蒼の彼方のフォーリズム~虹色のコントレイル~   作:strike

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意外と早く書けてしまった……
なのに、一番重要なFCが出せない!!
次には必ず出てきますので、少々お待ちを……

ご意見ご感想はどしどしお待ちしております!!

それでは、第2話スタートです!!


第2話 じゃあ、教えてあげるわよ

さて、唐突だけど僕は今、久奈浜学院のグラウンドに来ている。

何故かと言われれば、これから晶也コーチに空の飛び方を伝授してもらうため。

空の飛び方を知らない(事になっている)僕は指導員からの講習を受ける必要がある。

都市部では細かい手続きや資格の取得が義務になっていたりもするけど、この島は俗にいう田舎の島であるため簡単な申請で許可が下りる。

この島の人たちにとってはグラシュが生活必需品になっているため、空を飛んで当たり前事だが、倉科さんのように外から来た人からしてみれば、空飛ぶ靴も、空飛ぶこと自体も未知の物だ。

そのため、外から人を受け入れる時にはある制度が設けられている。

限定区域飛行指導員制度。

要はグラシュを使って飛ぶ事について自治体から認可を受けた人達が初心者に任意に指導する取り決めの事だ。

実は僕も晶也同様、公認指導員としての資格を持っているわけなんだけど、それは隠して今は晶也コーチに指導してもらってる。

 

「兵藤さん……。 あの、聞いてる?」

「あ、はい。 ちゃんと聞いてます!」

 

今は、明日香と2人で晶也が図書館から持ってきた本を元に講義中。

僕は既に、知識として持っているから完全に復習って感じ。

隣で聞いている倉科さんはとても興味深そうに聞いてるみたいだ。

それから暫く講義が続いて、大体30分程経った頃だろうか。

晶也は本を閉じて僕達に笑みを向ける。

 

「それじゃ、今日の講義はここまで。 今日も実際に飛んでみよう」

「はい!!」

 

晶也の言葉を聞いて明日香は待ってましたとばかりに立ち上がると、とても嬉しそうに返事をしていた。

やっぱり彼女、飛ぶのが好きなんだなぁ。

明日香は授業の合間にある休み時間の時からずっと放課後を楽しみにしていたしね。

と、僕がウキウキ状態の明日香を眺めていると晶也が近づいてきた。

 

「兵藤さんは、今日飛ぶのが初めてだよね?」

「はい、そうです」

 

晶也の質問に僕が答えると、いつの間にか集まって来ていたメンバーが寄って来る。

 

「そっかぁ、それじゃ、明日香の方がグラシュの先輩ってことになるんだね?」

「明日香先輩!! 兵藤先輩にいいところ見せるチャンスですよ!!」

「うん!! 私頑張るよ!!」

 

明日香に話しかけているのは同じクラスの鳶沢さんと……なんかちっちゃい子。

え~と、誰だっけ?

 

「あ、兵藤さんとちゃんと話すの初めてだっけ。 真白は挨拶した?」

「私もまだでした……。 兵藤先輩、初めまして。 私は有坂真白って言います」

「私は鳶沢みさき。 みさきって呼んで」

 

2人は笑顔で挨拶をしてくれて、こっちまで笑顔がこぼれてしまう。

鳶沢さんは僕と同じ黒髪のストレートで後ろをリボンで括っている。

身体つきは明日香よりもメリハリのついた感じ。

対して有坂さんはクリーム色の髪をツインテールにしている。

体型は……まぁ、人それぞれだしね!!

それに成長期はこれからだよ。

 

「あの……兵藤先輩? なんか私に対して良からぬことを考えませんでした?」

「え!? そ、そんなことないよ~。 そんな事より、よろしくね。みさき、真白ちゃん」

「うん。 よろしく~」

「こちらこそです。 先輩!!」

 

何とか誤魔化した~。

女の子って変な所で勘が鋭いからなぁ。

これからは注意しよう。

そう誓って、晶也に視線を向ける。

 

「え~と、話は終わったかな?」

「あ、ごめんなさい。 お待たせしてしまって」

「いや、大丈夫だよ。気にしないで。 まずは倉科さんからやってみよう。 昨日と同じく軽く前後に足を開いて……」

「両足の踵を浮かして……FLY!!」

 

