死亡確定のユージオくんになったので取り敢えず剣術を極めてみた   作:鬼城

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7話 決して破れないもの

目を瞑る。

心地よい風が肌を撫で、髪を躍らせる中でユージオは棒を振った。いつも通りその棒は、宙を切って軽やかな音を奏でる。

もう何千回と素振りをしてきたからか、ユージオの手には手豆が沢山出来ていた。もっとも、竜骨の斧を振っているせいでもあるが。

 

「ひゃくっ!!」

 

薄っすらと額に汗が浮かび、それを軽く拭うとユージオはソルスに向かって手を伸ばした。東から昇ってくるソルスはさんさんと輝いて、闇を払っているようにも見える。

そのまま、アリスの罪も払ってくれればいいのに。とユージオはソルスの光を掴むように掌を握った。その瞬間、パキンっと木の棒が折れてエフェクトと共に地面に落ちる。さっきの素振りで天命に限界が来ていたのだろう。

 

「やっぱり、木の棒じゃダメだよなぁ」

 

そうボヤきながらユージオは折れた木の棒を拾った。そしてそれをくるくると手で弄び始め、思いっきり投げる。

草むらへと斜方投射された木の棒はコツンと軽やかな音と共に聞きなれた声を引き出した。

 

「痛っ!!」

「あのなぁ、キリト。バレてるんだよ」

「さすが、ユージオ。俺の隠れ場所を見つけるとは」

 

少しだけ赤くなった額を抑えて、草むらから出てきたキリトはユージオの肩をポンポン叩きながら笑った。

いつも通りのキリトの笑顔に、ユージオはどこかホッと安心しつつも、やはりこれからのことを思うと胸が痛む。もし、アリスが連れて行かれてしまったら、こんな何気ない会話もできなくなってしまうのだろうか。そんなヘタレな考えが頭をよぎってユージオはキリトに背中を向けた。

もちろん、酷い顔をしている自分を見せないためである。

 

「ま、キリトの隠れる場所なんて分かるよ。なんなら、毎日隠れんぼでもするかい?」

「言ったな?」

「うん。そのかわり、キリトも見つけろよ?」

「任せとけ!!」

 

そう胸を張って言ったキリトは「さて、仕事に行くぞー」とギガスシダーに向かう道を歩いて行く。まだ時間的には早いが、その背中を追うようにユージオも足を動かした。酷い顔はなおっていないが、何かをしていないと自分の弱さに負けそうでさらに酷い顔になるだけだと思ったからかもしれない。

いつもと同じ道、変わらない風景。

それなのに、この一本道が永遠と長く続くような気がしたユージオはただ、仕事のことだけを考えて進むしかなかった。

 

◆◇◆◇◆

 

時間はやはり流れるのが早い。

嫌なことがあっても、時間が進んでほしくなくても、着実に時は残酷なことに刻まれて行く。

いつも以上に集中して斧を振ったユージオは、高く登ったソルスを呆然と見上げた。確かに、空腹感はあって今にも鳴き出しそうなお腹に手を添える。後少ししたら、いつも通りアリスが籐籠をぶら下げて「もうお昼よ」とやって来る事だろう。

昨日、持って帰った氷で冷やされた食べ物はいつも以上に天命値が残っていて、ゆっくり食べることができるはずだ。

 

「さて、と」

 

そうとなれば、はやくに仕事を終わらせてしまおう。

そんな事を考えて、ユージオはまた斧を振る。きっと、みんなで楽しくご飯を食べる時間くらいはあるはずだ。と期待と不安を胸に抱いて斧を振る。

そして、大きくまた斧を振りかぶった時、日差しがサッと翳った。本能的に上を見上げれば、大きな影が空を飛んでいる。

鳥でもなく、飛行機でもない。最近目にしたソレは飛竜と呼ばれるもの。

 

「おい、キリト!今のは……」

 

全身が凍りつくような感覚にユージオは相棒の方を向いた。

あの飛竜の上には整合騎士が乗っていることだろう。そんな事実にたどり着いたユージオに、キリトも頷きながら返す。

 

「ああ、昨日の整合騎士だ」

 

その声は、深い恐怖で震えていた。

こんなにもはやくこの時が来てしまった。立ち尽くすばかりのユージオに、キリトもまた整合騎士を見つめる。

ルーリッドの村の方へ向かって行く整合騎士の目的は一つしかない。禁忌目録違反をしたアリスの連行だろう。神は最後の楽しい時間まで待たせてくれる気はないらしい。

しばらく、言葉を失った二人はようやく我に戻り、走り出す。

 

「まさか、アリスを……」

 

キリトが青い顔で呟いて、ユージオは顔を陰らせる。

知っていたことなのに、阻止できなかった自分にやはり腹が立って、弱さを呪うユージオ。

不思議と斧を持つ手に力が入って、どうしようもない怒りをギガスシダーへと打ち込む。そんなユージオに見向きもしないで、騎士の飛び去った方向を睨んでいたキリトは、短く叫んだ。

 

「行こう!」

 

