朝。
私は食事をとるべく食堂に向かった。いつもあの3人がいない時間を見計らって、早く済ませるのが食事だった。この時間にあの3人はいない。今のうちに済ませてしまおう。列にならんでいると……。
「ああ、君。昨日ノートを貸してくれた……鬼咲さん?だっけ?」
男の声がして、恐る恐る後ろを振り向くと織斑くんがいた。
その隣には同じクラスの篠ノ之箒さんもいる。
そんな……。あの3人がいないときにどうして来るの……。何とかして彼から離れないと。
「え、えっと……。私…、二人の邪魔したく…ないから……。あっちの方で食事してくる……」
「なんでだよ?食事はみんなで食べたほうがうまいぞ?鬼咲さんも一緒に食べようぜ?」
織斑くんが私の腕を掴んで誘ってきた。その瞬間中学時代の思い出したくもない記憶が蘇る。
「い、いやっ…!来ないで…!!」
「うわっ!?」
「い、一夏!貴様、何の真似だ!」
私は腕を振り払い、思いきり織斑くんを突き飛ばしてしまった。篠ノ之さんも怒っている。
まずい。もしかしたら殴られる。ここは謝って早く逃げないと…!
「ご、ごめんなさい…!!」
「あ!おい待て!」
わき目もふらず一心不乱で走った。篠ノ之さんの怒鳴り声が聞こえたが少しでも早く
あの場から逃げ出すために聞こえないふりをした。
授業が終わり放課後。あの後、私は織斑くんのことを極力避け、何度も話しかけられても無視して逃げていた。教室から出ていくときも、織斑くんに気づかれないように急いで出て行った。
朝の出来事は少し噂になっていた。私が織斑くんに暴力をしたという、根も葉もないうわさが。
確かに突き飛ばしてしまったが、私は故意にやったわけではない。
だけどうわさは尾ひれがつくもの。そしてどんどん辺りに広がっていく。これも中学で痛いほど
思い知らされた。
「織斑くんにちゃんと謝らなくちゃ……。だけど……男の人だから…。あの3人と同じぐらい怖い……」
謝らなければいけないというのはわかるけど、相手が男の人だから、怖くてたまらない。誰かに
伝言なんてできる訳がないし、私が行かないと誠意が伝わらない。どうすればいいんだろう……。
同じクラスだからずっとこんなことしてもいずれ通らなくなる。
「やっぱり…謝ったほうがいいよね……」
怖いけどいつまでもこのままじゃ仕方ない。それに時間が経てば私のことを敵視してくるかもしれない。今のうちに謝っておけば、私をいじめる立場にはならないかもしれない。男の人がいじめに加わったら当然今よりもひどい仕打ちが来る。
まるであの時みたい。必死に勉強をして、結果を残せたらみんな私を見直してくれるんじゃないかなって、そんな風に思っていた時のようだった。
私は早速、謝りにいくため織斑くんを探し始めた。
数分後。校舎の中を探し回ったが姿が見当たらない。いったいどこに行ってしまったんだろう。
もう寮に戻ってるのかな?なら、寮に戻って……。
「ねぇ。」
不意に声をかけられ振り向くと石田さんが立っていた。どうして彼女が?でも嫌な予感がする。
あの3人の内の一人というだけでそんな気がしてならなかった。
「ちょっと顔かしてくんない?あんたに話があるって子が何人かいるんだよねぇ」
「わ、私、急いでいるから……」
「なに?来ないの?じゃあ朱音を呼んでボロボロにされてから連れてってあげようか?」
「っ…!?わ、わかりました…。」
笹川さんの名前を使って強要する石田さん。私は逆らえず言うことを聞き、石田さんについて行った。
行きついたところはトイレ。そこには同じクラスの生徒が何人かいた。生徒たちの目は明らかに敵意を持っていた。
「おい。」
「え?……っ!?」
一人の生徒が近づいたと思ったら平手打ちしてきた。私は何が起きたのかわからなかった。
「あんた、朝の態度は何なの?あの織斑君が誘ってきたっていうのにそれをあんな風に断って。
他の女子だって誘われたいのにあんなことするなんて。」
「そ、それは…。私が男の人が………」
彼女の言い分は、朝私が織斑くんにとった態度が気に入らないというものだった。
私は男性恐怖症なのでついやってしまったことだと彼女たちに弁明しようとするも……。
「あんたの都合なんて知ったことじゃないのよ。織斑君がかわいそうだと思わないの!?」
「それに、あなた先日の休み時間、織斑くんに勉強教えてる途中で授業が始まるまでどっかに逃げ出したじゃない。どうしてそんな意地の悪いことするの。」
だから今日の態度を謝罪しに行こうとしてるのに……。どうしてそれをあなたたちは…!