晶也は明日香のグラシュに電源を入れてから正面に立ち、昨日の復習なのだろう。

飛ぶときの基本姿勢を2人で確認しながら、明日香が起動キーを口にした。

その瞬間、ブゥン…と機械音が微かに響き、ピィンと涼やかな起動音と共に明日香のグラシュに光の羽が生えた。

そして、ゆっくりと明日香の体が宙へと浮かび始める。

 

「よし!! 今日こそは……って、わわわわっ」

「あ~らら」

「今日も明日香先輩は大変そうですね~。 相変わらず楽しそうですけど」

 

みさきは面白いものでも見るかのように笑顔で明日香を見つめ、真白ちゃんも同様明日香を楽しそうに見ていた。

 

「倉科さん!! もっと足を開いて体のバランスを取って!!」

 

真剣に指導しているのは晶也だけだった。

これは大変そうだなぁ……。

まず、空中でのバランスのとり方が分かっていないみたいだ。

だから体がふらつくし真っ直ぐに飛べない。

空中に浮いた後、初心者は反射的に地面にいる時のような感覚でバランスを取ろうとしてしまう。

しかし、それは宙に浮いている間は通用しないのだ。

そんなことを考えている間に明日香は地面に降り立っていた。

 

「うぅ~!! 悔しいです!! もう一回お願いします!!」

「そうしてあげたいのは山々なんだけど、今日は兵藤さんもいるから、少し待ってて?」

「あ、そうでした。 希ちゃんは今日が初フライトですもんね!!」

 

明日香は悔しげな表情から一転、僕の(ここに来てからの初)フライトが気になるようで一旦グラシュの電源を切ってこちらに駆け寄ってきた。

 

「そうだね。 少し緊張するけど頑張ってみる」

「はい!! 頑張って下さい!!」

 

明日香の応援を受けて僕は晶也と向き合う。

 

「それじゃ、今度は兵藤さんの番。 飛び方はさっき見てた通り。 出来そうかな?」

「え、え~と……多分大丈夫だと思います」

「よしそれじゃ、電源を入れるから飛んでみよう」

 

僕は一度目を閉じて考える。

このまま普通に飛んでも良いものか……。

いや、それをしてしまっては僕が初心者で無い事は一目でわかってしまう。

晶也なら尚更だろう。

だったら、僕がやることは1つしかない訳で……。

 

「行きます!! ……FLY!!」

 

僕は起動キーを口にしてからわざと足をばたつかせて、大きく手を振ってバランスを取ろうとする。

そうすればもちろんバランスは後ろの方に崩れる訳で、予想通り後ろの方へ回転を始めてしまう。

 

「うわぁぁぁ!! 飛んでる!! 飛んでるけどぉぉぉ!!」

「ひょ、兵藤さん!! 落ち着いて!! 足を軽く開いて、両手も広げるんだ!!」

「そ、そう言われても~~~!!」

 

僕はちょっと大げさにリアクションを取りつつ、今の状態から更に体を動かそうとして、あることに気付いた。

……このまま回転したら、晶也達にスカートの中見られるんじゃ?

 

「……っ!!?」

 

マズイマズイ!!

それはマズイって!!

スパッツは穿いてるから分かり辛いかもしれないけど、流石に見られたらバレるかもしれない!!

そう思った僕は慌ててスカートを押さえて足を閉じた。

 

「兵藤さん!! スカートは気にしなくていいから、足開いて!! そのままじゃ……」

 

分かってるよ!!

メンブレンが衣服ごと包んでくれてるからスカートがなびかないのは知ってるけど!!

でも、このまま後ろに一回転しちゃったら流石に見えちゃうでしょ!?

って、あれ?

この体制って……マズイ!!!

 

「兵藤さん!!」

「っ!! 退いて!!」

 

晶也の言葉と重ねて、僕は背後で様子を見ていたみさきと真白ちゃんに声を掛けた。

後ろに傾きつつ、両足を揃え、両手は体にくっ付ける。

この体勢は完全に背面飛びの姿勢だった。

多分、ここから急加速に入ってしまう!!

 

「危ない真白!!」

「えっ!? あ、みさき先輩!!」

 

多分、晶也が僕のグラシュに細工をしてくれたのだろう。

僕の思っていたより加速は無かったけど、どうしたってぶつかったら怪我をしてしまう。

みさきは真白ちゃんを庇って立ち塞がるけど、このまま行ったら……!!

