にやられボロボロで、こういった形ではあったが誰かの役に立てたことに対して満足だった。
「あのぅ・・・大丈夫ですか?」絡まれていたオタクが心配そうにこちらへやってきた。
真心は息を詰まらせながらも「大丈夫、平気です」と返し、フラフラではあったが立ち上がり歩き始めた。
「あ、あの・・・助けてくれてありがとうございます。お名前だけでも良いので、教えていただけないでしょうか!」
「仮面ライバー。そう呼んでください・・・」
背後を振り向かず真心は壁に手をかけつつつつ、歩き始め、誰もいないことを確認するとコスを脱ぎ、置いておいたリュックへ急いで詰めた。
「痛っ!でも、これぐらい安いもんだと思えば・・・」
右の太ももを抑えながら真心は笑っていた。
裏路地を抜け人ゴミにまぎれると、真心は家へと帰っていった。
マンションに帰ると玄関に見覚えのある水色のシューズがきっちりと揃えられて置いてあった。母さんが帰ってきたのかと思い、真心も靴を揃えてリビングのドアを開けると、ごま油の香ばしい香りとパチパチとした音が部屋を包んでいた。
「ただいま」
「おかえりー、もうすぐご飯だから手洗ってきな」
返事をし、部屋へ荷物を置くと、洗面所で手洗いうがいをし鏡をみながら「今日は人助けも出来たし、夕飯は大好きな餃子・・・ついてるねぇ」と独り言を上機嫌になりながら小声で呟いた。
リビングへと戻り、テーブルをサッと拭いたあと真心は食器棚から皿と箸を机の上に並びいつものように夕食の手伝いをした。
「ありがと、もうすぐで出来るからご飯よそっておいて」
「わかった」炊飯器からご飯をよそい、母はしゃもじ一杯分で自分は山盛りに入れてテーブルの上へ置くと丁度よく餃子の乗っかった大皿がテーブルへ置かれた。
「「いたただきまーす」」
小皿に醤油とラー油を垂らし、待ってましたと言わんばかりの勢いで餃子を口へと運んだ。
カリカリでもちもちの皮を噛むと、肉汁と細かく刻んだキャベツとニラの甘みが口一杯に広がり、茶碗の中の米を食い尽くしそうな勢いで夢中になった。
「おかわり」
「早っ!あんたは餃子になると、相変わらず早いわね」母は嬉しそうにご飯をよそい、それを渡すと真心は茶碗を持ちながら頭を下げる。
「最近学校はどう?和人君とは上手く行ってる?」
「楽しいよ和人とも一緒にライブ行ったり、昼休みも一緒に飯食ったりしてる」
「そう・・・本当真心も夢中になれるもんが増えたし、友達も出来て良かったねぇ」
「そうだね」
母は安心すると違う話題を振った。
「進路の方は決まった?」
真心は箸を止め「いやまだかな」と言った。
「もう少しで三者面談なんだし、やってみたい事でも良いからちゃんと考えなさいよ」
「分かってるよ」
(三者面談か・・・来年はもう三年生でクラスメイトも就活や進学で忙しくなるなぁ)
夕飯を食べ終え、後片付けを手伝った後母へ「先風呂入っておいで」と言われ、湯船に浸かり今日の疲れを癒した。
「いてて、やっぱ痛むな・・・」あざのところを抑えながら、湯船へ浸かった。ほっと一息つくと、さっき言われた進路の事について考え始めた。
「進路か・・・ゆっくりと探せば良いやって思ったけど、一年もあっというまだったもんな。うーんでも三年まで少しは時間もあるしあとで考えれば良いか。対策なんて動いてから立てれば良いんだし」
風呂を上がり髪を乾かし、リビングでくつろぎ仮面ライバーの今後のについて考えたあと、明日の学校に備えて眠りへとついた。
翌朝いつものように母に起こされ、身支度を整えたあとリビングで母へ挨拶をしトースターで焼いたパンを食べながらテレビのニュースを見ていると(ヒーローお手柄?恐喝の男性を身を呈して守る)というテロップが出たあと、画面の右上に「視聴者提供」の字幕と同時に、遠くから撮影したであろう真心がボコボコにされている映像が流れ、それに驚いていた真心は飲んでいたコーヒーが気管に入りむせてしまった。
