真心は彼女たちのアジトを出ると、日差しがさすようにきつかった。辺りを見回すと「西木野総合病院」と正門に大きく書かれていた。鞄の中に入っていたスマホを出すと母からの着信履歴が十件程あった。
「やべ、多分学校から出席してないって電話なんだろうな」
真心は母に電話をかけ、自転車で転んだので病院に行ってたと誤魔化し、小言を言われながらも説得し、なんとか学校へは休むと伝えた。
「家に帰るか・・・」そう言うと重い足取りでマンションへと帰り、着いた途端母からはこっぴどく怒られ、昼飯を食べた後、母は夜勤に備え自分の部屋へと行った。
部屋へと戻ると、例の雑誌が机の上に上がっていたが気に留める余裕もなく、ベットへ横になった。
やられっぱなしで悔しかったが、命が助かっただけでも良いじゃないかと自分に言い聞かせ、眠りについた。
ホームルームが終わり、クラスメイトたちは鞄を持って帰る者もいれば、部活の準備で着替え始めたりする者もいた。花霞は鞄に教科書をしまって帰りの準備をしている紫音の肩を指で突いた。
「行こっか!」
「そうね、行きましょう」
二人は教室を出て階段を降りていると、違うクラスの穂乃果、海未、ことりがアイドル研究部の話題を交え、談笑ながら階段を上っていた。気のせいだろうか、海未がこちらを鋭い横目で見ていた気がしたが花霞は気のせいだと思い、気に留めなかった。
「花霞さんどうかした?」
花霞は首と右手を横にふりながら、「なんでも無いよ!それより例のケーキバイキング楽しみだね」
紫音は「そうね」と微笑んだ。
校門を出て紫音に連れられながら、いつも通っている青い葉の桜並木の階段を降り、昌平橋に向かう道中も互いの中学校のことや休みの日は何をしているかで盛り上がった。
「ここよ」紫音が指を指すと、中央本線の高架下のテナントに「ケーキバイキング 90分食べ放題」と書かれ、二人は店に入ると、女性客やカップルで賑わっていた。二人は店の中を見ていると、店員がやってきて誘導され窓から少し離れた所の席へと座った。
「私荷物見てるから、先に取ってきて良いよ」
「良いの?何か好きなのあったら取ってくるよ!」
花霞は笑顔で返答すると、取りに向かった。数分後店員のウエイトレスのように腕にケーキの乗った皿を載せ、両手には水を持って現れた。紫音はそれを見て手を叩きながら笑った。
その後二人でケーキを食べながら会話に花を咲かせ、店を出て、時間を確認すると十七時半だった。
二人は昌平橋公園の椅子に座り休憩をし始めた。花霞は「今日は楽しかったね」と告げると、紫音も同じく返すと、鞄から小さいペットボトルに入ったコーヒーを渡し、礼を言った後花霞は一口飲んだ。
「紫音さんのイメージ、今日で変わっちゃったなぁ」紫音はぽかんとした顔をしたが、「あ、もちろん良い意味だからね!」と返し紫音はくすくすと笑った。
「今日は楽しかったわ。私も色々と吐き出せてスッキリしちゃった。私たち良い友達になれそうね」
花霞は強くうなづくと、首をコクコクし始めた。
「あれ?ちょっと眠くなってきたかも・・・」
視界までぼやけ始めてしまい、ついには倒れてしまった。
「本当、良い友達になってくれそうね」紫音はニヤリとほくそ笑むとスマホで電話をかけると、五十メートル先のコインパーキングから黒塗りのハイエースが向かってきて、近くに止まった。
後部座席からフードを被った男たちが三人出てきた。一人は荷物と飲んでいたボトルを持ち、二人は花霞を担いだあと荷台の所へ下ろし、両腕を背後に組ませてインシュロックで縛り上げ、布で目と口を塞いだ。