みさき達に怪我させるくらいならっ!!

 

「希ちゃ……」

「ふっ!!」

 

後ろから僕を心配する明日香の声が聞こえたけど今は反応している暇がない。

僕は背面飛びの姿勢から後方宙返りの要領で足を下に持ってくると、体を捻って両手両足を大の字に広げ、最大限のブレーキを掛ける。

けど、行動が遅かった所為かスピードは殺しきれず、結局みさきとぶつかってしまった。

 

「いたたた……」

「ゴ、ゴメン。 みさき!! 大丈夫!?」

 

僕が目を開けると僕がみさきに覆いかぶさるような形で、押し倒していた。

見たところ怪我はない見たいだけど、もしかしたらどこか捻ってるかもしれない。

 

「うん、大丈夫! 怪我はないみたい」

「そっか……よかったぁ」

 

みさきは寝っ転がったまま軽く手と足を動かしてみたようで笑って答えてくれた。

はぁぁぁ、もし怪我させてたらと思うと……。

取り敢えず怪我が無くて良かった。

そう僕が少し安心していると、何故かみさきは僕をいたずらっ子の目で見つめて来る。

何か仕返しされるんだろうか……。

そう思って僕はその場から立ち上がろうとするが、何故か僕の手は沈み込みなかなかうまく力が入らない。

って、もしかして……。

 

「そんなに私の胸気に入ったのかにゃ~? のぞにゃん?」

「っっっっっっ!?!?!?」

 

みさきの言葉を聞いて僕の手がどこにあるのか理解した途端に、僕の顔は赤く沸騰してしまう。

だ、だって、お、女の子のむ、胸に!!

なんか凄く柔らかくてクッションみたいな!?

って、何言ってんの僕っ!?

それよりも先に退かないと!!

僕は、足に重心を掛けてその場から飛び退いたのだが、まだ手に感触が残っていて……。

恥ずかしすぎだよこれ……。

 

「ごめん、みさき……」

 

僕は申し訳なさから、消え入りそうな声でそう謝ったんだけど……

 

「あれ~? もうおしまい?」

 

みさきは挑発するように、ずいっと体を寄せて胸を強調してきた。

それを見た僕は完全にパニック状態に陥り……

 

「ご……」

「ご?」

「ごめんなさ~~~い!!!」

 

そう叫びつつその場から逃げ出した。

これ以上あそこ留まっていたら僕の頭がオーバーヒートだよ……

僕が女の子っぽいからって、女の子に慣れてる訳じゃないんだよ!!

 

 

 

それからしばらく時間を置いて、僕は少し冷静になり、改めてみさきにお詫びしに行った。

流石にあの謝り方は無いよね……。

そう思って謝ったのだけれど、

 

「大丈夫大丈夫!気にしない、気にしない」

「うん、ありがと」

 

みさきは笑って僕を許してくれて、ホントにその姿は何も気にしていないみたいだった。

僕はそのことに心の中でもう一度だけお礼を言った。

そうしてみさきと話していると、他の皆も集まって来て明日香は心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。

 

「大丈夫ですか?」

「まぁ、初心者だから仕方ないけど……あそこまでとはな」

「あれ、もしかしたら明日香先輩よりひどいかもしれませんよ?」

「真白ちゃん!?」

「……ありがとう皆、 僕は大丈夫だから!」

 

そう僕が皆に向かって言うと、4人ともとてもいい笑顔で頷いてくれた。

やっぱりこういうの良いなって、少し思ってしまう。

だから、僕も笑みを浮かべて笑い合い、少しの間他愛のない話に花を咲かせた。

そんな僕達を見て、晶也は少しだけ悩みながら口を開いた。

 

「兵藤さんも倉科さんももう少し練習した方がよさそうだね……今日はみさき達もいることだし、帰り道でも練習してみようか?」

「あ、はい!!」

「分かりました。 お願いします!!」

 

倉科さんと僕は晶也の言葉に元気良く返事をすると、今度は停留所まで行って5人で起動キーを口にするのだった。

 

 

 

----------------------------------------------

 

 

 

