ジュエリー REAL   作:ふたなり2

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仕事帰りに八幡のお店REALに寄ってしまういろは、居心地が良く

八幡につい愚痴をこぼしてしまう。そんないろはを八幡は叱ってしまう。





仲直りの紅茶

 

 

 

「聞いて下さいよ~先輩!あたし納得出来ないんですからぁ~!」

 

「何で一色、お前の会社の愚痴を俺の工房で聞かなきゃあならんの?俺、

仕事中なんですけど。」

 

「もぉ~昔から先輩はあたしの話も聞いてくれてたじゃあないんですか?

それにアクセも買いに来てるんだからお客様なんです~!」

 

「あ~分かったから…これ仕上げたら、一息ついて聞くから待ってろよ。」

 

ふふっ、せ~んぱい?昔から先輩は優しいですね今日も甘えに来てごめんなさい…。

 

 

「会社のOLに対する福利厚生が問題ありと上司に言っても取り合ってくれない、

嫌なら辞めろと?」

 

「そうなんですよ!酷いと思いませんか?パワハラです、パワハラ!」

 

「まあ、俺も雇われの身だから人の事は言えんが難しくいな。

会社に組合無いのか?相談するのも手だそ。」

 

「ある事ありますが同族経営の会社でして組合が弱いみたいな」

 

「ふ~む、組合活動をやり過ぎると民間企業は居づらくなるし出世の見込みも

まずゼロになるからな、ましてや女だとこれ以上の嫌がらせがあるかもな。」

 

「じゃあ、どうしろと?」

 

「黙って社畜として働くか会社に凄い貢献して出世してシステムをかえるか

経営者の息子とかと結婚して経営者側に立つか、自分で起業して経営者になるか

もしくは別の会社に転職するしかないな。」

 

「ぶぅ~ですよね、社長の息子さんと結婚なんか死んだ方がましです。

我慢するしかないんですかね。」

 

「それ絶対社長に言うなよ、トラウマになって死んじゃうから。仕方ないな、

みんな我慢してるぞ。」

 

「先輩はそれで満足なんですか?」

 

「生きて行くためには仕方がない俺も同じだ。」

 

「あ~ぁ、詰まんないな…先輩は好きな事やって働いてるし由比ヶ浜先輩も手に職付けてバリバリやってるみたいだし…あたしも好きな事して働きたいな。」

 

「アホかお前は?上辺だけで判断すんなよ、何が好きな事やってだ?そんな甘い

もんじゃねぇぞ!由比ヶ浜なんか自分の不注意で子供が怪我したとかで親に土下座してお詫びしたり『熱を出したのはお前のせいだ』とか言われても泣き言わずにアイツは

頑張ってやってんだ、会社の愚痴を暇潰しに昔の先輩の所へグチグチと言いに来る

お前とはえらい違いだ。仕事をなめるなよ。」

 

「えっ……そんな、あたしは只、先輩にちょっと聞いてもらいたかっただけなのに…」

 

「一色、買ってくれるのは嬉しいけど用事が無かったら来ないでくれ。」

 

「えっ?そんな…あたしそんなつもりじゃ…ごめんなさい!」

 

気が付いたら先輩のお店を飛び出してた。あんな言い方しなくていいじゃん!

なにさ自分だって働きたくないとか言ってたのにさ!バ~カ、バーカ!

 

・・バーカ!先輩のバカタレ、ちょっと愚痴っただけなのに酷くない?何で

いろはの事、そんなに責めるの?先輩の事、尊敬してるのに!あたしだけ悪者なの?

そりゃ先輩や結衣先輩は凄いよ、でもさそんなに怒らなくてもいいじゃん、

フンだバカハチ!先輩なんか大〜キライ!

 

ウチに帰るなり冷蔵庫にあったビールを一気に煽り「ウプッ」と言いながら

ポツリ、あ〜先輩怒らせちゃったしもう教室に行けないな…楽しかったのに。

 

明日、謝りに行こうか…でも…でもさ、行き辛いし。

 

どうしよう……

 

憂鬱になりながらお風呂に入り髪にドライヤーを入れてるとスマホに

着信が…先輩からだ…恐る恐る開けて見る…

 

 

『さっきは言い過ぎた、すまない。満足に聞いてやれずに悪かった 比企谷』

 

 

やっぱ、先輩だ……あたしこそ、ごめんなさい!