紫音は助手席に乗ると、ハイエースはその場を去った。
スマホから電話のベルが鳴り響いた。目をこすり画面を見ると「荒川 良輔」と画面に表示され急いで電話を取った。
「もしもし・・・」
「てめぇ!三コール以内に出ろ!」
真心は謝ると「まぁいい、お前さぁ今日の十九時誰にも言わずメッセージに送られた場所へ来い。来なきゃお前の大事なもん壊しちゃうよ〜」そう言うと電話が切れた。
真心は何だろうと壁にかかった時計を見ると十七時五十分をさしていた。
「今日は最悪だ・・・行きたくないけど行くしかないか。そういえばさっき大切なものを壊すとか言ってたけど、まさかね・・・」そう呟くと、通知が来た。マップには船橋の廃工場が写っていた。
電源を落とそうとしたとき、また通知が鳴り今度は画像が送られてきた。画面を見た途端、真心は制服のまま財布とスマホだけをポケットに突っ込んで、急ぎ足でマンションを飛び出した。秋葉原駅に着き、階段を走り抜け電車へ駆け込み乗車をした。周りの乗客から白い目でみられたが気にする余裕もなかった。
(なんで、なんで花霞があんな風に・・・あいつが何かしたっていうのかよ!)
真心送られてきた画像をまた見ると椅子にガッチリと拘束され、目と口は布で縛られていた。
目の前が真っ暗で油と埃の匂いが鼻をついた。両手足を動かそうとするも、全く動かない。もがくほど腕や足に縄が食い込んで痛かった。誰かに助けを求めようとしたが、口に布が入れられていて、声が全く出ない。
「気がついたみたいだね。今日は目隠しを取ってみようか」
甘く幼さが少し残る声で言われると、白い光が目を刺すくらい眩しかった。周りを見渡すとドラム缶や廃材が雑多に置かれた倉庫のような場所だ。
「やぁ、花霞ちゃん。僕だよ」綾人は花霞の目の前に顔を近づけながら言った。
(嘘!なんで綾人がこんなことを!)
花霞は椅子をガタガタさせ、目で拘束を解いて欲しいと懇願した。
「もしかして解いて欲しいの?」
花霞はうなづいたが、茶目っ気を含ませながらダメと応えた。
「お、やってるな」良輔が声をかける。
「良輔くん。真心くんは来そうかな?」
「さっきメッセージを送ったから飛んでくるぜあいつ」
「そう、早く良輔くんが作った薬を試したいなぁ」
綾人は机の上にある注射器を持ちながら語った。
「丁度良い女を探してたらまさか自分の彼女を差し出すとはなぁ。お前のそういうとこぞっとするよ」良輔は笑いを含めながら言った。
「お前警棒で全身アザだらけして、その悲鳴を聴いてはビンビンだったもんな。でも男もいるのに興奮出来るのか?」
「ちょっと試したかったのもあるけど、真心くんの泣いてるとこ見るとなぜか同じ興奮が得られるんだよ。それを加味したらどうなるか・・・あぁ早く見てみたい!」
「ま、俺はあいつが自分自身を仮面ライバーと認めれば 文句は無いから良いけどな」
電車に揺られながら座っていると電車が急停車をし、「ただいま船橋駅で人身事故が発生したため、西船橋駅で止まります」とアナウンスが流れ、スマホの画面を見ると十八時三十五分だった。
(クソ、こんな時に!)
すぐさまドアの前に立ち、開いた瞬間階段を走り出し人混みをかき分け改札の前に着くと、タクシーが停車してるロータリーへと向かい乗り込んだ。
「目的地は?」五十代らしき運転手はのんきそうに喋る。
「この住所まで急いで向かって下さい!」
真心はスマホの画面を見せると、運転手は怪訝な顔を浮かべながら返事をし、アクセルを踏んだ。
後部座席に居た真心は口元に両手の指を重ね、祈った。
(まってろ花霞今行くからな!)