そして翌日。

僕と明日香、晶也の3人は放課後に久奈島での定番、グラシュ散歩コースを回ることになった。

 

「大丈夫?」

「だ、大丈夫です~!」

「こ、こちらも何とか~!」

 

晶也の言葉に少し緊張気味の明日香。

僕も一応それに合わせて声を出してみる。

すると、晶也は苦笑いしながらもちゃんと僕ら2人の飛んでいる様子を見ていた。

それもその筈。

散歩コースをペアリングでは無く僕たち単体で飛ばせているのだから。

あ、因みにペアリングとは1人のグラシュで2人以上の人と一緒に飛ぶこと。

メンブレン同士は互いに反発し合うから普通なら2人がくっ付いて一緒に飛ぶことはできないけど、あらかじめ手を繋ぐと言った形で体の一部を振れ合わせた状態で1人のグラシュを起動させるとメンブレンが2人を一緒に包んでくれるので、くっ付いた状態での飛行が可能になるのだ。

ただ、飛行中にもう1人のグラシュを起動しちゃダメだよ?

もちろん、メンブレンがもう1人の方に形成されて反発しちゃうからね。

 

「ひ、ひ~ん、す、すごく景色が綺麗なんですけど、やっぱりまだこわいです~!」

「2人とも、もし辛くなったら言ってね、体勢を立て直せるようにするから」

「は、はい~~っ!」

「りょ、了解です~~っ!」

 

こうして後ろから明日香を見ていると前の日に比べれば、飛行姿勢はマシになったように見える。

昨日今日と結構な時間飛んでるし、大分体が慣れてきたのだろう。

といっても、まだ綺麗な姿勢で安定しているとはお世辞にも言えないけどね……。

それから僕達は散歩コースを何週かして、海の砂浜で休憩を取ることにした。

 

「はぁ~、き、緊張しました……」

「はい、これ」

 

そう言って、晶也が僕と明日香に渡したのはジュースのペットボトル。

明日香と僕はそれを受け取って財布を出そうとする。

 

「す、すみません、えっと、いくらですか?」

「お金出しますよ」

 

僕らはお互いにそう言ったのだが、晶也は笑みを浮かべて手を横に振った。

 

「いいよ、今日は2人とも無事に飛べたから俺からの奢り」

「わぁ、それはダブルで嬉しいですね!ありがとうございます!」

「ありがとうございます……日向君」

 

僕達は少し照れくさそうにしている昌也にお礼を言うとペットボトルの蓋を開けてジュースを口に含んだ。

すると、晶也も僕達の横に座って同じようにジュースを飲みつつ景色を眺めていた。

 

「ほらほら、希ちゃん、あれ見えますか? 山の向こう側のあれ、灯台かなにかでしょうか?」

「え~と、どれかな?」

「あれです、私の指さしてる向こうの方! ううっ、水面がキラキラしててちょっと分かり辛いですが、頑張って見て下さいっ!」

「あ、あれかな? あの端っこの方にちょっと出てる……」

「そうですそうです!」

 

明日香は楽しそうに指さして僕に位置を伝えようとして来るので僕も一緒になってわいわい話をしていた。

そんな時、横から風に乗って晶也の声が聞こえた。

 

「倉科さん達ってさ……というより、主に倉科さんなんだけど」

「ん~っ、あれって何なんでしょう? 希ちゃんはどう思います……って、へ? 私の事呼びました?」

「呼んだ呼んだ」

 

明日香は呼ばれた事に気付いていなかったのか、ポカンとした表情で晶也を見つめ、昌也はそんな彼女に苦笑いを浮かべていた。

達って言ってたから多分僕の事も入ってるんだよね……。

一応聞いておこう。

 

「どうしたんですか? 日向君」

「なんですか?」

「いや、2人共なんか楽しそうだなって」

 

晶也は何故か寂しそうな表情でそんなことを言って来る。

意図が分からなかったであろう明日香は、首を傾げていた。

 

「楽しそう……ですか?」

「そ。倉科さんって、基本的に楽しいが基本だよね?」

「あ……はい」

 

明日香は昌也の言葉に少し驚いてるみたいだ。

と言う僕も少し驚いてるんだけどね?