ユージオの持っていた竜骨の斧をもぎ取って、走り出す。そんなキリトの背中を追いかけるようにユージオも地面を蹴る。

今までにないくらい、全力で足を動かし、駆け抜ける。空には既に飛竜の影はなく、どこに行ったのかはわからない。

でも、飛竜がこの街に降りたち、アリスを連れていくのが目的ならば、適所はあそこしかないはずだ。とユージオは思う。

 

「キリト!村の広場だ!!」

「っ!あぁ!分かった!!」

 

街道や畑のあちこちで、村人が空を見上げて立ち止まっていた。恐らく、初めて見る整合騎士に気持ちが追いついていないのだろう。

そんな中でユージオとキリトは周りを気にすら余裕もないほど、必死に走った。

村の南門をくぐり、短い買い物通りを駆け抜け、小さな石橋を超えたところで、広場に出る。

集まっている村人が目の前にいるにもかかわらず、見えたソレに二人は足を止めた。

もしも、北の白い竜が生きていたらこんな感じだろうか。広場の半分を占領する飛竜は、教会の建物さえもほとんど隠している。あまりの大きさに気圧されそうだ。

そして、その竜の前に、一層眩く輝く白銀の騎士の姿があった。

見覚えがあるその姿は間違いなくあの黒い竜騎士を殺したあの整合騎士だ。

 

「あ、」

 

不意にユージオが声を上げた。

ユージオの視線の先には、籐籠を下げ持つアリスの姿があり、いつも通りの青いドレスに白いエプロンをみにまとい、大人たちの隙間から、じっと整合騎士の姿に見入っている。

二人は顔を見合わせて頷くと、体を屈めて移動し、どうにかアリスの方へとたどり着く。

 

「アリス…」

 

ユージオの呼ぶ声に、アリスは振り向くと驚き顔で何かを言おうと口を開くが、それをキリトがシーッとジェスチャーで表し黙らせ、囁く。

 

「アリス、静かに。今のうちに、ここから離れたほうがいい」

「え…なんで?」

 

自分の身に脅威が迫っているとは考えていないようで、意味がわからないと首をかしげるアリス。

 

「……あの整合騎士は、アリスを……」

 

ユージオが説明するべく口を開くが、一瞬の躊躇いに口を閉じる。

否、それは躊躇いではなかったのかもしれない。間違いなく、アリスを連れていくことを目的として来ていると分かっているユージオにとって、その邪魔をすることは前世で言う公務執行妨害である。

チクリと刺すような右眼の痛みが、ユージオを襲う。

 

「あ…お父様」

 

右眼を抑えながらも、ユージオはアリスのつぶやきを聞いて視線を上げた。

ルーリッドの現村長、ガスフト・ツーベルクが臆する様子もなく整合騎士の前まで進み出ている。そして、公理教会の作法に従って体の前で両手を組み、一礼をすると。

 

「ルーリッドの村長を務める、ツーベルクと申します」

 

とハリのある声で名乗った。

それに応じて整合騎士も初めて声を放つ。

 

「ノーランガラス北域を統括する公理教会整合騎士、デュソルバード・シンセシス・セブンである」

 

異質な響きを持つ声だった。大きくも小さくもない普通の声の大きさであるのにその響きは広場の隅々へと行き渡り、その場の村人全員を沈黙させる。

基本、ヘタレであるユージオはその声だけで、足がすくみ体から力が抜けていくのが分かった。

どうあがいても勝てない。本当に同じ人間なのか疑わしく思ってしまうほどの威圧が、雰囲気があの整合騎士にはある。

 

「ガスフト・ツーベルクの子、アリス・ツーベルクを禁忌条項抵触の咎により捕縛、連行し、審問ののち処刑する」

 

処刑だって!?

その整合騎士の言葉にユージオが目を見開いた。禁忌目録を破ることはとても重大な罪であることはユージオにも分かっている。

それでも、アリスは手先をほんの少しだけダークテリトリーに触れてしまっただけなのだ。こんなこと、まず日本ではあり得ないだろう。

 

「……騎士閣下、我が娘が、いったいどのような罪を犯したというのでしょう」

「禁忌目録第1章3節11項、ダークテリトリーへの侵入である」

 

その瞬間、今まで固唾を呑んでいた村人たちが大きくどよめいた。

そこでのユージオの行動はキリトよりも早く、ユージオはアリスの前に体を割り込ませ、村人の目から隠す。

本音を言うならば、アリスを連れて逃げたかったことだろう。しかし、ユージオは動けない。

どうしよう、どうしよう、と頭の中で不安が募る。

この世界に来て、ユージオには分かったことがあった。一つはこの世界の人は法を犯すことがないということ。二つは公理協会が絶対であり所謂モナーキー状態であること。つまり、ここで村長…つまりはアリスの父親に何かを期待することは無駄である。それがユージオの出した結論だ。

 

「……それでは、いま娘を呼びにやりますので、本人の口から事情を聞きたいと思います」

 

それでも親なのか。

そういった意味を込めてユージオは村長を睨む。

この世界では当たり前かもしれないが、それが分かっていても心地の良いことではない。

キリトとユージオはさらに密着してアリスを隠す。緊張からか汗がユージオの頰を伝っていった。

 