良輔は左の手首につけた時計を見ると十八時五十七分を指していた。まだ来ないのかイライラしていると柊が注射器のキャップをとり、出を確認した。
「にしても紫音ちゃんはよくやってくれたよ。最初は大人しそうな娘とは思ってたけど」
「だな、あいつに金をぶら下げるとどんな事でも遂行するし、どんな人間にもなれる。ある意味女優だよ」
「確かにあの演技は驚かされるね。ある時は会社の秘書、ある時は政治家の愛人もやる事ができるもんね。それで弱みを握って強請る」
「あいつの中に違う誰かが住んでたりしてな」
良輔はそう返し、綾人はうなづいた。突然、出入り口の鉄扉の引き戸を開く音が響いた。
そこには息を切らした真心が立っていた。
その場にいた三人は真心の方を見つめ、花霞は嬉しかったが、逃げてと叫びたかった。
「早く花霞を解放してよ・・・お願いだよ!何でもするし、何でも持ってくるよ」
「お、時間通りに来たな。じゃ早速聞くが・・・お前が仮面ライバーだな。答えないとこいつの首筋にこの薬を打ち込む」
「あぁそうだよ!僕が仮面ライバーだよ!」
良輔は拍子抜けした。
「お、あっさり認めたか。でも約束の時間が過ぎちゃってるなぁ」良輔はそう言うと綾人へ眼線を合わせた。
「分かったよ」
「やめろ!」
綾人は注射器を首筋に打とうとした途端、真心は無我夢中で止めに走るが、良輔の右ストレートで三メートル先に飛ばされ、無情にも薬は打ち込まれ、花霞はあまりの痛さに泣いていた。
(何これ、身体が熱いよ・・・)
花霞の身体中から汗が噴き出し、ついには呼吸困難に陥ってしまった。
「やめろ・・・」
良輔は真心の腹を踏みつけ起き上がれなくした。
真心は歯を食いしばりながら「どけろ。その足をどけないと今すぐお前らを殺してやる!」
「あ?お前今なんつった?」
真心は腹の底から叫んだ。花霞にもまだあの時の事を謝れていないし、密かに好意も抱いている。
「叫んじゃわかんねぇんだけど」
そう言うと髪を引っ張り顔面を何発も殴り始めた。
「あれ、花霞ちゃん?起きてよ〜」綾人は花霞の首筋に手をあてると「あーあ意識がなくなっちゃったよ。こうやって死なれちゃうと冷めちゃうんだよなぁ」
「薬が強すぎたか、また改良しないとな」
一発殴ると真心を地面へと叩きつけた。
「お前が逆らったのが悪いんだからなぁ。見ろお前のせい で花霞は死んだ」良輔は高らかに笑った。
「お前は何一つ守れない、弱者なんだよ。つーわけだ死ねよ」
良輔は懐からパイソンを取り出し、頭にあてると銃声が鳴り響くと同時に、辺りが真っ暗になり、スモークが焚かれた。
真心は意識があることを確認した瞬間誰かの左肩に担がれた。
(ちょ・・・なんで俺を!花霞を助けないと!)
足を少しばたつかせると小声で静かにと囁かれ、
「花霞ちゃんなら他の二人が助けるから大丈夫」
そう言うと廃工場の敷地を全速力で駆け抜け、柵の外にはコンテナを積んだトレーラーが停まっていた。
「ヴィオレッタちゃん!ターゲットを確保したよ」
そう言うと扉が開き、コンテナの扉が開くとヴィオレッタがHK416を構え安全を確保してくれていた。
乗り込むと真心はベットに寝かされ、花霞を担いできたキャットとペイルが優しくベットに寝かし、扉を閉めるとトレーラーは出発した。
天を仰ぐとローズが白衣を着て花霞に人工呼吸器を当てて応急処置を始めていた。
「お願いだ・・・花霞を助けて」
ローズはうなづくと、真心は起き上がり花霞の様子を見守った。