昌也がこういう事を気にするなんて……

 

「何かそう言うの凄いなって、ちょっとだけ気になってさ」

 

そう晶也が口にすると明日香は少し照れくさそうに昔話を始めた。

昔は内気で引っ込み思案だった事。

そんな時に現れたのが、1人のカッコイイ女の子。

その子に言われた言葉のおかげでそれ以来、何でも楽しいと思えるようになったんだとか。

 

「その子のおかげで今の明日香があるんだね」

「ですです!!」

「いいこと言うもんだなその子も」

「ですよね~。人生における格言です!!」

 

少し興奮気味の明日香に僕と晶也は思わず笑みを零していた。

 

「それにしても、この3日間ずっと日向さんに頼りっぱなしでしたね」

「僕も、昨日今日と付っきりでしたし」

「そうだったかな?」

 

いきなりそんな話になるとは思わなかったのか、晶也は少し目を逸らして恥ずかしそうにペットボトルの中身をあおっていた。

 

「そうですよ。 全く飛べなかった私に一応飛べるようになるまで教えてくれて……本当、感謝してます」

「僕も明日香と同じ気持ちです。 日向君、ありがとうございます」

 

晶也に向かってぺこっと頭を下げる明日香に倣って僕も同じように頭を下げた。

 

「それにしても、グラシュって面白いですよね~、こんな簡単な操作で自由に飛べるなんて」

「ホントに発明した人はすごいですよね~」

 

僕は明日香の話に乗る形で頷き、晶也も同じように頷いていた。

 

「これだけ便利なら、色々な事が出来そうですよね? 例えば……」

 

そう言って明日香が話を切った時、晶也の表情が硬くなるのが分かった。

実際、僕にもこの次に明日香が言う言葉が容易に想像できたんだから。

そう、だからきっと僕達のこの講習が始まった時点でこうなることは決まっていたのかもしれない。

 

「グラシュを使ったスポーツとか楽しそうですよね!」

「あ……」

 

晶也は少しかすれた声にならない声を出すと、ペットボトルを落としそうになっていたのが分かった。

僕はそれ以上何も言える筈も無くて、静かに晶也の少し辛そうな声と、明日香の正反対な楽しそうな声を聞いていた。

 

「……そうだね」

「ですよね! 絶対楽しいですよ~ 希ちゃんもそう思いますよね?」

「う、うん。 きっと楽しいんじゃないかな?」

 

その後、晶也が少し気まずそうに明日香への返事をしながら、僕もそれに頷いて少しだけ変な空気が流れていた。

そして、会話も丁度よく切れ、太陽も沈み始めてきので、もう帰ろうかと晶也が僕達に声を掛けた時、

 

「オーッホホホホホホホホホホ!!!」

「んぇっ!?」

「ひゃっ!」

「わっ!?」

 

突如大音量の笑い声が、一体に響き渡った。

僕達は驚きで体を竦めた後、その声の発生源を探すべく辺りを見回した。

 

「な、なんだ?」

「あ、あそこじゃないですかっ?」

 

晶也が辺りを見渡しながらそう言うと、いち早く何かを見つけた明日香がその先を指さす。

そこでは、一組の男女が言い争っているようだった。

 

「ケンカ……なのかな?」

「それは大変ですっ……行ってみましょう!!」

「「え、行くの!?」」

 

僕の呟きに対して明日香は迷わず、歩き出し、僕らは面食らったように立ち尽くしてしまう。

だが、それも一瞬の事で喧嘩なら女の子1人に行かせる訳にはいかないと、僕達も明日香の後を追った。

 

「だーから言ったのですわ、このサトウインに歯向かおうなど太平洋でサメに戦いを挑むようなものだとね」

「くっ……クソっ、くっそおおおお!!!」

 

この光景は何なんだろうか。

なんか、女の人(サトウイン)が高笑いしながら跪いている男を見下ろしていた。

女の人は綺麗な金髪で、男の方はなんか物凄い筋肉が発達しているのは分かる。

僕達3人は10mほど離れた草むらからその様子を眺めていた。

 

「あれは何をしているのでしょうか? タイマンでしょうか?」

「明日香……良くそんな言葉知ってるね……」

 

僕は晶也の代わりに突っ込むと、2人で顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。

そして、視線を元に戻すと女の人の方(サトウイン)が口を開いたようだった。

 