「そうだよねぇ。このままじゃ織斑がかわいそうかも。鬼咲。あんた一回頭冷やしたら?」
「っ!?…ぐっ…!!、っ!ごぼ!げぼっ!!ごぼぼ!!」
石田さんが私の頭を掴み、水が大量に入った洗面所に沈める。苦しくてもがこうとするけど他の人
に抑えられてて顔をあげられない。
10数秒後。私は無理やり顔をあげられる。
「…ぷはっ!!げほっ!ごほっ!!!っ…!はー…。はー…」
「どう?頭冷えた?」
「はーっはーっ…はい。」
笑顔で聞いてくる石田さん。その笑顔が恐ろしく見えて、私は、はい。としか言えなかった。
「じゃあ。これからどうするのもわかるよね?」
「はい……。金輪際、織斑くんに話しかけることも近づくこともしません。話しかけられても無視します……」
「よく、わかってるじゃん。みんな。鬼咲もこう言ってるし、これぐらいにしてあげよ。でも一言謝ってよ。さすがにこれ無しじゃみんな納得しないだろうし。」
「はい……皆さんに、不愉快な思いをさせて……ごめんなさい…。」
「よし、じゃあみんな。この馬鹿のお仕置き付き謝罪会見はこれにて解散。ばいばーい。」
石田さんがそう言うと他の人たちは出ていく。残っているのは私と彼女だった。
「あいつら、織斑なんかのどこがいいんだろうねー。まぁいいや。それとあんたに渡すものがあった。はいこれ。」
石田さんが床に投げ捨てたものを見ると、私のノートだった。確かあのノートは織斑くんに貸したもの……。
だが、ノートは無残にも破かれていてボロボロになっていた。表紙もぐしゃぐしゃになっており、落書きもされている。
どうして石田さんが貸したノートを持っているの?なんでこんなになってるの?だれがこんなことをしたの?
「そのノート。織斑からあんたに渡してって頼まれたものなんだけど渡された時からそんな風になってたよ?あと、悪いけど今後おれに話しかけないでくれって言ってたしね。ってことはあんた、織斑にも嫌われてたんだね。あいつ何か、弱い者いじめは許さないーって感じだったけどそういう一面もあることに驚いたよ。じゃあ、あたしもう行くから。」
「織斑…くんが………」
そっか……。私が織斑くんに謝りにいっても、結局は無駄だったんだ。私はもうすでに織斑くんにとって目障りな人間だった。よくよく考えたら、今朝の態度も教えてる最中席を外したことも、無視し続けたのも、彼にとっては気に入らなかったんだ。いま思えばそれは当然のことだった。やっぱり私は、無意識にまわりの人たちを傷つけていたんだ。織斑くんとさっきの人たちも私のせいで………。
私は織斑くん達に申し訳なさを感じ、涙を流してしばらくその場にいた。
石田美夏。○○県○△町在住。裕福な家庭に生まれるも両親は早くに他界。その後遺産目当てで近寄ってきた親戚たちにたらいまわしにされる生活を送る。預けられた親戚に10歳のころ家を追い出されて児童養護施設で施設ぐらしになる。その後通っていた学校では教師や生徒の弱みを見つけては、それをネタに強請ったりすることをしていた。この時から美夏は他人をこうやって利用するということを覚え始めた。かつて親戚たちが自分にしたように。中学に上がっても人の弱みにつけこみ強請ることを続けていた美夏はとうとう強請られていた人たちの報復にあった。人気のないところに連れていかれて数人の男に囲まれていた時、笹川朱音が美夏を助けた。その後美夏は朱音に付きまとうようになる。半分は自分が危ない時のボディーガードをさせるため、もう半分は……自分を初めて助けてくれた人だったからだという。朱音がIS学園にいくことを知ると、自分もいくことにした。
これが、私が目を付けた二人目の人間。いい働きをしてくれた。
私は伝言とノートを渡すことを頼んだだけだがあそこまでするとは思わなかった。まわりの人間の嫉妬までも利用した彼女。最初会ったときは朱音の小姓としか思っていなかったが…。だがあの程度してもらわないと困る。あいつの心と体を完全に壊すにはもっと…。
「しょうがない。次は私の番…か。」
これで終わるか、それとも………。