それを見て何を思うか?
良輔はライダースジャケットを羽織り、料亭の廊下を我が物顔で闊歩していた。次々と敵対勢力を打ち負かし今や関東一の不良組織として成り上がった。そんな趣で父親が待っている和室へと向かっていた。戸を開けると父親が愛人を片手で抱きながら日本酒に興じていた。
「邪魔するぜ」
「おぉ良輔か、まぁ座れ。音ノ木坂学園の評判も段々落ちてきていて何よりだ」満足気に良輔へ話す。
「今度はμ‘sにステージから降りてもらう。いきなり出てきて廃校を白紙に戻されるのはたまったもんじゃねぇ」
「あそこを取り潰さないと計画が白紙になるからなぁ。あの理事長も中々しぶとい」
「この学園の近くの銀行に日本紙幣の原盤があるんだもんな。これさえ手に入れば親父の組と俺の組織も安泰だ」
「そうだな」父がお猪口へ日本酒を注ぐと「最近仮面ライバーっていう正義感振りかざした馬鹿が出てきたな」
「あぁ、それならウチの特攻隊長に陽動させて始末させるように言った」良輔はメンソールのカプセルを噛み砕き、火をつけながら答えた。
「流石、俺の息子だ」
突然、障子の引き戸が空いた。そこには息をきらした部下が大汗をかいて出てきた。
「た、大変です良輔さん!特攻隊長と部下が全員やられました!」
話し合ってた二人が凍りついた。良輔は吸い始めたタバコを灰皿に押し当てた。
「誰にだ?」
部下が一時間前にその場に居た奴が送ってきた写真をスマホに表示させると、仮面が欠けて目が写っている写真を見せた。
「状況を逐一報告する様言っておいたのですが、これ以来なんの報告も無いので見に行ったら死体だらけです」
「おいおいまさかこいつがやったって言うのか?」
「おそらくは」
(まさかあいつが?いやそんなはずは・・・こっちは三十人だぞ!負けるはずが無い。もしや・・・)
良輔は動揺していた。父親からの資金援助や銃器なども渡しておいたのにもかかわらずあっさりとやられたのだから。
「とにかくお前はこいつを炙り出せ!」
部下は腹から出した声で返事をし、出て行った。
「誰かが一枚噛んでるな」
「あぁ、数人からボコボコにされてる奴がこんな事できっこねぇよ。二度と抵抗できねぇようにしてやらぁ」良輔は拳を握り締めながら言った。
(あの目はあいつにそっくりだったなぁ・・・そうだ、紫音にやらせるか。お前の大切なものぶっ壊してやるよ)
良輔はまた煙草に火をつけ、不敵な笑みを浮かべた。
天井についているライトが摩天楼のようにぼやけていた。目をパチパチさせると視界がはっきりしてきて、身体をおこすと全身がチクリと痛んだ。着ていた衣装は全部なくなっていて、白い病衣に身を包んでいた。
見た事の無い部屋だ。目の前にドアがあり、床は木目のフローリングで壁のクロスは所々めくれていて、窓は無い。左端には机があり、写真がベタベタと貼ってあった。
真心は好奇心に動かされたのか、ベットの横のスリッパが置いてあったのでそれを履き、脚を引きずらせながらその机まで歩いて行った。
そこに貼ってある写真をよく見ると、悪魔のような角を頭に入れ込んだ女性や四肢欠損で天井から吊るされ目を腫らし、全てに絶望していそうな男が映し出されていた。
真心は腰を抜かし、言葉が出なかった。
廊下からハイヒールがカツカツと鳴る音が聞こえてきた。慌ててベットの中に潜り込み、その身を震わせた。
(くそっ!助かったと思ったら、今度は改造手術でもする気かよ!あ、でも昭和ライダーみたいになれたら・・・って言ってる場合か!)