「ちょっとあんた大丈夫?」
母から心配されながら、「大丈夫、平気平気」と言いながら咳き込んだ。
(まじか、撮ってくれてた人居たんだ!これは今後の活動に勢いがつきそうな予感♫)と心の中でほくそ笑んでいた。
「珍しい人も居るのねぇ」
真心はうなづき、食べ終え食器を片付けたあと、学校へと向かった。
校門前でちょうど和人と合流し、教室へと向かっていると「真心、今朝まとめサイトみたか?」
「いや、見てない」
和人は真心へスマホを見せると、仮面ライバーの活躍の記事がSNSやまとめサイトで拡散されているのを見せられた。
「すごいよな、今どきこういうことするやつが居るなんて。あん時も助けてくれたらな・・・」和人は語尾を弱めた。
「そうだね、僕に力があればこんなことには・・・」真心は言った。
「まぁ、過ぎたことだし気にすんなよ。最近多いらしいぜ、スクールアイドルのファンばっか狙ってるの」
「そう・・・なんだ」
それを聞いて真心の闘志が更に燃え、凛とした顔つきで、「俺たちを狙ってるのってどんな奴等なんだ?」
和人はスマホの画面を勢い良くスクロールし、
「これだな、BEASTっていうチンピラ集団。去年から活動し始めて、敵対している組織も容赦なく潰すことで有名みたいだな」
真心は真剣に耳を傾け、一言一言丁寧にうなづいた。
「しかも噂だとこいつら、麻薬の密売もやってるみたいだぜ。早く捕まんねーかな」
真心は今まで以上に危機感が芽生え始めていた。自分の大好きな街が滅茶苦茶になり、エスカレートしていけばμ‘sやスクールアイドルにまで危害を加えるのでは?
そんな考えが頭の中をどんどん満たしていき、授業もあまり頭の中に入ってこなかった。
和人と昼飯を食べた後、自分のスマホでSNSの会員登録画面を開き、プロフ絵をあの息苦しいマスクを真正面から撮影した物を貼り付けた。プロフ紹介欄は「俺の名は仮面ライバー。この街や人とμ’sを守る為立ち上がった、正義の味方だ!」そう打ち込むと、真心は満足気な表情をしアカウントを開設した。
最初のコメを早速打ち始めた。
(みんな、何か困ったことがあったら俺に連絡をくれ!助けになりたい!)
数分後、通知音と共に早速コメントが十件も飛んできた。中には嘲笑うやつもいたが、待ってましたと歓迎するコメントの方が多くを占めていた。
(こんにちは、仮面ライバーさん♡早速お願いがあるのですが、やりとりをダイレクトメッセージでしたいのですが、よろしいですか?)
真心は照れながら(良いぞ!何でも言ってくれ!)
(私の友達が薬に手を出してやばい状況です。それを渡しているBEASTが許せない!友達から密売の場所を教えてもらったので何とか説得しては貰えないでしょうか?)
(辛かっただろうに・・・良し、分かった!俺が何とかしよう!)すっかり調子乗ってしまった真心は意気揚々と依頼を快諾してしまい、お礼を言われてすっかりデレデレになっていた。
(とは、言ってみたものの大丈夫かな・・・いや弱気になってどうする。助けを求められてるのに手を差し伸べなきゃ絶対後悔する!)
翌日の夜、母が夜勤でいないのを見計らって、取引の場所である廃ビルへむかった。いつも歩いている通学路を抜け、駐輪場へ自転車を停め目的地である廃ビルへと急いだ。
(絶対止めてやる!もう誰かが傷つくのは見たくない!)
そう思いふけっていると目的地である廃ビルについた。
五階建てで出入り口の窓ガラスは割れ、夜なので不気味さが一層増していた。
着替え終えて真心は深呼吸を三回やったあと、暗闇の世界へと飛び込んで行くかのように走っていった。