「シオンさん、でしたわね?あなたのような古臭いスタイルじゃ、私には一生かかっても勝てはしませんわよ!」

「クソっ、クソっ、そんなことは無い……!!」

 

2人のやり取りを聞いてやっと状況が掴めた。

多分晶也も気付いただろう。

そして、わかっていないのは明日香だけ。

でも明日香もケンカで無い事は分かったみたい。

 

「何か勝負事をしているのでしょうか……?」

「ああ、あれは……」

 

晶也が何かを口にしようとした瞬間、あの女の人がそれを遮った。

 

「鈴木佐藤の佐藤に、由緒ある院の称号。この佐藤院にフライングサーカスで敵う者など、久奈浜学院には存在しないのよ!」

「フライング……サーカス」

 

明日香はその言葉が気になったみたいで、噛みしめるようにその競技名を口にした。

 

「佐藤院さんの漢字が分かりましたね!!」

「「あ、そっちなんだ」」

 

なんかさっきから、晶也との突込みの被りが多くなってきた。

相性がいいのかな?

そんなことを考えていると、その佐藤院さんはとんでも無い事を言い出した。

 

「さぁ、約束通り久奈浜学院の院の文字を頂いて行くわよ? これからは院の文字を失った久奈浜学と名乗り、敗北を噛みしめて生きて行くといいわ!」

「そ、そんな中途半端な名前を背負って行くのは我慢ならないっ……!!」

「3年生にもなって惨めですわね、シオンさん?」

 

あの人、うちの学院の3年生だったんだ。

助けてあげたいけど、この場面じゃなぁ……

せめて晶也だけでもいなければ良かったんだけど、この状態じゃ、僕が行ったら確実にややこしくなるし。

そう思って、晶也を見てみるけどそこには僕と同じ表情をした人がいるだけだった。

やっぱり無理かな……。

そう思っていたんだけど。

 

「はいっ!!」

「「えっ!?」」

 

いきなり明日香が元気良く手を上げて立っていた。

 

「きゃっ、い、いきなり誰よっ?」

 

当然、いきなり現れた明日香、基、ニューチャレンジャーに佐藤院さんだけでなく、シオンさんも驚きを隠せない様子でいた。

それはそうだよね……。

2人きりで戦ってたのにそこに乱入者が知らない所から出て来るんだもん。

普通に驚くって。

しかも当の本人は、ニコニコと場違いな笑みを浮かべながら2人に近づいて行く。

 

「さっき、久奈浜学院で誰も……ってことだったので、学生代表として手を上げてみた次第なんですが、どうなんでしょう?」

「いや、どうなんでしょうってそれ僕が聞きたいよ……」

 

そんな僕の突込みも気にした様子も無く佐藤院さんは腰に手を当てて明日香をじっと見つめる。

その視線を明日香は真摯に受け止め、佐藤院さんからの言葉を待っている。

 

「ふ、ふん、とんだ挑戦者が居たものね。いいわ、そこまで言うなら手合わせしてあなたが勝てばこの院の文字を返して差し上げますわ」

「えっ、試合して頂けるんですか?」

 

あれ?

以外に佐藤院さんの方もやる気みたいだ。

いや~、それでもちょっと流石に……ねぇ?

 

「それで、あなたは、フライングサーカスの経験者なのかしら?」

「いいえ、フライングサーカスはさっき知ったばかりで、グラシュを履いて1人で飛んだのは昨日が初めてでした」

 

あ~あ。

明日香、知らないよ?

経験者相手にそんなこと言ったら……

 

「ふざけるのもいい加減にしてくれない! あなた、私を誰だと思っているのよ!」

 

ほら……怒らせちゃったよ。

案の定の結果に僕は額を押さえる。

そして、晶也も同様に考えていたのか溜息をついていた。

いくらなんでも、現役の選手相手にロクに飛んだことも無い人が相手するのは無理がありすぎるよ。

 

「すみません、ちょっとこの話は……」

 

晶也が明日香との間に入って断ろうとしているのだろう。

僕もこれで安心することが……

 

「……仕方ないわね、じゃあ、教えてあげるわよ」

「「え、やるの!?」」

 

またハモった……。

いや、そんなことはどうでもいいんだけど、いったいこれどうなるの!?

 

 

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