「その必要はない。アリス・ツーベルクはそこにいる。汝と、汝に命ずる……娘をここへ連れてくるのだ」

 

鎧を鳴らしながら右手を持ち上げ指をさした整合騎士は、まっすぐこちらを向いている。

ユージオの目の前で、さっと村人の列が割れて道ができた。指名された二人がその道を使ってゆっくりと歩み寄ってくる。

きっと、ここまでなのだ。と絶望も一緒に襲いかかってくるような感覚にユージオは目を閉じた。

肩に手を乗せられ、力任せに引き剥がされる。

 

「あっ……」

 

アリスの声が小さく聴こえた。

ガリッと唇を噛み、血が流れ出すのを気にする様子もなくユージオは自分の弱さを呪う。

アリスはそんなユージオを見て、大丈夫だと笑って見せた。こんな状況でも笑える強さに目を奪われるユージオ。

 

「アリス…」

 

キリトが彼女の名を呼ぶ。

子供二人ではどうにもならない。整合騎士の前まで連れて行かれるアリスの背中をただ見つめる二人。

しかし、キリトが鋭く息を吸い込んでアリスの後を追いかけ始めた。それを見て、ユージオも動こうとしない足に鞭打って追いかけ始める。

まるで、死地に向かっていくような感覚がユージオにはあった。あの時(死ぬ時)と同じような光景を見ているような気がして、足取りが重くなっていく。

 

「村の長に命ずる。咎人を縛めよ」

 

整合騎士の命令により、拘束具を手にした村長が呆然と視線を落としたその時、ようやくキリトとユージオは騎士の前に到着した。

騎士の兜がゆっくり動き、正面から二人を捉えた。

遠くにいた時とは違う、胸を圧迫するような威圧に顔を歪め、ユージオは呼吸をするので精一杯の様子。

しかし、キリトは意を決したのか大きく息を吸い込むとはっきりとした声で叫んだ。

 

「騎士様!アリスは、ダークテリトリーになんか入っていません!片手を、ほんの少し地面に触れさせただけなんだ!!それだけなんです!」

「それ以上どのような行為が必要であろうか」

 

冷徹な言葉。

興味がないと言いたげなその言葉に、ユージオは顔を上げた。ここで、僕は何をする。何をするために来てるんだ。何度も何度も自分に問いかけた。そして、キリトと同じく息を吸い込む。

 

「僕たちも…僕たちもその場にいました!!アリスだって転んじゃっただけで、侵入しようとして侵入したわけじゃない!!それでも連れていくのなら、僕もいく!」

「俺だって!!」

 

心から叫んだ。

運命に抗うべく、ユージオは顔を赤くして整合騎士に訴える。

だが、整合騎士は二人に見向きもしない。

その間にも、アリスの細い体に禍々しい拘束具が回されていく。三本の革帯を、肩、腹、腰にそれぞれ固く締め付ける。

もう、手立てはない。そう思った。これだけ訴えてダメなのならば仕方がないのではないか。そう強く思った。村人によって広場の中央まで引き戻され、そこで無理やりひざたずかされた状況で諦めかけるユージオに、しかしキリトはまだ諦めない。

 

「ユージオ……いいか、俺がこの斧で整合騎士に打ちかかる。数秒間は持ちこたえてみせるから、その隙にアリスを連れて逃げるんだ。南の麦畑に飛び込んで、畝の間から森に入ればそう簡単には見つからない」

 

一番、現実的なのかもしれない。

それでも、ユージオにはどうしてもキリトがあの整合騎士相手に数秒も持ちこたえることができるとは思えなかった。

そう、もう無理なのだ。何をしても手遅れで、この運命は変わらない。それでも、それでも–––––––。

 

「……分かった、よ。キリト」

 

何かをしないと変えられないのではないか。

ユージオは前を見据えた。鎖に繋がれて痛そうに顔を歪ませるアリスに大丈夫だと笑って頷く。

ここで、整合騎士に反逆すれば自分達も咎人となることを分かっていてもなお、ユージオ達はその決意を変えることはない。

 

「よし、行くぞ」

 

キリトが斧を持って走り始めた瞬間に、ユージオもアリスへ向かって走り始め………ることはなかった。

ドクンと何かが疼き、ユージオの右目が激しい痛みとともに赤く染まる。〝System Alert №871〟と映る右目は異常をきたしているようだった。

 

「こんな、もの」

 

焼けるような痛みがユージオを襲う。

足が動かない。禁忌目録を破ってはいけないと身体が叫ぶ。

 

「どう、して」

 

不意に力が抜けた。

それは禁忌目録を破ることをユージオ自身が辞めたと言うことでもある。倒れて行くユージオ。

その視線の先にあったのは、同じくなすすべも無く倒れて行くキリトがユージオの名を叫ぶ姿だった。




二週間と言っておきながら遅くなってしまい、すみませんでした。
次こそは二週間で間に合うように頑張って行こうと思います。

次回からはオリジナルを増やしていこうと思うので、ご理解のほどをよろしくお願いします。
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