「バレてるわよ、天城真心さん」
そう言うと豪快に布団をひっぺかされた。目を開けると白衣に身を包みタイトスカートを履いていた。医療用のマスクで顔はよく見えないが目はアメジストの様な輝きを放ち、髪は赤くふんわりしていた。
「そんなにびっくりしなくてもいいじゃない。あなた弱いくせに結構頑丈なのね」
「うるさいな。それよりここはどこ?まさか僕を改造する気か!」机の周りに貼ってあった写真を指差しながら叫んだ。
「落ち着いて、別にあなたを改造する気はないわ。あの写真は私の本業の成果であって、貴方を治療するようにソレイユに頼まれたの」
「ソレイユ?もしかしてあのサイドポニーの娘?」
「そうよ、まずお茶でも飲みながら話しましょ。何か飲みたいものある?」
「じゃあ・・・コーヒーで」
彼女は頷くと、ドアを開けて出て行った。数分後お盆には4個のティーカップを乗せてきた。
「あれ?数多くない?」
「他にも居るのよ」
「こ、こんにちは・・・」
「あぁこいつが例の仮面ライバーね」
彼女の後ろには二人の少女が居た。一人は赤紫のアンダーリムをかけ、片手にはノートパソコンを持っていた。もう一人はツインテールでサングラスをかけていた。
ツインテールの娘がベッドのサイドテーブルを広げ、白衣の娘はお盆を置き、眼鏡をかけた娘は丸椅子を並べた。
「それじゃお話しましょうか」
「ちょっと待ってよ。まず君達は一体何者なの?」真心は先ほどから気になっていたことを吐き出す。
三人は名乗り始めた。白衣の娘は「ローズ」、アンダーリムの娘は「ルリ」、ツインテールの娘は「シャオ」と名乗った。
「私たちの目的は音ノ木坂学園を救う事。それだけ」ローズは淡々と喋った。
「で、あんたはなんでこんな事をし始めたの?」
シャオがそう言うと真心はなぜ自分が仮面ライバーとして活動し始めた経緯を話し始めた。ルリは膝の上に乗せたノートパソコンでその話を記録し、ローズは話していたことを黙って聞いていた。
「そもそもなんであそこを襲撃したの?」
「あぁ、それはあんたのSNSのアカウントとなりすましをルリがハッキングしたのよ」
「そ、それで場所も特定できたので・・・はい」ルリは緊張気味に応え、真心はぽかんとした。
「本当にそんなこと出来るのかって顔してるわね。ルリちょっと軽くハッキングして見せて」シャオがそう言うと、ルリは表情をキリッとし、ピアノを連弾するかのようにキーボードを叩きはじめ、一分も経たないうちにエンターを押した。
画面を真心の方へ向けると、真心の部屋が写し出されており、母がベッドの下へ掃除機をかけているのが写し出される。
「え?これどうやってやったの?しかも音も出てるし」
「ノートパソコンのWebカメラに侵入したのよ。ルリにはこれぐらい余裕ね」
「うん、これぐらいだったらご飯食べながらでもいけちゃう」ルリは笑みをこぼしながら応えた。
「あらあら、真心ったらお父さんと一緒ね」画面の向こうで母がベッドの下に隠してあった「女教師の太ももに挟まれたい!」と表紙に大々的に書かれている雑誌を手に取りニヤニヤしたあと、机の上に置いた。
ルリとローズは顔を真っ赤にし、シャオはニヤニヤしながら真心を見つめた。
「へぇ。あんたこういうのが好きなんだ〜」
「うわ、最悪だ!」真心も顔に両手を当てうずくまった。
「これで分かった?あんたの行動は筒抜けなのよ」真心は黙って頷いた。
「それで話を変えるけど、柊綾人のことについて何か知ってる?」シャオは言った。
真心は両手を下ろし、表情は固まっていた。
「え?なんで柊くんの名前を?」
「あいつが御客リストの中に名前があった。何か変わったこととか無い?」
「前に久しぶりに会ったけど、何も変わったことは無かった」
「あいつのデータをルリと一緒に調べさせてもらったけど、相当真っ黒よ。過去にあいつと付き合ってきた相手は行方が分からなくなってる」
真心は昔の記憶を辿ると、確かに付き合っていた相手が一年半ごとに違っていて、行方が分からなくなっていた。その度に綾人は泣いてたし同情の念も芽生えていた。
「でもそしたら捕まってるはずじゃ」
「もみ消したのよ、警察の上層部に金を握らせてね」
「う、嘘だ!それに・・・中学校の頃、僕を助けてくれた」真心は声を上ずらせながら言った。
「嘘じゃ無いわ。あいつのハードディスクの中には薬を打ったあとに拘束して、死ぬまで拷問している画像や動画が山ほど見つかった」
「あぁ、あれには吐き気がしたわ」ローズは声を低くした。