 

涙がポロポロ溢れ出した。

 

先輩に直ぐに謝りたかった、スマホを握りしみながら連絡を。

先輩に電話をしたのは初めてだ。

 

5回目のコールで先輩は出てくれた。

 

「もしもし?比企谷ですが?」

 

訝しげな声でもそりと電話口に先輩はでた。

 

「遅くにごめんなさい、一色です。」

 

「一色か?遅くにどうした?今日はその…悪かったな。」

 

「謝らなくてはならないのはあたしです!先輩!今日は

すみませんでした!」

 

涙が溢れて来る…先輩に甘えてばかりで、今日はそんなあたしを

叱ってくれたのに逃げ出して本当に恥ずかしくて穴があったら入りたい

気持ちで一杯だ。

 

「一色が会社でOLの不満を代表して言っているのが後から分かってな、

個人の不満だけじゃ無く会社を良くしたい愛社精神も感じられたから

俺の早とちりもあるし言い過ぎたと反省してる…すまなかった。」

 

「先輩…ごめんなさい…ありがとうございます…あたし、あたし…」

 

「ああ、もういいから…分かったから。」

 

「ダメです!あたしは先輩に甘えて逃げ道にしていました。お店に行けば

先輩がいるし話を聞いてくれるし楽しいし……ぐすっ。」

 

「そうか…こんな店でよがったら何時でも来ていいからな。」

 

「そんな事言ったら…怒らないんですか?また先輩に甘えますよ?いいんですか?」

 

「その時はまた叱ってやるからいいだろ。」

 

「いいんですか?本当に?毎日行っちゃうかもですよ。」

 

「それは困るし頼むから程々にな。」

 

「今何時でも来て良いって言ったのに〜ぐすっ。」

 

「今のはあざといから嘘泣きだな?却下で。」

 

「ふふっ、許してもらえて嬉しいです先輩!」

 

「ああ、やっといつもの一色だな…… じゃあ切るぞ、一色。」

 

「ありがとうございます先輩、お休みなさい。」

 

「おう、おやすみ。」

 

 

・・・・・・・・

 

 

次の日、REALの前まで来たけど入りにくいな…あ~ん、どうしよう。

でも悪いのはあたしなんだし兎に角、先輩に謝らなくちゃ!

 

「ちりぃ~ん」とドアを開けるとチャイムが鳴る、やけに今日は音が大きく聞こえる。

「いらっしゃい…」何時もの先輩の声が工房からする。

 

「………」

 

声掛けなきゃあと思っても中々でない。

 

「あの…」

 

「んっ?どうされました…一色か、どうした?」

 

ぶっきら棒だけど何時もの優しい先輩だ。

 

「先輩…昨日はごめんなさい。」

 

気が付いたら深々と頭を下げてた。

 

「なんだ、昨日済んだ事だろ?それより今出来た新作だけど 見てみるか?」

 

この人は優しい…みんな引かれて行くのか゛今になって身に染みる。

こんなあたしだけど甘えていいですか?本気になっちゃいますよ!

 

涙が一筋頬に伝う…

 

「あたしが見ていいの?」

 

「今回のは一色に似合いそうだったしな最初からお前に見せようと思ってた。

どうだ、試してみるか?」

 

それはシルバーとゴールドで出来た小さなプチクロスで先輩が作ったなんて

考えられない程、可愛らしい物だった。

 

「はい…」

 

「ほれ二種類あるがどれから試す?」

 

「先輩が選んで下さい…」

 

「じゃあ、こっちはどうだ。」

 

「はい…着けて下さい先輩。」

 

「バッカ、自分でできんだろ?」

 

「泣かした罰です、先輩に着けてもらいたいです…駄目ですか?」

 

「俺がか?…あ~分かったよ!これでいいんだな?」

 

「はい!」

 

セミロングの髪をアップにし、うなじを先輩に向けて着けてもらった。

プチクロスは白くて細い首元で可愛く輝いた。

 

「よく似合うな。」

 

「え~もっと褒めてくださいよ、『いろはちゃんは何着けても可愛いな』とか?

ないんですか?」

 

「あ~世界で2番に可愛いいよ~」

 

「何ですか感情がこもってないし2番って?」

 

「1番は小町だからな。」

 

「あははっ、先輩のシスコン~」

 

「うっせ。」

 

「でも、これ可愛くて素敵です!あたし欲しいから買います。幾らになるんですか?」

 

「まぁサンプルだしモデル代だ、サービスしとくよ。」

 

「そんな悪いです…コンビだから高いんじゃ…」

 

「その…何だ、よく似合うし…罪滅ぼしと言うか、それ、いい出来だと思うから大事にしろよ。」

 

「でも…もう…何ですか優しくして…もう少し、もう少し優しくされたら落ちちゃいますよ、頑張って下さい先輩…。」

 

「分かった、分かった。」

 

「………先輩」

 

「ん?」

 

「ありがとうございます。」

 

「レモンティー淹れるから飲んでくか?」

 

「はい!先輩、手伝います!」

 

 

二人で淹れる紅茶の香りが工房に広がった。

 

 

 

 






いい雰囲気のいろはと八幡




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