「見てみる?」シャオが尋ねると真心恐る恐るうなづき、ルリがノートパソコンの画面を差し出すと、ボロボロの倉庫の中心にポツンと椅子に拘束され、ボールギャグを咥えた女子が映し出された。
すると鼻歌を口ずさみながら誰かが現れた。そこには狐のお面を被った男が上機嫌で注射器を自分に打ったあと、拘束された女子にも打った。数秒後、突然白目をむき暴れ出した。
「もう、そんなに暴れちゃ駄目だよ」
そう言うと太ももを目掛けて警棒を振り下ろすと、骨がへし折れる音が聞こえ、泣き叫んだとこで、真心は「もう良い!止めてくれ!」
しばらく間が空いたあと、真心は口を開いた。
「もう帰る。喋る気も無い」
「そう、喋る気がないのならさっさと出て行ってもらうわ」シャオはベットのそばにある棚に荷物がある事を告げ、三人は出て行った。
真心は拍子抜けしたが、鞄には入っていた私服に着替え、ドアを開けるとソレイユが廃ビルへ襲撃してきた時と同じ格好で壁にもたれかかっていた。
ソレイユは真心へ気がつき、
「ごめんね真心さん。情報が欲しくて嫌なもの見せちゃったね」ソレイユは申し訳なさそうに言った。
真心はしどろもどろしてしまった。声や風貌が好みななのもあったが。
「いや全然、気にしてなんかいないから。大丈夫」
「そう、何か困った事があったらこの番号へ連絡して」
ソレイユはメモを真心へ手渡すと真心を見送った。
日を同じくして、昼休みの音ノ木坂学園。午前の授業が終わり、花霞は五人の友達と机を合わせて弁当を食べていた。化粧がのらないことや朝のニュースでやっていた今の流行のことについて語り合っていた。
「でさー花霞は今週の土曜予定とか空いてる?」
「うーん私は・・・」花霞は言葉につまると、淀んだ空気が花霞を包み、五人は無言の圧力をかけた。
「あぁ良いよ良いよ、その時は暇だし」
「良いよ」そう返しただけでさっきの空気が嘘のように晴れ晴れとし、互いに笑い合っていたが、花霞は苦い笑みを浮かべた。
花霞は半分残っている弁当に蓋をし、五人から心配されながらも「ごめんね今ダイエット中でね。ちょっとトイレ行ってくるね」そう言い残すと自分の弁当箱を後ろのバッグ入れのとこへ入れた。
教室を出ると、いつも使っている近くのトイレを通り過ぎて、廊下の左角をすぐ曲がった所のトイレへ入っていった。便座の蓋が閉まっているのを気にせず、花霞はそのまま座った。ドアの鍵を閉めると彼女は溜息をつき、頭を抱えながら天を仰ぐと「まいったなー、土曜日バイトあるのにオッケーしちゃったよ。はーまたシフト変えてもらうように言わないと」
彼女は嫌なことなどがあるといつもこのトイレへ駆け込み、不平や不満をぶちまけるのが日課となっていた。
「変わらないな・・・わたし。あの時だって真心を」
花霞はああなるまで手を差し伸べられ無かったことを今尚悔やんでいた。自分が間に入って、クラスから孤立するのが怖くてたまらなかった。
スマホを取り出し五分ほどネットサーフィンをしたあと戸を開けると、同じクラスメイトの想間紫音とばったりと会う。
「あ、こんにちは・・・」
(うわーやっぱ想間さん綺麗だなぁ、めっちゃ良い匂いするし)
脚は長く、グラマラスで才色兼備な彼女はクラスメイトから一目置かれ、花霞も憧れていた。
「こんにちは」紫音は微笑み、艶めいた黒髪をかきあげながら答え、花霞は紫音の横を通り過ぎると「花霞さん。昼休みいつもここへ来るけど何かあったの?もし私で良ければ話聞くよ」
花霞は一瞬何が起きたか分からず、身体が固まる。紫音が「花霞さん?」と問いかけると、背後に紫音がいたものだから「ひゃっ!」と上ずった声で驚いた。
「あ、ごめんなさい!」
「いやいや、こっちこそごめんね!全然大丈夫だから!」
「そう?なら良いんだけど。いつも友達といるとき無理してそうな感じがしてね。心配してたの」
花霞は図星を突かれ、しょんぼりした。
「やっぱ何か悩んでるみたいね」
そう言ったあと二人は廊下に出て、花霞は紫音に自分の悩みをぶちまけ、紫音は相槌を打ちそれを受け止めてくれた。次第に紫音も花霞へ心を開き始め、昼休みが終わる五分前にはすっかり意気投合していた。
(なんだ、紫音さんも悩んでるんだな•••)
「ありがと、紫音さん!話したら大分楽になったよ〜」
「良いのよ、私も楽になったし。あ、そうだ。今日放課後お茶でもしない?美味しいケーキもあるわよ」紫音はにっこりと微笑みながら言った。花霞は快諾した瞬間チャイムが鳴った。
「急ごう!紫音さん!」
花霞は一歩先を行き、紫音はそれを追いかける形で脚を急がせた。
(これで役者は揃ったわね・・・これで上手くいくと良いけど。ねぇ良輔)